第九話 示した覚悟
レリスが今から本場で暴れてるであろう奴をぶちのめそうとしていた。
そんな中、ネルエの長い耳に突然こそこそと話す噂話が聞こえてきた。
『なぁ知ってるか?』
『何がだ?』
『今、サーカス場で大変なことが起きてるらしいぜ!』
『はぁ?そんなわけないだろ?だってサーカス場に何の異変もないじゃねぇか、何かぶっ壊れてるわけでもねぇし』
ちなみにここで補足しておこう。
何故サーカス場が崩壊しないのか、という理由はニレスの持っていた「保存の書」によるもののおかげで言わば結界と呼ばれるものを張ることが出来る魔法だ。まぁ細かい説明は省くが中身が荒れていても外から見たらは綺麗に見えるようになる魔法だ。
まぁこの本の効果が切れない限り、何があっても…という訳ではないがあの程度の戦闘なら、のーぷろぐれむ。
さてさて、そんなことはさておき、ネルエがまだ耳を傾けてるわけだし、そっちに集中しよ!
『でもよ、大量の市民がサーカス場から出て行って
七元徳たちのいる…"守法の七席"に向かってったらしいぜ』
『あぁ!それ、俺見てたぜ!大量の人が扉を叩いてたのが見えたが……結局どうなったんだ』
『知らねぇが、新聞に何も書かれてないってことは無視したんじゃねぇの?』
『なんでそう思うんだよ、忙しいだけかもしんねぇぞ?』
『でもよ、最近七元徳って何事にも沈黙を貫いてるだろ?いい加減何かあったと考える方がいいと思うぜ?』
『例えば?』
『七元徳が俺たちを裏切って国外逃亡したとか?はたまた!そもそも七元徳なんていなかった可能性も!』
『もし、そうだったら世も末だな』
そんな、一見聞いても得しないぐらいカスみたいな会話だが、それをネルエが聴くと、ネルエは決心を固めたかのように手を強く握る。
そうすると、ネルエがレリスを引き止め、こう言葉をかけた。
ネルエ『レリス…俺は七元徳のいる"守法の七席"に向かう、何やらきな臭い』
レリス『え?急に!?』
実を言うとネルエ自身も分からないのだ。ただでさえミネルネ様を助けたいと考え急いでいるというのに…何故行こうと思ったのか。何故助けようと思ったのか…それはネルエ自身さえ分からない、ただあの子がそうさせたのかもしれない。そうあの子、同じエルフの友人。だが、そこでネルエはその先を考えたくないのか思考を停止させ、逃避という答えを選んだ。そして、言葉を紡いだ。
ネルエ『後は任せた』
レリス『え、えぇ〜』
レリスは随分と驚いたのであろう…しばらく思考が追いつかなかったが、
レリス『えーと、どうすればいいんだ私』
悩みながらも、ネルエについていくことにした。そう、完全に仕事放棄だ。ニレスはきっと怒るであろう、とふと巡ったような気がしたがそれは空耳と聞き流しやっぱりついていくことにした。
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そしてネルエは走りに走った末、ようやくそこに足を踏み入れることができた。
"守法の七席"に…
ネルエ『ん?お前来たのか?』
レリス『まぁね…で、この有様は何?』
そこには誰もいなかった。そう誰もいないのだ、兵士も庶民も誰も
ネルエ『とりあえず中に入ろう』
レリス『えぇ、そうね、とりあえず叫ぶよ』
ネルエ『いや、そうじゃない…強行突破だ』
レリス『え?』
困惑するレリスをよそにネルエは【妖精の弓】を出現させ一言。
ネルエ『フェアリーブレイク』
レリス『え』
ネルエが放った金色の矢が鉄格子の扉ぶつかったと思えばその鉄格子は砕け散った。
レリス『あ、あんた何やってんの…』
レリスは呆れた表情を浮かべた。
昔からネルエはクセが強いとは知っていたが、ここまでとは…何故その結論に至ったのかそれはレリスも知らないし、理解できない。
実を言うとネルエにも深く理解できていないようなのだが、そんなことよりも…と、頭に言い聞かせ実行したようだ。
そしてネルエは建物に突っ走って行った。
レリス『あ!ちょっと!』
今までそんな適当な行動の仕方を一回も見たことがなかったので、どうして…とは思いつつも戸惑っていても仕方がないのでネルエについて行くことにした。
―――そして彼らが最初に目に入った光景はこちらに対して攻撃の姿勢を固めた邪悪なオーラを身に纏った兵士たちであった。
レリス『え』
レリスとネルエが困惑するや否や、兵士たちは構えた矛を突き刺さそうとしてきた。
レリス『な、何がどうなってるのか、分からないけどやるよ!ネルエ!』
ネルエ『あぁ…!』
2人は直様、攻撃の意思を取り戻し、向かってきた兵士たちを手当たり次第、ぶっ倒していった。
だが…
レリス『なんか変ね…』
ネルエ『あぁ、まるで意志がないみたいだ』
いくら蹴っても、いくら矢で射ても、全く痛がる素振りを見せずに、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
まるで人形と闘っているような感じだ。
だが、気は緩めずに兵士を押しきることで
何とか"守法の七席"の周囲に位置する砦は無事突破できた。
レリス『で…強行突破したわけだけど…』
ネルエ『また強行突破だ』
ネルエは【妖精の弓】を構え、先程と同じように弓を引いた。
ネルエ『フェアリーブレイク!』
これまた先程のように金色の矢を放ち、"守法の七席"につながるであろう場所に金色の橋を架けた。
ネルエ『行くぞ…』
レリス『えぇ』
レリスは若干顔を引きつらせながらも返事した。
その時であった…さっき闘った兵士たちが追いついてきたのだ。
レリス『もう来たのね…』
ネルエ『行くぞ』
レリス『もちろんよ』
そして、その兵士から逃げ切るためにそそくさと螺旋状の階段を駆け上がり、"守法の七席"へと続く扉にたどり着いた。
ネルエ『固そうな扉だな』
レリス『うん、まぁそうなんだけど…』
ネルエ『フェアリーブレイク』
固く閉ざされた扉を同じように破壊したネルエを
レリスがなんとも言えない顔で見ていた。そんな彼女が思わず呆然とする程の酷い光景がネルエの雪花色の目に映り込んだ。
辺り一面に広がる紅い海、肌色の手脚を取り付けて作られた巨大な薔薇、骨で作られた土台の上に置いてある合計で5つの顔、そして隅に追いやられたゴミのように積まされた大量の顔が、置いてあり吐き気を催す程の悪趣味な景色であった。
レリス『悪趣味なのにも程があるでしょ……』
ネルエ『あぁ…ん?』
ネルエはその光景の中心に座り込んでいるような人影を見つけた。
ネルエ『何かいる』
レリス『もしかして…幽霊とか?』
少し怯えているレリスにその人影が気付いたのか…曲げていた脚を伸ばし、顔をこちらに向けた。
『ん〜めんどそうなのが来たな〜』
ネルエ『誰だお前』
『あぁ、これは失礼致しました。わたくし"怠惰の堕神"イカラァースと申します』
『今後ともよろしくお願いします』
レリス『怠惰の堕神?』
イカラァース『そうでーす!僕は怠惰の堕神で〜す』
先ほどの礼儀の正しい態度は何処へやら、全くの別人のような陽気な口調で声を発した。
ネルエ『多重人格者か?』
イカラァース『いやいや違いますよぉ〜//』
ネルエ『…今度は猫撫で声か…』
イカラァース『だって〜僕はただ単に楽しんでるだけですから』
レリス『楽しむ?』
イカラァース『えぇその通りでございます。私はただ単に楽しんでいるのです』
ネルエ『楽しむためにこんなことしたのか?』
イカラァース『えぇ、素晴らしいでしょう?これこそ芸術』
イカラァースは手をパッと広げながら得意気にそう話した。
ネルエ『イカれてるな』
レリス『流石にこれはかわいいとは思えないね』
イカラァース『まぁ理解出来なくても良きです!
だってきっといつかこの芸術を理解できてくれるはずですから!』
笑いながら話すイカラァースの言葉をネルエは耳に入れず、啖呵を切った。
ネルエ『やるぞ』
レリスはネルエに頷いて応えた。そして右脚に魂装魔法を集中させる。
イカラァース『お!いいですね!やりましょう!』
イカラァースは白の薔薇を脚で蹴りその芸術を破壊し、言葉を紡いだ。
イカラァース『って言いたいとこなんですけどね?
でも今日はやめときます』
ネルエ『逃げるのか?口封じはしなくていいのか?』
イカラァース『いやいやそんな事しなくたって貴方たちはこの件を黙る他ないでしょう』
ネルエ『何?』
イカラァース『分かってるんですか?今この国の状況がどうなってるか…マサライト国から狙われているんですよ?もし口外したら…住民はパニック…マサライト国は容赦なく矛を突き刺すでしょう…その上僕たちも容赦はしませんし…』
残念ながらその通りである。そもそもこの国が平和なのは七元徳の力が絶大であったからこそ…だが、今その七元徳が居ない今、それが周りに伝わってしまえば、マサライト国が真っ先に攻め込んでくるだろう…
そうなればニレスが率いる人外保護団体にも攻撃の矛が向き、完全に壊滅するのだ。
ネルエ『なら、お前を殺す』
イカラァース『なんかぁ〜当たり強くないぃ?』
そんなイカラァースの言葉を聞きもせず、ネルエは矢を放った。
イカラァース『ま、とりあえず今日はさよならってことで!』
そう言ってネルエの放った矢を二本指で受け止め、闇夜に姿をくらました。
ネルエ『…ちっ』
ネルエは憎悪の表情で舌打ちした。
そんなネルエの行動を見てレリスは言った。
レリス『ねぇ…一体どうしたのよネルエ』
ネルエ『………あいつ…見覚えがある…友達を奴隷送りにした奴…』
レリス『え?』
・
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『お〜い!ネルエ〜さっさと起きろよぉ〜!』
騒々しい声と共に自分のお腹に強烈な痛みを感じた。その腹立たしい声の主を探るために目をパッと見開く。そうすると目の前には見飽きるほどの馴染み顔がいた。その主の名はゲルマル…エルフの村長の息子だ。
ネルエ『…分かったからさっさとそこをどけ』
ゲルマル『オッケー!ミゾノも下で待ってるからな〜』
薬品を作るのが好きなミゾノ…俺たちはいつも3人で仲良し小好し遊んでいた。
だが…そんな平和は続かない…続くわけなかった。
いつも通り朝起きて、朝ごはん食べて、外に出て…そこからは地獄だった。
ミゾノ『え?何あの人?』
ゲルマル『ん?人間じゃね?』
ネルエ『人間?…でも…なんか異様に禍々しいような…』
そしてその目の先には先程陽気に喋っていた"怠惰の堕神"がそこにいた。だが、その時の様子とは大分違く、とても陰気そうで、目も虚ろで生気も何も感じられない…そんなイカラァースと思われる人物がそこにいた。
そうして俺たちはその人物を見つめていると…段々こちらへと近づいて来ているのが分かった。
ゲルマル『とりあえず俺はお父さんに言ってくるわ!』
ネルエ『あぁ…』
俺がそう言って頷いた時…もうすでに遅かった…
一度、視点が暗転したかと思えば両手は後ろ手に縛られていた。
そう困惑している時だった。ゲルマルの父親が怒鳴り上げた。
『貴様ら!我々は気高きエルフだぞ!こんなことをして…』
その瞬間、1つの銃声が聞こえた。
俺が恐る恐る目を動かすと、そこで俺はその父親から血が舞い上がったのを見てしまった。
イカラァース『あ〜反抗すんなよ』
低い声で威圧的にけど冷静にそいつはそう言った。
そしてみんなが怯えている中、イカラァースは何か木板らしきものを出現させた。
イカラァース『対抗したらさっきのあいつみたいに殺すからな〜』
イカラァースがそう言うと共に指を弾くようにして音を鳴らした。
そうすると、周りにはいつのまにか大量の人影が出現していた。
そうしてイカラァースは木板に何かメモをした後に1つの人影にそれを見せると、大量の人影は動き出し、何人かの子供と大人を影に包み込み、そうなった者たちは姿を消した。それはミゾノも例外ではなかった。
『おい!私の妻は!どこに行ったのだ!』
イカラァース『え?あ〜奴隷送りだよ』
イカラァースは平然とした顔でそう言った。
本来奴隷になるのは金のない者や犯罪者のみ、無理矢理奴隷にするのは御法度とされている。
それを平気で破ると言うのだ。
だが、その時………
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ネルエ『ゲルマルは俺とは違った。奴がそれを黙って見ているわけなかった…ゲルマルはそれに反抗して…ミゾノを助けようとして…死んだ』
ネルエは唇を噛みしめながら溜息混じりに言い、少し間を置いて言葉を続けた。
ネルエ『そうして生き残った俺たちは移住することになった』
レリス『なるほど…で、その時にあんたたちはミネルネ様の城へと行き着いたん…のね』
ネルエ『あぁ…行き着いたん…だよ』
レリス『ン!グフン!あんたそういうとこ…』
レリスが舌を噛んだことに対してのネルエからのいじりを受け、緊張感のない会話が繰り広げられていたが、その言葉を遮るようにネルエは先程の話を続けた。
ネルエ『だからこそ、ミネルネ様には感謝してる…だから本当は今すぐにでも助けに行きたいが…』
レリス『ん?あんた、そう言う気持ちで助けに行こうとしてたの?私はてっきり恋してるからだと思ってたけど…』
ネルエ『それもある…が、根幹はそれだ』
レリス『ふ〜ん、変わってるねぇ〜』
ネルエ『俺からすればお前らのほうが変わってる』
ネルエ『お前らだって、ミネルネ様に救われたんだろ?何故助けようとしない?』
レリス『まぁそれはもちろん助けれるなら助けたいけど…でも、それは今じゃない…マサライト国の連中が何考えてるかわからない今、ここは素直にミネルネ様の指示に従った方がいいでしょ?』
レリス『それに…これは私の感情論に過ぎないけれど…ミネルネ様には本当に感謝してる…だからこそミネルネ様の…ミネルネちゃんの意思には反対したくないのよ』
ネルエ『指示だと?あれは!単にここから逃げろ!ってことだけだろ!?』
レリス『あんたは焦ってて聴いてなかったんでしょうけど…あの時ミネルネ様は「自由に生きろ、そしてわしのことは気にするでないぞ」とも言ってたのよ』
ネルエ『……』
そこから少しばかり沈黙が続いたので、その空気に耐えかねたレリスは先陣を切ってネルエに言い放った。
レリス『まぁ…どちらにせよ、今はまだ任務中…早く戻って、二レスに状況を報告しないとね』
ネルエ『あぁ…そうだな』
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ここは七元徳によって存在を保証されたサバカルの国家の城にある地下室…そこでは……
後ろ手に縛られた楽夢…そのピエロの仮面から解き放たれた素顔をじっと見つめている人間がいた。…そう…ノルマレスだ。
ノルマレス『ん〜じゃ、後の尋問は任せたよ』
ノルマレスは洗脳魔法を使い、ピエロの口を割ろうとしたが、「何かの耐性魔法がかけられていたので、自分に出来ることはない」と、そこにいる騎士のような者たちにそう言い残し、ドアノブに手を掛けた。
『はい!お疲れ様でした!賢者様!』
その声にノルマレスはそっと頷いてちょっとした小細工をして部屋から出て行った。
『おい!ピエロ野郎!てめぇの名前なんて言うんだ!』
そう言って男はハサミのようなものを取り出し、奇妙に笑うピエロにペンチのようなハサミを向けて見せた。
『さっさと吐いた方が身のためだぞ!お前はどこから来た!!』
男は怒鳴りつけるように叫んだ。
楽夢『楽夢…アハッアハハ!』
ピエロは笑う。ひたすらに笑う。
『何処から来たんだ!楽夢!貴様は!』
男は楽夢の舌を無理矢理引っ張り出し、ハサミで挟み込んだ。
楽夢『ハハハ…ッ!』
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『さっさと吐けよ!お前は平気で人を殺した異常者なんだぞ!…だからその罪滅ぼしだと思って…正直に
話してくれないか?』
楽夢『君たちは遊び人じゃない、ただ仕事をこなしているだけ……ハハっ……!滑稽!!罪滅ぼし?……こちとらそんな覚悟でこんなことしてる訳じゃないんだよ!!』
唐突に声を荒げた楽夢に思わず尋問官は足をすくめる。
楽夢『アハハハ!フッ…では!張り切って参りましょう!it's ショーターイム!』
『はぁ?一体何言って…』
その時だった。さっき出て行ったはずのノルマレスがいきなり現れたかと思えばノルマレスはすかさず本を出現させた。
『え?賢者様?』
ノルマレス『プロテクトバリア!』
ノルマレスがそう唱えると楽夢を取り囲むように半球状の物が現れた。
楽夢『アハッ!まさかの失敗?』
楽夢がそう言うと同時に楽夢から爆風が巻き起ころうとしたが…半球状の物がそれを引きとどめて見せた。
ノルマレス『ぐっ…!慌てて来てみればこの有様か……君!何か情報は得られたかい!?』
『いえ…!何も!』
ノルマレス『ってことは何も吐かずに派手に自爆したってことね!』
ノルマレスが死に物狂いで手に力を入れ続けると、その爆風は収まり、何とかこの場所丸々爆発することは免れたのだった。
次回 買い物!買い物〜




