他次元の種? アウト・レリックの宇宙融合計画
誤字脱字のご指摘をいつもありがとうございます。
ドラマの影響かFO4のアップデートでサブクエが追加されていたので嬉しい。でもこのシリーズらしくまあまあ不具合があるっぽくて苦笑い。
空中に固定される死体・消えないマーカー。出てこないターゲット。しょうがないのでロードしてやり直し。今度は余計なこと(戦利品のエン〇レイブPAパーツがもったいなくて何度もピストン輸送 )をせずクリアしました。でもこのパーツ修理コスト重すぎなので、結局45か51に戻ると思います
<放送中>
対峙する二人の天才の話し合いは常人には把握しがたいほど抽象的なやり取りでありながら、真剣を握って骨の髄まで切り合うかのような深度で行われた。
会話に使われる単語だけでは把握し切れぬはずの膨大な情報の応酬。
己の言葉の意図が正確に伝わり、返される。アウトは本当に久々に『人間』と話している事を実感していた。
「例えばさっき貴方と戦った子。ベッドの上で貴方を殺したいと泣いていたから、うまくすれば勝てる程度の玩具を与えてあげた。本当に勝てるかどうかは彼女次第のものを」
「……顔の怪我は?」
「あれはむしろ貴方のせいよ? 彼女の信仰という拠り所を砕いたのは他ならぬ貴方だもの。宇宙に来てからずっと自傷を続けていたの――――いえ、少し違うわね。『エディオン』に乗ってからかしら?」
『私は神に選ばれなかった』。
それがあのロボットに乗ってステーションに来だばかりの頃、なせが半狂乱となって暴れ出した少女が口走った言葉。
信仰厚く血統正しき白人の自分が選ばれず、なぜ極東の黄色人種が主に名を呼ばれるのか。そう呪うように言い続けて自傷をやめないため手を焼いたものだ。
思考を誘導して自傷から他傷へ。彼女が憎んでいる玉鍵たまへ全ての害意を向けさせることでギリギリ心のバランスを保たせることに成功したが、それでも自傷行為は完全にやめさせることはできなかった。
あの少女はサイタマに捕らわれる直前、エディオンを『聖遺物』と口走っていたとアウトが集めた資料には記載されている。
そしてその思考がどんな根拠から来たものなのかを分析したとき、アウトはひどく陳腐な推論に至った。
力だ。神の奇跡の如きエディオンの力に、これこそ信仰する神の力の体現だとあの盲信者は魅せられたのだろう。
その力がどんな由来かなど、目を開かぬ信者には関係ない。
益のあるものはすべて我らの神の奇跡。害があるならすべて悪魔や異教徒の仕業。それがあの信者たちの培ってきた正しき信仰の有り方なのだ。
だが体験した力はあまりにも大きく、彼女はそれを『正しい存在に負けるべきはずの悪魔の力』と考えたくなかったと思われる。あの力こそ自分たちの側の力でなくては耐えられなかったのだろう。
だからこそ彼女は自らが否定された理由を探して悶えた。
信じた神に拒絶された自分に苦しみ、信じた神に寵愛される存在を憎んで。
「最初エディオンは操縦をあの子にしてもらうつもりだったの。でも、あのロボットは言うことを聞いてくれなくてね」
それで『選ばれなかった』と喚いたのだろう。
すでにエディオンを操縦した実績を持つ相手と比較して、ますます信仰とプライドを傷つけられて。
これはアウトとしても残念な事だった。
あのロボットに関係を持つパイロットのうち、アウトが手を差し伸べるトリガーを持つ者は彼女だけであったから。
三島ミコト、野伏ティコ、柿山ハヤオ。そして玉鍵たま。いずれも大した対価も持たずに都合よく願いを叶えたいと願うような、他者に頼るだけのゴミではなかった。
願えば、祈れば、それで救われると思うような。卑屈な物乞いではなかったのだ。
アウトが狂わせるのは劣等感と自意識ばかりが強いゴミだけ。『人間』にはアウトの甘言が入り込む余地は無く、何より『人間』には手を出さないのがアウトなりの境界である。
「くだらない。ロボットはロボットだ……どれほど強かろうが、どれほど脅威だろうが。スーパーロボットもただの乗り物だ」
美しすぎる顔立ちに見合わぬ吐き捨てるような口振り。だがそれだけに本心からの言葉だとアウトも頷く。
聖遺物? バカバカしいにもほどがある。
物は物。
大昔ならライター1本で神の奇跡と崇められるというのなら、それこそなんと貧相で滑稽な神であろう。
あるいは巨大な力を振りかざし、そこに己が信じた存在の名前をつけてやるだけでいいと言うなら、それはなんと強引で傲慢な教えだろう。
玉鍵は正しく認識している。
どんな力も人が手にした時点で、それはもうただの道具でしかないと。
火も、電気も、原子力も。人が手にした時からもう道具の一種、奇跡でもなんでもない社会にありふれた1ピースなのだと。
「私も概ね同意見よ。でも、少し違う考えもある」
あの敵から得たロボットを調べるうちに抱いた疑問。それ以外にも過去に記録された多くのS資料の断片から、アウト・レリックはひとつの仮説を立てていた。
「私たちが敵と呼んでSワールドで狩っている存在――――あれはかつて存在した私たち人類と同じような文明の、その残り香なんじゃないかしら?」
もしその文明が自分たちと同じなら……その結末は?
いずれ人類も滅んだあとに『別の世界の人類』の存亡のため、彼らに狩られる供物として『提供』されるのではないだろうか。
高次元存在、『Fever!!』によって。
「何が言いたい?」
ここで初めて玉鍵がアウトの意図を掴みかねる。だがアウトは少女の事を軽視しない。それは彼女の知性が自分より劣るからでは無いからだ。
二人の差は経験。長く生きている分だけ自分にいささかのアドバンテージがあるだけ。
むしろアウトはこれまでの玉鍵の人生を想い憐れむ。自分と同格の知性を持っている人間が、社会においてどれほど孤独に過ごして来たかを身を以て知っているから。
だからアウトがその苦しみに共感するように、玉鍵もまたアウトの生き方に共感してくれているだろうと思うと、道化はささやかな慰めを感じた。
「いずれ私たちも飽きられてポイ。そんな未来が待っている気がするの……だけどそれ自体は気が付いても防げない」
『次元が違う』とはそういう事。三次元からの観測者に二次元の存在は気が付かないように。高次元の存在のちょっとした気まぐれにさえ、三次元の自分たちは抗えないのだ。
――――しかし、そんな高次元存在の玩具であるはずの人間にも、かすかにだが抵抗できる可能性が生まれるかもしれない。
「エディオン。あなたがそう名付けたあのロボットは『Fever!!』にも届かぬパンドラの箱かもしれないの」
ただしそのチャンスはとても小さく、エディオンを建造した『別の次元にいた人類』は可能性を手にしながらもチャンスを生かせなかった。
「最悪の事態を回避するためにエディオンを作った別次元の人類は失敗したけれど、それを手にした私たちにほんのわずかな可能性の種を残してくれた」
どこかの次元の人類が遺したノアの箱舟。
アウトが解析したあのロボットの中には、違う次元に存在したすべての存在という膨大なエネルギーが、まるで遺産のように残されていた。
……宇宙に存在するというブラックホールに関係し、『ホログラフィック宇宙論』というものがある。
その中に吸い込まれた存在は超重力によって完全に分解されるが、その痕跡は事象の地平面に張り付いて保存されるという。その張り付いた存在を投影した映像こそが我々の世界なのだと言う理論。
エディオンはこのブラックホールにおける現象を利用して、『ひとつの宇宙のデータ』を保存した記録媒体であるというのがアウトの考え。
そのエネルギーがひとたび芽吹けば、我々の宇宙すべてを別宇宙に塗り替えるほどの情報とエネルギーの塊。
……もしこのデータを開放したらどうなるか?
アウトの予想が正しければふたつの宇宙はビックバン以上の強烈なパワーと共に融合し、次元自体がシフトアップする。
そうなれば唯一の部外者である『Fever!!』は、同格の力の前に違う世界に弾き出されて二度とこの次元を見つけ出すことはできないだろう。
おそらくはアウト以外の科学者が聞いても理解し難い話。ひとつひとつを理論立てて説明していたら、それこそ人の寿命など使い切ってしまうほどの無駄な時間を要するだろう。
だが自分と同格の知性を持つ者なら理論を超えて、直感というスーパーコンピューターの如き閃きで分かるはずだ。
そう、例えば目の前の少女の皮を被った超人ならば。
「この力を完全に操れれば、もしかしたら人間をこの星に閉じ込めている『Fever!!』さえ出し抜けるかもしれないわ――――協力してくれない?」
グノーシスの悪魔から人間を解き放つために。
これはアウト・レリックという天才の、嘘偽りの無い願いである。
――――『解き放つ』という言葉に、いささかの常人の思想と違う意味が込められてはいるのだが。
《……あはっ♪》
「この力を完全に操れれば、もしかしたら人間をこの星に閉じ込めている『Fever!!』さえ出し抜けるかもしれないわ――――協力してくれない?」
無重力の中では座る姿勢に休憩の意味はあまり無い。せいぜい精神的に休んだ気になるくらいか。
ちょっと身振り手振りで腕を振ると、ブンと振った拍子にそっちに引っ張られるような世界だ。むしろ座っている状態を維持するほうが大変まである。
それを解決するのは安全ベルトだったり磁石の効く床だったりの、その場に留める機械的な装置だ。
けど腹回りのある中年女性がその腹にぎゅうぎゅうとベルトを食いこませて、ベラベラ話してるのを見るのはなんだかなぁ。せめて話に興味があれば気にならないんだろうが。
(1周して見た目や口調がまともになったと思ったが、1周したんじゃなくて発狂が二重巻きになっただけだな。何周しようとトチ狂ってるのは変わんねえや。言ってる事がさっぱりだ)
ブリテン女を殴ってないって発言だけは信用するがね。間違いなく自分から拳を振るうタイプじゃねえだろうよ。
……エディオンその他の敵ロボットたちが『違う次元の人類が作った機械』って話はまあ納得できなくもない。『F』からすれば廃品利用してるみたいなものだろ。
で? それが何だよ? 違う次元にオレたちみたいな文明を持った人類がいたから何だ。とっくに滅んだ人類の遺産を『Sワールド』として使ってる? だから?
理屈は植民地みたいなもんだろ。ちょいとスケールが違うだけ。
別次元の人類・別次元の滅んだ星の残り物をゲームに利用しているだけ。別に驚く事もないさ。
倒せば敵の残した資源をくれるんだぜ? もってけ泥棒の閉店セールって事でいいだろ。
ある日『Fever!!』が飽きて滅ぼしたのか、ドン詰まりの果てに勝手に滅んだかさえどうでもいいこった。
突然の天変地異で文明が消し飛ぶくらい自然にある。『F』はそういうのと同じ人知を超えた存在だろ?
目をつけられた時点でもうオレたちの生殺与奪の権利さえ、自分たちには無いんだよ。
宇宙の彼方から飛んできた隕石がブチ当たって星の生命が荒廃してもそれは災害だ。現象に文句を言っても仕方ないって。
憂える事なんざ何も無い。人間同士で核ミサイルの応酬でもして滅ぶほうがよほど市民には理不尽ってもんだ。
人間のすることなら人間に防げるはずなんだからよ。これなら文句言ってもいいだろう。けど相手は高次元存在。つまりは何をされても天災だ。
神ってのはおどろくほど軽い気分でサイコロを振るもんさ。たとえその1回で世界が滅ぶ目が出るゲームでも。
振るだろ? ゲームなら。人間だって興味本位でやってることさ。
どうせロードすればいい。特にそのゲームに飽きていたなら、そのまま破滅で終わってもいいんだから。
そのゲームの中の善良なキャラクターが不幸になっても。飽きれば何の思い入れも持たずに壊してしまえる。忘れ去ってしまえる。そんなもんさ。
《それでどないしますのん低ちゃん?》
(だいたい分かったよ。バカとなんとかはって生き物と喋っても、常人には理解できねえって事だけな。なら変人劇場に付き合ってやるのはここまでだ)
毒を飲んでるってんならちょうどいいや。勝手に死ね。それで死んでもオレのせいじゃねえし、自殺なら非難される謂れは無い。
SPだって自殺したがる人間の護衛なんて引き受けないし、責任だって取らないもんさ。そういうのは医者かカウンセラー領分だ。
《お。それならいよいよ追求シーンですナ。罪状を読み上げてハラキリ要求、そこから出会え出会えで殺陣シーンにシフト》
(どこの暴れん坊ジェネラルだ。創作じゃねえんだからそんな面倒な事はしねえよ)
いちいち相手に理由を聞かせてやる行為は自己満足と言い訳にすぎない。
こんな理由だからこうなったんだと、復讐相手だけでなく周りと自分にも言い聞かせたいからつい口にする。
そんなものは復讐劇ってんだよ。悲劇に酔っぱらってる役者だ。
私はこんなに不幸だったから仕方なかったんだと泣いて笑う、哀れな道化を演じる役者でしかない。
ピエロのマスクにしばしば涙の意匠が描かれているのは、無様を晒す自分が決して本心からでは無いからじゃねえかな? パフォーマンスを見ている側は役者の悲哀なんざ知ったこっちゃないがね。
《えー? ここに来るまでは百回殴ってヒデブさせてやるって感じだったジャーン》
(あれって無駄もいいとこじゃね? あの主人公なら暗殺奥義で百回殴らなくても、ただのグーパン1発で十分殺せるだろ。腕が鈍らないように悪党を実験台にしてんのかね)
もちろんブン殴りながら言いたい事は山とある。だが死ぬのが確定した相手を自分に酔いながら殴るほどガキじゃねえ。
殺すと決めた相手にグダグダした拷問は必要ない。殺してオサラバさ。
話は終わりだ。中和薬を飲まないならそのまま死ね。飲んだら事故か自殺に見せかけて宇宙に放り出してやるよ。
国際法も人類の未来も知った事か。この役目をアウトを恨んでるオレに任せた時点で、オレにしか出来ないなんて抜かした時点で大失敗してんだよ。
別に今日明日滅ぶわけじゃ無し。人類の未来を憂いてるって連中がその間にうまいこと考えるんだな。
どうせ権力者たちは責任とりたくないって先送りにし続けて、ギリギリになって喚くだろうがね。
「エディオンに乗――――」
《対ショック姿勢!》
震度にして6や7クラスの突然の衝撃がミーティングルームを包む。
磁石によって床に備えつけられていた椅子が外れて、オレの体も衝撃の拍子に足の接着が外れて浮き上がる。
室内で空転していた体を重力制御できるアクセサリーの力でバランスを取り戻し、とりあえず天井に立つ。アウトはピンボールみたいに壁と床と天井をボヨンボヨンしているが知ったこっちゃねえ。
(なんだ!? どっかのキレた都市が地上からミサイルでも撃ち込んできたか?)
《建物に伝わったエコーから震源は物資搬入口付近と推定》
宇宙は空気が無いから空気振動は起こらない。だが床や壁といった物体が地続きならそこから振動は伝わってくる。
(搬入口? まさか……)
《考えるのは後。もし低ちゃんの予想通りなら急いで安全を確保しないと》
(クッソがぁ!)
オレにとって一番危険で安全なのはスーパーロボットの操縦席。こんな現実のポリタンクの塊みたいな建物じゃねえ。
(エディオンには乗れそうか?)
オレのスカルゴーストはすでに片腕が無く、それ以外の部分にもあちこちガタが出始めている。だがまだ使えはする程度のコンディション。
手足もスラスターも潰した黒い方よりは!
ブリテン女めぇ、どうやったか知らんが自分のロボットから脱出して、オレのスカルに乗り込みやがったな!
《エディオンは大きすぎて宇宙空間に曳航している形。まず入ってきた場所から宇宙に出ないと》
(そういやそうだった)
無重力の建物内を潜る様にして元来た通路を飛ぶ。無重力だとマジでありがたいなこのアクセサリー。すいすい進めら。
(――――ッ? スカルがある?)
オレの白いスカルは降着姿勢でそのまま。風防も開いている。
対して壁に胸側を押し込んだ黒いほうは背面から脱出機がスッポリと抜け落ち、風防が開きっぱなしで漂っていた。
もちろん中は無人。ブリテン女はいない。
「こんなブッ壊れた状態でも確実に動作したってか。良い脱出装置してらぁ」
あのピエロ、技術者としちゃあマジで優秀なんだろうな、クソが!
そして肝心のブリテン女の行方は探すまでも無い。
<ジャップ、あんたの惨めな機体に乗りなさい――――本当の決着をつけるわよ>
「何機持ち込んでんだよ……」
マントをはためかせた真新しい黒いスカルが宇宙を背に、オレに槍を突き付けていた。




