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感謝回 お泊り5人衆! 君たちはキャッキャッウフフを見る?

いつも誤字脱字をありがとうございます。またも大量に発見報告をいただけた事に感謝して、こちらを投稿させてもらいます。ご賞味いただければ幸いです。


※中盤からやや暴走気味です。こういうのはいらないという方はご注意を。

 文化祭の出し物としてカレーとコーヒーを提供することが決まったあと、そのカレーの調理に使える人材についての話になった。


 決まったからと言って無からポンとカレーが出てくるわけもない。誰かが作らにゃならん。そして客から金をとる店として提供する以上は、品質を均一化して大量生産できる体制を作る必要があった。


「…目が」


「ちょっとシズク、スライサーの蓋締めてないでしょっ!?」


「オニオンいっぱいいっぱい使う。においスゴイヨー、ワタシも目が」


「ほら、ゆうちゃんティッシュ。で、細かくしたものをレンジでチンしてそれから鍋に入れると。肉はまだ先かぁ」


「煮崩れさせたくない野菜は後から入れるわけかぁ。料理は科学ね」


 必要なのはまず調理機材だ。家庭レベルで作る量じゃ足りるもんじゃないから寸胴鍋や機械式のピーラー、圧力鍋なんかも調達した。どれも基本はサイタマのほうからのレンタル品だ。


 さすがに文化祭が終わったら使わないものを買うのもな。どれも実家が飲食店をやっている春日部の伝手で借り受けたものになる。一般だと信用できる業者がいまいち無くてよ。


 同じく材料のいくつかも春日部の実家の使っている仕入れルートを使って回してもらったものだ。あいつの家は中華店とはいえ、シンプルなカレーの材料程度なら和洋中で使う食材に大きな違いはない。おかげで個人で買うより仕入れ値を圧縮できている。


「イモの芽はちゃんと取らないと中毒を起こす。ちょっと大げさなくらいしっかり取ったものを使用すること」


「「「「「はーい」」」」」


 飲食店で一番あっちゃならないのは食中毒だ。たとえ文化祭でやる学生の真似事だろうと後輩のために悪い例は残すもんじゃねえ。でないとアレもダメ、これもダメと制限がついて、せっかくの思い出作りが面白くもないクソみたいなものになっちまう。


「おースゲー、あっという間に剥ける」


「機械の使い方はすぐ覚えるよね、ノッチーって」


「…ゆっちゃん、胸が邪魔。まな板が見えない」


「恐イ怖イ恐イっ、圧力鍋恐いヨ! ピーッて言ってるヨ!」


(ファ)っ、火を止めて圧が抜けるまでゆっくり待つのよっ、ゆっくりよ!」


 うちのキッチンでエプロンつけてる大小5人の女子。まとめて呼ぶときオレは星川ズと言っているが、こいつらはSワールドパイロットとしてチームを組んでいるから、一応『シスターズチーム』という名称がある。


 まあオレの脳内での呼び方は星川ズでいいや。なんのかんの星川はうまいことリーダーやっているしな。


《むほ。個性の違う美少女たちが学生服にエプロンをつけてキッチンに。素晴らCぃー光景じゃマイカ。特に制服にエプロン、このシチュは鉄板ですナ》


(オッサンがやらしく鼻の孔を広げたような声で何を言ってるんだこの無機物)


《失敬なっ。スーツちゃんは後世に残すべき芸術、『美少女がお料理している』という文化の極みを堪能しているだけデス》


(美少女限定かよ……)


《若干イモくても素朴な幼馴染とかなら、それはそれで好きヨ? イベントが進むと三つ編みから白いリボン付きのショートになって、当て馬の男子学生がしゃしゃり出てくるのダ》


(聞いてねえよ。なんだその具体例)


《んー2のほうが有名なんだよネー。低ちゃんボディと同名のお姉さんキャラは特に人気があったし》


(訳が分からん)


「ダイジョブ? そろそろダイジョブ?」


「わ、私に聞かれても。た、玉鍵さん?」


 チラチラこっちを見るな星川。


「調理も圧力鍋の扱いも、もう教えたはずだぞ。行程をはしょるな。余計なアレンジを加えるな。それだけで70点のものは出来る」


「うわーん、スパルター」


 情けない声を出す星川とその扱いを見て、他の面子はアドバイス(カンニング)を諦めて鍋を見る。


「…火から下ろした。濡れふきんで熱は下がってるはず」


「いやいや、まだ早いって。まだ熱いもん」


「ノッチー! 指で鍋に直接触ったら火傷するよっ!?」


 なんでこいつらがうちでカレー作ってるかというと、調理担当の基幹スタッフとして鍛えるためだ。


 作り置きは十分するつもりとはいえ保管場所にも限度がある。ある程度は営業しながら追加で作る必要があるだろうと思ってな。


 そうなるとどのタイミングで作る必要が出てくるかで、裏方のメンバーも違ってくる。休憩時間で他のクラスを見回るやつも多いだろうし、いるメンバーだけで現場を回さにゃならん場面も出るはずだ。


 なら誰かひとりは慣れた人間が調理スタッフとしていないといかんだろう。人が違うと味が違うのでは店として売り物にならんしよ。全員が均一の味を出せるようになる必要があった。


 というわけでこいつらをまとめて仕込むことにしたってわけだ。カレーもこいつらが言いだしっぺってやつだしな。


《爆弾処理してるみたい。みんなビクビクしてて小動物感があってカワイイネ》


(圧の抜けてない圧力鍋は実際に爆弾と一緒だしな……見立てのかぎりまだ抜け切ってないが、爆発ってほどにはならんだろうからこのままやらせるか)


 飯所を名乗る以上はうまいものにしたいが、まずは最低限のハードルを確実に跳べる全員の基礎水準が大事だ。10回のうち1回のホームランを出すギャンブルバッターは飯屋にいらん。その1回のせいで他の9回が失敗みたいに思われちまうしな。


 飛び切りうまい必要はない。金を払うに足る味を10回のうち10回、常に安定して作れる店こそ『普通の良い飯屋』だ。アマチュアの料理上手なんぞ長いスパンじゃお呼びじゃねえんだよ。


 文化祭の1回だからそれでいいじゃねえかって? ダメだね、オレが嫌だ。飯屋として出店するなら良い飯屋としてのセオリーを意識すべきだ。金を取る時点でもうガキの遊びじゃねえんだよ。プロとして恥ずかしくない『お店』として客を迎えるべきだ。


「「「「「きゃーっ!?」」」」」


 おうおう、圧抜きの十分できてない状態で開けようとした鍋からバスッという音が出て全員が怯んでら。


 料理をナメ腐ると危ないと教えるため、あえて教えずに放置しておいた。一応、圧も安全圏内だと思ったしな。ガチでヤバイ状態の圧力鍋だったらさすがにシャレにならんから止めるがよ。


《思ったより楽しそうだネ。低ちゃんも》


(部活の合宿とか言うのがこんな感じかね。オレの場合は学生体験できなかった青春が灰色だった冴えないオッサンの、叶わなかった夢の残滓ってだけさ)


 今やってるだろうと言われたらその通りだけどよ。それはこの体の『玉鍵たま』って女子中学生の体験であって、中身のオレの体験とは本質的にはちょっと違う。


 名前も正体も偽って、いい大人が若者のイベントにウキウキで参加してるようなもんさ。我ながらこっ恥ずかしい話だぜ。









<放送中>


「…大満足」


 不慣れな作業でみんな四苦八苦したけれど、仲間内でワイワイ作ったカレーはとてもおいしいものになった。


 メンバー1のカレー通を自称する雪泉シズクは、幸福な余韻に包まれて椅子にもたれかかる。


 これまでよく食べてきた『カレー風味』と表記される混ぜ物入り食品と違って、オーガニックスパイスの効能が体を駆け巡っていく事を血流と共に実感していた。


(…化学調味料で作ったそれっぽい味と香りとは明らかに異なる。これこそが本当のカレー。スパイスの効能)


 過去にも玉鍵の作ったカレーをご馳走になっているシズクたち。自分たちにとってもはやカレーと言えばこの味というくらいに舌が仕込まれてしまって、今では学校の学食カレーなど食えたものではない。


 一度生活の質を上げると下げられないとはこの事かと、今さらながらに因果な事になったと若干の後悔もしている。


 シズクたちの家はそこまで裕福ではないし、パイロットをしているからと言って誰でも豪遊できるほど稼げるわけではないのだ。


「デザートのフルーツ杏仁をたべ――――」


「「「「「はいっ」」」」」


 全員お腹は満載のはずだがデザートは別だとばかりに、玉鍵のとってきた確認に食い気味で挙手する面々。もちろんシズクも例外ではない。


 高価なオーガニック食材と料理上手の玉鍵たま。この家で出る食べ物でハズレなど存在しようがないのだ。舌が肥えて後で困ろうと食べられる時に食べておかねばもったいない。


「うーん、うまいけど風邪シロップみたいな味?」


「変な物に例えないでよ。あっちと違って優しい後味じゃない。風邪シロップって味は甘いけど、舌に残るのはいかにも薬って味だもの」


「これ本物の杏仁ダヨ……アーモンドで代用してるフェイクじゃない」


「あー、アーモンドって杏仁と風味が似てるって聞いたことある。でも代用だって結局はオーガニックだから、どっちも高いのに変わりはないんじゃない?」


「杏仁は元々漢方薬を食べやすくしたものダヨ。お薬の効果がまったくチガウヨ」


 シズクはゆたかに向けた(ファ)のうんちくを聞き流しつつ、銀色のスプーンにひと掬いした白い杏仁と、そこに添えられた赤いドライフルーツのコントラストに見入りながら最後のひと口を味わう。


(…やっぱりパイロットになってよかった。お金は大事。生きていても貧乏でみじめじゃ生きていく意味が無い。だっておいしいものが食べられないもの)


「食べ終わったら清掃だ。キッチンと道具の片づけまでして初めて調理だぞ」


 すでにひと仕事やり遂げた感を漂わせているシズクたちに対して、いつも自炊している玉鍵は特に疲れた様子も見せずに次のスケジュールを出してくる。


 こんなにも美しい少女が当然のように家事万能。同じ女としてスペックの違いを見せつけられるような気分だが、賢明なシズクは特に嫉妬することはなかった。


 近いステージにいる相手なら多少なりと妬ましいかもしれないが、言うなれば彼女はあらゆる分野のプロフェッショナル。見上げるステージが高すぎる。

 そんな相手に素人の分際で嫉妬するほうがおかしいのだと、シズクはすでに達観している。


 ……でなければ破滅することになるのだ。シズクたちの知っているだけでもそんな教訓を示した愚かな女がふたりもいた。反面教師にするには十分な数であった。


「あ゛ーそれがあったかー。このままダラダラしたいー」


「だいぶ吹きこぼれとかしてるもの。ちゃんと掃除しないとダメよ」


「道具も洗わないと食中毒の元だものネ」


「本番で使うときにカビてたら大変だもんねぇ」


「…料理するって大変」


「風呂を用意してくるからキッチンは頼むぞ」


「「「「「はーい」」」」」


 自分の容器を片付けた玉鍵が廊下に消えたとき、シズクたちはすっと押し黙り自然と視線を絡め合わせた。


「ついに大浴場で玉鍵さんと混浴……」


「同性だから混浴じゃないわよゆっちゃん。あと目つきがおかしいから直して、なんか怖いわ」


「玉鍵さんと一緒とかレア度は混浴の比じゃないだろっ。うーわードキドキしてきたっ」


「…ノッチー、興奮して鼻血とかやめてよ?」


「キリちゃんが倒れたらワタシが介抱するからダイジョブだヨ」


 シズクたちはカレー作りの特訓という名目で、今夜ここに泊まることがすでに決まっている。


 シズクの親は外泊にすんなりOKをくれた。これはシズクの普段の素行の賜物というより、過去に送り迎えをしてもらった際にシズクの親と面識が出来た玉鍵の好印象が大きいだろう。


 他のメンバーもマイム以外は揉めることはなかった。マイムに関しては親の制御が効かなくなった娘の件に玉鍵が関わっている事が知られたようで、娘をまた都合よく使いたい親に反対を受けたと思われる。


 事件性が無いことを示すため最低限連絡だけは入れた、という会話内容で通話を切ったマイムをシズクたちはそっと慰めている。


 もっともそんな事をしなくてもマイムのテンションはすぐに上がったのだが。なにせ憧れの玉鍵たまの家に初めてお泊りするのだから。


 その中でも大浴場での入浴は、かつて夏堀マコトや初宮由香が自慢していた一大イベント。今夜はシズクたちがこれを堪能できるのだから、それはテンションが上がらぬわけがない。


 シズクたちは全員が玉鍵との入浴を楽しみにしている。しかしその思惑には若干の違いもあった。


 例えば星川マイムやノッチーこと槍先切子は思春期らしい性への興味が強い。


 同性で? と思う人もいるだろうが、同性でも他人の体に興味が出るのは思春期としては順当なところであろう。純粋に自分と比較したいという意味もある。


 さらに性という意味で玉鍵にもっとも関心が強いのはマイムたちより湯ヶ島ゆたかかもしれない。どうもゆたか――――シズクたちからゆっちゃんと呼ばれる彼女は体の発育が一番良いせいか、玉鍵に特に興味が強いようだった。


 一方ゆたかに次いで発育の良い(ファ)雨汐(ユーシー)は親友であるノッチーに関心が強い同性愛者とはいえ、やはり玉鍵という極上のご馳走には性的な興味を惹かれているようだった。


 では雪泉シズクが玉鍵との入浴にどのような感情を抱いているかというと、女としての美しさの探求心が一番強い。


(…玉鍵さん、私より背が小さいし体も貧……スレンダーなのに、ものすごく色っぽいというか、ムラッとくるオーラがある。その秘密を探る)


 チームの中でもっとも背が小さくスリーサイズもお察しのシズクは、人からマスコットのような扱いを受けることがしばしばである。

 それを利用して立ち回るくらいの器用さはあったが、それでも女としてのプライドもシズクなりに持っていた。


 決して豊かとはいえない体つきだというのに、見るものを釘づけにして離さない玉鍵の体。その魅力の秘密を探るための機会が、今宵シズクの下に訪れた。


 ならば探らねばなるまい。いつもはシャワードアに隠れていた玉鍵たまの、その美しき肢体の魅力を。








《Foooooooッッッ!!》


(うるせえ! 脳内で音響駆使したフーリガンみたいな音量で叫ぶな!)


《合宿と言ったら女子風呂の覗き、でももうひとつあるZE、夢のシチュエーション! それは女子と堂々混浴! しかも右も左もバスタオル無し! Yeahhhhhhhhhh!!》


(今のオレは体だけは同性だから混浴じゃねえよ)


 オレが買い付けたこの家は元々裕福な学生向けの寮だったもの。だから複数人で入れる大浴場なんて贅沢な設備がある。


 どうせならデカい風呂に入ってみたいという星川ズの要望を聞いて用意したわけだが、後で入るからチームだけで気軽に入れと言ったオレを死ぬほど引き留めてきた。一番風呂は家主が入るべきってな。


 じゃあ先にオレひとりがとなったら『待った』が掛かって、全員水回りの使い方がいまいちわっかんねえから教えてくれとよ。めんどくせえガキどもめ。こんなものロボットのコンソールよりはるかに簡単だろうが。


 なんかもうどうでもよくなって一緒に入ることになったわけだが、星川たちが脱衣所で服を脱ぎ始めてから後悔の連続だ。


 まあスーツちゃんがうるせえうるせえ。


 湯ヶ島のブラ見てデカいだなんだ、まだ腕を吊ってる(ファ)の介助を槍先がやってるのが百合百合しくて尊いだ、星川のパンツがオレと色違いでお揃いだ、雪泉はあの体形でも下は――――ああ、どうでもいい。ツルツルで悪かったなクソ。


(ガキと風呂に入ってるだけで大騒ぎしてんじゃねえよ。脱衣所の時点で大興奮しやがって、こっ恥ずかしい)


《これが興奮せずにいられるKA! むしろ興奮材料でショ! 一度に5人だゼ!? もう体が十分できてる子もおんねんデ!》


(さよけ。生憎とオレは興奮するための下が無くなっちまったんでな。ピンとこねえんだよ)


 風呂は毎回毎回洗髪が大変でそれどころじゃねえしな。この手入れが面倒なクソ長い髪、なんとか切れねえかなぁ。散髪にスーツちゃんがマジで抵抗しやがるから何も出来ねえ。


「きれい……きれい……」


「…髪も肌も……すべてが宝石みたい」


「…………」


「キリちゃん、上を向いて鼻を押さえてようネ」


「お尻のラインが反則すぎるぅ……なぜU型のバスチェアじゃないの? これでは下から手を入れたくても入れられないっ」


 なんでこいつら自分たち洗わずにボケッとしてんだ? 背中を流してほしいわけでもあるまいに。


「風邪ひくぞ?」


「「「「「お構いなくっ」」」」」


(なんなんだこいつらは)


《くぅぅぅ、スーツちゃん不覚! 今日のためにローションとマットを用意していれば!》


(うちでそんなサービスはしていないって言ってんだろ! 初宮たちのときも言ったが、ガキにそういうのはNGだっていい加減学習しやがれ!)







<放送中>


「…恋バナ」


 あらかじめシャッフルしたカードをめくってお題に合わせて話す。というゲームを就寝前にすることに決めていたシズクらは、眠そうな玉鍵をなんとか引っ張り込んで彼女の寝ている管理人室に布団を持ち込んで遊ぶことにした。


 これはあわよくば玉鍵の部屋で一緒に眠るためである。寝る、という行為がそれ以外を指しているか否かはシズクたちにとっても場の流れによるだろう――――あえて積極的に踏み込むほど覚悟は決まっていないが、チャンスがあれば逃したくないのはシズクをしても本音であった。


「…無い」


 シズクの回答にズコーっとノリの良い面子が突っ伏す。その中に玉鍵もいたのはかなり意外であった。いつも態度はどこか素っ気ないが、これで玉鍵はノリが良いのかもしれない。


 こういった普段は見えていなかった玉鍵の親しみやすい部分が見えてくるのも、家という生活圏に入ったおかげだろうと思うとシズクはこの合宿に参加してよかったと改めて思った。


「ちょっとシズクぅ、それじゃゲームになんないよ」


「…無いものはしょうがない。それだけ言うならノッチーはあるの?」


「あたしの番じゃないから知りませーん」


「これは無いね」


「ノッチーだもんねぇ」


「マイム! ゆっちゃん! じゃあふたりはどうなんだよ!」


「私は男子の気持ち悪いとこ知ってからダメ……じっと見られるとゾッとするの」


「アー、リコーダーの話ネ。ゆっちゃん発育いいモンネ」


「うん。あれから胸とか見られる視線が分かるようになって、まず身構えちゃうから」


「…マイムは?」


「うーん、本当に小さいころに保育園の先生が好きだったらしいんだけど、全然覚えてないのよねぇ」


 なお(ファ)には誰も聞かない。彼女の好意の対象は幼い日に転校してきて以来、ずっと切子だからだ。


「なんだよ、現在進行形は誰もいないじゃんか。女子としてどうよ、これ」


「「「「あんたが言うな」」」」


 そうなると全員が残った一人に自然と注目する。


 すでにその少女は半目になるほど眠そうで、まるで幼児のように愛らしく舟をこいでいたが。


 夢心地のなかにいる玉鍵はそれでも注目されたことは分かったようで、少しだけ照れくさそうにポツリと呟いた。


「――――私はいるわ。強くて、弱くて、優しくて。素敵な人よ」


「「「「「…………ええーっ!?」」」」」


 思わず出た仰天の叫び。夜半に出すべきでない声量はピッタリとハモって部屋に響き、唯一叫ばなかった玉鍵だけがビクッとなる。


 暴風でもあったかのような驚きと、その後に訪れた静寂。その中で呑気に時計の時刻を見た玉鍵は手を叩いて解散を指示した。


 あまりの爆弾発言に脳が白くなっていたシズクたちは、それぞれに布団を持たされ部屋を追い出されるまで誰も今の発言を追及することができなかった。


 翌日。当然のように全員の朝食を作ってくれていた玉鍵にシズクたちは口々に昨夜の発言の真偽を問い正したものの、『覚えてない』『恋愛には疎い』としか答えてくれず、そのうち朝食のおいしさと文化祭の準備の話に押し流されていった。

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[一言] >《若干イモくても素朴な幼馴染とかなら、それはそれで好きヨ? イベントが進むと三つ編みから白いリボン付きのショートになって、当て馬の男子学生がしゃしゃり出てくるのダ》  その男子生徒は、P…
[良い点] 中の人さん・・・ [気になる点] 聞いた人たちは 寝ぼけてたからor早く寝させるための冗談 のどちらかって思ったのかな。 とは思っても、真実な可能性として脳裏にこびりつくだろうから、底ちゃ…
[良い点] そうだったんか……たまちゃん(元祖)は低ちゃんのことを……。(T ^ T) どうにもならない想いかもしれないけれど、心の中くらいは自由でいて欲しいものです。 どうせなら、低ちゃんの意識…
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