感謝回。文化祭での(カットした)一幕?
いつも誤字脱字のご指摘を下さる皆様に感謝を込めて。
※カーテシーに関する主人公の考えはあくまで個人の偏見です。
ついに文化祭当日……名称文化祭であってるっけ? まあ名前なんていいか。とにかく生徒がショバ代も税金も払わずに金を稼げる行事の開幕だ。
うちのクラスの出し物は飲食店。オーガニックのカレーとコーヒーだけ売る喫茶店だ。
サイタマの伝手を辿って最終的に圧縮した単価は混ぜ物入りの5倍未満に抑えられた。まーそれでもそこそこのお値段になっちまったが。
家が飲食店やってる春日部経由のオーガニック野菜とライス。オレのコネで無償で使えたセントラルタワーのエレベーター輸送が無ければもっと掛かっただろう。
ちなみにこれ、食料の不正輸入に近いからねと、エレベーター利用に際して職員から報告が行った長官ねーちゃんに小言を食らっちまったい。後で整備への差し入れのついでにカレーを持って行ってご機嫌を取っておこう。
……しっかしそれにしても。
(動き辛い)
《お? それはメイド服にモーフィングしているスーツちゃんへの宣戦布告かナ? 気に入らないならここで天和だけ出る脱衣マージャンの刑ぞ。お? おぉん?》
(親・即役満って、クソゲーってレベルじゃねえぞ。いや、スーツちゃん製でもあちこちヒラヒラしてるのは変わんねえし、腰が太いベルトで固められてるから大変なんだよ)
女にとってはリボンやらフリルやらは『可愛い』というだけで価値があるんだろうがよ。男にとっては使い道の無い装飾が服のあちこちに付いてるってだけ。邪魔なだけだ。
それにスカートがロングなのはいいんだが、足回りを阻害しないように妙に膨らむから却ってスースーして落ち着かねえ。
何で読んだか忘れたが、確か漫画だったかでヒロインが長いスカートを『熱が籠る』とバッサバッサとやってたんだがなぁ。
《低ちゃんの細いウエストなら平気でしょ。そこへ行くとゆっちゃんなんて、『フンッ!』とか気合入れないとコルセットが閉まらないんヤデ? あと下乳がコルセットの上に被さるのはスゲーと思います》
(湯ヶ島のデカい胸部の話はいらん。見た目重視でコルセットみたいなデザインにするのが悪い。腹を圧迫し過ぎて倒れなきゃいいが)
完全にデブお断りの攻めたデザインだよなぁ。まあパイロットでデブってのはありえないがよ。力士君みたいな筋肉ダルマはともかく、ただの肥満体はパイロットにお呼びじゃねえ。
《個人ごとにちょっとずつ手を加えているし平気ヤロ。ゆっちゃんのも元は絶妙にゆったりしたデザインだし。まー作った後に肥えたら意味ないけどナ》
今オレらのクラスの女子は、全員が世間一般で言うメイド服ってやつを着ている。メイド喫茶ってやつさ。
別に他と差別化を図ったわけじゃない。これはスーツちゃんへの借りを返すためにオレからクラスに提案したのが、なんの因果か本採用されちまった結果だ。
あーあ。誰か反対してくれたら廃案になったんだがなぁ。
「玉鍵サン、席3空いたヨッ!」
すでに満席の教室内で指揮を執っている何・雨汐から行列を捌けと声が掛かった。
こいつ何気に一番露出の多いメイド服なんだよなぁ。エプロンの裏地が不動明王だけど。特攻服とか入れ墨みたいなデザインの。確かジャージの裏地もそうだし。何の趣味なのか?
星川ズの中だと一番背丈もあって、細部にチャイナ服を意識したメイド服が良く似合っている。
初めて見たときのスーツちゃんがまあ、うるせえことうるせえこと。そっち系のお店みたい、じゃねーよ。中坊相手に言う感想かっ。オレも思わないでは無かったけど。
「分かった」
悪いな何、変態無機物の生贄にしちまって。オレだけではこの煩悩無量大数の塊を調伏できねえんだ。
……まあオレの戦果はスーツちゃんのおかげもあるし、ひいては物資という形で都市のため都市民のためにもなっている。これも一種の功労として還元してやってくれ。
開始から席はもう満席。先頭の3名に空いた席に入るか確認を取って、入場するなら整理券を回収。その後は後列に新しく並んだ客にもクラスで作った整理券を配っていく。
50枚で足りるか? 足りるよな? 仮にこのペースが続くとすると、整理券もだがカレーも昼になる前から作り置きが消し飛んじまうぞ。
これは今からでも追加を作るか。接客バイトの経験者でリーダー役の何と、テーブルのローテーションを相談しないといかん。
「HE! HE! HE! HEY! TAMA!」
「(おう、)サンダー」
もうだいぶ遠くから見えてはいたが、やってきたのはカレーよりもあさ黒い肌とドレッドヘアがトレードマークの大男。サンダー。
サンダーは略称で、確か『サンダーバード』だったか? 大げさなリアクションを交えて、すげえ笑顔で両手をヒラヒラとさせてくる。そのゴツイ体に負けない厳つい手は、昔から力仕事をしている証というように大きい。
中身が野郎のオレとしては地味にうらやましい体格だなオイ。日頃から鍛えてる結果だろうがよ。
「サンダーうるさいっ! ごめんね玉鍵さん、暑苦しいのも一緒で」
その後ろにいたのはショートカットの女、雉森。下の名前は『ミナセ』だったはずだ。初対面のときに履歴書みたいなものまで用意してきたんで、名前を憶えないほうのオレでも印象に残っている。
切り揃えた機能的な髪形のせいか、どこかの企業で有能な秘書でもやっていそうな空気がある。実際パイロット時代はチームの交渉窓口をしていたみたいだしな。
無駄にデカいサンダーといると小さく見えるが、これで背丈が170以上ある。母親も背が大きいのかもな。
「やあ」
最後に軽く手を上げて無難な挨拶をしてきたのは、オレの一個上の先輩。えーと、えーと、ええええと……月、月なんとか。まあいい、顔は知ってるし誤魔化そう。
「兄妹で来たの(か)。そっちのクラスでは何をして(んだ)?」
一見すると分からないが、これでも3人は実の兄妹だ。まったく似てないのは異母兄弟って理由が大きいだろう。
「祭りを模した露店をやってるよ。よ、よかったら休憩の時にでも来てくれ」
全員オレの知り合いで、サンダーと雉森は過去に『ガンドール』という50メートル級の合体ロボットに乗ってチームとして戦った間柄になる。最後のやつはチームじゃねえが、共闘したって意味では同じだ。
まあガンドールのほうも欠員が出たことによる臨時の助っ人だったし、オレは半ば傭兵みたいな立ち位置だったがな。
「エイジは誘い方が下手だな。もっとSTRAIGHTに『休憩中、オレと回らないか?』くらい言うべきだぜ?」
「そぉーっ!? そそそそっ、そんなつもりで言ったわけじゃないって! やめてくれよサンダー!」
(ああ、上は忘れたが確かにエイジって名前だったな。そっちで呼ぶか)
こいつはブレイガーで戦った時にうちのガキどもと一緒に拾って帰ったやつだ。苗字から初めは星天とかいうやつの親類かと身構えたが、なんと雉森たちの異母兄弟だったから驚いた。
当人たちも最近まで血縁と知らなかったようで、双方の知り合いであるオレがコンタクトを任されたことがある。
こうして連れ立って飯食いに来てることは、あれからうまくいったようだな。
《月影! こやつは月影エイジ! 低ちゃん、低ちゃんは簡単に男を名前呼びしたらアカン! スーツちゃんはそんなみだらな真似は許しまへんで!》
(なんでやねん)
《もちろん女の子はオッケィ。むしろ愛称で呼んでしっぽりとどうぞ》
(なんでやねん)
あれからサンダーと雉森はパイロットを引退。月影とはそもそも接点らしいものが無かった。
それでも3人とも一緒に戦った事は間違いねえし、特にサンダーには指輪の事で世話になった。
「(っと、接客中だった。)改めて、いらっしゃいませ」
世話になってるって事もあるが、文化祭の出し物程度とはいえ客商売の最中だ。愛想のひとつも出さねえとな。
「い、いらっしゃいましたっ」
「エイジ君……」
「BROTHER……初々しいな。まあ気持ちは分かるぜ」
「メイド姿の玉鍵さん、可愛いもんねぇ」
「~~~~っ、2人は黙っててくれない!?」
《うむ。営業スマイルは満点をあげYO》
(そらどーも)
オレだって接客となれば余所行きの挨拶くらいはするぜ? 金も取るしな。
金銭のやり取りが発生したら学生だろうがお遊びレベルだろうがプロでなきゃいけねえ。そこは間違っちゃいけねえよな。
《たーだーし! 低ちゃんさま、カーテシーを忘れてますワヨ?》
(オホホホ、カーテシー? そのような悪女は知りませんでごさいますわよスーツちゃんさま)
《最後は盲目になっちゃったルースのお嬢様の話ではないデス》
ケッ、あんな道端や廊下に捨ててある人の糞尿をスカートにつけないための臭っせえ作法なんて誰がやるか。ここは清潔大国ジパングなんだよ。
これはオレの偏見かもだが、いかにもお貴族様の礼儀作法みたいにありがたがってるあのカーテシーって、当時の文化的にあれの始まりは不衛生すぎる西洋の環境で生まれた『スカートの端に汚れをつけないため』の単なる仕草が発祥なんじゃねえの?
だって人の通る道でもお構いなしに糞便を撒いて捨ててた国の作法だろ、これ。
後はスカートの中に暗殺者を隠してませんって証明だったんじゃねえかな。当時の貴族女のスカートって、人が隠れられそうなくらいやたらデカいし。
作法の始まりなんてのは必要に迫られてか、宗教的な儀式か。あるいは権威付けのためだけに、わけわからん作法をでっち上げたかのどれかさ。
ジャポネーゼならジャポネーゼらしく、客にはちょっとオジギでもしてオモテナシしときゃいいんだって。
《低ちゃーん? ここは普通のウェイトレスさんが接客する喫茶店じゃなくて、若くて可愛いメイドさんがウリでSHOW!》
(メイドは衣装を着てるってだけで売ってねえよ。売ってるのはカレーとコーヒーだ)
《コンセプトはメイド推しジャン。それなのに喉が酒焼けしたおばちゃんのママさん兼ウェイトレスが出てきたら詐欺ヤロ!? メイドならちゃんとメイドムーブすべき》
(食い付くなぁ……そういう店のほうが味自体は意外と良いもんだぜ?)
《看板に偽りあり! お店とは料理の味だけじゃなくて、雰囲気にもお金を払うもんだって言ってたのは低ちゃんデス》
ぐ、自分は食事なんかしないクセに変な事を覚えてやがる。
……チィィィィィッ~~~ッッッ、クショウッ!
一呼吸おいて覚悟を決め、過去に見たアニメやらドラマやらの映像で見よう見まねのカーテシーとやらをやってみる。
もちろん客商売であるからにはここでもスマイルだ。ぐ、が、連続の酷使で表情筋がつりそうだわクソが!
「い、いらっしゃいませっ」
《Foooooooo!! 赤面メイド! イイネ! イイネ! ヒィィィィーハァァァーッッッ!!》
こぉぉぉぉんのド腐れ衣装がっ。接客の心得なんてもう知るか! 二度とやらねえ!
そこで不意にあちこちからドシャっという音がした。
見るとサンダーや月影が鼻を押さえて両膝をついていた。いや、こいつらだけじゃなく、あちこちで膝から崩れ落ちた客たちがいる。
おいおい、立ちくらみか? まだ並んでそんなに経ってないのに……ああ、前日に寝付けなくて寝不足とかか。日頃から溜まった眠気って、気を抜くと急にくるよな。並んでて暇になったから一気に眠くなったんだろう。
「……テイクアウトで」
「ああ、すまない雉森。テイクアウトはやって――――」
「このメイドさんテイクアウトでっ!」
突如として顔をわっしと掴まれ、雉森にデカいぬいぐるみみたいに抱えられちまう。
(は? ちょ、は?)
《しゃあ! 来たぞオラァ! お持ち帰り展開ィ!!》
「待て待て待て待てっ! 雉森っ!? まっ、力強いなっ!?」
ず、ズルズルと引き摺られる!? パワーは間違いなくオレのほうがあるはずだが、いかんせん体格が小さいから長身の雉森に腰から持ち上げられちまうと踏ん張れねえ!
「こんなのいかんでしょ! こんなエロかわいいの、私っ、私のうちで管理しないと!」
「エロ、っておまえは何を言ってるんだ!?」
「玉鍵さぁーん? どうし――――ナ゛ニ゛シ゛テ゛ンダゴラアッ!」
教室からひょっこり顔を出したメイド姿の星川は、こちらを見るなり一瞬目が点になり、それから声になってない奇声を出して突進してきた。
なんかすげぇ怖いぞ星川。しかし様子のおかしい雉森から強引に引っぺがしてくれたのはありがたい。
さらに奪い返そうと伸びてきた雉森の手とガップリ組んで、レスリングの力比べみたいな体勢になる。なんだこれ。
《むほほほほほっ♪》
(とんでもなく汚い声で笑うな。どういう状況だよこれ)
あ゛ー、とりあえず他の客に迷惑だから右手で雉森、左手で星川の鼻を摘まんで引き離す。
「「い゛ーっ!? 痛い痛い痛いっ!」」
「雉森。このまま回れ右するか、マナーを守るかふたつにひとつだ」
鼻を押さえてしゃがんでいる雉森に最後通告を行う。これでまだやるなら世話になってようが出禁だ、出禁。
「すいませんでしたっ」
よし。少しは頭が冷えたか。お祭りみたいなもんだからって、あんま悪乗りすんなよな。中身はともかく外見はそっちが年上なんだからよ。高校生が中坊に叱られてちゃ世話ねえぞ。
「助かった、星川。痛かったか?」
片方だけだと止まら無そうだったからついやっちまったが、おまえは止めてくれた側だもんな。喧嘩両成敗みたいなことをして悪かった。
確かカチューシャとか言う、メイドの頭に乗せる何の用途の解らん装飾がズレていたので直してやる。
「えへっ、えへへぇー。平気っ」
(うわ、なんか笑顔が若干キモい。ホントに大丈夫かこいつ)
《例えるなら飼い主を見て嬉ション5秒前の犬》
(飲食店の前でとんでもない例えをすんな)
「サンダー、月影。おまえらもそろそろ立て。後ろがつかえてる」
変な騒ぎを起こした店は敬遠されるのが世の常。それが店先となったら猶の事だ。オレの知り合いのせいで売り上げが下がっちまったら、関係者のオレがクラスの連中に叩かれるだろうが。
ライトアップされたフィナーレの催しもそろそろ大詰め。あれだけグッタリしていたクラスのガキ共も、場の雰囲気に飲まれて祭りの残滓を楽しんでいるようだ。
オレはひたすらに眠いがね。憧れていた学校行事も、いざやるとなるとこんなもんか。
まあこういうのは思い出になる頃に、『あの頃は楽しかった』と自覚するもんなんだろうな。
(しっかしダンスってのは難しいなぁ)
星川たちにせがまれて参加したのはいいんだが、体育でチョロっとやっただけのもんを、こんな動き辛いメイド服を着てやれってのは中々にハードル高いぞ。
《スーツちゃんがトレースしなかったら、低ちゃんだけBON・DANCEだったナ》
(それは素直にありがとよ。実際オレだけでやったらあいつらの足を踏みまくってるところだ)
《さすがに可哀想だからネ。憧れの人との思い出がデスゴースト・インザ・ボン・ダンスじゃNE》
(オレのダンスセンスは最低評価のホラー映画かよ――――って、あそこにいるのは向井か? 端っこにいるのが好きなやつだなぁ)
《卒業写真でも偶然見切れるタイプだナ。もしくは風邪とかで休んで別枠で載せる子》
(あれってほぼ公開処刑だよな。悪目立ち過ぎる)
まだダンスをやってるライトアップされたステージが見えるか見えないかのところで、くたびれた爺さんみたいに腰かけている陰キャを見つけたんで近寄る。
調理の途中で捌けたこともあって、向井を下ごしらえでこき使ったからな。頑張ってくれた年下を少し労ってやるか。
「玉鍵、お疲れ。ダンスもうまいな」
近づいてきたオレを見た向井は、安い世辞を交えててこっちに応えた。
皮肉かコノヤロー。さてはしばらく調理を押し付けたのを根に持ってやがるな? アクシデントなんだからしょうがねえだろ。文句はクレーマーに言え、クレーマーに。
「世辞はいい。下手なのは自覚してる。おまえもどうだ?」
ダンスってのは運動神経とは違うもんを使うみたいでな。鍛えてるお前でも大変だと思うぜ? 皮肉が言えるなら見せてもらおうじゃねえか。
「い、いや。やめておく」
(チッ、陰キャめ)
……まあ、初めの頃よりマシになったとはいえ、一番の知り合いの夏堀や初宮が学校からいなくなっちまったからなぁ。また新しい友人関係を作るのも向井みたいなやつには大変か。
「ん? 向井、やっぱり両方痛めたか?」
さっきから気になってたが、テーピングしてない左手首も庇ってんな。
最初に聞いたときは右だけって話で、左は大したことないと言ってた。けどどっちも腱鞘炎になってんじゃねえの?
オレも戦闘でスーツちゃんに左手を使って超っ速でコンソール叩いてもらったりすると、よく指や手首を痛めるから仕草で分かるぞ。
「……い、いや、本当に大したことはない。気にしないでくれ」
「放っておくのは治るのが遅れるだけだ。手を出せ」
こういうお祭り騒ぎの時は保健室も満員御礼になりやすい。陰キャの向井は治療したくても人の多くなった場所に近づきたくなかったんだろう。困ったガキだぜ。
(これでもまとな薬なんか無え底辺でやって来たんだ。破いた布を使って手首のテーピングくらいは出来る)
《ファッ!?》
「た、玉鍵? 何もハンカチを破くなんて……」
「返さなくていい(ぞ)。使い終わったら捨ててくれ」
本当はこっちもテープか包帯で固めてやるべきなんだがな。まあ傷口にあてるわけじゃなし、使ったハンカチでもいいだろう。
「帰ったらそっちもシップしろよ」
クリティカった体のおかげで人並み以上の回復力があるオレと違って、おまえは普通の人間なんだからな。
背中越しに手を振って向井の下を離れる。怪我してんじゃしょうがねえ、ダンスは勘弁してやらぁ。
後ろからぎこちない礼を言った声がして、ちょうどそれをかき消すようにプログラムの最後を飾る曲が流れ出す。
曲名はわっかんねえ。流行りの何かだろう。
《低ちゃんの変態、ドスケベ、魔性の女!》
(なんのこっちゃ。急にどうしたよ)
《ムッツリ君になんてことをしてくれたのでしょう! 女の子の大事な布で男を包むなんテ!》
(大事なって、ただのハンカチだろ。リスタート間もなくにあり合わせで買ったやつだから、そろそろくたびれてきてたしな)
《女の子用のハンカチは布がキメ細やかで繊細なんだYO! 下着に使われてる生地と変わらないんだYO! つまり実質パンツと同義だZE!》
(ねーよ)
あーあ、オレの初めての文化祭が変態無機物のアホ談義でシメかよ。
……まあそんな相棒と今日までやってきたんだ。ゆるゆるの締まらない終わりこそオレたちらしいかもな。
(リスタートさせてくれてありがとうよ、スーツちゃん)
最初から性別変わったりとハプニング満載だが、間違いなく過去1で楽しいぜ。過去のオレは、過去の、かこ、の―――――
《そんな突然良い雰囲気作ったヒロイン顔で誤魔化そうとしてもダメでごわす》
「――――気持ちよく締めさせろバカヤロウ」
ダメだ、マジでもう眠い。眠れないのに睡魔は感じるって最低じゃね?




