水面下の不穏な影? 流通に隠れる悪意
たくさんの誤字脱字のご指摘をありがとうございますっ。雪崩のようや……
このまま続けて感謝回を上げますので、よろしければご賞味ください。
<放送中>
第二基地には建造棟と呼ばれるロボットの組み立て施設が存在する。
「だから! これじゃ積み過ぎなんじゃ! 動きが鈍くなるじゃろが!」
『建造』と銘打たれているのに『組み立て』なのは、基本的に一般層で運用している機体はエリート層で開発されたロボットであり、それを部品単位でエレベーターを使って一般層へと下ろして組み立てる形を取っているためである。
「改良で四肢の出力も上がっている。増加スラスターのパワーも加えればむしろスピードは上がっているよ」
ただ設計に関しては一般層の技術者でも行われており、それを地下都市直上のエリート層にある地上基地に発注する形でロボットが新造されることもあった。
「そのぶん細かい動きが出来なくなっとるじゃろうがっ。ちょっと走るだけで衝撃緩和装置の限界を越えちまう。重量が増え過ぎとるせいじゃ」
一般に配備されているロボットの多くがエリートのお下がりや技術的に不安の残る試験機の押し付けという、マイナスのイメージがついてしまうだけに、新造のロボットは一般基地に所属する者たちにとってひとつの憧れと言っていいだろう。
「ピョコピョコ動いていたらそれこそ時間が掛かるだろう? 都市の防衛こそ細かい被弾は考えず、ガッと行って強力な武装でバッと倒す。そのほうが被害は少ないんじゃないかねぇ」
また例外として、ロボットのオプション装備に関しては一般でも開発は行われており、エリート層配備時代には見られなかった装備を所有する機体が現れることもあった。
「Sワールドや地表都市で戦うのとは訳が違うんじゃ。下手に強い武装なんぞ付けたら敵の攻撃の前に自分の武器で都市をブッ壊しちまうだろうが。バランスを考えろ」
第二基地でもっとも恐れられる整備長『獅堂フロスト』は、このところ整備棟から足を延ばして建造棟によく赴いている。
その理由はかねてより着手していた10メートル級スーパーロボット『クンフーマスター』を雛型とした新造ロボット、『鋼鉄神・グレートクンフー』の開発のためである。
「しかしねぇ。パイロットの要望を完全に反映すると、どうしてもグレートクンフーは前身のクンフーマスターと真逆に近いものになるじゃないか。強化案のテスト時点でこの結論に達してるはずだよ?」
強面の頑固爺に対して気後れすることなく反論する少女の名は三島ミコト。
頭脳面において世界的に特別な価値を持つ人材と認められ、数多くの特権を持つ才女である。
その人材的価値は第二都市の所属が大日本からサイタマに移っても変わらず、引き続き数多くの研究に携わっている。
「変な話だが、Sワールドにおける早期の拠点防衛用として開発されたはずのクンフーマスターは、これで地下都市防衛用としてもほぼ完成形なんだ。弄りようが無いんだよ。さすが整備長が関わってるだけはあるねぇ」
「下手クソな世辞はいい……つまり、『地下都市防衛用』の制限があるかぎり、どんな案もマイナーチェンジの域を出られないって言いたいんじゃろ?」
どこか悔しそうに睨みつけてくる獅堂に苦笑し、ミコトはいつも学生服の上から着ている白衣のポケットからキャンディバーを取り出すと包装を破く。
「都市防衛のほうはこのままクンフー自体の強化案で行こうじゃないか。そして新造機こそパイロットの要望に応えた、一切の制限の無い機体にしたほうがいい」
濁った眼の少女が口に咥えた赤いキャンディからは、強く嘘くさいベリーの香りが漂ってくる。
「地下都市という狭くてデリケートなフィールドで戦闘すれば、どうしたって致命的な被害が出る。前回の戦いは翼の君の技量だからこそ最小限の被害で食い止められただけ。本当なら、敵が入ってきた時点で都市は終わりだったはずだ――――破綻してるんだよ、元々。地下都市を巨大兵器から巨大兵器で守ろうと言う思想自体が」
地下という空間で10メートル以上もの兵器が暴れ周り、爆発でもしようものならそれだけで滅びの火。
巨体を動かす強力な炉心や装備している炸薬による被害は、広範囲のインフラを破壊して都市を事実上壊滅させるだろう。
むしろよくあの程度の被害で撃退できたものだと、三島は驚嘆さえしていた。
――――実のところ前回のクンフーマスターとモスキート・スーサイダーの戦闘における都市の被害は、ほぼゼロに等しい。
最終的に記録されている716名の死傷者や倒壊した数多くの建物、破壊された施設の被害は、すべてSワールドから逃げ帰ってきたジャスティーンのパイロット『火山宗太』と、彼の父親である『火山宗次郎』の行動によるもの。これらの被害に玉鍵は関わっていない。
だが、いかに火山宗太が愚かなパイロットであったとしても、ミコトは都市が被った被害が余計に拡大したとは思わない。
都市の被害は間違いなく彼ら親子のせいだが、そもそも都市を舞台にスーパーロボットが戦えば、そのくらいの被害は当たり前だろうと考えたからである。
のちにワールドエースとして不動の評価を得る『玉鍵たま』という超人が対処したからこそ、どうにか被害が抑えられただけ。普通ならば人にも都市にも致命的な被害が出て当然なのだ。
「むぅ……」
設計に関わった1人としてクンフーマスターに思い入れがある獅堂も、その点に冷静な目を向けられると勢いを落とすしかない。
本来クンフーマスターはSワールド内に人類活動の足がかりとなる施設を築く際、その現場をいち早く守るために設計された機体。
基本的に都市内ではなく、その区画近郊を防衛ラインとして守る前提のロボット。
……そもそも都市防衛用というより、その前段階であるSワールド入植者の活動拠点を守る機体と言った方が正しいかもしれない。
内蔵された衝撃緩和の機能とて敵が拠点内に入り込んでしまった際に、止む無く生活圏内で戦う事も想定したいわば非常手段用に近かった。
機体のサイズが10メートルと小さいのにも理由がある。それは築き始めたばかりで貧弱であろう設備でも、ロボットの整備や運用を現地で可能とするためであった。
「彼女の翼となる機体はSワールドという大空でこそ舞うべきもの。だがクンフーの羽はあの世界では小さいんだ。それがクンフーの求められた役割であり、別に機体が悪いわけじゃないがねぇ」
最終的にどうあってもSワールドに橋頭保を築くことができないという結論に達した人類は、計画を凍結してクンフーのような現地防衛機の開発を取りやめることになる。
同じく人類側に敵が攻め込んでくる気配が無い事から、こちら側の防衛もおざなりとなり、やがて基地からも武装が撤去され、都市防衛用の機体開発計画も立ち消えとなっていた。
そんな中すでに開発されていたクンフーは、開発した派閥の意地から地下都市という制限だらけのフィールドでも防衛に使えると強弁され、未練たらしく残されていたに過ぎない。
史上初めて敵がこちら側に現れたことで、防衛機の必要性が見直されてきてはいる。しかし地下という制限がある限り、機体に持たせることができる能力は限られるのが実情だった。
そう、獅堂自身の反論がすべてを物語っている。強化すればするほど、自分の装備で守るべき都市を壊してしまうと。
「……こりゃ開発がまた遅れそうじゃ」
「ボクも協力するから以前よりは早くなるさ。まずはほぼ完成した強化案のほうをやっつけよう。もともと翼の君が乗っている機体だし、後のためのちょうどいいデータが取れそうだ」
クンフーに思い入れのないミコトからすれば、獅堂が設計した強化案は新造機開発のための叩き台のひとつにすぎない。
「できればエンジンから見直したいねぇ。クンフーはコンパクトに作る前提のせいで炉心設計自体の問題があって、馬力はもう頭打ちに近い」
無意識に口内でガキリとキャンディを噛み砕き、ミコトはそれまで感じた事の無い情熱に突き動かされるように、まったく新しいスーパーロボットの構想に入る。
国からの仕事として請け負っているつまらない作業の消化とは違う。自らの好奇心という、歪んだ天才を本気で動かすたったひとつの燃料に火が入っていた。
「そうだねぇ。いっそ違う形式の、もっともっと強力な炉心を探そうか。パワーに耐えうる頑健なフレームもいるね。ああそうだ、操縦方式も堅実な物がいい。彼女は自分の手足を介さない、思念操作みたいなタイプは嫌いそうだ」
物のパワーと耐久性は単純にサイズアップするだけで賄えるものではない。また使われる原動力によって向いているサイズというものもある。
仮にクンフーの動力部を倍サイズにして、同じく倍の大きさの機体に取り付けても、倍の出力とはいかないのが機械というものだ。
当然として耐久性もサイズアップしたから倍になるわけもない。パワーアップするならフレームの材質やフォルムそのものを見直す必要があるだろう。
操縦方式も問題だった。思考トレース式は細かい操縦が楽になるがデリケートな面があり、センサーの損傷で途端に誤作動や機能不全を起こす可能性があった。
――――かつて獅堂整備長が聞いた搭乗者の希望は、『1発の火力があり、頑丈であること』だったという。
細かい事はできなくていい。それはパイロット側でなんとかするという、自身の腕に絶対のプライドを持って放たれた要望。
ミコトはそれを、天才が天才に求める挑戦のように感じていた。
「整備長、どうせこれは専用機なんだ。いっそ限界までオンリーワンの、豪華でピーキーな機体に仕上げようじゃないか」
元より予定する搭乗者はただひとり。世界屈指のエースなのだから。
<放送中>
サイタマの中等部2年、春日部つみきの叔父にはゴウダという人物がいる。
表の顔は中古機械やジャンク、スクラップを扱う業者の社長であり、裏では非合法な物品の売り買いもしていたアウトロー。
取り扱っていた違法品は主に兵器関係で、人身売買や麻薬などに関わるような品だけは扱っていないのが彼なりのプライドである。
そんな彼が得意としている商品のひとつに軍関係がある。
ATに代表される民間に払い下げられた機材にデチューンやレストアを施し、ホビータイプに改造したATを販売するのも彼の得意分野であった。
そんな彼の姪であり、AT部というモータースポーツを行う部活を立ち上げたつみきは、部活に必要な機材をもっぱら彼から買い付けていた。
「H型のATの部品の流れがおかしい?」
消耗品の買い付けに叔父の店を訪れていたつみきは、ドラムのような腹をデスクに押し込めて伝票確認をしているゴウダから、最近の都市の流通に奇妙な違和感があることを聞かされた。
「そうだ。サイタマじゃホビータイプは軍も民間もL型が主流で、H型は好事家くらいしか使ってねえ。なのに腕や足だけじゃなく胴体フレームまで複数の発注がある。注文主はバラけてるが、合わせるともう3、4機は完成品が組める数だ」
部品の発注など端末から注文すればいい時代。それでもつみきが実店舗にわざわざやってくるのは、現物のパーツを自分の目で確認する事や、他におまけをつけろとねだって、叔父から細かい消耗品を頂いていく魂胆があるからだ。
まだ立ちあげて間もなく、大きな賞金の出る大会に出ていないAT部の部費はいつだって火の車である。抑えられる費用は機械油ひと塗りだって抑えたい。
「こういう変な注文が多い時ってのは、裏でよろしくない連中が何かやってるときだ。つみきよぉ、おまえ心当たりか無いか」
窮屈そうな腹をデスクに押し込んで、行儀悪く机に座る姪の方に内緒話のように顔を寄せるゴウダ。
「うーん、AT部はスコープダックしか使ってないしなー」
ATの大会にはライトとヘビィの両方の大会がある。しかしかつてサイタマ学園にあったAT部活バトルファイト部は援助を受けていた企業の関係から機種はL型のスコープダックばかりであり、ヘビィ級の大会には手を出していなかった。
同じく廃部となったバトルファイト部とは別に新しく立ち上げたAT部も、部員は使い慣れていてH型より多少は値段が安いL型一択であったため、部にH型はパーツひとつ転がってはいない。
しかし、つみきは叔父の使った最近という言葉に引っかかりを感じ、自身の記憶の海を泳ぐ。
「最近……そういえば最近、昔銀河の関係者にくっ付いていた人たちが学園でまた固まってるんだよね。復讐でリンチにされないためなんだろうけど」
かつて都市はもちろん学園でも暴虐を振るっていた銀河派閥の生徒たち。彼らは後ろ盾である銀河一族が崩壊した事によって、それまで虐げていた者たちから報復を受けるという事件が多発していた。
初めこそやられるがままだった彼らだが、かつて強者だったからこそ弱者の立ち回りもよく理解していたと言える。
派閥だった教師に助けを求めたり、とにかく同じ境遇の者で固まり、数を頼みに自衛を始めたのである。こうなると必然的に報復事件は少なくなっていった。
「おめぇも気を付けろよ。徒党を組んでいたのは事実なんだからよ。事情なんざどうでもいい、憂さ晴らしがしたいだけってやつもいる」
「あはは。そうするよ。でもあーしはもうフロイト派だから」
「それはそれで気を付けんだよ! 追い詰められてる側ほど裏切り者が憎いもんだ。おめえからしたら初めから銀河は仲間じゃなくても、周りからどう見られてたかなんだからな」
つみきはただATに乗りたくて、銀河に属する者たちが牛耳っていたバトルファイト部に所属していた。
持ち前の要領の良さでうまく部活内での立ち位置を確保していた姿は、周囲からすれば確かに銀河派閥のように映ったかもしれない。
実際、つみきの先輩である銀河一族の織姫や彦星からして、そう思っていたフシがある。なら他の者たちは確認するまでもないだろう。
「俺はしばらくH型パーツの流れを追ってみる。なんか嫌な予感がするぜ。おめえも何か分かったらフロイトの姉ちゃんとこに駆け込んどけ」
「はーい。それでおっちゃん、この基盤もうちょっと負かんない? あと錆落としのグリス、使いかけのでいいから3本サービスしてよ」
「買わねえなら帰れっ!」
「えー? でもさぁ、たまさんからボったくったんだから懐あったかいっしょ? あんなスクラップの戦車を買値の何倍で売ったわけ?」
「ありゃこっちの危険手当込だ。お互い納得の交渉なんだからガキが口を出すんじゃねえよ……チッ、2本だけな。適当につめて持ってけ」
それまでの立ち回りにもよるが、アウトローが堅気に戻るにもだいたいは金がいる。
1度の取引としては結構な額を稼いだゴウダであったが、その後のラングが派遣したサイタマの治安部隊に突かれた腹は痛いなんてものはなかった。
方々への禊として貯め込んでいた金をかなり吐き出したゴウダは、むしろトータルではマイナスとなっている。
ただ代わりにラング代行の天野和美を通じて都市関連の健全な取引ルートの提示があり、長い目で見ればプラスと言っていいだろう。
このルートは銀河が独占していた利権を分配したうちの一部で、玉鍵に協力した会社ということでラングから一定の信用を得たため提示された話であった。
「やれやれだ。ただでさえあの戦車の修理を無償で受けさせられてんだぞ。洗浄もパーツ交換も自腹だ。参っちまうぜ、稼いだ分がそっくり持ってかれちまった」
「たまさん相手にアコギなことするからだよー。でもその戦車ってドコ? 見当たんないけど」
叔父の店は昔からつみきにとって馴染みのテーマパークのようなもの。
完動品の機械の展示場所も、在庫置き場も、細かいパーツの置き場所も、投げ込んでいる希少パーツの在りかまで隅々まで知っている。
しかし怪盗事件で街を爆走したあの戦車の姿はどこにもない。
「ここにゃねえよ。あれには武装も付いてるからな。うちは堅気の店で兵器の類は置いてねえ」
白々しい事を言うゴウダに胡乱な目を向けるも、つみきは親戚に堅気の顔を通している叔父をそれ以上は追求しなかった。
「そういえばどうしてリペアしてるの?」
使いかけのグリスを1本に集めている途中、つみきは暇に任せて漠然とした疑問を口にした。
「知らねえよ。都市からの依頼でやってるだけだ。ま、軍の記録に無い軍の兵器って、ややこしい代物でもいるんじゃねえのか? ああっと、言っとくが戦車の話は他言すんなよ」
「へーい」
堅気になったゴウダにとって、直した戦車がどう使われようが関係の無い話。
せいぜい自衛のための情報が集まればそれでいいと、今日のところは手持ちのH型ATパーツの流れる先を追う算段を付けるのだった。
〔玉鍵様、まもなく自宅に到着いたします〕
「おう、サンキュ。55」
差し入れのカレーの量的にバイクじゃ運ぶのがキツイから、CARSを利用させてもらった。バイクの軽快さも嫌いじゃないが、やっぱ車には積載量って強みがあるよな。
それにいい加減疲れた。こんなコンディションで大型バイクなんて転がしてらんねえ。
オレは精神異常でか何かで自分で寝ようと思わない限り、たとえ薬を使われようと失神したり寝たりができない。だから居眠り運転にはならないとはいえ、眠い物は眠いんだわ。
それもあって今日のところは送迎サービスを使う事にした。必然的に明日の朝もCARSで登校だ。今夜は学校の駐車場で良い子にしてろよクンフー。
〔お疲れでごさいますね。到着まで仮眠されてもよろしかったのでは?〕
「一度寝るとガッツリ寝ちまうほうでな。起きれなくはないが、それはそれで辛いんだ。CARSは乗り心地がいいし、深く眠っちまうだろうからなおさらだ」
〔ありがとうございます。修理に際し、シートとサスペンションの見直しを図って正解でございました〕
CARSの抱える送迎車両の1台、55は前にロケット弾を受けて修理に出されていた時期がある。
車を統括する管理AIがすべての車両と同期しているので、代車に乗っても契約している客と話は通じるんだが、55とは一緒に戦った仲だ。他より思い入れがある。
「ああ、言い忘れてたがアスカたちを守ってくれてありがとうよ。14によろしく言っといてくれ」
〔承りました――――玉鍵様、14から質問があるのですがよろしいでしょうか?〕
「あん? いいけど」
〔怪盗との交渉の際、失礼ながら必要にかられて玉鍵さまの口調を真似たのですが、アスカ様から似ていないとお叱りを受けてしまいました。もしやおひとりの時の口調とは変えていらっしゃるのですか?〕
「あ、あー。そうだな。そんなところ」
正確にはスーツちゃんに規制されてるんだがな。
(そういやスーツちゃん、CARSにはオレの素でいいのかよ?)
《いいよん。主人公の秘密の一端を知る機械のサブキャラとか燃えるジャン?》
(訳が分からん。まあストレスが無くていいけどさ)
〔お隠しになられていたのであれば大変失礼いたしました。この件は秘匿いたしますので、どうか今後ともCARSをお見捨てなきよう〕
「いい。14にも55にも借りがある。いてくれて助かってるよ。ありがとう」
金の付き合いでも付き合いだ。払った金の分の義理を通してくれるだけありがてえ。人間は支払い通りにはいかないことも多いからな。そこいくとCARSは遥かに良心的だ。
〔――――私共も玉鍵様にお仕え出来て嬉しく思います。時に、そんな玉鍵さまに関係する話なのですが、過去に同乗した大石様とはまだご友人関係でございますでしょうか?〕
(大石? 大石……大……ああ)
「力士く、んんんんっ? じゃなくって。ええとだい、だい」
《大五郎》
「そう、大五郎っ。あいつがどうした? あいつともうひとりの女は友達って括りだ」
《女って、記憶が酷いってもんじゃないナ》
(しょうがねえだろ、そこまでしゃべってねえし。力士くんは力士くんで完全でインプットしちまってるしよ。女のほうはえーと……サッキーだっけ?)
《武田ではないデス。先町テルミちゃん。予知能力があって、初めてのパンチラでピンクのドット柄を披露した女の子ダヨ》
(後ろの情報いらねえ! 医療室前で仲間にスカート捲りされたときな、はいはい)
騒ぎの元凶だったクソガキが超能力で暴風起こしたときだったっけ? アスカたちがキレまくって宥めるの苦労した記憶しかねえわ。
《見てんじゃーん。パンツしっかり見てんじゃーん》
(あんな暴風みたいな風で真上に捲れたら、見たくなくても見えちまうっての)
〔現在、大石様らはサガにいらっしゃいまして〕
「待て。サガ? なんでそんなとこに?」
サイタマ学園は連休中ってわけでもないよな? あいつらどっちも私用でサボるタイプには見えなかったぞ。
〔申し訳ありません。理由は分かりかねます。ただ、お二人の宿泊するホテルを不審な二人組が秘密裏に監視している状態です――――ご要望があればCARSの車両を向かわせますが、いかがいたしましょう?〕




