DAEMON
いつも誤字脱字のご指摘をありがとうございます。この書き物を読み返して改めて見つけてくださる方もいるようで、嬉しいやら情けないやら。
柴田オク〇ル氏の漫画で初めて読んだのは谷仮〇。当時から異様に熱量のある行動をするキャラが好きでした。ハチワン〇イバーでの土管グルグルのように、熱意か空回りしているからこそ分かる必死さが好きです。
そして今連載している仮面ラ〇ダー物も訳が分からない熱量のキャラだらけ。というか端から見たらだいぶキ〇ガイで熱すぎる(誉め言葉)
《ブラスターライン、照射カット。ターゲットBは戦闘不能と推測》
(うまいこと差し込めたか)
艦載機ってのは狭い空間に格納するために可能な限り小さくする。そのための方法のひとつは一部を折り畳む事。戦闘機なら翼を畳んだりな。
それは詰まるところ、普段は装甲の下に隠れている内部機構が露出するって意味でもある。
どれほど頑丈なロボットだろうが、構成部品のすべてに装甲みたいな強度を持たせられるわけじゃない。
狙わせて貰ったぜ、発進中の変形機構。そこなら威力の低い熱線砲でも致命傷を与えられる。
《性能表との誤差は許容範囲かナ。これなら他の武装も大丈夫そう》
(引き続き武装の性能把握を頼むぜ。なにせぶっつけ本番で使わにゃならんから迂闊に大技が使えない)
《ウィ。即席で作った参考ムービーをダイジェストで流してあげよう》
シミュレーションもせずに乗ることになったせいで、搭載されている武装が未知数過ぎるからな。
ロボットの手足を動かすのはなんとか経験とカンで行けるが、武器はロボットによって威力がピンキリが多すぎる。似たような武装のつもりで撃ったら異様に強かったり弱かったりするのもザラだ。
普段は訓練の中で把握していく工程なんだがよ、ちょいと時間が取れないからスーツちゃんに頼らせてもらったぜ。簡素とはいえ武装を使用した時の状況を映像で知れるのはありがてえや。
《同じく艦載していた潜水艦Bも推進器を損傷して航行不能》
(ありゃ、ロボットの向こう側まで貫通しちまったか。まあ手間が省けた。バラストは無事だろうが甲板の発進口にスクラップ抱えてたら潜れないだろう。もう逃げ足は奪ったと見ていいな)
お次は急速潜航しようとしてる残りの潜水艦だ。
今さらだがこいつら、耐圧殻を横に2つ並べた昔のタイフーン級みたいなタイプか?
どうやら弾道ミサイル用のサイロスペースを、まるまるロボット運用のスペースにした潜水艦のようだ。ロンドンのクセに赤熊みたいな装備してやがる。
見る限り30メートル級のロボット1機を突っ込めば、それ以上他に積めるスペースは無い。お代わりは気にしなくてよさそうだ。
《ターゲットAが接近中。クロスレンジまで18秒。発艦を終えたCも上陸開始。こっちは推測45秒。んー、もう少し早いかな?》
Cは妙に大きい頭部が右肩寄りについているという、アンシンメトリーなフォルムを持ったロボット。見かけの珍奇さのわりに足は速いらしい。
《BIGは挙動が鈍いから射撃戦と格闘戦はハッキリ分けたほうがいいゾ。射撃中に飛び込まれたら思い切り殴られるデ》
(なぁに、潜水艦相手はすぐに済む。しょせん現実の兵器だ)
スーパーロボットの装備でちょっと舐めてやりゃ、あんなもんすぐに無力化できる。落とし前つけるまで誰1人深海になんか逃がしゃしねえぞ。
「キャノン、用意」
Kのリズムはなんとなくわかった。はっきり言って瞬間的な挙動には向いてない。動きがとにかくもっさりしているのが致命的だ。
敵の動きを予想して先に行動を置いていく、さながら詰め将棋のような戦い方を基本にしているロボットなんだな。
参ったね、オレらの十八番である思考加速とはちょっと相性が悪い。相手より考える時間があると考えればまだマシだがな。
まあいい。鈍いという欠点分の利点は十二分ある。こういうパワーと装甲でゴリ押すロボットは大好きだ。
ひと山いくらでかき集めた戦力なんざ、こいつの馬力ですり潰してやるぜ。
「っと、砲弾の信管はカットだ」
音声認証で胸部装甲がスライドし、胴体の両脇近くに収められた2基の大砲が露出する……チッ、思ったより砲身が短いな。短砲身ってやつか。
《信管停止。照準、ターゲットAを積んでいた潜水艦。同じくCの潜水艦。ロックオンは無しでOK?》
自動補正は切って潜水艦の推進装置を手動で狙う。機関部を潰せば船だろうが潜水艦だろうがただの浮き輪だ。
「OK、FIRE!」
2門の大砲が咆哮を挙げて一斉に火を噴く。
射撃精度が高く貫徹力の高い長砲身とまではいかないが、そこは30メートル級の巨体に収まれていた怪物サイズのキャノン。
発射された弾頭は潜航直前の2頭の鉄のクジラの尾びれを、たった1発でブチ抜いて完全に破壊した。
爆発しないよう弾の信管は停止させたとはいえ、高速でブチ当たった質量弾の余波はそれだけで潜水艦の外殻までも大きく軋ませるに足る威力を発揮する。
さあ逃げるなり潜るなりしてみろ。そんな傷だらけになった外殻でどれだけ行けるか見てやらあ。圧壊したらそっちのせいだからな。
《ターゲットC、浜から郊外へ侵入。もう射撃で攻撃すると周囲に被害が出る可能性あり。Aは言うまでも無いネ》
「キャノン格納。格闘戦を始めるぞ!」
ペダルを強く踏み、こっちからもCへ向けて突進する。
こんな街中で悠長に相手の到着を待ってやるこたぁない。出迎えてやるよ、盛大になぁ。
《敵C、射撃兵装を展開!? うわ、撃つ気だよこいつ。うひょーキレてるなー》
(こぉぉぉのタコ! 賭け事はカジノでやれ!)
パイロットに当たらないほうに賭けたってのか馬鹿野郎! それとも単に向かってくるこっちにビビったか!? どっちにしろ撃たせるわけにはいかねえよ!
「シールド防御! ぶちかますぞ!」
BIGの名前通り重く長すぎる腕をのそりと持ち上げ、黒い巨体が己の正面と背後の街を守って突進する。
装甲と一体化したが如き両腕のシールドは、Kの巨体を隠すのに十分すぎるほどの面積だ。
(今さら止まれないが周りに振動被害はあるか?)
《周辺被害なし。震度3くらいだからまあ平気でっシャロ》
さっきから重量感を感じさせない『ミ゛ョン、ミ゛ョン』と言ってる足音が幼児のピコピコ鳴るサンダルみたいで間抜けだが、これが衝撃緩和が効いている証拠だ。
ありがてえ。いくら被害を抑えたくても立ちんぼで戦えってのは無理があるからな。機動が出来ないロボットなんざトーチカと一緒だ。
《エナジー系の攻撃予兆、命中コース!》
(構わない! 突っ込む!)
敵のロボットもスーパー系おなじみの目から出るビームがあるらしい。
次の瞬間、発光と同時に照射された2本の光は黄金色の軌跡を流してKの腕部に命中――――せずに大部分は歪曲して急速にエネルギーを失い、ホノルルの宙空に散った。
ハッタリで構えてるわけじゃねえ。光学系の熱エネルギーによる破壊さえ食い止め切るこのシールド、クソ重いだけの防御力はあるんだよぉ!!
「海の向こうに帰れ!」
パンチは打たねえ、キックもしねえ。飛び道具も何も撃ちゃしねえ。
戦闘ってのはとにかく勢いだ!
ただひと塊の鉄塊となって、BIGの巨体をぶちかます!
「ぐぅ、っ、っ、っ! ~~~~っ、痛ってえな、おい!」
想像以上に強い衝撃で体が軋み、骨の芯まで痺れるよう。
シートベルトが装備されてない程度にはパイロットへの衝撃緩和も効くようだが、最低限だなこりゃ。戦闘用ってのはガキの体には厳しくて参るぜ。
《低ちゃんからやっといて言う? Kの損傷ほぼ無し。 敵、後方へ吹っ飛び中。でもさすがに海までは飛んでかないナ》
だが痛い思いをした元は取れた。
激突の結果から予想通り、重量はこっちが明らかに上だと知れたぜ。
潜水艦に乗せて運んでくるようなロボットでは、サイズはこっちと同じでも内部機構はかなり切り詰めた設計にするしかねえもんなぁ?
砂浜に転がっていく左右非対称の奇妙なデザインの敵ロボットは、あれで見た目よりずっと軽いらしい……ブッ壊すのに関係ないが、なんで肩のほうにデカい頭が寄ってるんだ? どっかの個性派の芸術家がデザインしたんじゃねえだろうな。
まあいいや。装甲も武装も決して立派なもんじゃねえと見た。
そりゃあ戦えるだけの装備はちゃんと積んではいるんだろうが、都市でブッ放すのはさすがに躊躇したってところだろう。
かと言って機体の重心も柔軟性も、肉弾戦に向いたフォルムでも無え。ブサイクすぎる。
《敵C。打撃の反響から射撃主体の装備と推測。ミサイルとかいっぱい積んでるナ》
はっ! だったらさっきのしょぼい射撃はなんだよ。
リスクの低い武器で様子見ってか? 撃つ覚悟はあったくせに、やっぱり『Fever!!』が恐いか?
ならそれがおまえの限界だ! ビビリに2度目のBETタイムなんざやらねえよ!
「D・インパクト、準備!」
《パイルコネクト、空気圧縮を開始。右腕部パイル、スィング位置へ。安全装置解除》
敵の起き上がりが鈍い。体当たりの衝撃によるロボット側の損傷か、あるいはパイロット側の負傷で行動に支障が出ているのか。
どっちにしろ動かないならいい的だ。
(敵の操縦席はどこだ? ミサイルなんかの炸薬は?)
《操縦席はたぶん胸元から首にかけてのエリアかナ。炸薬は頭自体がほぼすべてのウェポンボックスっぽいから、ほとんどここジャネ? 狙って汚い花火にしちゃう感じ?》
(逆だ、ガキが乗ってるかもしれねえだろ。ブチ抜くならそこ以外だ)
パイルで変に動かれるとシャレにならん。この打撃武装はトリガー引いたらもう中断できないんだからな。
右腕の肘部分から腕部に隠れていた長大な白い杭が露出する。
圧縮に圧縮をかけた空気は、白いパイルの中で深海の水圧にも似た密度というエネルギーで満ちていく。
そういや吸血鬼を殺せるのは白樺の杭だっけな。こいつは十字架よりよっぽど効くだろうぜ。
植民地の生き血を吸って肥えてきた、ロンドンの吸血鬼さんよぉ。てめえら海洋帝国の復活なんざ、この世界は望んじゃいねえんだ!
ガイドレールに乗った右の操縦棹を目いっぱい後ろに引き絞る。それに連動してBIG-Kの右腕もまた、必殺のパイルを放つ体勢をとった。
「永遠に寝ていろ!」
力の限り振り出されたスティックに呼応して、巨塊のごとき黒い拳もまた敵へと叩きつけられる。
撃ち込まれた打撃はそれだけで相手の土手っ腹の装甲を破砕し、深く捩じり込まれた。さらにスィングの勢いのままに敵Cを天へと持ち上げる。
D・インパクト!
それは空気圧縮されて放たれるパイルバンカーを用いた浸透撃。
砕けた装甲から内部へと浸透し、高熱の空気と共に胴体の向こう側へと打撃圧が一瞬にして突き抜けていく。
空へと吹きあがった空気にあわせ、打ち上げられた魚のようにビクビクと揺れる敵ロボット。
やがて自らの胴体を貫通した爆風が収まると、もはやピクリとも動かなくなった。
《Cの無力化を確認。でも今度はこっちが海を背負うことになったよ? 地の利をトラレター》
(もういらねえ。タイマンに持ち込みゃこっちのもんだ)
Cを浜に投げ捨て、BIGをAに向けて振り返らせる。
すでにCの救援は無駄と悟ったのだろう。トドメを指す前から走るのをやめていたようだ。街中で立ち尽くす奴との距離はまだ離れていた。
……だが分かる。野郎はまだ戦意を失っちゃいない。装甲の向こう側からパイロットの憎悪さえ感じるようだぜ。
そして奴の気迫が最大まで高まったとき、敵Aはプロペラのついた巨大な両腕を天へと持ち上げた。
スピナーを中心に高速回転する4枚の羽は、あの巨体を浮かせるには小さすぎるように見える。
それも当然。奴の推力の本命は回転しているプロペラじゃないんだろう。肘からのジェットを思わせる大噴射こそが飛翔のためのエネルギー。
《あれ? このまま素直に飛ばしちゃうの? 狙ってくださいってくらい止まってるのに》
(後ろは街だ。隙だらけでも撃つわけにもいかない)
かと言ってここからドスドス走って行っても、Cみたいにブッ飛ばすのは問題があるしな。
30メートル級のロボットが転んだだけで街は大惨事だ。なら相手のしたいことさせてやって、こっちの浜辺で迎え撃つしかあるめえ。
(まあボケッと突っ立ってるのも間抜けだ、挑発くらいはしてえな。動作プログラムにいい感じのはあるかい?)
《カモン、って感じのアクションはあるデ》
突き出したBIGの右手が手の平を上に、指をクイクイと畳む広げるを繰り返す。そういやATでも決闘でやったなこれ。
人型ロボットは人間的なポーズができるのがひとつの利点だ。一番わかりやすい挑発ポーズがプリセットで入ってても別におかしくはないか。
なによりこいつは他国の侵略に立ち向かうためのロボット。無人機が相手のSワールド用には必要ない、人間相手の機能がついているのはむしろ当然か。
《敵は本格的に上昇開始。おー、垂直上昇できるくらいには馬力があるんだネ》
(そりゃ飛ぶだろ。あれで飛ばなかったら何してんだよって感じじゃん)
《プロペラカッター! とかは武器としてありそうじゃネ?》
(ああ、うん。スーパー系にはよくあるよな。ああいうのはちょっとでも敵の装甲に噛んだら自分が吹っ飛ばされる気がするが)
ドリルにせよカッターにせよ、回転系は武器の持ち手が踏ん張る事が出来ないと自分が回転することになるんだぞアレ。特に相手より重量負けしてるとよ。
そんじゃ高度も上がったしボチボチいくか。この角度なら外しても高層ビルにだって当たらんだろ。
「ブラスターライン!」
重力のある世界で垂直上昇はもっとも動きが鈍くなる。出だしは見逃してやったが黙って自由に飛ばしてやるつもりはないぞ。撃ち落さない程度に嫌がらせくらいはしてやらぁ。
照射されたビームは狙い通り、敵ロボットの顔面部分にモロに当たった。いくら射撃が下手クソなオレでも、弾速が速くて相手が鈍いなら当てられるぜ。
しかし直撃を取ったはずだが敵に明確な損傷は無いようだ。弾かれて飛散していくブラスターラインの残滓によって、こいつの装甲には多少なりとエナジー兵器への耐性があることが分かる。
BやCよりも高級なロボットか? 可変して空を飛べるのは無可変の陸戦オンリーよか総じて高いもんだがよ。
《ブラスターラインはこの子の武装でもかなり弱い部類だヨ。もっと威力のあるクロムブラスターにしたら?》
BIG-Kの両目から照射する『ブラスターライン』は、口径が小さいこともあって集束は早いが威力は低い。
対して頭部のクリスタル集束器を介して放つ『クロムブラスター』はチャージこそ必要だが、BIGの膨大なエネルギーを転換した強力な熱線を放つことができる。
(ダメだ。記載された性能表通りならクロムブラスターは威力がありすぎる。熱線の余波で周りまで焼けちまうぞ)
射程が短いのが普通の熱線系の中では例外的に、クロムブラスターは射程が長い。
ただその代わりに無駄も多い仕様らしく、周囲にまで放射された熱の影響が出るようだ。強引に出力でブッ放していくタイプなんだろうな。そのぶん熱のお漏らしが多いってわけだ。
《キャノンカーニバル、ミサイルカーニバルは?》
(どっちもダメだ。短砲身のキャノンは飛んでる相手にゃさすがに使いにくい。ミサイルは外したら街に落ちかねん。そもそも街の上空にいるかぎりは撃ち落とすわけにはいかねえんだよ。高威力は厳禁だ)
適当に当ててプレッシャーをかけていくには、ブラスターラインくらいがちょうどいい。さして効かなくても精神的な負担は激増するはずだ。
戦う人間は攻撃を受けたら反撃したくなるもんさ。自分だけ撃たずに我慢してるってのはストレスマッハだからな。
(――――あん? なんか急によれたぞ? そんなにダメージ入ってるわけねえのに)
《敵の出力が低下中。急速に速度が落ちて――――ああ、高度制限だネ》
(高度制限? ……ああはいはい。基地のエリア制限か。上空はあの辺から外れるんだな)
スーパーロボットは基本的にSワールドでしか運用できないが、例外として基地の敷地内では問題なく活動ができる。
でないと本星で整備も発進もできないからな。人類がスーパーロボットを運用していくうえで、これは当然と言えば当然の例外措置だ。
敷地認定の範囲は基地ごとにマチマチだから、ロボットの活動範囲もどこまでかは土地によって違う。
空に関してはゲートの開く上空、その近辺を飛べればなんでもいいからあまり気にされていない。
エリアから出てもいきなり停止することもないしな。範囲外に出ると急速にパワーダウンして最後にガクンと止まる感じだから、一応は戻るだけの時間的余裕があるんだ。
(レティクルの表示を見るに、最大高度は1000メートルってところか。30メートルの図体で飛ぶにはずいぶんと低い空だろうよ)
《のんびり観察するのはいいけどさ、敵は慌てて切り返して急降下の体勢に入ってるゾイ》
そりゃそう来るよな。あれ以上間合いを取れない以上は攻撃に移るくらいしか出来ねえだろう。
上から撃ち下すってのは地上兵器に対して有効な戦法だ。外しても下が地面なら街への被害を出さなくて済む。何より真正面よりかは装甲も薄いってだろうって判断だろう。
《! 敵、両脚部を開口! あれって大型ミサイル発射口だゾ!》
「こっちもかよ!?」
いじましく機銃でも撃ってくるかと思ったら奥の手か! 浜の近くとはいえあのサイズのミサイルなんて爆発させたら、間違いなく街まで爆風が行くぞ!
街の人間はもう全員シェルターに入ってると踏んだか? だとしてもそんなもの使われたら復興にどれだけ金と時間が掛かると思ってる!
他所の土地だからって好き勝手してんじゃねえぞ! 侵略者がぁ!
「アンカー!」
BIG-Kのスカート部にある複数の突起はそれぞれが射出式のアンカーだ。
通常は反動の大きい装備を使う場合の自身の固定用だが、先端に噴射口を持つこのアンカーは敵に向けて誘導発射し、拘束に使うことも出来る。
鎖を引き連れて飛び出した複数の楔は、急降下の体勢に入っていた敵の回転するプロペラにひとつ弾かれたものの、もう1本がうまいこと羽を避けて敵の腕と肩の間に突き刺さる。
返しがあるから簡単には抜けねえぞ? さあ、力比べといこうか!
「踏ん! 張れ! BIGぅぅぅぅぅっ!」
掴んだ鎖を一本釣りよろしく、横薙ぎで力任せに振り回す。
砂浜を踏み固めんばかりに脚部を大地へと押し付け強引に半回転。BIGの鎖と繋がった敵もまた空中で大きく振り回され、姿勢制御の限界を越えた機体はなすすべなく回転するしかない。
遠心力でシートに張り付けられる気分はどうだ? ミサイルなんて撃てる状態にはさせねえぞコラァ!
「アンカー切断!」
海洋まで振ったところで鎖を切断。
突然に解き放たれたせいで自身の吹かしていた推進力まで仇となったAは、そのまま空中ネズミ花火となって錐もみ状態で海面に叩きつけられた。
落ちてきたAによって海に波が発生し、もはや浮かんでいるだけの潜水艦たちが大きく揺れる。
これで奴の後ろは海だ。もう遠慮の必要は無えな? おまえもガキが乗ってるかもしれねえから操縦席だけは勘弁してや――――
〔悪魔よ! こちらを見ろ!〕
(――――あん?)
背後から聞こえたのはスピーカーからの音声。緊急放送なんかで使う感じの音割れした聞き取り辛い声だった。
《うわーお。さすが人間、邪悪ですなぁ♪》
……BIGのモニターに望遠表示されたそのあまりの映像に、オレは軽い眩暈を覚える。
個人の行く末など興味の無いスーツちゃんらしい、下等生物に対して投げかけた皮肉たっぷりな言葉がこれ以上なくしっくりくる光景。
議事堂の屋上、その外縁ギリギリに縛られたまま立たされている大日本の要人たちの姿がそこにあった。
そしてそんな彼らの背後には銃を持ったロンドンの兵士たちと、戦場に場違いな上等なスーツを身を纏った白人の男。
「! やめ――――」
気取った調子で細いタバコをひと吹しした男は、並べられているひとりをエナメルの靴で蹴り落とした。
なんの躊躇いも無く。
〔《悪魔と共に神を冒涜する黄色い魔女よ、降伏しろ。先程のような不幸な事故が起きる前に》〕
……こい、つ!
翻訳された男の言葉は、まさしく人間らしい邪悪さに満ちていた。




