冒頭の説明が尺稼ぎと言われるのは心外です
思ったより進んだので連投。次は間が空くと思います
《説明せねばなるまい》
「それどっちかってーと特撮じゃね?」
《アニメでもあるぞよ? 時間関係のシリーズとか》
「シリーズ物は数多すぎてわからんな。あ、続きどうぞ」
《ウィ。少し昔、人類は後先考えずなんやかんやで地球の資源がヤベーとなって、宇宙の資源を勝手に貪り食うために色々やってたんだけど、時間とか空間とか超越した『偉い存在』に《メッ》されて地球に閉じ込められました》
「宇宙にいた連中も強制的に地球へ『転移』みたいな方法で送り返されたんだっけ? あらゆる言語で『おまえらくんな寄生虫』って言われたらしいな」
外の町灯りだけが輝く真っ暗のフローリングに佇んで腕組みをしてみる。中坊くらいとはいえびっくりするほど乳無いなぁ、この体。腕にまったく乳圧を感じないぞ。
《イエース。野蛮な人類は宇宙におわす高次元的な存在にはシロアリみたいにメッチャ迷惑だったのです》
古くもないけど新しくもない2LDKのマンションの一室。ここが今回のスタート地点か。一人暮らしにゃ広すぎるくらいだが殺風景もいいところ。家具はおろか窓にはカーテンさえない。
明かりをつけてないのはひとっ風呂浴びたらさっさと寝るからだ。今回のスタートがなんで深夜なのかは知らん。あんまり深い意味は無い気はする。ランダムぶっぱって言ってたしな。
衣服はこの体にピッタリのサイズになった万能スーツ(あざとい白ジャージ)ちゃん。リトライ全装備没収でも君は無くならないから助かるぜ。そしてジャージは家着の正義。
なお他の持ち物は服はおろか下着一枚無いので、新ジャンル『裸ジャージ』でお送りしています。
「偉い存在は『Fever!!』を名乗ったんだっけ?」
《最初は名乗ってなかった。けどさぁ、こういうとき絶対ヘンな人たちがおかしなこと言い出すでしょ?》
「神とか悪魔とかな。うちの宗教の神様ダー、悪魔ダーなんて言い出す連中は絶対いたろうな」
《その回答が全人類の頭に『ちげーよバーカ』で宗教家さん赤っ恥》
「一人残らず違うと認めるまで全人類に365日24時間延々と脳内で否定しまくった、って書いてあるな。狂信的な連中がそれで集団自殺したり、安眠妨害されてキレた無宗教家たちが『さっさと違うって認めろ、うるさくて死ぬわ!!』、信者たちが『ワイらの神はいるんじゃコラー!!』で、双方が双方をブチ殺しまくったとか」
《信じて送り出した信者が変わり果てた姿にっ♪》
「不謹慎だからここでヤメ。この世界に神は消えた」
《了。ちょっと昔、資源どうにもなんないから蟲毒みたいに共食い始めようとしたアホな人類を見た『Fever!!』は、これ貸すから野蛮なケンカすんなと『資源を一定スピードで無尽蔵に生む装置』を貸してくれました》
「映像記録も何も残ってないけど、口を開いたデッカいモアイ像みたいな形だったらしいな。リングレーザーも出せんじゃね?」
《レーザーは知らぬ。どんな記録装置でも撮影も模写も出来なかったんだって。影も無かったらしいよ?》
違う次元にあるとか、そんな感じだったのかもな。たぶん関係ないだろうが日本神話系に口から食べ物を出す神様がいたっけか? 他国だとタロイモを生む女性のお話とか聞いたことあるわ。食い物を生み出す奇跡は割とメジャーなんかな。
《これってさ、自分たちでまともに人口の調整もできない頭ブラットでピンクな人類に代わって、生み出す資源量の逆算をして人口制限をしようとしたっぽいすねー?》
「ぜってー無理じゃね?」
《正解。もちろん人類が等分するわけもありません。学習しないやつらがオレんとこのだ、いや朕のものでおじゃる、ミーのデースとモアイを奪い合いし始めたので、『Fever!!』がアホ国家と軍隊と裏で操ってた連中を、ぜーんぶ大陸ごと粉々にしちゃいました。でも一応、ヤッベやり過ぎたスマンと後で大陸を作り直したりする一幕もありました。なお人は直してくれません。人口は激減しました》
「チンてなんだチンて」
《エッチな話だっ》
「嘘をつくなっ」
《低ちゃんの朕は置いといて。ごく最近、まだまだ懲りてない人類は出てくる資源をお金で買う方式にして、金持ちが豊かに暮らせる社会を作りました。ところがなにやってんだオメーと、またまた『Fever!!』が起こした自然災害という小足払いを引っ掛けられて、やっと復興した社会が崩壊してさらに人口が減ります》
小足で大災害起こってんじゃねーか。あとオレのチンはどっか行ったから目下捜索中だ。次の引っ越しで出てくるといいなぁ(遠い目)
《バカにもう任せらんねぇ!! ってモアイ、じゃなかった『資源を一定スピードで無尽蔵に生む装置』は取り上げられて、残った全人類に『Fever!!』は新しい制度を告げます》
「残った人類って最大期の5パーセントだっけ?」
《イエス、パー5》
「ゴルフかっ。すげえ長距離コースだ」
《グリーンまで25キロ》
「長い!? 五打なら650メートルそこらでしょ普通」
《で、Feverちゃんボランティア疲れたんでぇ、生きたきゃ勝手に戦って食い繋げボケナスと言われましたとさ》
戻りが唐突ッ。あと記録見る限りボケナスって本当に言われてんのな。もちろん色々な言語でボケナスに類する罵倒って感じで。つーかボランティアだったのか。
《新たに人類に与えられたのはボケナスの称号と『戦って資源を得る別世界』。その世界では『スーパーロボット関連だけ現実になって辻褄が合う』というヘンチクリンな法則を持っている、とぉぉぉってもキモいオタ世界でした。ここで途中からEDソングで締めます♪》
「この解説、ドキュメンタリー番組だったのか。あとキモいって言うな、そのオタ世界で生きなきゃいけないオレどうすんのよ?」
《感度3000倍な世界よりマシじゃない? しかも低ちゃん今回は女の子だし》
「震えがくるほど恐いIF!!」
《そして今、『底辺』『一般』『エリート』がそれぞれ通称『Sワールド』って別世界に行って戦闘ロボを操り、なんか出てくる巨大メカとか倒して食料や工業資源なんかを手に入れる。そういう社会サイクルができちゃったわけなのよスティーブ?》
「オレは女なのにスティーブだったのか。粗筋で明かされる衝撃の事実」
《あら? スージー》
「やかましいわっ。それで今回のオレの名前は何になるんだ?」
《玉鍵たま。色々ピチピチツルツルお肌の14才だぜ?》
「棒は消えたが玉はあったわ。ふたつとも」
《蛇口は別途お買い求めください》
「もうヤダこのスーツちゃん! お下品!!」
《こんなエッチなスーツちゃんにひとつだけ言わせてほしい》
「どうぞ」
《さっきのスージーは女の子とも掛けた二重のボケだ!》
「マジでやめなさいっ!?」
際限がない。楽しいけどよっ。こんなやり取りをしてこれたからクソみたいな人生でも生きていけたんだよなぁ。5回死んでっけどそれは問題じゃねえ、毎回を楽しく生きていけたってのが重要なんだ。じゃなきゃとっくに諦めて入滅してるわ。
《お風呂入ったよー》
「嬉しいけどさぁ、うちタオルも無いんだけど」
《上がったらスーツちゃんが水を吸って脱水してあげよう。後はスーツちゃんが乾くまで裸族でいるがいいのだ。風邪引かないようじっくりあったまるよーに》
『視聴率』足りなくて物品や金銭の持ち越しは出来なかったからなぁ。この新しい体と『一般市民コード』『支払い済み一か月分の賃貸マンション』、そして超万能支援衣服通称『スーツちゃん』だけがオレの財産だ。明日から早速稼がにゃパンツも買えねえ。
《今晩だけはスーツちゃん寝袋で我慢してね。就職先はもう決まってるし、戦闘でも訓練でも出来高即金制だから日用品くらいはすぐ買えるさ》
「操縦者試験とかねーの? 底辺は強制で操縦席に突っ込まれるから関係なかったけどよ。一般は適性で乗るロボの系統変わんだろ?」
《じゃあちょっとプロフィール紹介。コホン、「玉鍵たまは改造人間」←イイ声》
「改造人間のくだりだけ渋い声で言うな(笑)」
《もとい優秀な成績でいろんな系統のスーパーロボットに乗れる適性があるとすでに判定されているのだっ》
「つまり、もう終わってんのか。それってアレか、スゲー成績で試験会場沸かせて『なんかやっちゃいました?』とかトボけたこと言っちゃってる系?」
ぐへぇ、テンプレだけど実際に見たら結構嫌なヤツだぞソレ。周りが試験の手応えに一喜一憂してるところでさぁ、園児のお遊戯に大真面目の大人が入ったみたいでドン引きだろ。
《周りに何を言われてもぜーんぶ無視して、黙々と科目こなしただけだから安心するぞなもし》
「スゲー成績は否定しないのな、あとそれはそれで嫌なヤツな、オレ」
《合体変形ロボ、の『足』がより取り見取りだぜ!》
「足かよっ!! 優秀なのにメインじゃねーのかっ」
《ヒロインキャラは伝統的に足担当らしいゾ?》
嫌な伝統だなぁ!? ヒロイン枠なのがさらに嫌だ。体が女になっても男とくっ付く気はねえぞ。こりゃ性能低くても一人乗りのロボット一択だわ。
《つまりヒロインであるスーツちゃんもジャージの下が本体という事だね?》
「スーツちゃんはヒロインだけど胸元あたりを本体にしてほしいなぁ」
《うむ。ヒロインならオッケー、低ちゃんの男らしい垂直装甲を守ってあげよう》
心は男だからペッタンコなのは別にいいんだけどよ? あえて指摘されると何でか腹立つなオイ。
《あ、ちょうどいいや。窓の向こうを見て》
ん、おおっ。電力制限で明るい場所と暗い場所が市松模様みてーになってんな。ここは今電力ありか?
「つーか高いなこのマンション。いいな!」
《テンション高。むしろ低いよ? ここ地下都市だもの。地表はエリート様専用じゃ》
そうだった。って事は上の光は人工灯か。どうりで嘘くさい夜空なわけだ。
思い起こせば底辺層は高層カプセルホテル以外の場所は潜水艦レベルの狭さだった。上にあるのはいつも汚いサビた配管くらいでどっちを見てもゲンナリしたもんだぜ。時々、無性に緑が見たかったなぁ。
よし、パンツ買ったらついでに鉢植えでも買うか。エリート層じゃなくてもフェイクグリーンくらいは売ってるだろ。
あと今更っちゃ今更だけど、『高層カプセルホテル』ってアレ何なんだよ。うっかり墜落死まで人口間引き政策に使ってんのか? 昔からある税金の名がついていない税金みたいなもんかねぇ。
《それじゃいよいよお色気タイムだ(嬉)。円盤なら湯気も謎の光も晴れ渡るじぇい》
「スーツちゃんって頻繁に語彙が行方不明な。いつも楽しいひと時をありがとう」
《ハイ、デレいただきましたww》
君ひと言余計なんだよなぁー。
「よくぞ志願してくれた、人類の未来を担う戦士たちよ!!」
無駄に広い講堂で誰得の演説をしている悪の秘密結社のシンボルみてーな髪型の中年ヒゲ。あれがスーパーロボットものでよくいる『長官』とか『司令官』とか『局長』ってやつらしい。腹減った。
戦隊系は特にこういう国の紐付きが多いみてーだな。普通に考えて個人が秘密裏に建造して運用ってのは金も資源も人材も環境も何もかも無理があるし、道理か。腹減った。
ざっと考えてもロボットを建造するための設備が必要で、設備を建造するための設備が必要で、材料を組み立てる設備が、原材料を加工する設備が、それらを担う人材の育成が、まーとにかくメチャクチャ手間暇かかるんだからよ。腹減った。
そんな大規模事業、国はもちろんご近所に知られないほうがおかしい。時代によっちゃ暴力装置はちゃんと制御されてますよー、戦争関係とは違うですよーって視聴者へのアピールもあるかもしれねえなあ。
それにつけても……あ゛あ゛あ゛ーーーー腹減ったぁぁぁぁぁッ。ぼちぼち昼だぞコノヤローッ!!
《出席してるのは合格100名のうち87名だね。残りの13人は別の場所で好きに過ごしてるみたい》
(オレだってフケられるならフケてえよ。後で飯が出るっていうから大人しく待ってんだ。これがリスタート最初の食事になるんだしよ、お国様の出すウメー飯食いたいじゃねえか)
《家賃払いに試験上位者に支給されたお金ぜーんぶ突っ込んで、きれいさっぱり無一文だから朝抜いたもんね。でも低ちゃんこういうトコ律儀だよねー。ごはんの時だけ混ざればいいのに》
(準備を手伝わないのにヘラヘラ入ってくる陽キャは死ねっ!!)
《感心したらただの私怨だったww》
「それでは今季選抜で最も優秀な成績を収めた彼女に挨拶してもらおう!! 玉鍵たま君だ!!」
(……あ? 聞いてねえぞ)
《一応教育機関とかだとそういう伝統はあるみたいだよ?》
(それにしたって原稿渡すなりスピーチ内容考えてこいとか言うだろっ)
《無理じゃね? 低ちゃんリスタート前の話だから自覚ないだろうけど、試験受けたあと呼び止める声にかまわずに帰っちゃったんだもの。連絡もずっと無視したしね、スーツちゃんが》
(無視したんかーい。まあ理由は聞きましょうか)
《低ちゃんの人生はリスタートで急に世界に割り込んだ偽装だからゾ。今はスーツちゃんが辻褄合わせてるけどね。ホントは連絡用の情報端末も持ってないのに連絡ついたらおかしいじゃん? 後々突っ込まれるかもしんない》
(なるほどなぁ、過去の人生まで『完全に作ってくれる』わけじゃねえもんな)
《できるだけ過去は追えない形でリスタートしてるけど、低ちゃんがボロ出したら意味ないから気を付けてね》
(あいあい。で、シカトして結構経つわけだがまーだ諦めてくれねえのかあのヒゲ)
《一秒くらいしか経ってないよ? スーツちゃんと低ちゃんは『ヤろう』と思えば脳内で高速会話できるじゃない》
(ヤの字に変なイントネーションをつけるな。それじゃ普通に戻してくれよ)
《あいあい。キミはスピーチしてもしなくてもいい、しない場合は14に進め!》
(死亡ページじゃねえか。え、これやんねえと死ぬの?)
《たぶん死なないゾ。たぶんネー》