巨神
誤字脱字のご指摘、いつもありがとうございます。
たまに過去の映画を見返すと『あれ? こういうんだったっけ?』と思ったより忘れていることに気付く。脳が……
「柿山を頼む! 動かすぞ!」
破損した風防を蹴り飛ばして機首から引きずり出してきた柿山を、慌てて立ち上がった三島に放って入れ替わりで操縦席につく。
柿山が通路で戦っていた相手らしい敵どもが、撃破確認のつもりかこっちにやって来やがった。ギリギリだったぜ。
だがハッチを閉じる事こそ間に合ったものの、現れた3機の10メートル級は素通りしてくれず明らかにこっちの識別を訝しんだような動きをしている。
残念ながら敵側のロボットに乗っていても、微妙に攻撃対象として反応するようだな。
チッ、黙って見逃してくれればいいものを。このまま静かにしてればやり過ごせるかもしれないが……迷ってる感じの今がチャンスだ。
こっちのロボットは防御力が高いか低いかもまだ分からん。いっそ先制でブン殴ってやる!
<おいおい、無茶な動きはしないでくれよ! こっちはシートベルトどころか席自体が無いんだ!>
「敵に言え! 今のうちに体を固定できる場所を探して、ベルトでもなんでも使って自分と二人をくくり付けとけ!」
(スーツちゃん、こいつのシステムを掌握できるか? さっきはうまくいったが細かい使い方がよくわからん)
《無茶言うナシ。根幹がこれまでと全然違うフォーマットだからチョーット手が付けられないよ。計器やスイッチ周りの用途を予想するくらいだナ》
(それでも助かる。今のままじゃ殴るとか歩くとか、簡単な挙動しか出来そうにないっ)
《いや、それでもスゴイけどナ? お初のロボットをカンで動かすなんて》
(スーパーロボットだって『乗り物』だ。ザックリだが操縦形式に共通するもんはある。意外となんとかなるもんさ)
時代が進めば車だって飛行機だって規格は最適解に、似たり寄ったりになっていくもんだ。もちろんどれだけ先に行こうと、使う側を無視したトンチキな代物は山ほどあるだろうがな。
《敵、攻撃開始》
こちらの正体に気付いたらしい3機から一斉に攻撃が飛ぶ。受ける衝撃の感触からすると、そこまで装甲は厚くないか? となればさっさと片付けないと、小型機の攻撃だろうと弱いところに当たり続けたら削り殺されちまう。
「立て!」
果たしてどれほど昔から埋もれていたのか。岩に同化したような有様のボディを、オレたちの乗り込んだ謎のロボットは巨躯に相応しいパワーに任せて外界へと引きずり出していく。
地獄の窯から這い出る鬼の如く。壁に指を食いこませ、天を目指して這い上がる。
(おおっ、こいつデカいぞ!? 60、いや80、もっとある? 100メートル近くあるんじゃないか?)
操縦席からでは全容は見えないが、風防越しに見える格納庫の景色と腕の長さで相当な大きさのロボットだと分かる。まだ岩盤に引っ掛かる下半身の感触からすると、足もちゃんと付いてるはずだ。
「邪魔ぁ!」
全身が出てくることで相対的に狭くなっていく円筒形の格納庫。そこを器用に飛び回ってチマチマ攻撃してくる10メートル級の小型機を、腕を振るって跳ね飛ばす。
100メートル級の剛腕という、速度と質量の暴力を受けた3機はたった1発でビスケットのように粉々に飛び散って爆発する。サイズが違うんだよ、サイズが!
よしっ、ある程度の細かい操作はパイロットを介さずともロボット側で判断してやってくれるタイプのようだ。これなら操縦棹とフットペダルだけでも格闘くらいはできるだろう。
「このまま天井から外に出るぞっ」
<待ってくれ玉鍵! まだティコが!>
「ここでドンパチするより外で派手にやったほうが敵の注意が向く! まだ野伏たちが生きているなら、こっちに敵を引き付けてやるのも援護になるはずだ!」
<ぐ……分かった>
野伏、トンカツ、千代丸。おまえらちゃんと生きてろよ。生きてればなんとかしてやっからな。
《経過報告デース。レーダーはたぶんこれジャロ。でも不自然に一部だけ真っ白なんだよね? ウーム、ECMって感じじゃないナ。あ、精度の上げ下げはこの目盛りドス》
上のは別か。じゃあなんだコレ? 最初の光点からいつのまにかラインが伸びてるが……いや後だ後だ。今は戦闘に必要なものだけ分かればいい。
(この音量スイッチみたいなやつの横の計器な? ハードスイッチは使い方が予想しやすくて助かる――――って、これ白いんじゃなくて敵の光点でビッチリなんじゃねえか! 外にどれだけいるんだよ)
目盛りを弄ってレーダーの距離設定を調整すると、漂白されたように白く埋まっていた部分が点の集合体だと分かるようになった。
しかも精度を上げても大きいままの光点もある。こっちはこれで単品か? デカすぎんだろ。
あまりの敵の数にこのまま穴倉に隠れていたい衝動に駆られる。だがここにいてもジリ貧だ。身動きが取れないまま、いずれ敵の大群で蓋をされるだけだろう。
それに外にはブルー小隊とサンボットチームの残りもいる。
柿山は不運にも見つかっちまったようだが、戦闘の気配が無いということは他はなんとか隠れているだろう。あいつらだってこの戦力差では戦えないし逃げ切れまい。
――――鹵獲したこのロボットがどれだけ戦えるかは未知数だ。素性の知れん、使い方もよく分からんロボットを戦力の当てにするのはアホの所業だろう。
だが隠れていても全滅は免れない。オレたちには酸素ってどうしようもない限界がある。
……やるしかねえな。行けるところまで。
オレが進める、最後の最後まで。
たとえどれだけクソみたいな死に方でも、何もせず死ぬよりずっとマシ。操縦席だけがオレの棺桶。
オレはいつだって、前に倒れて死ぬしかないんだ。
<玉鍵っ、どうやらこの機体は銃座が必要な個所があるようだ。機体内の通路を通ってそこまで移動するみたいだよ。まるで昔の爆撃機みたいだねぇ>
野伏への心配を断ち切る様に操縦席の分析を進めていた三島は、解読不能の文字が書かれた無数にある計器のうち、このロボットのシルエットを映した表示に注目。内部を行き来するための移動経路があることを割り出した。
かなり珍しいが、大型ロボットの中にはこういった機体内部を走るパイロット用の移動経路を持つものも存在する。
方式はちょっと違うがザンバスターも合体前と合体後で操縦方式が違うため、それぞれ別にある操縦席に移動するレールが設けられているしな。
100メートル級というボディサイズ的に、内蔵火器を操る専門の銃座席がある可能性は十分あるか。
<オレが行こう!>
そこで新しく入った通信は、三島とも使っている極短距離用のもの。
脳震盪で酩酊していたステーキくん、もとい柿山、動けるようになったか。
爆発しかかっているWF1のエンジン部と操縦席のある機首部分を急いで切り離すため、100メートル級のチョップを食らわして機体を切断するという、かなり乱暴な方法を取るしかなかったんだよな。
ただその切断の勢いで頭を打ったようで、助け出したときには操縦席でノビていた。ヘルメットをしていた頭はともかく首が折れてなくて良かったよ。
「助かるが、大丈夫か? 内部がどうなってるのかまだ分からないんだ。危険そうならすぐ戻ってこいよ」
「任せとけ。中にエイリアンが乗ってたら教えてやるよ!」
柿山は慣れた様子で無重力の通路を飛ぶように抜けていく。
そういやキャスんトコのチームは訓練が軍隊式でギッチギチだったっけな。やっぱこういうとき役に立つのは半端な天才より日頃から真面目に訓練してるやつだわ。
<彼、銃座についたとして装置の使い方は分かるのかねぇ?>
「オレの座ってる操縦席に近いなら、とりあえずその辺のスイッチを手あたり次第に押せばいいさ」
外には狙いをつけなくも当たりそうなほどいるしな。何発か撃ったら使い方も分かってくるだろう。
「柿山、射撃よりまず体を早めに固定しろ。でないとこいつが動いたとき内部で叩きつけられまくって、ハンバーグの種みたいになっちまうぞ。三島は引き続き計器の解析を頼む」
<さすがのボクでも自信が無いなぁ。しかしやるしかないようだ>
<シートがあった! OK、座ったぜ!>
「よし。吹かすぞ!」
すでにボルテージを上げていたメイン炉心がいよいよ走り出す。操縦室に伝わってくる振動はそのままオレの体にも伝わり、真空の中だというのに大気に轟音が響いているかのよう。
《そういえばこの子はなんて名前にするノン?》
(あん? 『敵のロボット』だろ)
《ヒドスッ。この子に命を預けるのにっ。認知しなさいよ!》
(赤ん坊か。いや、うーん。スーツちゃんの言う通りオレたちのために戦ってくれるんだもんなぁ。愛称のひとつくらい付けてやるか)
敵のロボット、『ENEMY』だから女系の名前っぽくしてエミーとか?
もしくはカラーが赤だから『RED』で、レッドマン?
ちょっとレトロな感じのロボットだから『Old Bot』?
Sワールド産、現地の機械ってことで『Native Machine』とか?
どれもしっくりこないなぁ。そもそもオレあんまネーミングセンス無いしよ。
いっそ今あげた名前のアルファベットから、音の響きがよくなる感じで適当に拾うか。どんなご立派な意味があっても、言いにくい名前って覚えられねえもんだしな。
(あくまで敵のロボットという経歴を強調して、頭文字は『E』から……『E』『D』『O』『N』。『EDON』、エディオン。こんなトコでどうだ)
《ほほぅ。でもカタカナ読みだと『E』がエか『I』かで分かり難いのぉ。いっそ『E』の読みをアルファベットまんまでイーッ!にしたら?》
(どこの戦闘員の掛け声だ。エディオンでいいだろ。なんかそれっぽい神話の巨人で出てきそうじゃん)
……御大層な神話の神なんざ、この世界にいやしないがな。
オレたち人類が頼れるのは、人間が作った機械仕掛けのスーパーロボットだけだ。
《遠からんものは音に聞け! 彼方に轟くこの名前! エ、ディ、オーン! 爆誕!!》
(宇宙じゃ聞こえねえよ。まあせっかくの命名式だ、ド派手に花火あげてこう)
宇宙を揺り籠にいつから寝てたか知らねえが、オレに拾われたのが運の尽きだと思ってくれ。初陣からカマして、おまえの名前を世界に刻んで見せてやろうぜ。
「エディオン――――発っっっ進!!」
抑えていたすべての推力を開放し、垂直上昇を開始するエディオン。その感覚はやはりザンバスターの出撃に近い。
あのときもクソみたいに敵がウジャウジャいたっけなぁ。けど今回はエネルギーの問題は無い。
ロボットのサイズは半分だが、目盛りの減りに怯えてエネルギーをケチることなく、好きなだけ暴れられるぜ。
<これは……て、敵の大部隊!? なんなんだ、なんなんだいこの数はっ!?>
チリの付着した汚いモニターに現れた映像には超がつく巨大な『エ』の字の何かと、それを囲むように展開した機動兵器群。最初から数を数える気にならんレベルでわんさといやがる。
(レーダーで大量とは知ってたが、実際に映像で見るとバカらしくなるな。それにあのふざけた『エ』はなんだ? あれで宇宙船なのか?)
《宇宙で使うなら形状はだいぶ好きにできるからでナイ? ぜひ『ロ』型と並んで欲しいところサン》
《あのサイズの建造物でそんな下らねえ下ネタやるやつがいたら、逆に好きになっちまうだろ。アホスイッチが全開すぎるわ》
これは100メートル級だろうと、単機でどうにかなる数じゃねえなぁ。本当にデッドエンドになりそうだ。
――――せめて三島たちだけでも逃がせればいいんだが。
今からまた基地に引っ込んでこいつらだけ降ろすか? その後でオレが派手に戦ってれば、なんとか脱出するチャンスを作れるかもしれない。
……ダメだ。もうそんな流れじゃない。オレもこいつらも行きつく所まで行くしかねえ。でないと何をしても全部が半端、つまり無駄に終わる。こういうときほど出し惜しみは悪手だ。
どれだけ分が悪かろうと全額賭け。それしか生き残る道はない。
悪い、ガキども。最初から判断ミスだった。せめてその命、最後まで預かるぜ。
「三島っ、こいつの通信機を探せ! キャスたちに呼びかけろ! 反応弾撃ったらお前たちは全力で逃げろってな」
<このままだと敵と間違われそうだしねぇ……マックス、ティコだけでも拾って逃げておくれよ。あの子を見捨てたらボクは許さないからな>
《敵群、というかもう敵軍レベルかナ。戦闘態勢。機動兵器がワラワラ突っ込んでくるゾ》
(事前の艦砲射撃なしで機動兵器を投入……基地への被害を気にしてんのか? やっぱり敵はフレンドリーファイヤを気にするようだな。これはありがてえ)
待ち戦法はあんま好きじゃないんだが、基地を背にすることで後方からの大砲を封じることができるならやらない手は無い。超遠距離から艦砲で一方的に固め打ちされるのが最悪の展開だと思ってたからな。
「来るぞ柿山! 撃てるようならガンガン撃て、撃てばそれで当たる数だ!」
<クッソ! 嬉しくないほど入れ食いだな! こっちの火器はエナジー系っぽいから撃ちまくると機体がパワーダウンするかもしれない、気をつけろ!>
交戦。基地という人質を盾にしたおかげで敵の数にしては圧力は緩い。
こちらも決して基地の範囲を出ず、中距離のさらに内側まで入ってくる敵だけを格闘で粉砕する。それ以上の遠間は柿山が操るエナジー系の速射砲が追いかける。
ああクソッ、倒しても倒してもキリがねえ!
敵の数に対してこっちの手数がまったく足りてないんだよ! 最初の印象と違って思いのほか頑丈なので、ちよっとやそっと攻撃を受けても大きなダメージは無いのだけが救いだ。
だが敵の数、移動の制限、そしてこっちのサイズ的にどうしても避けきれない被弾も増えてきた。このままだと――――
《背後! 大型》
「しゃらくせえ!」
近接で勝負をキメようとしたのか、背後から格闘の距離まで迫っていた3足の大型機を振り向き様に蹴っ飛ばす。
エディオンの脚部にはさながら巨大な斧のような凶悪な格闘用パーツが付随しており、これだけの巨体でなお蹴り技さえ想定しているような無茶なフォルムを持っている。
足の斧を思い切り叩き込まれた敵は、文字通り胴体を蹴散らされ爆散した。
推定100メートル級の超重量級キックだ。耐えられるかよ!
とはいえ敵に恐怖なんてない。この惨状を見てもお構いなしに突っ込んでくるやつばっかりだ。
こういったゴリ押し、平押しほど少数にとって恐いものもないよな。工夫の余地が無い愚直な策ほど、つけ入る隙もまた生じないからだ。
物量に任せてじっくりと、ただただ均等に圧を掛けられ続けることがどれほど恐ろしいことか。
このままではすり潰される、嫌でもそう感じてくる。何か、何か今以上の力でこの状況を打破しないと終わる。終わっちまう。
どれだけ足掻いても死ぬときは死ぬ。それがパイロットと分かっちゃいるが。
WBL.<―――リ――――応――――こちらブルーリーダー! その赤いロボットに乗ってるのはタマよね!? 応答して! 何かサインを示して!>
<繋がった! これはホントにすごいぞボク!>
「でかした! キャス! 生きてるなっ! 残ってる反応弾をありったけバラまいて撤退しろ! まだティコたちがいるかもしれないから基地には当てるなよ! 出来れば拾ってやってくれ!」
<出来ればじゃないっ! 絶対に連れ帰ってくれ! お前たちだけで逃げたら撃ち殺すからなっ!!>
「っ!? おい三島、無理を――――三島?」
シートの後ろにいたはずの三島が見当たらない。おいどこ行った!?
《ミコっちゃんは別の銃座席というか、別の操縦席に行ったゾヨ。どうやらエディオンは3機で合体するロボットみたい》
<譲らないぞ! ミサイルの発射装置を見つけた! 一度に数百のミサイルが撃てる! ティコを見捨てて逃げられると思うなよ!>
「(こぉんのアホ! 味方なんぞ狙ってないで)撃つなら敵を撃て! 余裕が無いんだ!」
<隊長! こっちはオレらでなんとかします! 味方を連れ帰ってください!>
WBL.<っ、カキヤマ! 生きてたのね!>
<玉鍵たちに助けられましてねっ! だから助けられた分は返してから戻ります、先に帰っててください!>
「(おいバカ、変なフラグ立てんな!)とにかくこっちはこっちでなんとかする! 目くらましに(最後っ屁を)カマしてくれ!」
(スーツちゃん、最後っ屁くらい言わせろ!)
《ダメデース。ほら、お代わり来たよ?》
「んなろっ!」
足の斧は威力があるが重くて切り返しが悪い。さっきの同型らしい敵にガツンガツンと拳を振るって中枢をひしゃげさせる。敵の攻撃より先にこっちの無茶でエディオンがブッ壊れそうだわ!
《低ちゃんって白兵戦が嫌いなのに、やるとなるとやたら似合うナ。生粋のアマゾネスニャー》
(格ゲーの女キャラはギャップがあって人気の法則だろ。あと生粋じゃねえわ、オレの中身は野郎だ)
WBL.<戦術的に撤退は不可能と判断。数を減らさないと逃げることはできない。ブルー小隊! 攻撃編成、反応弾スタンバイ!>
漂流する隕石の陰から現れた新たな光点、それはブルー小隊。
即座に編隊を組んだワスプたちは、それぞれの翼から一斉に熱核反応弾を放った。
狙いは敵の『エ』型をした超大型艦船か? だが――――
(――――割って入ったきた無数の敵に邪魔されて、届いてねえ)
ミサイルは実体のある兵器。何かに着弾すればそこで爆発してしまう。
むろん核の炎で広範囲を巻き込んで、多くの敵を掃討することはできた。しかし肝心の王手は掛けられなかった。
それでも正面の敵は減った。キャスの思惑通り、後は敵の陣形が混乱している間に逃げてくれればいい。
WBL.<全機、ドックファイトに移行する!>
「なっ?」
撃ちっぱなしを発射して数秒の間があったのを不自然とは思っていた。なぜすぐ切り返して逃げないのかと。それにどうして交戦に入る!? 数が減ったとはいえ総数の不利はまるで覆っていないんだぞ!
「キャス、やめろ!」
WBL.<誰も見捨てない! 全員で生きて帰るの! 私は、私は冷たくなんかない!>
SB1.<そういうこったぁ!>
基地のほうからイエローカラーの巨大な球体が飛ぶ。それもまた敵の数の壁と、盾の如く立ちはだかった小型艦の腹にブチ当たって本命には通らなかった。
「サンボット? 生きてたか!」
SB1.<全機ボロボロで怪我人だらけだがな! うまいこと合体できなきゃ死んでたぜっ。そっちで暴れてくれたおかげで合体できる隙が出来たんだ>
鎧武者のようなフォルムを持つ60メートル級スーパーロボット『サンボット3』。確かにだいぶ損傷しているが、囮になった甲斐はあったようだな。
SB1.<恩人見捨てて逃げ帰ったとあっちゃ男がすたる! 最後まで付き合――――>
<ティコは!? ティコはどこだい!>
SB1.<――――わ、悪い。逃げ回ってときはぐれちまって>
意気込んたところに三島の悲痛な通信が割って入ったトンカツくんがバツの悪い声を出す。
<どうして!? ティコを! あの子を見捨てたのか!>
SB2.<無茶言わんでくれよ、こっちも必死だったんだ>
SB3.<勝次だって怪我をしてるのよっ! 私たちだってギリギリなの>
やってきた面子で唯一確認できていないのは野伏だけ。
……ただでさえ乗り慣れず、しかも片足を損傷したワスプに乗っていたあいつ。
どうしたって嫌な予感がよぎる。
(スーツちゃん、レーダーだ。レーダーでガッツリ探査してくれ。こいつは格納庫内でも効いていただろ)
普通、建物内にいたらレーダーなんて効くものじゃない。だがエディオンは驚くほどの精度で外の敵を探知していた。こいつなら野伏のWF1を見つけられるかもしれないんじゃないか?
《可能かもだけど、敵が多すぎて個体判別はできないカナ。このロボット、敵味方をどこで調べるかもまだ分かんないし》
分析が得意な三島は別のトコだしな。
だが理屈は分かった。つまり数が問題なんだな。それならひたすらシンプルにいけばいい。
「全機、協力してくれ! とにかく敵の数を減らすぞ! 三島、こいつのレーダーならノイズになる敵を減らせば野伏機を見つけられるはずだ! 野伏を助けるためにも戦闘に集中しろ!」
WBL.<ブルー小隊、了解。カキヤマ、そっちも頼んだわよ>
SB1.<要は倒しまくればいいんだな。分かりやすいじゃん。宙太、恵、行っくぜぇ!>
<了解っ! ガンガン撃ち落としてやります!>
「ミサイルを頼むぞ三島」
<……………>
「ブルー小隊が、サンボットチームが、柿山が。それぞれに役割を果たしている」
<…………>
「たったひとつの命を賭けて、おまえの友達を助けようと戦ってくれているんだ。他の誰でもない、おまえこそが一番大事にしている相手をだ」
<………>
「目を覚ませ、三島。それともおまえは『野伏を助けて』と、後ろで叫んでるだけか?」
<……バカにしないで貰おう。操縦はヒカル、射撃はティコに劣るけど、誘導兵器は大得意だ!>
「よし、基地から離れて宇宙戦闘に移行する」
《え゛、それだと敵艦からも攻撃されるデ》
「こっちが籠り気味だった分、ブルーやサンボットたちに負担が掛かってる。囮としてしばらく盾役をするんだ(よ)! 一旦基地に退避しろ! ブルー! サンボット!」
宙へと舞い上がったエディオンに、それまで味方を気にして使いたくとも使えなかった大火力の攻撃が次々と飛んでくる。これは確かに危険な行為だろう。
しかし、威力がある攻撃ほどフレンドリーファイヤを気にしなければいけないのは基地でなくとも同じこと。
簡単な話だ。周りが敵だらけの中に飛び込んだからこそ、こいつらは無差別に攻撃ができない!
艦砲を撃つなら機動兵器が、機動兵器が突進してくるなら艦砲が制限される。始めこそ戦力差に絶望したが、それはこっちが使える強力な飛び道具が少なかったからだ。徒手空拳と正面射撃だけじゃどうしてもな。
<全方位! 549基のミサイル発射管からの一斉発射! 捌けるものなら捌いてみなよ!>
天才三島の手によって、無数のミサイルロックが多重制御されていく。
この短時間、そして野伏の安否を気にした状態でさえなお、三島ミコトの頭脳は本人の感情を超えて未知の技術の解析を続けていたのだ。
エディオンの全身に搭載されたミサイル群。そのすべてが完全に制御下に置かれて、宇宙の闇に放たれる!
《撃破、撃破、撃破! ウヒョーッ♪ 加速中でも追い付かへん》
(細かい撃破確認はいい! 野伏を探せ! って、邪魔だっての!)
運よくミサイルの最低射程にいた敵を蹴っ飛ばす。もはや周りは爆発祭りでワッショイ状態だ。閃光が続いてまともに敵も見えない。
《コレは違う、コレは敵の動きかな? コレはデブリ、違う、違う――――発見、たぶんコレ……あ、マズイかも》
(どうした!? 忙しいから簡潔に頼む!)
どっかの地球を防衛するゲームかってくらいワラワラ来てるんだ。デカい蟻よか可愛げはあるがな。
<複数の敵に追われて取りつかれる寸前っぽい。しかも基地の地下深くなうえにだいぶ離れてる。今からだと誰も援護に行けないよ。でもまあ、しょうがないカナ>
「っ……おまえはいつもいつも!」
美少女だなんだと騒ぐクセに、死ぬのを見てもなんとも思いもしやがらない。人間なんか、どうせ壊れる前提のオモチャみたいに思ってやがる!
そりゃあ人は死ぬさ。戦ってりゃもっと死ぬ。異論は無い。
――――けどな! オレたちの乗ってるのは殺し合いのための兵器なんかじゃない! 世界を守るものだ! 人を泣かせるものじゃない!
泣くはずだった世界を! 笑顔に変える力なんだよ!
「エディオン!!」
おまえが敵のロボットでも、そんなことは関係ない! オレが乗ってる! パイロットが、人が、おまえの力を必要としている!
この図体で子供ひとり助ける力も出せないなんて言わせねえぞ!! エディオン! おまえの力を貸しやがれぇ!!
《!? エディオン、出力急上昇! え、ドユコト? ……違う、コレはこういう設定では、仲間を犠牲にして覚醒をうなが――――》
三次元レーダーの単なる光点が、気付けばリアルな映像のように見えてくる。満身創痍となったワスプでも最後まで諦めず、必死に抵抗し続ける野伏の顔さえ何故かはっきりと見えた。
「ここだぁ!」
突き出したエディオンの右拳から白い光が放たれる。その光は基地も岩盤も諸共に撃ち抜いて、野伏に迫る敵機を一瞬にして消し飛ばした。
それでも尽きる事の無いエネルギーは基地の反対側まで突き抜け、宇宙の彼方へと白い軌跡は永遠に続いていく。
「大ぉぉぉ掃除だぁぁぁぁ!!」
そのまま放たれ続ける距離無限大の光線を棒のように振り回し、当たるを幸い手当たり次第に敵を薙ぎ払った。
《ストップ! 低ちゃん! ストップ! スト――――止まれ!》
やらせるかよ! やらせるかよ! ガキどもをおまえらなんぞに殺させてやるものか! 命なんざ大人が掛ければいいんだよ! ガキに戦わせて何が大人だ! 間違っている。間違っているだろうが!
こんな世界は! 間違っている! 間違いは――――キ エ ロ!!
※頂いた感想コメの中にある作品の歌の歌詞が書かれており、これが『なろう』のガイドラインに抵触する恐れがあるとの忠告を受けております。せっかく頂けたご感想ですが、こちらは削除いたします。ごめんなさいorz




