WILD WASP ブルー小隊発進!
連日で30度超えが予想される週間天気予報。いつからかこの時期はゲームさえやる気が起きずに、動画をタレ流しに観ているだけの日が増えました。暑くて面倒な事したくないねん
やってきた出撃日。予め長官ねーちゃんに言われていた通り順番は1段目、午前6時ジャストだ。
目的は沈黙した秘匿基地の調査。その後の破壊となる。
第二都市とサイタマではSワールドの貴重な情報源として残しておく案もあったらしいが、どうやら他都市との足並みが揃わないらしい。
最終的に『ドサクサで他の都市に横取りされるくらいなら仕留めるべき』という判断がされている。
これはあの基地との戦闘に関わったオレや向井の意見も入っていて、苦労してない他人にかすめ取られるくらいなら、さっさと撃破するで一致していた。
……夏堀の意見は、まあ聞く聞かない以前の問題だろう。
先日に禁断症状のキツい時期を抜けたとかで、あいつと少しだけ話をした。
ピンクに染めていた髪もいわゆるプリン頭になっていて、イチゴプリンだみたいだと自虐で笑うくらいには落ち着いてきている。
三島が言うにはここからは薬物依存の治療より、精神に深く根差してしまった諦観の克服が重要らしい。
どうせ外に出ても待っているのは軽蔑と刑罰。そう思い余って死を選ぶ逃避を踏み止まらせるだけの生への執着がいる。でなければ自殺の誘惑に抗えない。
自分の未来に絶望していては先などない。夏堀には希望が必要だ。
「玉鍵さんっ、今回も帰って来てくださいよ!」
「ああ。いつも整備ありがと(よ)」
声を掛けてきたのは黒い肌を持った中3くらいの男。
こいつが少年整備士たちの中では一番年長でリーダー的な存在らしい。操縦席に上がるためのタラップを回収ついでに激励してきたので、オレも軽く手を振って応える。
それを見たガキはオレを真似て手を振り、タラップを降りて行った。
(狭い)
実機の操縦席に尻を入れるのは2度目になる。1度目は座席調整だ。オレみたいなチンチクリンでも狭く感じるんだから、まさしく戦闘機の座席って感じだぜ。
《ジャージの低ちゃんはまだいいほうだよ。ミコっちゃんなんて昔の宇宙服みたいなの着てるから、席にムッチリだ》
(ミッチリな。三島はムッチリどころかガリって言われそうな体格だろ)
《それでも低ちゃんより胸部装甲が厚いとYOU》
(ミリ単位の違いを計測すんな――――あのスーツでどこまで負荷に耐えられると思う?)
《安全保障圏は9Gってトコかな? 耐G剤込みで11。負荷耐性特化って感じ》
(危険水域は10から12。アウトは13から14。1発ご臨終は15あたりかねぇ)
パイロットスーツの性能も種類によってピンキリだ。求めている性能にもよるが、鍛えてないガキの体に8Gを耐え切らせたらそのスーツは立派なもんだろう。
《ロボット側の慣性制御がもう少し効けばいいのにね》
(ワスプは量産機のうえに軍事色が強い。しかもサイズがサイズだ。しょうがねえさ)
軍隊色・兵器色の強いロボットは、乗り手のパイロットにも体力的な負担を求めてくる。基本的には軍人のように鍛えていることが前提の設計が多い。
パイロットの筋力と体力に期待して、慣性制御の効きが若干悪かったりとかな。ロボットサイズの小ささも慣性緩和装置の小型化を招くから、快適性が低くなる一因だ
まあ軍規格とはほど遠い雑な強さのロボットのほうが、さらに無茶を要求してくるパターンもあるけどよ。ゼッターとか。
あれはもはや手の込んだ処刑道具だろ。今さらだが、体が未成熟なガキが乗るもんじゃねえわ。
《そこいくとクィーンガーベラやキングボルトは操縦席が広かったナ》
(あれは逆に広すぎだ。戦闘機が横2列のシートなうえに、まだまだスペースに余裕があるってなんだよ。まあワスプみたいなマジで狭っ苦しいのも好きなわけじゃねえが)
このところは操縦席が広いのに乗ることが多かったから、余計にそう感じるのもあるかね。
変形機構まで組み込んだ16メートル未満のサイズとなると、操縦席だって狭く作るしかねえのは分かるがよ。
「三島、3000のチェックはこっちでやる。調査機材のほうを頼む」
「分かっているよ。ああ、時に玉鍵。ジャージの下は例のスーツかい?」
「(あん?)そうだ。(見た目はともかく、どんなスーツより高性能なんでな)」
《前回の事もあるし、今回のスーツちゃんは最初からパイロットスーツちゃんデッス。その上に普通のジャージを着てる状態サ。中に水着を着てるようなもんだネ》
(便利なもんだ。アクセサリーの類も意外と嵩張らねえ)
このスーツに付属する玩具みたいな飾りが重力や慣性に干渉できるってんだから、プリマテリアル製は個人装備にしてもすげえな。
ほんとデザインはともかく、色々とアイディア出してくれたアスカたちにも感謝しとくか。デザインはともかく、な!
《そして着替えのパンツを忘れて、ミニスカノーパンで帰るまでが夏のプールのワンセット》
(宇宙遊泳なんて言い方するが、真空地帯じゃ濡れねえよ。ジャージの下に着たまま帰るわい)
そもそも下着はロッカーに新品のストックがある。不意に生理が始まっちまう時とかあるんでな。生理用品と一緒に突っ込んであるんだよ。
この体になってからというもの、女の影の苦労がよく分かって居たたまれねえや。
「なにせ宇宙だからねぇ。もしかしたら降りて調べる必要があるかもしれないんだ。さすがにジャージだけだったら着替えてほしかったのさ。君には要らぬ話だったねぇ」
(……降りて調べるってのはちょっと考えてなかったな)
《機体の追加センサー類の他にも、ミコっちゃんが収納スペースに機材を積んでたジャン》
ああ、アレか。あんま気にしてなかったわ。追加のサバイバルキットか何かだと思ってたよ。
(まあいいや。各部チェック始めよう)
《ロボット側はもう終わってるよん。武装の確認だけハンコくだサーイ》
(ハンコって、いつの時代だよ。もう昔の漫画とかでしか見ないぞ)
《準チョコ菓子でも可》
(なんのこっちゃ? いやいいか。時間も迫ってるから手早く行こうぜ)
《ハイハーイ。まず固定武装。頭部にレーザーが3門。内訳は対空迎撃用の小型が2、より長砲身の攻撃目的のレーザーが1》
操縦席にあるメインディスプレイに表示されていたWF3000の簡易グラフィックの中で、胴体の下にあるボックス――――バトルロイド形態では頭部に該当するパーツが点灯する。
(これってレーザー通信にも使うんだっけ? 小型機のわりにいろいろと詰め込んでるな)
《ウィ。戦闘機形態だと推力にエネルギーが取られてヘタりやすいから、基本はガンバードかバトルロイドで使う武装だネ》
(状況によるがな。向いてなくても使わにゃいかん場面ってのはある)
《マアネー。でも今回は追加装備のスペースパックを搭載してるから普通に撃てるデ。この装備には蓄電装置の役割もあるからネ》
(除装したときは気をつけるよ。この装備はどの形態からでも外せるんだよな?)
《イエス。どの可変形態にも干渉しない優れものだゼ》
そりゃありがたい。変形機構を持つロボットは被弾なんかの故障で変形できなくなることもある。そういうとき火がついた増槽を外せずにぶら下げてたら木っ端微塵だからな。
《ホンジャお次。携行式のバルカンポッド。これはシステムとして独立してるから、どんな形態でも使えるよ。あ、ちなみに口径サイズは55ミリね》
頭部レーザーと同じく、戦闘機形態では胴体下に配置されたバルカンポッドのモデルがチカチカと光る。ガンバートやロボット形態では基本的に右手に携行する武器だ。
(シミュレーションだと30ミリじゃなかったか? またずいぶんサイズアップしたなオイ。倍近いぞ)
《口径の表記だけ間違ってたみたい。使う感触はシミュレーションと同じ。ものすごい反動があるのも一緒だから減速に気をつけて》
(装弾数は変わらず180発か。これってWF1と同じタイプなんだな)
《型式はGP11。3連バレル式のバルカンでおます。戦地でのリロードは出来ないタイプの銃だから、無駄撃ちしちゃダメだぜイ》
(気をつける。これに対ミサイル兵装が素の3000の武装か。シンプルなもんだ)
《後は懸架のハードポイントにお好みの爆弾やミサイルを選んで吊っていくのが、ワイルドワスプの標準的な作戦武装だネ》
(次は三島の作った追加兵装、3000用のスペースパック側の火器を頼む)
ディスプレイに表示されていたクルセイダーのグラフィックのうち、追加装備のパーツが点滅する。
《雛型になったWF1のスペースパックを参考に、クルセイダーに装着できるようサイズアップしたものだヨ。性能は大きな差を体感できるほどには変わってないから気にしなくていいと思う》
(3000のほうがWF1よりデカいと言っても1メートルそこらだからな。もっと大きかったら目に見えた変化もあるんだろうが)
《セヤナー。こっちは追加の燃料と宇宙用の各部スラスター。それと2基の大型ノズルが主。さらに武装も付いている欲張りセットになっておりマス》
(背負い式推進機の噴射口の片方にマイクロミサイル用のミサイルコンテナ。腕部の追加部分にもミサイル発射管が2門ずつか。なんかミサイルだらけだなぁ)
機首の間際まで突き出たバックパックの先端、そのうちの左側と両腕の追加兵装が画面で強調表示される。
《どちらも高起動ミサイルに分類される有視界専用のミサイルだから、小さなサイズと高い機動性のせいで射程がものすごく短いよ》
俊敏に動く=各部の推進剤をクソほど使うって事だもんな。ピョンピョン動いてたらあっという間に燃料切れだ。
そしてミサイル内の推進剤のスペースを考えれば、搭載できる炸薬の量もおのずと知れる。
(威力もあまり期待はできないか。想定してる相手は小型で脆くて素早っこいやつ――――まるで同型を意識したような武装だ)
《ワスプ自体が都市間戦争で使ってた戦闘機の流れを汲んでるからね。人の敵はやっぱり人の兵器ってことでしょ》
(だな。後は要望していたレーザーキャノンか。オレにはこいつが虎の子になりそうだ)
首を傾け、まだ開いたままの風防の上を見る。
そこにあるのは右のバックパックから突き出た大砲。
ミサイルコンテナ1基の代わりに搭載された、鈍い銀色に輝く2本の砲身が輝いていた。
《2連装のレーザーキャノン。今まで説明した中では威力が一番あるネ》
(シミュレーションの感触だと砲身冷却だけ心配だ)
《宇宙空間は排熱問題が付きまとうからナー》
水や空気のような熱を伝達する物質が無い宇宙では、基本的に発生した熱が籠りっぱなしになる。これを逃がす方法も宇宙での活動では課題のひとつだ。
《光学兵器とはいえ宇宙空間だと反動の影響が少しあるから、超精密射撃のときは留意しておいてネ》
一応、光にも粒子として物質の移動があるから、わずかながらに反動はある。
宇宙空間でライトを点灯すると、その光の直進によってライト本体がじわっと動くとかいう実験があったな。まあスーツちゃんが言うように超がつく精密射撃でも無ければ気にしなくていいレベルだろう。
(あいよ。元より射撃下手が狙撃の心配も無えさ。当たらん狙撃するくらいなら、オレの腕でも当たる距離まで近づく努力をするよ)
《最後は懸架のハードポイントに据え付けた特殊ミサイル4基だね。ぜんぶ『反応弾』仕様の超高額オプション》
『反応』ってのはつまり核反応の事。こいつは核兵器の一種になる。
燃料となるのは水素で、水素の核反応を用いた爆弾だ。特長として起爆剤に精製も維持も難しいはずの重粒子を使っているので、残留放射能を出さないという優れた点を持つ。
欠点は弾1発がバカみたいに高い・クソ重い・サイズがデカい事。
効果範囲が広すぎて、アホやビビリが使うと自分や味方が危ないというのも欠点ちゃ欠点か。
……どう取り繕ったって、Sワールドパイロットは未熟なガキばっかりだ。
軍人みたいに厳しい訓練によって体の芯まで武器の使い方を沁み込ませるわけじゃないし、恐怖を押さえ込む訓練をしているわけでもない。
パイロットとして腕がよかろうと、どこまで行ってもガキはガキ。
覚悟も度胸も年齢は関係無いが、判断力は知識と経験が生む。ガキのふわっとした考えで人を大量に殺せるほどの兵器を使うことが、どれだけ危険かなんざ語るまでも無いだろう。
――――ビビッて思わずトリガーを引く。どんな効果があるかよく分かりもせずにブッ放す。
理由や原因は色々だが、広範囲攻撃で味方や自分を巻き込むバカはたまに出るんだ。
そんなことないだろってやつは、FPSとかのゲームで爆発系の武器でも使ってみるといい。たぶんうっかり自爆したことないゲーマーなんていないんじゃないか?
(これが基地破壊用の物騒な爆弾か。まあ小型機が基地を潰すとなったらこのくらいはいるわな)
《クルセイダーもWF1も最大で6発を吊れるみたい。でもかなり重いから、ガン積み状態で下手に急旋回とかすると翼が折れるデ》
(おっかねえ。まあ今回は2ヶ所のハードポイントに探査装置を積むから、どのみち4発しか吊れねえよ)
作戦内容を加味して本格的な電子戦装備も考えたんだが、あれはどうしても戦闘面に不安があるから選びたくなかった。だから多目的探査ポッドを追加で積む事で妥協している。
「三島、こっちはOKだ。エレベーター動かしてもらうぞ」
「こちらもチェックリストに問題は無い。戦術コンピューターを味方機とリンクするよ。サイタマの援軍とやらとはゲートを抜けてからだねぇ」
(キャスたちだけじゃなく、サイタマとも合同なんだよなぁ。分かっちゃいたが面倒な話だ)
《護衛として出撃する人数は9名。第二基地からは予備のWF1に乗ったティコちゃん。キャスちんたちのWF1小隊。サイタマからは3人乗りの60メートル級スーパーロボットが1機となりマッス》
(オレたち加えて11名か。基地以外に外周の防衛砲台でも見つけて潰さないと半分帰れなくなるぞ。生きてるのが残ってるといいが)
《マー覚悟の上デショ。秘匿基地を潰せれば11人割りでも良い稼ぎになるもの》
WBR.<――――リンク確認。タマ、私たち小隊が護衛に付くわ。小隊コードはブルー。私はブルーリーダーよ>
「(イタい。じゃない、)よろしくブルー小隊」
そういやキャスのWF1は青メインでカラーリングされてたな。
元のデザインが個性的なワンオフ系と違って、似たり寄ったりの量産機はペイントなんかで視覚的に見分けられるよう、ロボットの色やマークが凝ってたりする。
WBR.<こっちはゲート突入前から編隊を組むわ。タマはティコの面倒を見てちょうだい>
「分かった」
「盾としてしっかりボクたちを守っておくれ」
WBR.<……通信終わり>
「三島ぁ」
「あっはっは。そんなに怖い声を出さないでほしいな。ちょっとしたじゃれ合いだよ」
WF1.<帰ったら、お仕置き>
「おおっとティコ、そういうのはフラグと言うんだよ。やめておこうか」
(チッ、後席にいるから手出しできないと思って絶好調だな)
「野伏、まずこっちと僚機としてリンクしろ。飛ぶときは左斜め後ろくらいの位置を意識してくれ。無理に詰めなくていい」
言っちゃ悪いが野伏のやつも不安要素だな。シミュレーションで見た限りパッと見はまともに扱えてたが、それも操縦だけの話だ。
機種転換で苦労するのは操縦よりコンソールの扱いだ。なにせロボットごとにレイアウトがまるで違うからな。野伏もこっちを苦戦してた印象だ。
三島が座学で教えてたようだが、数日の訓練では細かい操作は無理だろう。敵よりちょっとした故障のほうが恐いかもしれん。
WF1.<わかった――――>
C2.<――――クルセイダー1、と、リンク>
「以後はC1とC2だ。よろしく野伏」
C2.<よろしく。後で、タマ、も、お仕置き、くる? 歓迎、する>
「だから待ちたまえティコ。浮気はよくないよ?」
《よっしゃ! ミコっちゃんもティコちゃんも、なんとしても生きて返そうネ!》
(らしくねえ事を。いつもは誰が死のうがさっぱりしたもんなのに)
《だってお仕置き(意味深)だZE!? 百合百合しい空気を出す美少女たちの! ぜひ低ちゃんも現場に立ち会って、よしんば参加してどうぞ!》
(変態にブーストをかけるな巻き込むな)
こっちは自分が生きて帰る事だけで頭がいっぱいなんだよ。どんな準備しようと帰ってこれるかどうかなんて、誰も保証しちゃくれねえんだから。
<放送中>
どこまでも続く暗黒の中を、青い噴射炎を放つ7つの光が突き進む。
その横にはサイタマからの応援、60メートル級のスーパーロボットへと合体する3機の分離機が同じく追従していた。
合体機の中には分離機状態のほうが飛行性能が高い機体も少なくない。彼らのロボットが機動性に富むワスプに速度を合わせるには、無理に合体せず分離機で飛ぶほうが都合が良いのだろう。
WB2.<ぼちぼち隕石が目立ちだしたな。ブルーリーダー、奇襲を警戒して飛行したほうがいいんじゃないか?>
ブルー2――――柿山がフィールドの空気に嫌なものを感じたのか、キャスリンに速度を落として警戒度をあげるよう提案してくる。
「そうもいかないわ。最短で基地に取りつく必要があるんだから。ゲートの出現位置でちょっとハズレを引いちゃったしね」
これに対するキャスリンの答えはNO。
まず秘匿基地まで真っ先に辿り着き、そうすることで自分たちの獲物であることを主張するのがこの作戦のひとつめの肝なのだ。
もし他者に先んじられてしまった場合、こちらが横取りを狙う形になってしまう。それは作戦に支障をきたすだけでなく、パイロットとしてマナー違反でもあった。
WB2.<玉鍵さんはともかく、モジャ毛女のほうもワスプのシミュレーションを1週間もしてないんだぜ? あまり速いと漂ってる隕石を避けきれないかもしれないぞ>
「コース取りでカバーするわ。とにかくまっすぐ、最短距離を進むのよ」
今回の作戦はとにかく初手の早さが必要。そのために予め回廊内で編隊を組み、シャトルと並走しつついつでも最高速に持っていける状態でゲートを潜ったほどだ。
(基地から距離が遠かったのは不運だけど、サイタマの援軍とすぐ合流できたのは幸運だったわね)
合流した彼らは『サンボットチーム』を名乗り、合体すれば60メートルにもなる機体サイズに恥じない分離機のパワフルな推力を持って、ワスプ編成のキャスリンたちに追従してくれた。
最初はエリートらしい尊大さで作戦の主導権を取ろうとして来るかと警戒していたが、3人チームの彼らは『これは第二都市主導の作戦だから』と、特に揉める事も無くキャスリンたちに先頭を任せている。
――――ただし、彼らがこちらに敬意を払う最大の理由は、おそらく護衛対象の玉鍵たまにこそあるだろう。
玉鍵がまだエリート層に上がっていた頃、ザンバスターを駆って助けたチームのひとつが彼らであったのだ。
玉鍵とサンボットチームの通信でも、今回の作戦への参加はあの時の恩返しも兼ねてだと彼らは述べている。
C1.<ブルーリーダー! 友軍らしき光が見えた。もっと速度を上げろ! 相手は速い、抜かれるぞ!>
「っ、全機最大まで増速! サンボットチームも急いで!」
戦術システムでキャスリンたちのWF1とリンクしているクルセイダーから、次々と取得した情報が送られてくる。
(この一瞬の瞬きから噴射光を見つけたの? さすがねタマ)
大小の隕石漂う宇宙空間の中、遠くにチラついたかすかな星の瞬きのような光を彼女は目敏く発見していた。
キャスリンは玉鍵のエースに相応しい注意力に舌を巻く。
しかしそれより恐ろしいのは、見間違いと思わずクルセイダーの索敵範囲を広げて確認した慎重さの方だろう。
玉鍵たちの乗るWF3000『クルセイダー』には探査用の多目的ポッドが取り付けられており、キャスリンたちの乗っている迎撃仕様のWF1に比べて索敵能力が高くなっていた恩恵もあるだろうか。
あるいは運だ。わずかな噴射の瞬きを目撃し、発見する機会を得たのは強運と言っていいだろう。
キャスリンは玉鍵がワールドエースと呼ばれる理由をまたひとつ知ったと感じ、自らの参考にすることを決めると、無数の隕石漂う暗礁地帯に加速したまま接近していった。




