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感謝回 AT部初代部長、春日部つみき――――特別名誉指導員、玉鍵たま(本人には無許可記載)

誤字脱字のバーゲンセールのごときこの書き物をそれでも読んでご指摘くださる皆様、本当にありがとうございます。感謝回としてこちらの1話を投稿させてください。


※こちらは本編中の隙間話となります。読まなくても本編に影響はありません。なお誤字脱字の指摘をくださるなろう側読者への感謝回のため、カクヨム側には上げておりません

<放送中>


 路面を削り焼き切れんばかりにグランドホイールをかき鳴らして、つみきは己の鋼鉄の分身を力強く走らせる。だが見た者に与える豪快さとは裏腹に、左右のホイールの速度を巧みに調節した立ち回りで相手のパンチの軌道をギリギリですかした(・・・・)


「ここ!」


 思わぬフェイントに挙動の遅れた敵機の側面に回り込み、いっそ足まで刈り取らんばかりに高角度のアッパーを放つ。


 振り向いたときにはもう遅い。胴体ブロックをティッシュボックスのごとくへこませたパンチは下から敵のコックピットハッチを引っかけ、勢いそのままにバクンと強制開口させる。


 つみきの通信機に相手の悲鳴とガシャンという転倒音が響く。顔に掛けたゴーグルにはターレットカメラから送られてくる映像が映されており、その転倒音と連動して敵機が後ろに引っ繰り返る姿が見えていた。


〔T.K.O! WIN TUMIKI!〕


 相手の操縦席が剥き出しになったことで試合続行は危険と判断した審判により、直ちにテクニカル・ノックアウトが宣言される。


「よっしゃあ!」


 胸の前の2本のスティックから感じた手応えの余韻を惜しみながら、つみきは己の機体のハッチを開口すると、汗に濡れた顔からゴーグルを上げてガッツポーズを取った。


 苦心の末に発足したAT部の初代部長を決めるこの戦い。春日部つみきはこれ以上ない内容で試合を勝ち抜くことができたことに喜びを隠せなかった。


 今回の試合で損耗した(アーマード・)(トループス)の修理費用と補給代金の捻出という難問に、今だけは目を逸らしながら。





<放送中>


「あ゛ー、部費が半分吹き飛んだぁ……」


 勝利の喜びも束の間、たったの数戦でつみきのなけなしの小遣いを突っ込んだ部費が溶けてしまったことに嘆く。


 AT部は(アーマード・)(トループス)と呼ばれる6メートルほどの有人式ロボットを使った一種のモータースポーツを行う部活動である。


 このATを用いた大会はバトルファイトという名前で世間的にも知られており、学生部門は格闘のみを用いる形式で(ワン)on(オン)(ワン)の戦いを基本とするナックルバトルという戦いを繰り広げている。


 AT戦は小規模の大会は3ヶ月に1度。大きなものは半年に1度。そして1年の集大成として地表の各都市代表による世界大会が開かれるほどの規模を誇る、裕福なエリート層のみで行われる人気スポーツであった。


 そして近く行われるナックルバトルの大会のひとつに目標を定めたAT部は、発足もそこそこに急ピッチで出場体勢を整える日々に追われていた。


(バトルファイト部の部費を使い込んだ連中めぇ。おかげでこっちは立ち上げからカツカツも良いところだよ、もう)


 ほんの少し前までサイタマ学園にはバトルファイト部という、同じくATを用いる部活動が存在していた。だがこちらは多くの部員が深刻な不祥事を起こした事が明るみになり、すでに廃部となっている。


 そんな不祥事のひとつに部費の私的な使い込みがあるのだが、こちらはまだ学園への返済がされていない。こんな状態ではいくらバトルファイト部と別物だとAT部が訴えても、部費が回ってくる可能性は絶望的であった。


 このような状況でもどうにか部を発足させることができた理由は、ひとえにATに情熱を燃やす春日部つみきの尽力の賜物であろう。


 つみきは己の貯めていた小遣いを残らず部費として叩きつけ、ひとまず部としてしばらく活動できるだけの最低限の備品を揃えた。


 こうして自転車操業状態とはいえ、つみきはどうにかAT部を学園に認めさせたのである。


 余談だが、バトルファイト部で使っていた備品はその多くが犯罪の証拠品として押収されている。残ったものにしてもつみきは『ゲンが悪い』として、新しくあるべきAT部には入れたくなかった。


 何より、AT部に呼んだ部員の多くはバトルファイト部の内情に嫌気がさして辞めた、あるいはイジメなどで辞めさせられた生徒たちであったからだ。


 そんな忌まわしい記憶を呼び起こさせそうな部活のにおいをさせるものは、ビス1本とて持ち込みたくなかったのである。


 ――――しかし、気概だけではモータースポーツは続かない。


 集まった部員たちもつみきにならって小遣いから部費をカンパしたものの、元より個人所有は金持ちの道楽とまで言われるATは、社会的な支援が無くては学生の身分ではとても続けられるものではない。


 バトルファイト時代はAT関係の企業から援助があったものの、その企業を経営する一族自体が件の生徒の不祥事によって犯罪行為が明らかになり逮捕されたため、なし崩しに援助は打ち切られてしまっていた。


 ここからAT部へと援助をスライドさせてくれる可能性は残っているが、まずは企業内の問題を解決してからとなるに違いない。


(大会に出て賞金を貰って食い繋ごうにも、まず出場するためのお金が()ぁい……)


 小規模大会の賞金は参加者からの参加費(お金)を集めたものが賞金として分配される形式である。そのため種銭が無ければ出場そのものができなかった。


 こうしてつみきはひとつの決断を迫られた。すなわちまとまったお金を手早く稼ぐためのダーティなアルバイトをするか否か。


 ――――例えば、Sワールドパイロットとして己の命を賭けるか否かを。







<放送中>


「ホ、ホワイトナイトをくれるって、マジすか!? あーしに!?」


 00基地に属するほぼ倉庫に近い寂れた格納庫の一室にやってきたつみきは、同行していた1年下の少女に驚くべき話を持ち掛けられて仰天した。


 まだテロリスト騒動の空気が残る格納庫に鎮座している大型トレーラーと、その横にとりあえずという形で片付けられている傷だらけのATがある一角。


 そこでつみきへと振り返ったサイタマ学園の制服、ブレザー姿の少女はすっかり興奮した上級生をたしなめるように言葉を訂正する。


「部活にな。個人所有するにはハードルが高いし、もともと決闘のために買ったものだ」


 だから無料(ロハ)で譲ってもいい。そう言った少女は目の前にある降着状態のATに近寄ると、その傷だらけの装甲をコンコンと叩く。


「見ての通り半分スクラップだが。これでいいなら」


 その言葉は皮肉ではなく自虐に近いものだったかもしれない。


 なぜなら大きく破損した機体を見上げる少女の目は、最後の最後まで戦い抜いた戦士の亡骸を見るような、とても寂しげな目をしているようにつみきには思えたからだ。


 LAT-06H。ライト級AT『スコープダック・(ホビー)』。機体名『ホワイトナイト』


 軍が実際に使用していた機体を民間用へ再調整して販売された、好事家向けのホビータイプAT。


 火薬カートリッジを用いる近接打撃用のズームパンチ機構や、脚部の急制動用スパイクを打ち出すパーツを排したデチューンモデルである。


 武器扱いのズームパンチ機構こそ完全に潰されているが、脚部のターンスパイク機構は火薬式から改めた油圧式が装備されており機動力自体は軍事用とほぼ変わらない。


 また取り回しを優先した民間機にありがちな装甲撤去処置もされていないため、軽度の戦闘であれば十分耐えうる性能をこの機体は未だ維持していた。


 ……少し前までは。


 白を基調に装甲の各所に青いラインを入れたカラーリングの、清く美しい機体。それはおとぎ話に登場する高潔な騎士の鎧のごとく。


 けれど凛々しく塗装されていた雄姿は、今や見る影も無い。


 穢れの無かった白い塗装は路面を擦った傷によってあちこちがザリザリに剥がれ、右の脚部は股関節から脱落して接合部のフレームさえもが変形している。


 脱落した脚部も回収されて同じ場所にまとめられているが、たとえ取り付けても使い物にはならないだろう。


 改めて見る変わり果てたホワイトナイトの姿に、高揚していたつみきの中で急速に罪悪感が沸き上がる。


 何故ならこれらの損傷はすべてつみきがやらかした結果なのだから。だからこそ――――


「――――もちろんっ! ホワイトナイトは必ずあーしが直す。そうホワイトナイト(この子)と約束したんだよ!」


 つみきは大きな声ではっきりと返答した。誓いを新たにするために。


 安易な打算からホワイトナイトに乗り込んで勝手に戦い、あまりにも無様な戦闘でこのATをボロボロにしてしまった。


 それでもなお、パイロットであるつみきを鋼鉄の鎧で守り通してくれたホワイトナイトへの贖罪と感謝のために。


 春日部つみきはひとりのAT乗りとして、ホワイトナイトのコックピットで誓ったのだ。必ずレストアすると。


「修理の当てはあるのか? 部活、運営費が厳しいんだろう?」


 このATの所有者たる少女、玉鍵たまが痛ましげにしながらも容赦なくつみきの急所を突いてくる。 


 彼女の美し過ぎる容姿は時に冷たい印象を与える。今の玉鍵の姿は、まるでつみきの罪状を読み上げる裁判官のようであった。


 万人が認める最優秀のSワールドパイロットにして、その頂点たるワールドエースの座をほしいままにする少女。その名は玉鍵たま。


 そしておそらくはパイロットに限らず、世界屈指のAT乗りでもあるだろう。あのバトルファイト部との決闘における玉鍵の勇姿を見たものであるならば、誰であろうと異論を挟めまい。


 当然、実際に対戦相手として手合わせをしたつみきは、誰よりも玉鍵の実力を確信していた。


「なんならパーツ取りに使って―――」


「ダメっ! この子は絶対にあーしが直す!」


「―――そうか。なら、こいつを頼む」


『なんてことを言うんだ』とばかりに食い気味に言葉を遮ったつみきに、玉鍵は少し嬉しそうな顔で苦笑した。そして指ひとつとっても美しい造形を持つ親指で、優しくホワイトナイトを指さす。


 つみきのために口では淡白に言っていても、玉鍵もまたホワイトナイトに思い入れがあるのだろう。目の前の少女の気持ちが伝わってくるようで、つみきはAT乗りというより、大事な子供を預かった保母のような気分でますます決意を固める。


「で、直す手段はどんなものだ? 気合だけじゃ物は直らないぞ」


「えへへぇ。実はあーしの親戚にこういう機械のジャンクとか扱ってる人がいるの。そこから安くパーツを仕入れるつもり」


「……ツケは効くのか?」


 つみきはひと際明るく言ったつもりであったが、聡明な玉鍵の目は誤魔化せなかった。


 今の話にウソは無い。確かにつみきには中古やジャンク、スクラップ品を扱うゴウダという叔父がいる。

 少々キナ臭い人物ではあるのだが、昔から親類との付き合いは良好な人物で、つみき自身もかなりの頻度で面識があった。


 そもそもつみきがATに興味を持ったのも、この叔父の下で玩具代わりにスクラップのATで遊んだことが切っ掛けである。


 問題があるとすればこのゴウダという男は、ツケやローンなどという制度にはツバを吐くような即金信奉者であることだろう。


 彼の人生における教訓は『詐欺師と死人から取り立てる苦労は割に合わない』である。そんな彼では親戚のかわいい姪っ子のお願いと言えど、絶対に首を縦には振らないに違いない。


「そこなんだよねぇ……だからあーしも本気でパイロットになろうと思うんだ」


 エリートにおけるパイロットの立ち位置はその多くが趣味やアルバイトが近い。


 一般層や底辺と違って、エリート層において少年少女はパイロット試験さえ義務ではないからだ。そのためつみきは試験さえ受けたことがない。


 地表都市の子供でも初めからプロとしてパイロットを目指す者はいるとはいえ、それは世間的に見れば『スポーツでプロ選手を目指す』と吹聴するような、少々変わり者の部類である。


 実現する可能性はあるが、多くは大成前に脱落することが決まっている狭き門だ。


 まして踏ん張り切れなかった者の末路が戦死であることを考えれば、変わり者と言われてもしかたない話だろう。


「たまさんからすればムカッとくるかもだけど、あーしはATに乗りたいからお金が欲しいの」


 誰よりもエリートという言葉が似合うほどの容姿と実力を持つ玉鍵。だが、その出身はあろうことか地下。一般層である。


 一般層の子供はパイロット試験が義務として課されている。


 これはあくまで適性を見るだけでパイロットになるかどうかの選択権はあるが、パイロットにならない場合はその後の人生において、どんな職業についても税金が割増しで徴収されることになる。


 またパイロットを選んでも戦果や戦利品の買取でエリート層のパイロットより多く税金を掛けられるため、相対的に報酬が安く叩かれるのが一般層の悲哀であった。


 命を張って戦うのは同じであるのに、出身だけで成果を余分に国に毟られる。


 たとえ親や親類がいない孤児が、生きるためにしかたなくパイロットの道を選んだとしてもだ。


 ――――玉鍵が孤児であるというのは、つみきが知り合いから聞いた噂でしかない。だがそんな生い立ちをにおわせる空気をこの少女は確かに持っていた。


 一般層時代から1人暮らし。自炊が得意。鋼のような強い意志。


 そのプロフィールが誰にも頼れない、暗い生い立ちから来たものだとすれば。


 そんな多くの痛みを抱える一般のパイロットからすれば、つみきのような道楽のために戦うことに嫌悪感を抱くかもしれない。


 けれど、つみきはせめてもの誠意として玉鍵に上っ面を塗り固めた模範解答はせず、正直にパイロットへの志望動機を口にした。


 友人として。尊敬するAT乗りとして。


 玉鍵からすれば自分など、人生の道行きでたまたま目に入った路傍の石程度かもしれない。


 しかし、つみきにとってこの少女は間違いなく尊敬すべきひとりの友人であったから。


「そうか――――生き残れよ」


 少女の瞳にわずかでも軽蔑の色があったなら、つみきは耐えられなかったかもしれない。


 自分の遊び。つみきにとっては大真面目でも、世間で見れば娯楽に分類されるスポーツのために命を張り込むことを不快に思われたとしたら。それはあまりにも悲しいことだったから。


 ……だが、つみきを真っすぐに見つめる玉鍵の澄み切った瞳は、軽蔑など微塵も浮かべていなかった。


 そこにあるのは友人の覚悟を戦士として認め、それでいて心の奥底で心配する、いっそ愛さえ感じるほどの優しい瞳であった。


 不意に両目から熱い涙がこみ上げ、つみきは唇を噛む。


 口でどう言おうと世間の目が辛かった。


 今さらATなど何を考えているのかと、申請途中に教師に吐き捨てられた事もある。コウモリ女と陰口を叩く生徒の声も聴いた。


 法的にどう判断されようと、春日部つみきは決してすべての人間から無罪と認められているわけではないと痛感した。


 それでも。


 それでもしたいことをするために、いつものようにヘラヘラと立ち回って今日まで来たのだ。


 どれほど泣きたくなっても。


 そんな自分を被害の当事者と言える玉鍵が、当たり前のような顔で認めてくれた。


 春日部つみきという、ATが大好きな稚拙な人間を。


 知らず俯いて床に涙を落したつみきの目尻に、白く柔らかいハンカチがあてられる。


 同時にわしわしと少し乱暴に頭を撫でられ、つみきはまるで父親が幼い我が子のケアでもするような扱いだと、泣きながら破顔した。


「なんでも言ってみろ、相談くらいは乗るぞ。金は貸さないが」


「ズコーッす……へへっ」


 慣れない軽口を叩いて泣いている子供を励まそうとする、これ以上なく器用なのに不器用な少女の気遣いに、冷えかけたつみきの心に暖かい物が満ちていった。







(えーっと、ナビゲート呼び出し。郊外……って、危険地帯の間際じゃねえか。おっかねえところに店出してんなぁ)


 そのぶん土地代が安いんだろうが、ちょっと行ったら昔の地雷原じゃん。処理がおざなりだからまだまだ残ってるって話を勝鬨(かちどき)から聞いたぞ。


 都市戦争とかの戦いでわんさとクラスター弾なんかがバラ撒かれたとかで、サイタマで確認してる区画以外にも、まだ生きてる地雷や不発弾が平気で転がってることがあるようだ。


《扱う商品がどれも重機サイズで大きいし、都市内で出店は無理ジャロウて》


(そりゃ電化製品のジャンクから外した部品を並べるのとは違うか。なんだっけ? アキバオーだっけか? 昔あったっていうそういう店が集まった町)


《おサルの乗った短足ブサカワな出走馬と、フレンドリーに出してきたお茶のアンモニア臭を警戒しないといけないギャングとの、悪魔合体みたいな名前ダナ。それを言うならたぶんアキバや》


(アキバはトーキョーにあったって話の、いかがわしいコスプレ街じゃねえの? まあいいか、しっかしこのトレーラーの自動運転、微妙に使い辛くてイライラするな)


 オレも春日部も大型車の免許は持ってないから、このAT用トレーラーでの移動は自動運転に頼るしかないってのに。操作周りのシステムが酷いもんだぜ。


「春日部、AT続けるなら将来は大型免許取ったほうがいいぞ」


 大会とかで他の都市にも行くんだろ? 一般層と違って地表はこの手の交流がまだあるんだよな。地下と比べて移動がまだ楽なのが大きいのかねぇ。海も陸もたまに武装した賊が出るらしいが。


「うん! あーしもこういうAT積めるトレーラーが欲しいしね。あーあ、どこかに安く売ってくれる人いないかなぁーっ?」


(チッ、さっきまで人様のオモチャ壊したって泣いて(ベソかいて)たくせに、現金なガキだぜ)


 ああ、腕に抱き着いてくんな。エロ親父じゃねえんだからそういう手口は通用しねえぞ。今のオレは女の体でいまいち反応しないしよ。何よりおまえの年齢が足りてねえわマセガキが。


《ムホホ、見た目がギャルだからおねだりがサマになっとるのぅ。断ったらそこらのおじさん相手にイケナイお小遣い稼ぎをしちゃいそうで、実にムラムラもとい心配だネ》


(本音か冗談かわかんねえラインはやめてくれ。けどよ、そんな稼ぎ方するやつは最初からパイロットなんてやらねえよ。それに案外身持ちは固いほうだぞ、こういうのは)


 精神的に安定してるうちはな。拠り所が無くなるとヤバイかもだが。


 ……学校での境遇はどうしたって変わったろうし、さっき急に泣き出したりとかもいい兆候とは言えねえ。


 あんま表に出さないだけで、内面はストレスで頭がちょっと煮えてっかもしれねえな。こんなスキンシップしたがるのも不安の現れかもしれん。


 なら動機はどうあれ、アスカたちのいる訓練ねーちゃんのトコに滑り込んだのは正解だろうよ。


 訓練ねーちゃんは当然、アスカもあれで弱ってるやつのフォローはするほうだ。あれがスーツちゃんの言うツンデレってやつかねえ?


「良心価格でなら売(ってや)る。どれもこれもタダってわけにはいかない」


 ホワイトナイトを手放すとなるとこのトレーラーのほうも意味が無くなっちまうから、手放すこと自体はいいけどよ。

 さすがにこれ以上は他人に金銭的な肩入れが過ぎるからな。金があるからって、なんでもかんでもポンポンやるのはお互いにとってよくねえ。


 そういうのは対等(ダチ)とは言わん。ピエロと物乞いだ。


「ういっス!」


「しっかり訓練してガッツリ稼いでこい。けど、一番の戦果は自分の命だってことを忘れるな」


「……うん! やっぱたまさんイケメン! 結婚して!」


《Foo! 百合婚Foo!》


(ガキの妄言に興奮するんじゃない)


《ゆりこぉーんッ》


(どっかのラプラス仕込んだロボットみたいに言うな)


《こんなスーツちゃんに一言言わせてほしいっ!》


(今回勢いあるな、どうぞ?)


《痛風形態は正直痛そう!》


(なんのこっちゃ? 気合い入れて言う事かい)


「危ない、放せ」


「やーだー。たまさん良いにおいぃー」


 この、自動運転とはいえもしもがあるんだぞ。ハンドル掴めないほどベタベタひっ付くんじゃない。修理は手伝ってやっから。


 ……負けんなよ、AT乗りさんよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユリコーーーーン!!!
[一言]  この春日部つむ……ゲフンゴフン。  あー。 つみきが稼ぐなら、無気力な顔して両手の人差し指を顔の横で振りながら小躍りする動画を配信するだけで、ビックリするほど金が入ってきそうなんですが。…
[一言] AT部の反つみき陣営が、わざと誤入力したと言う事でしょう。多分、めいびー
感想一覧
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