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紲星あかりVS寿司

作者: テングサ

 寿司を食べるのが仕事です。

 そんな仕事があるものかと怒鳴られるかもしれませんが、ところがどっこいあるのです。旧人類は何をトチ狂ったのか生きたお寿司を生み出しました。後先考えずに海洋資源を取り尽くした結果、魚という魚を絶滅させてしまった事に端を発し、寿司を食べたい旧人類は、それなら勝手に増える寿司があればええやんと、そういうものを作り出してしまったのです。

 攻性生物をベースとして体内に生体レーザー発振器官を内蔵したバイオ寿司たちはSFもののお約束のように暴走し、旧人類に反旗を翻しました。

 結果めでたく人類滅亡。

 まあしゃあない。

 座してても食べられるだけだからね。

 寿司と人類の生存競争に人類は敗北、しかし最後の最後に対寿司の切り札として生み出されたものが――

「そんなバイオ寿司の天敵として私たちは生み出されたわけですよ」

「……あかりさんてそんなトンチキな生き物だったんですか」

 一つの焚き火を囲みながら、廃墟の中で私は身の上話をしています。

「トンチキとは失礼な。人類の天敵を狩る存在ですよ。あと生き物ではありません。ボイスロイド――人の声を継ぎしもの。今の地球で活躍する現行人類ですよ」

 かつて私たちやバイオ寿司を生み出した人類――旧人類は滅んで久しく、今となってはボイスロイドが人類です。旧式は全部滅んでしまいましたので私たちが人類でいいですよね。

 あ、でも今はそう断言もできないか。

 結月ゆかり。

 よくわからない施設の跡地、そこに並んでいた冷凍カプセルに入ってた、なんとも貧弱そうな旧人類。ちょっと前にカプセルから出してあげたばっかりの、人です。

 人間、フレッシュな生の生き物。旧生態系の生き物は滅び去って、生物兵器だとかバイオ寿司、それに機械生命体であるボイスロイドなどの『新しい生き物』とは違う、脆い生き物。顔はすごく綺麗だけど口を開くと面白い、そんな旧人類。

「逆にゆかりさんこそすごいですねぇ。三〇〇年ぐらいですか? 他の人類はみんなカプセルの中で干からびていましたよ。すごい悪運です」

「まー、そこはゆかりさんですから」

 そこで結月ゆかりは当然のように頷きました。自分のことを「ゆかりさん」と呼ぶのはこの人の癖です。そうしてウンウンと頷き続ける結月ゆかり。すごい自信家なのか身の程知らずの阿呆なのか。出会ったばかりなのでちょっとわかりません。

「生前のゆかりさんってすごい人だったんですか?」

「生前って、ゆかりさんはまだ死んでませんから! 生きてます!」

 一回冷凍睡眠に入った時点でほとんど死んだようなものという気もします。結月ゆかり以外の旧人類はみんな死んでいるわけですから。

 ともあれ彼女は自分のことを語り始めました。

「ゆかりさんはですねぇ。アイドル? みたいなものですねぇ。地上に降りた生ける女神とでもいうのでしょうか。民衆は私を崇め奉り、それはもうエイヤサーエイヤサーと……」

 妄言のような自慢話が始まりました。

 まともに聞く必要はないと判断し、私は思考の九割を周辺警戒に割り振ります。適当に「あー、すごいですねー」なんて合いの手を入れると彼女は「そうでしょうそうでしょう」と喜びます。

 面白いヒトだなぁ。

 しばらくして。

「その時、ゆかりさんはボブに言ったわけですよ。ヘイブラザー、確かにお前は唐揚げにレモンをかける愚行を犯してしまった。それは取り返しのつかないこと……」

「ゆかりさん」

「ほえ?」

「敵です」

 刹那、物陰から寿司が飛び出してきました。

 闇より飛び出てきたのは黄色い影。

 タマゴ、小型の――それでも私と同等の質量を持った――バイオ寿司です。魚介型バイオ寿司と違ってレーザー発振器官が少なく戦闘能力が低い反面、繁殖力が高く群れで行動します。

 単独行動をしているとは思えない。まだ一貫しか確認していませんが間違いなく連携してくるはずです。

「ならば!」

 電磁チョップステックを両手に構えると、タマゴに向かい突撃します。刹那、傍から別のタマゴ。やはり潜んでいた。しかし構わず最初に飛びかかってきたタマゴAに向かって更に加速。

 普通であれば、タマゴの奇襲に驚き戸惑い、迷ってしまうでしょう。けれど奇襲を予測していた私はリスクを織り込み済み。迷い箸などしない。多少の手傷は構わず、当初の目的を完遂するのみ。

「いただきまああす!!」

 電磁チョップステックがバイオ寿司を捕らえました。

 瞬間、ショックウェイブが寿司を襲い、バイオシャリが機能不全を起こします。まずは一貫。同時に私の左腕をタマゴBの生体レーザーが焼き切りました。左腕軽傷。外皮を少し切り裂かれただけで大したことはありません。しかし背後から悲鳴。声からして結月ゆかりの悲鳴でしょう。平和な時代を生きた彼女には少し刺激が強かったかもしれません。

 何も問題はないのに大袈裟だなぁ。

 活動不能になった寿司をつまみ上げ、一口でパクりといただきました。刹那、バイオ寿司のエネルギーを吸収した私の体は自己再生を開始して、焼き切られた部位を復元します。

「美味しい!」

 覆わず口を突いて飛び出る言葉、こればかりは本能であるから仕方ありません。ともあれ反撃。返す箸をタマゴBへと伸ばす。同時にタマゴBも再度攻撃。しかしレーザーの励起は遅い。連中は繁殖にステータスを割り振り過ぎています。タコやイカなどの攻撃偏重仕様なら連続攻撃もあるでしょうが――

「タマゴなどにっ!」

 遅れを取る理由はありません。

 生体レーザー発振器官へと刺し箸。途端、バイオ寿司は声ならぬ声をあげてのたうちまわります。直後、ショックウェイブを発動させ、スタン。

「行儀の悪いことをしてしまいました……」

 ボイロ流捕食殺法において、電磁チョップステックを使用した戦闘では刺し箸は悪しとされています。箸に搭載された電磁パルス装置に過剰な負担をかけてしまうからです。故に戦いにおいて、挟み込みからのショックウェイブこそが……

「だ、大丈夫ですかあかりさん!」

「あ、ゆかりさん」

 そう言えばこの人居たんだ。

 すっかり忘れていました。

「大丈夫ですよ。私強いので」

「ええ…… なんか腕をバシュってやられてるように見えましたが」

「お寿司食べると治るので」

「何それ怖い」

 ボイスロイドは寿司の天敵として生み出されました。なので天敵らしく私たちは寿司に特化した性能を有しているのです。特に継続戦闘能力を高めるために搭載されているのが寿司吸収機能。バイオ寿司を捕食するとナノマシンがこれを取り込み、肉体が修復するわけです。

 そのことを説明してあげると、

「つまりあかりさんは三食お寿司ということですか」

 結月ゆかりはなんか間の抜けた事をのたまいます。

 寿司の襲撃があれば、それこそ一日に四食でも五食でも食べるのですが、それを訂正するのが面倒だったので私ははいと答えました。

「寿司を食べるのが仕事なので」

「言葉だけ聞くとうらやましい仕事ですねぇ」

「実際はそんなにいいものではないんですけどね」

 飢える事はないのだけが救いと言えましょう。寿司は今も繁殖を続けている一方、私たちボイスロイドはただ数を減らしているのですから、いつか私達は寿司に敗北する時が来るのです。

 その時まで、我々は食べ放題なのです。

 そんな風にカッコつけていると、ぐうという音が辺りに響きました。

 音のする方を見ると、結月ゆかりが頬を染めています。

「……お腹が空いたんですか?」

「カプセル出てから何も食べていないですし……」

 それはそうでした。

 旧人類は何かを食べないと生きていけない、生き物です。寿司を食べてればそれでいい、ボイスロイドとは違う。

 私はさっき仕留めたタマゴBをつまみ上げ、結月ゆかりの前に差し出しました。

「食べます?」

「た、食べません! というか食べれませんよ!」

「そっかぁ」

 私はタマゴを食べながら、肩をすくめます。

 じゃあ、旧人類が食べられるものを探してあげないとですね。それに体も貧弱のようですから、何かもうちょっといい、着る物も探してあげないと。あんなバスタオルみたいな格好では寿司が跋扈する世界を生きられませんしね。

 そんなことをいろいろ考えていると、ちょっとだけ楽しくなってきました。

 誰かのために何かをする。

 そんなの何十年ぶりだろう。

「何笑っているんですか」

「いえいえ、人生にちょっとだけ張り合いが出てきたなーって」

 寿司を食べるのが仕事です。

 でもこれからは、それだけが人生ではないかもしれません。

お疲れさまでした

普段はニコニコで益体もない動画作っています。

http://nicovideo.jp/user/67064400

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