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第6話 ヒートアップした橙と青


 ブレンダンは頭を抱えていた。


 ちょっと待て、ちょっと待て。

 ローレンが、女?

 え、ローレンって男の名前じゃないのか?

 女でもあり?

 ……ありか。


 だって、だって胸も真っ平らだし、なによりあの森の荒れ果てた地をあれだけのスピードで無傷で駆け抜けてたんだぞ?

 こっちは乗馬なのに追い掛けるの苦労したほどだったぞ?

 なおかつ家族の死にも泣かずに遺体を動物に食べさせるという習慣を変わらずにやってのけて、あの弓の腕前で?

 女性?


 いや、でも確かに声はそんなに低くないし、髭もないし、筋肉どこにあるんだってくらいにどこもかしこも細いし、女性にみえる顔といえばそうだし、なによりチン○がない──。


 待て、待てよ。

 ローレンは女。それは認めるとして。


 俺はなにをした?


 毎日ローレンの部屋に通って、無理に部屋に入って、一緒に食事をしたり、紅茶を飲んだり、服も買い与えたし。

 そういえば大会の得点に歓喜してローレンを抱き締めなかったっけ?

 ローレンの背中をばんばん叩いたし、さっきだってローレンの肩を抱いたよな?

 そもそも自分の部屋の前に引っ越させるって──


「うわあああああああ!」


 俺はなんてことを!

 女性に対して、そんな、馬鹿な!


「……貴様、本当は彼女が女性だと気付いていたんじゃないか? 襲うつもりだったとか」


 じとりと睨みつけてくるベンは、我が物顔でタオルを使い、我が物顔でブレンダンの服を拝借して着替えている。しかし、今はそれを咎めるところではない。


「気付いてるわけないだろ! 女性だと知ってたら一緒に暮らすだなんて、そんな大胆な……ひゃああああ!」


 ブレンダンは自分の行為を思い返して、再び頭を抱えた。

 自分としては男に対する行動だったが、ローレンが女だとすると、今までの動きがまるで違う意味を持ってくる気がしたのだ。

 部屋に通うだなんて、そんな、こ、恋人じゃあるまいし!


 ベンが呆れがちに嘆息付いた。


「自分で言って自分で恥ずかしくなるなよ。……しかし、女性か。弓の大会に女性が出場するのも、ましてや優勝するのも史上初だろうな」


 優勝。その言葉で思い出した。


「はっ! そうだ、もし調査隊の隊員にローレンが女だと知れたら、余計に不満を持って統率が取れなくなる……」

「駄目な隊員だな。女性だからといって仲間にしたくないというのは明らかな差別だぞ」


 そんなものはわかっている。しかし、ヒビナ国では男が働き、女は家を守ると昔から根付いた風習だ。それを当然と思うものもいて不思議ではない。


「無駄にプライドが高いんだよ! というより調査隊が駄目だと、ローレンの就職先がなくなる! ただでさえ移民なんかいらないと言われているうえに、女性だと知れたら……」


 ベンが腕を組みながら目を見開いた。


「なんて国だ。最も軍事力と国土を有し、最も栄えているくせに差別の温床じゃないか。女性も駄目、移民も駄目?


 これは見過ごせない。

 女性がひとり、差別国の犠牲になろうとしているのを看過するほど落ちた人間ではないのでな。


 彼女は我がフタサ国で面倒を見る。


 先の係員の話では幸いにも移住の手続きは済んでいないらしいし、我がフタサ国では男女平等を謳っており、女性の働き手が足りないくらいだ。あらゆる職種で女性を欲しているぞ。看護、介護、保育だけでなく、それこそ軍や建築でもな。女性が満足する国、第1位は伊達じゃないぞ」


 かちん、と来た。

 ブレンダンもヒビナを誇りに思ううちのひとりだ。


「は? ヒビナを馬鹿にするのか?」

「そう聞こえたか? その通りだ」


 偉そうに。ブレンダンはようやくベンを睨み付ける気力を取り戻した。


「そもそも君は誰だ? フタサの軍なら知り合いもたくさんいるが、知らない顔だ」

「俺はフタサの第4王子のベンだ。知らなくて当然だろう、公務にはほとんど出ていなかった」

「ぐっ!」


 王子といわれると、下手に反論できない。怒らせてしまえば国家間の問題に発展してしまうおそれがある。


 ベンはさらに思考を巡らせて、思い付いたように言った。


「それに弓の名手として特別誘致で俺の訓練の相手をしてもらうのもいいな。彼女のいいところを吸収して、次こそは弓で勝つ」

「駄目駄目。ローレンはヒビナに必要なんだ。ゴクラクの調査を指導してもらわないといけない」

「女性は、と差別するくせに」

「俺はしていない!」

「どうだか」

「はあ!?」

「とにかく、フタサに連れて行く」

「それは強引すぎる! 誘拐だ、誘拐!」


 むっとした顔でベンも睨んでくる。

 ふたりは互いに詰め寄った。


「聞き捨てならないな。彼女だってフタサを選ぶさ」

「そんなのわからないじゃないか! ヒビナは世界一だぞ!」

「なら彼女に選んでもらおう」

「上等だ!」



「……さよならー」


 風呂場から出てきて、そろーり、と背後を抜けようとしたローレン。その手をブレンダンとベンが掴んだ。

 びっくりしたあとで、ローレンは面倒くさそうに顔を歪めている。



「「俺とこいつ、どっちを選ぶ!?」」



「……なに言ってんですか?」



 心底、面倒くさそうな顔だった。

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