03 施設案内
「それでは」
アインラーデンがそう言うと俺達は設定したアバターに姿を変える。
「フム…まあこんなものか」
「わーお姉とリョウがおっきーし私、飛んでいるよー」
「この重量感は好きだな」
「では不具合もないようですので、ヴァルハラエリアに転移させていただきます」
そう、アインラーデンが言うと周囲の景色が、古代ローマ文明が平屋で長屋を建てればこんな感じか、と言うような建物が立ち並ぶ場所に転移した。
「こちらが神々の兵営、ヴァルハラの兵舎エリアとなります。見た目は数棟しかございませんが、扉を開いた者のホームエリアに自動的に転送される仕組みとなっています、後でご確認ください」
「わかった」
舞…ステップが代表して了解の意を示す。
「ではついて来て下さい」
と、アインラーデンについて行くと大きな神殿があった。
「こちらが下界とつながる神殿です。下界…通常マップへの転移やミッションを行う際はこちらを訪れてください。武具が破損・紛失した場合の補充もこの神殿で受けられます」
「了解だ」
「では、続いてこちらに…」
そう言ってアインラーデンは隣の建物に俺達を導いた。
「こちらはヴァルハラの武器庫となっており、基本的な武装を下界の金銭と引き換えに販売しています」
「基本的な武装とは?」
「はい、片手剣で例えますと木剣からブロンズ、鉄、鋼、ミスリル、オリハルコン製迄販売しています。カスタムは下界の鍛冶屋やプレイヤーのクラフト行為で行ってください。こちらは神々の工房の作品ではありますが、あくまでも量産品となりますので」
「…まあ、よくわからんが個人に合わせたカスタム武器が欲しければ下界の武器屋やプレイヤーメイドで…と」
「はい、しかし原則として英霊の皆様に求めますのは戦場での活躍ですので完全な後方生産職と言うのは想定しておりません、とお伝えしておきます」
「まあ、大体わかった…次を頼む」
こう言うのは何時もステップが主担当なので疑問が無ければ俺もトエルも口を挟まない。
次にやって来たのは学舎を思わせる建物だった。
「こちらはスキル教練所となっています。こちらでは行動履歴に基づいてスキルの取得が可能ですが、一度に所持できるスキルの最大値は初期で5つのみとなっています。これを解放するには下界のボスモンスターを打倒してください、1体撃破毎に最大スキル数が1増えます。但し、貢献度があまりにも低い場合は解放されませんのでご注意を」
「…つまりパワーレベリング的な方法ではダメ、ということだな」
ステップが少し考えて問うた。
「はい、完全後方職が成立しないのはこの為でもあります」
「ちなみに外したスキルはどうなる?」
「はい、効果が完全に失われ、再取得時はスキル熟練値が元値の半分になります」
「…ついでに聞いておくが、スキル無しでその行動を行おうとしたらどうなる?例えば投擲術無しに投石をしたりはできるだろう」
思いついたようなステップの質問にもアインラーデンはすらすらと答える。
「はい、無手による投石の場合ですと一切のモーションアシストとダメージボーナスを得られなくなります。逆にいえば十分にリアルスキルのある方が牽制に投石を行うのであればスキルの必要性は低いでしょう」
「了解した」
「では次に参りましょう…と言ってもスキル修練所の中ですが…」
次に案内されたのは広場だった。
「こちらは武器・魔法スキルの試し打ちや修練が行えるスペースとなっています。同時に門を潜ったメンバーと広場内にいる方とフレンド登録している方のみ侵入可能なインスタントエリアとなります。教官が必要な場合は受付で金銭をお支払い頂ければ基本は教授可能です」
「基本?」
「はい、その武具を使用して戦う場合の基本的な戦い方ですね、スキルに内包されるのはあくまでも思うとおりにその武具を振るい、行動する為のアシストですので」
「アーつまり、ここで修練を受けない場合は我流でやる事になる、と」
酷い罠であるな。
「はい、教授されるのは主に対人戦前提の技術ですので魔物相手にはどのみちアレンジが必要ではありますが」
「…了解した、後で杖術の講習を受けた方がよさそうだ」
「ではそのようにしてください…次もスキル修練所です」
アインラーデンは受付から見て真逆の部屋に俺たちを連れて行った。
「こっこれは…図書室!?」
…ステップの悪い癖が出た…彼女は本の虫、活字中毒者である。
「御覧の通り、資料室です…スキルの向上には実戦が何よりですが、初学の際はこう言ったものも必要となりますし、ある程度熟練した後、先に進むのにも重要になってくる事でしょう。蔵書数の都合、こちらもインスタントエリア相当になっております」
「ああ、もちろんだとも、私の楽園っ…」
「お姉…程々にね…?」
「もちろんだとも、だが二人とも都合のつかない時くらい籠っていても許されるだろう!?」
「あーうん…まあ、ここの本を読みたいなら…な?」
俺は少しあきれてそう言った。まあ、高校の図書データに熱中するのが先だと思うんだが…
「ではヴァルハラエリアの案内は以上になります…せっかくですし、さっそくミッションをお受けになりますか?」
「ミッション…一日一度だけ受けられるクエストだったか?」
「はい、そうなります」
「…ちなみに一番簡単なもので我々がクリアーできる確率は?」
「困難でありますが、不可能ではないかと」
「で、本来の受託想定は」
「下界で半日程度修練を積み、基本的な対人戦のスキルを教授されてから受ける事を想定した難易度です」
「ちょっと、何そんなミッション進めているのよ!?」
トエルが叫ぶ。
「申し訳ありません、創造主様の命令ですので…無鉄砲な英霊様には彼我の戦力分析もせずに戦場に赴くとどうなるか、体感させるようにとの事です」
そう、アインラーデンは少しも悪びれずに答えた。