16 東の森で5
それから暫く森で狩りを続けた頃。
「…しまったな、大分森の奥まで来てしまったようだ」
「そうか?まだクマも出てないし…」
「出てからでは遅い、引き返そう…と思ったのだが…」
「うん?どうした?何か出たか」
偵察術に何か引っかかったのかと俺は問うた。
「もしかしてフラグだったー?」
そしてトエルが不吉な事を言う。
「…そのようだ…気配が1つ、知らないやつだ」
そう言ってステップが指示した方には茶色い大きな毛皮の何かがいた…イノシシサイズではないな。
「逃げる…か?」
「逃げてみようか」
「えー戦わないの?」
俺達の判断にトエルが不満そうに言う。
「まあ、クマだしな…逃げられるなら逃げておきたい」
「あいつの爪、現実準拠だと鉄板位貫くはずだからな…俺のシールド、貫かれそうだ」
「はーい」
と言う事で撤退する事になった俺達はクマと反対方向へ下がっていく…がクマは鼻を上げて、ヒクヒクとにおいを嗅ぐ…そして俺達の方へ向きを変えた。
「気づかれた!陣形は狼と同じで始めてリョウとアインがトップに移行だ!」
ステップが叫ぶ。
「戦うしかないか」
そう言って俺は前に出てスリングを構える。
「はーい、行くよ、アイン」
「わふぅ」
そう言う事で、俺達は不本意ながらクマとの戦闘に突入した。
まず、向かって来るクマに俺がスリングで一撃を加える…が
「オイオイ、頭部直撃しただろっ!」
「クマの頭蓋骨は強靭で入射角によれば銃弾も弾くそうだ!」
クマは一瞬、怯んだものの真っ直ぐこちらに向かってくる。
「くっ…」
俺は二発目を構えて振り回す。
「【ファイヤーボール】」
「【ダークアロー】!」
そして二人の魔法と同時に二弾目が頭部に直撃する。
「やったか!?」
「リョウ、それフラグ!」
「クワーッ」
「ウーワンワン」
そしてクマはその場で立ち上がり、咆哮を上げる…痛かったらしい。それに対してアインは威嚇を行いさらに動きを鈍らせて、その隙に俺達は陣形を整える…俺はクマと対峙した。
「来いっ!」
クマは立ち上がり、爪で抱きつくような攻撃を放ってきた…俺はその両腕を盾と剣で弾くように対応し、俺は押しつぶされないように数歩下がり、クマは俺の目の前で四つ足になる。
「はあぁぁ!」
そこでクマの頭めがけて思いっきり剣を振り下ろした。
カーン
「グワォー」
しかし、甲冑を叩いた時の様に刃物としては弾かれ、それでも痛かったらしく、そんな叫び声を上げる。
「リョウ!離れろ!」
ステップの声に俺は後ろに跳び、クマから距離をとる。
「【アースブリット】」
「【ダークアロー】!」
そして二人の魔法がクマに直撃する…魔法4発にスリング2発に加えて剣での打撃…そろそろ落ちて欲しいのではあるが…
「グワァァァァ!」
クマが怒り心頭と言った様子で叫び声を上げる。
「しぶといな…すまない、リョウ、盾役頼む」
「はいはい、了解」
そう言って俺は再び盾役になる。
クマは大きく口を開け、噛み付き攻撃を仕掛けてくる…それを俺は鼻先をシールドバッシュで殴る事によって対応し、怯んだ所に胴体へ剣を突き入れる…が頑強な毛皮に阻まれ、刃が入らない。
「嘘だろ!?」
「「リョウ!」」
ステップとトエルの叫びの直後、俺は暴れるクマに巻き込まれて地面に倒れ伏し、結果、クマに押し倒される形になる。
「ワンワン!」
俺の頭に噛みついて止めを刺そうとするクマにアインがタックルをして時間を稼いでくれた。
「【ファイヤーボール】」
「【ダークアロー】」
そこへ三度、二人の魔法が直撃する…さすがにモブであるクマにそれに耐える耐久力は設定されていなかったようで、クマはやっと光の粒になって消えていった。
「あ、危なかった…」
「そうだな…言い忘れていたが、クマの毛皮はかなり強靭だ…人間の力では歯が立たないと言われるほどに…まあレベルが上がってよい装備をしたらわからないが…な」
そう言いながらステップが俺に手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
俺はステップに引き起こされて立ち上がった。