2.平成の始まり
2.平成の始まり
翌日、新元号が発表された。
“平成”
「なんだかぴんと来ないね」
「そのうち慣れるよ」
「それより、結婚式ってどうなっちゃうんだろう? 今年いっぱいはお祝い事をしちゃいけないなんてことにならないよね…」
「そんなことはないと思うよ。せいぜい今月いっぱいくらいじゃないのかな」
「それならいいけど…」
このときの妻の心配はあながち大げさなものではなかった。天皇の容体が良くないというニュースが暮れに流れてからは世の中が急に自粛ムードになった。忘年会や新年会もキャンセルする傾向になり、崩御されてからはさらに拍車がかかった。テレビのCMが無くなり、華やかなバラエティ番組や歌番組なども姿を消した。そんなムードがいつまで続くのかと思うと、先行きに不安を感じずにはいられなかった。
年度が変わって4月に入ると、自粛ムードも薄れてきて新しい時代を突き進む方向に動き出した。そして、僕たちも無事に結婚式を迎えることが出来た。
5月6日、大安。
東京上野、不忍池の近くにある結婚式場。
支度を終えた妻の様子を窺いに僕は妻の控室を訪ねた。
「どう?」
鏡に映った僕の姿に気が付いた妻が鏡に映った僕に声を掛けた。
「きれいだよ」
「良ちゃんもカッコいいよ」
お互いに照れくさそうな笑みを浮かべて鏡越しに見つめ合った。
式は滞りなく執り行われた。
二次会、三次会を経て帰宅したのは日付が変わろうかという時間だった。二日後には新婚旅行に出発する。
翌日は旅行準備を行って、再び上野へ。上野のホテルで一泊してから成田へ向かう予定だ。新婚旅行の行き先はグァム。本当はハワイにしたかったところだけれど、ほとんど貯金がなかった僕は予算面で妻に負担を掛けさせたくなかった。新婚旅行の費用は妻が全部負担してくれることになっていたから。
「良ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」
できた嫁だ。僕はこの先、妻には頭が上がらないかも知れない。そんなことをふと思った。