14.平成の終わり、令和へ向けて
14.平成の終わり、令和へ向けて
妻と長女は仲がいい。親子というよりは兄弟のようだ。長女が彼氏と同棲を始めると、ちょくちょくその同姓相手の家を訪ねている。長男と違って長女はまっとうに育っている。
いや、長男がまっとうではないということではないのだけれど。まあ、過去にはいろいろあったけど、今は結婚に向けて必死に頑張っているようだ。ちゃんと仕事もしている。コンピューター関係のソフト開発などという仕事をしているらしい。ゲーム好きがこんなところで役に立っているみたいだ。それでも妻はまだ長男のことを信用していない。
長女は僕に似てなかなかの美人でモテる。小さいころから彼氏に不自由はしていないようだった。新しい彼氏が出来るたびに僕に紹介してくれたものだ。
「ちゃんとした仕事に就ける男」
それが付き合うために僕が出した条件だった。今度の彼氏はそういう男なのだと毎回のように紹介してくれた。「そういう人としか付き合わないの」とでもアピールするように。
ところが今の彼氏はフリーターなのだという。付き合い始めた時も、同棲した後も紹介してもらってはいない。彼がちゃんとした仕事に就かないようであれば、僕は結婚など認めないだろう。それは妻とて同じはず。同棲くらいならまだいい。結婚となると話は違う。
平成最後の正月を迎え、長女が家に帰ってきた。妻と目配せをしながら妙にかしこまって僕の前に座る。
「話があるの」
いよいよ来たか。そう思った。どうやら妻とも話が出来ているようだ。そうであれば、「はい」と答えるしかあるまい。
「結婚します」
だろうな。そのタイミングで彼の登場。なんや、おったんかい! もう、どうにもならんやないかい! でも、ただ、一つだけ確認しておかなければならないことがある。
「△△くんは仕事が見つかったのか?」
「今、就活中です」
「ちゃんとした仕事に就くのが条件だからな」
「はい」
僕は彼を睨みつける。しかし…。
「ところで、野球をやったことはあるかい?」
「野球部でした」
「じゃあ、ソフトやれ」
「解かりました」
その瞬間、彼のハードルは少しだけ下がった。
結婚したら、ウチで僕たちと同居するという。長女が元々使っていた部屋で。
先日の日曜日、長女からメールが入った。
『今日は家に居る?』
『居るけど』
『じゃあ、手伝って。壁紙を貼り替えるから、剥がすのを手伝って』
『手間賃は高いぞ』
『出世払いで(汗)』
『冗談だよ(笑)』
午後、やって来た長女と二人で部屋の壁紙を剥がしていった。新しい壁紙は自分たちで貼るのだと言う。
「業者を手配してやるよ」
僕がリフォーム会社に金美しているから、その手の手配などお手の物だ。
「本当? でも、高いでしょう?」
「結婚祝いだ」
「やったー」
間もなく平静が終わる。新しい元号は“令和”に決まった。これからは新しい家族とともに“令和”を生きていく。
さよなら平成…。




