13.長男に振り回される平成(その3)
13.長男に振り回される平成(その3)
長男のゲーム好きは相変わらずで、ゲームを通じて知り合った女性と親しくなった。その頃から仕事を無断欠勤するようになり、職場の方からも、これ以上休むと解雇せざるを得ないというような通達が来た。本人は「もう辞める」あっさり言う。
そして、金融業者から借金をしている節があり、妙な電話がかかってくることが増えてきた。このままでは嫁と孫に迷惑が掛かりかねないと、妻は長男の嫁に籍を抜くように持ち掛けた。
嫁は今後のことも考慮して妻の申し入れを受け入れた。その頃から家に帰ってくることが少なくなった長男はある日突然、暴挙に出た。ゲームで知り合った女性のもとへ行くというのだ。しかも、彼女が住んでいる関西へ。
こんなろくでなしでも妻にとっては初めて産んだ子だ。旅立つ際にいくらか持たせたようだ。
「もう、縁を切るからね」
「解かった」
妻は悔しくて仕方がなかったと思う。僕はそんな長男に「二度貰った命なんだから大事にしろよ」とだけ声を掛けた。寒さが厳しくなる暮れの事だった。
年が明けた春先、妻からメールが届いた。『◇◇が帰って来た』と。聞くと、彼女には家族が居て、一緒に住んでいたわけではなく、彼女の家に近くにアパートを借りていたのだとか。ところが束縛がきつくてアパートに監禁状態だったとかで逃げ出してきたとのこと。住んでいたアパートの解約手続きもなにもせずに。
後日、改めて諸々の手続きをするために戻るという。そこでまた捕まったら大変だということで僕が護衛役として付いていくことになった。
朝、東京を立ち、昼頃、関西へ着く。住んでいたアパートへ行ってみると、数か月しかいなかった割には生活感が半端ない。まず、雑貨類は手配していたリサイクルショップに来てもらい、引き取ってもらった。それ以外はゴミとして分別しアパートのごみ置き場へ運んだ。それから掃除して不動産業者が来るまでにきれいに片づけた。
作業中、近くに住んでいるという彼女がやって来るのではないかと気が気じゃなかったけれど、何事もなく終えられた。そして、夜には東京へ戻ってきた。
そんな長男は現在、結婚を考えている女性と同棲中だ。




