12.長男に振り回される平成(その2)
12.長男に振り回される平成(その2)
高校を中退してからはアルバイトをしながら小遣いを稼いでいた長男。ほとんどはゲームセンターなど、遊ぶことに使っていた。まあ、親からせびることなくやっていたので自由にやらせていた。きっと、悪友たちにも奢ってやっていたりしたのだと思う。
小さい頃からゲームに夢中だった長男は夜遅くまでゲームに熱中する日々が続いていた。そんなある日、部屋から降りてきた長男が妻に訴えた。
「左手と左足が動かなくなった」
階段を這うように降りて来てそう訴えた長男を見て妻はすぐに病院へ連れて行った。もちろん僕も同行した。診察の結果、脳内の欠陥が破れたことによる症状で、すぐに手術しなければならないと言われた。僕も妻も真っ青になる。
「それなら、すぐにお願いします」
手続きの際に「術中に死亡する可能性もある」という文言が書かれた同意書にサインを求められた時には僕も妻もさすがに躊躇した。が、サインするしかなかった。
10時間以上にも及んだ手術を終え、長男は生還した。ただ、無事にとはいかなかった。左手と左足には麻痺が残る。手術前にそう言われていた通り…。
入院中、悪友たちは律義に見舞いに駆けつけてくれた。なんだかんだ言って、ただの悪友ではなかったようで安心した。驚いたのは女の子の見舞が来ることだった。それも、毎日違う子が来るのだ。長男がこんなにモテるとはそれまで知らなかった。
その後リハビリ専門の病院へ転院。ひと月ほどのリハビリを経て退院し、帰宅した。「麻痺が残る」そう告げられた時には僕も覚悟を決めた。介護が必要になるのであれば妻への負担が大きくなる。だから僕は転職も考えていたほどだ。リハビリは予想以上に上手くいき、日常生活には支障ないほどに回復をしていた。僕の覚悟も杞憂に終わった。ただ、麻痺が残っていることには違いなく、それは障碍者の認定を受けなければならないものだった。
自宅で普通に生活をする。それはさらなるリハビリにつながる。そして、何よりも良かったのは長男がそんな状況に陥ってしまったにもかかわらず、決して卑屈にならず、以前と変わらない精神状態でいてくれたことだった。
数か月後にはアルバイトが出来るほどにまでなった。そんな努力の甲斐あって前に述べたように公務員試験にも合格し、家族を持つことが出来たというのに…。




