10.おだてられて料理にハマる平成
10.おだてられて料理にハマる平成
長女の弁当を作るためにこれまでより1時間早く起きることになる。けれど、最近は弁当のおかず用の冷凍食品が充実している。ただ、時間がたった時にその味わいがどうなのかというと、たいていは残念な結果になる。
長女の弁当に欠かせないものがいくつかある。その最たるものが卵焼きだ。長女は甘い卵焼きが好みだ。僕自身は卵が苦手だから味見などはしない。いや、出来ない。だから、味付けは適当だ。鶏がらスープとみりん、砂糖に醤油を数滴。どんな味がするのか確かめたことも想像したこともないのだけれど。長女はこの卵焼きがお気に入りだ。焦げないように弱火でじっくり火を通す。これがことのほか時間がかかる。
次に欠かせないのは赤ウインナー。これをタコやらカニやらに見立てて切り込みを入れて炒める。手足がちぎれないように気を遣いながら。
ご飯はゆかりごはん。
そして、ここからが一番重要なところ。見栄えだ。彩りよく、今で言う“映え”が大事なわけだ。こうして、キャラ弁とまではいかないまでも“映える”弁当が完成する。
「〇〇ちゃんのお弁当、うらやましー」学校でそう言われたなんて話を聞くと、手が抜けなくなる。でも、ある意味、楽しんでやっている僕がそこに居ることに気が付く。
長女のお気に入りは弁当のおかず以外にもある。カレーとポテトサラダだ。
カレーは市販のルーを使って作っているだけだ。なのに、「パパのカレーが一番おいしい」などと言う。僕にしてみれば、カレー専門店やレトルトのカレーの方がよっぽど美味いと思うのだけれど。
ポテトサラダに至っては総菜として売っているものや、レストランなどで出されるものなどは一切口にしない。「パパのポテトサラダを食べられない世の中の人は不幸だと思う」などと言う。大げさだとは思いながらも顔がにやけてしまう。
最近は長女も自分で料理をする。けれど、「パパと同じように作ってるのにどうして私が作るのは美味しくないんだろう?」などと首をひねる。いや、決してまずくはないと思うぞ。食べたことはないけど…。
こうして、娘におだてられながら、せっせと飯の支度をする。仕事が休みの時は三食作る。
「今日は何?」
期待に胸を膨らませて鍋の蓋を開ける長女の顔を見るのが楽しくて仕方がない。




