1.昭和の終わり
1.昭和の終わり
昭和64年1月7日、土曜日。
僕は妻の実家に居た。年末年始休暇を田舎の大分で過ごした後、1月6日の夜に妻の実家に遊びに来ていた。まだ結婚前の事だ。1月8日までの年末年始休暇の最後を妻の実家で過ごすために。
朝、目覚めて居間に立ち寄ると、妻の両親がテレビの前でじっと画面を見ていた。昭和天皇の画像が流されているようだった。正月なのでそういう画像が流れていても違和感はなかった。特に義母の方は皇族に興味を持つ人だったから。
「おはようございます」
「ああ! 良ちゃん、大変よ! 天皇さんが死んじゃったって!」
「えっ?」
テレビの画面をよく見ると、画面の右上の方に“昭和天皇崩御”の文字。
「うわぁ、これは大変なことになりましたね」
「本当よ。どうなっちゃうのかしら…」
それから、妻と義妹二人も起きてきた。
「えっ? 天ちゃん死んじゃったの?」
二番目の義妹が言った。恐れ多くも天皇陛下を“天ちゃん”って、友達みたいに呼ぶ辺り、今どきの子だと思った。
それからはずっと、みんなでテレビに釘付けだった。しかし、そのうち父親はそそくさと身支度を始めると、釣り竿を抱えて出かけて行った。
「ねえ、おなか減ったよ。ご飯は?」
末の義妹が言うと、義母はそれどこらじゃないとテレビの前を離れようとはしない。仕方なく冷蔵庫から有り合わせのものを取り出して食べていた。
どの時代の時もそうだったのかも知れないけれど、昭和の終わりもこんな風に突然訪れた。