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飴と鞭を与えよう

皆さん、一月ぶりです!



「好い目ですね……お嬢様もそう思いますよね? はい、そうですか」


「……! ………………!!」


「分かりました。奴隷商さん、しばらく私たちだけにしてくれないでしょうか? 少し、こちらの奴隷たちと話がしたいのです」


 もちろん、そんなことを言っても奴隷商は簡単に肯定などしない。

 彼も商売をやっているのだ、責任は取らずとも金は盗ろうとしているのだ。


 なので、手を握って交渉するふりをして、こっそりと金貨を掴ませた。


 相手もいちおうは商人なので、その感触と重さだけで自分が握ったものがいったいなんなのか理解し──笑顔になる。


「ど、どれくらいでしょうか?」


「そうですね……五分、では?」


「そ、それぐらいでしたら……」


 ニマニマと金貨に想いを馳せる奴隷商は、そう言って俺たちを残してここを空けた。

 扉が閉まり、気配が遠ざかった瞬間──第二王女が俺の服を掴んで持ち上げる。


「おい、どういうことだよ」


「……ああ、ちょっと待て。先に人払いを済ませておく──『尋問』」


 使い方がアレな暗示ワードだったので、その単語を聞いた奴隷たちがビクッとしているが……発動するセットは同じなので、そこら辺は気にしないでもらいたい。


「じ、尋問すんのか?」


「するわけないだろう。これは魔法を一気に使うための起動呪言(コマンド)……だっけ? まあ、そういうヤツだ」


「す、スゲェな……姉もそんな簡単に使ってなかったぞ」


「俺は異世界人だからな、優秀なんだよ」


 受け答えが面倒だったので、返事を適当に返しておく。

 ちなみに効果は──時間停止・空間隔離・本音吐露・加虐増幅……などなどだ。


「それじゃあ奴隷ども──『聴け』!」


『……ッ!』


 いっせいに奴隷たちの首に付けられた輪っかが輝き、強制的に俺を見なければならなくなった。


 早い話、さっきまでの時間で首輪に催眠を掛けて俺を主として認めさせていたのだ。

 ちょうど先ほど言った起動呪言(?)とやらが、首輪経由で行動を強制している。


「今日から俺がお前たちの主だ。拒否は認めないし、そもそもできない……お前らの首輪がその証拠だ」


「ふ、ふざけ──」


「おっと、忘れていた──『黙れ』」


 俺が主として登録されていることを理解させるため、もう一度命令して認識させた。

 この時点で、奴隷たちは俺がどれだけ最悪なヤツなのかを察するだろう。


「テメェ!」


「ぐふっ……」


「何やってんだよ! 強引に奴隷にして、しかも意見を聞かねぇだと……なんでそんなことを平然とやれんだ!」


「かはぁっ……」


 そして打ち合わせをしなくても、第二王女はこういった行動を取ってくれる。

 奴隷たちに対して絶対的優位な俺を殴るその姿は、とても好意的なものとなるだろう。


「早くやめろ!」


「……はいはい──『命令を解除する』」


 俺の言葉を受けて、彼らは声を出せるようになるし、こちらを見なくても良くなった。


 だがしない、今この光景を見ることを自発的に促すことができた──真っ直ぐなバカにはこういう使い方に向いている。


「これでいいか?」


「ふんっ……大丈夫か、お前ら?」


「えっ? あ、ありがとう……?」


「悪いな。普段はあんな奴じゃ…………あ、あんな奴だけど悪い奴じゃない……と思う」


 全然信用されてないな、俺。

 別にそういったものを求めているわけじゃないし、むしろ好意なんてものは犬やバカにくれてやった方が喜ぶだろう。


 奴隷がお礼を言ったことに満足気な第二王女だが、少しして改めて俺の服を掴みだす。


「おい、なんでここに連れてきた」


「見ての通り、奴隷を買いに来たんだが?」


「て、テメェ……」


「おいおい、落ち着けよ。俺が()を無駄に使うわけないだろ?」


 その発言だけで、この場に居る全員から等しく冷たい視線を浴びることになるが……先のワードで冷徹になった思考は、いっさい怯えることなく冷静に判断を下す。


「まずは──『回復』」


『……っ!』


「とりあえず、これでお前らは動ける。病気とか状態異常、呪いなんかは解除できただろうし。次は……飯だな」


 それぞれの檻の中へ、異空間から料理を取りだして突っ込んでいく。

 自殺を防止するため、今は皿以外の食器は提供せずにただ並べていくだけだ。


「ほら──『早く食え。食いたくなくなるまで全部食え。足りないならお代わりしろ』」


『は、はい!』


「ふぅ……って、どうした? そんな、ありえない光景を見たような顔をして」


「い、いや……まあ、うん、なんでもねぇ」


 俺はそう尋ねたが、おそらく第二王女の抜けた脳内ではシスコン第一王女を救おうとしたことでも思い返して、いちおうは納得しているのだろう。


 あれもあれで、打算だらけだったな。

 奴隷たちは俺が大量にストックしていた料理を貪り、獣のように喰らっている。


 うちで料理を作るのは、しっかりと料理スキルを持っている奴らだしな。

 不味いはずがないのだ──俺も協力して、ちゃんと味見までしたわけだし。


「それで、俺がしたことに何か悪いことでもあったのか? こっちを見させたのは、まず無視する奴が居たから。黙らせたのは、先に話しをしたかったから。それで、俺が悪かったのか?」


「……やり方があるだろ」


「ハァ? いちいちそんな無駄なことをしてなんの得があるんだよ。俺は俺が一番得をするようにしか動かねぇよ」


 まだ何か言いたそうだった第二王女だが、奴隷たちの表情を見て……妙にニマニマしてしたり顔をしだす。


「まあ、いいや。イムはイムだし、オレより頭がいいんだから任せるわ」


「……別にいいけど、もう邪魔すんなよ」


「分かってるよ」


 本当にそうなんだか……奴隷たちに並べた皿も、そろそろ尽きる。

 お代わりを何回されるんだか……。



それでは、また一月後に!

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