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眠らせよう



 王城の中庭は平地に整備されており、武器や魔法などの戦闘訓練にうってつけの場所である……俺としては、その用途ではなく昼寝スポットとしての良さを語りたいが、今は止めておこう。


 中庭は兵士たちが使っていたのだが、面倒な事情を簡潔に説明したらあっさりと貸してもらえた。


 ただし、とてつもない同情の視線が居た堪れない俺への思いを伝えてくれたよ。


「ルールはどうする? 参ったって言った方が負けにするか」


「へっ、それでいい。異世界人の力がどれほどのものか……見せてもらうぞ」


 兵士、メイド様、国王が観ている中、俺たちの闘いが始まろうとしている。

 互いに模擬戦用の武器を握り締め、不殺という暗黙の縛りの中闘志をぶつけ合う。


「ところで、どうしてそこまでして闘おうとするんだ? 女だから、なんてつまらない理由じゃないんだが、わざわざ異世界人と闘おうとする理由が分からない」


「理由? んなもん、テメェにはどうでもいいことだろ。……まあ、オレに勝ったら教えてやってもいいぞ」


「そうか。なら、やる理由が一つ増えたな」


 強い意志の下に、覚悟を決めた。

 この大衆の中で、行うことにほんの少しだけ緊張をして汗が流れてくる。


 誤魔化すように強く武器を握り直そうとするが、汗のせいか少し滑ってしまう。


「では、二人共準備はいいな?」


「ああ」

「早くしろよ」


「…………では、」


 娘からの評判が悪い父親が、それでもどうにか威厳を保とうと開始を告げようとする。

 大きく息を吸い、俺たちの闘いを──



「始め」

「──参った!」



 告げ終える前に、降参を宣言した。

 これにて、一件落着だ。






 となれば、俺も気分よく昼寝の続きができたかもしれない。


『イム様、次はお願いしますね(ニコリ)』


 メイド様からありがたいお言葉を受け、俺のやる気は非常に()がった。


「……ハァ、面倒臭い」


「くっ、この……」


「どうして俺が、わざわざここまでしないといけないんだか」


「ふざけんじゃねぇっ!」


 姫としての威厳がゼロの発言ではあるが、この状況を分かりやすく伝えてくれている。

 そもそも、俺に勝つことは今のユウキでも難しくなっているのが実情だ。


 異世界転移者(クラスメイト)のスキルの、メリットとなる部分だけを取り入れたステータスだぞ?

 自他ともに認める、チートな能力さ。


「少なくとも、俺はこの世界へ来たばかりの勇者様程度には闘えるぞ。俺に勝てない今のお前じゃ、相手もしてもらえねぇよ」


「まだ……やれるっ!」


 まあ、ユウキのことだ。

 来た女性は必ず相手をするだろうし、闘いもしてくれるだろう。


 赤髪の王女、なんていかにもアイツのハーレムに加わりそうだしな。


「嗚呼……面倒臭い」


 弓ではなく剣で相手をしている時点で、彼女にとって舐められていると思えるだろう。


 実際、俺の武器なんてなんでも構わない。

 そのことを知っているのは俺の部下だけだし、今回の闘いでメイド様が気づくだろうが今は関係ないからな。


 最近手に入れた聖気運用系のスキルを用いて、拳にオーラ的なモノを纏わせる。


「その光、聖気だよな?」


「説明する義理はないんだが……まあ、正解だ。けど、それがどうした?」


「テメェは聖人か! なんでこんな場所に、テメェみたいな奴がいる!」


「なんでって言われても……派遣されたからに決まってんだろ」


 質問の意図がまったく分からない。

 今では量産されるような聖人で、その気になれば俺でも創りだせる存在だぞ?


「なんで闘わねぇ! 聖人なら、何かできんなら動けよ!」


「……なあ、お前の娘はどいつもこいつもトラブルの種を持ち込まなきゃ気が済まねぇのか? 俺、関係ないだろ」


「その力を隠していたから、その問題が露呈したのだ。私は悪くない」


 怒りながら泣くという器用なことをする第二王女を見ながら、深くため息を吐く。


 聖人、聖人か……この国の誰かが聖人だったってパターンか? 少なくとも、漁った資料に王族の名は載ってなかったぞ。


「聖人は心まで聖人ってか? バカ言え、生きてりゃ欲に塗れるのが人間だろ」


「け、けど……」


「ケドもセロもレロもねぇ、俺は無理にこの世界へ呼ばれたんだ。何一つ、この世界のためにやることなんてねぇんだよ」


 まあ、生きるために必要なことであればやるんだけどさ。


 国王はそれが分かっているからこそ、しっかりとしたデメリットがほとんど存在しないメリットを提示する。


 俺もそれをメリットと認識して、だからこそこの国のため人働く。

 ギブ&テイクもできないで、正義論だけを理由に働くのはユウキみたい主人公だけだ。


「終わりにするぞ」


「うぐっ」


「『眠れ』」


 ギリギリまで抵抗を続けていたが、直接剣の腹の部分で叩いてそこから魔力を流した。

 そこから精神へ干渉させ、意識を強制的に遮断……はい、これで終了だ。


「なあ、国王。コイツも固有スキルで云々とか問題があるのか?」


「……いや、固有に関わらず希少なスキルを持ってはいない」


「それであの戦闘力か。力に傲った奴より、やっぱりああいう奴の方が面倒臭い。──次からはこういうことがないよう、ちゃんと父親としての義務を果たせよ」


「あ、ああ……善処する」


 隣で一礼をするメイド様に手を振って、俺はアシが待機している場所へ向かう。

 ……これ、どうせ面倒なパターンになるのが確定なんだよ。



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