現場に行こう
「……うわっ、凄いことになってるな」
マチスとメィシィの反応がある場所へ向かえば──そこには血溜まりが存在した。
転がる死体は合計四つ、なんだか変な実験の跡がある人工聖人っぽいのもいる。
「主、お疲れ様でございます」
「結構簡単だったし、労う必要も無いさ。それよりも──あれは独りでやってたのか?」
「はい、いくつかの取り込みも行えていましたので、新たなスキルも芽生えたかと」
「そこはどうでもよかったが……まあ、生き残る術が増えたみたいで何よりだ」
俺の施した力により、メィシィは死者の能力を扱うことができる。
いくつか制限があるので発動は難しいのだが、人工聖人たちの魂は取り込めたようだ。
逆に、復讐対象となる研究者は魂をズタボロにしてあるな。
特に便利なスキルを持っているわけでもなさそうだし、実験材料にしておくか。
「あっ、イムさん!」
俺に気づき、パァッと明るい声で話しかけてくるメィシィ。
ただ、体中に血がベットリと張り付き、猟奇的に見えるのは気のせいだろうか。
「メィシィ、とりあえず血を拭っとけ」
「あっ、はい。──“清浄”」
魔法を使うと、魔力によって血は一瞬でどこかへ霧散する。
地面に落ちるわけでも蒸発するわけでもなく、消え去ったのだ。
……魔法の研究、する必要があるのかな?
それならすぐに、依頼しておこうか。
「イムさん、やりました! みんなの仇、見事討てましたよ!」
「そうか……おめでとうだな。復讐を遂げたお前はもう空っぽ。死者たちの無念も晴れただろ?」
「はい。ですのでイムさん、お願いしたいことが……」
「ああ、分かっているさ。マチス、例の物を頼む」
そう指示すると、マチスは小さな袋をメィシィに放り投げた。
彼女はポトッと手の上に載ったそれを開いて、中を覗いてみる。
「……これは?」
「アイテムボックス……って言っても分からないか。空間魔法で収納量を拡張した魔道具だ。大量に金を入れてあるから、好きに使ってくれ」
「えっ? いや、あの……その……」
「試作型とはいえ、いくつか魔道具も入れておいた。金が使えない時のために宝石とかも入れてあるから、まあ死ぬまで苦労はしないと思う──」
「ま、待ってください!」
説明の最中で止められてしまった。
マチスのこめかみがヒクヒクしているが、半ば俺も理解していたので宥めておく。
「わ、私は! イムさんに今後お仕えしたいです! これを受け取っておさらば、なんて嫌ですよ!」
「……本気か? てっきりもっと別のことを言われると思ったんだが」
自分をこの状態で生みだした責任を取れ、とかそんな感じのセリフを言われると予想していたんだが……あれ、仕えたいの?
「マチス、どう思う?」
「実力はまだ未熟なものですが、可能性ならばかなりあるでしょう。彼女は元は人間……人は魔に属する者とは異なり、驕ることなく生きますので」
「……導士で導きやすいと」
「すでに導かれておりますよね?」
うん、リストに記されている。
しかも、メィシィに内包された魂すべてが記されているから、なおのことビックリだ。
「導士として、新たな力に目覚めさせてくれた礼もある……まあ、いいだろう」
「本当ですか!?」
「だが、傍においてほしいというのは無理だからな。とっくに従者は足りている」
「構いません。イムさんの近くに居られるなら、それで充分です」
奇特な子だな。
洗脳はしたが、悪影響を与えるようなことはしてないはずだった。
復讐が終わって、進むのを止めたからか?
停滞した者は、【停導士】に導かれる運命にあるからな。
「ふーん……マチス、仕事あったっけ?」
「いくつかございますが、今のこの者では力量不足のものばかりです」
「な、なんでもやります! ですので、やらせてください!」
両拳をギュっと握って懇願するメィシィ。
ああ、大丈夫だから。
一度受け入れたからには、しっかりと世話するよ。
「……まあ、本人がそういうみたいだし、とりあえず力を蓄えてからだな。じゃあもしものヤツ、用意はできているか?」
「試作段階でしたが……たしかに、若干の不安はありますが使えますね」
「よし、ならそこを使おうか。マチス、ここにもう用はない。俺直々に後片付けをしておくから、お前はメィシィを連れて例の場所へ行ってくれ。そこで、メィシィがお前に傷を付けられるようになるまで修業もな」
魔龍であるマチスに傷を付けられれば、立派に勇者級であると認定できる。
そこまでいけば、面倒事を任せられるようになるだろう。
「はい、畏まりました。主もお気をつけて」
「い、イムさん……」
「お前が俺に何を懐くか……頭が悪いし、考えるのが面倒だからよく分からない。けど、何かを貫くことって大事だと思うぞ。俺も面倒事は嫌だって貫き通した結果──こうして頼れる者に逢えたんだ」
俺の腕となり足となる者たち。
地球では決して縁の無い存在だったが、この世界で見つけることができた。
まあ、別に完全な道具扱いをするわけではないし、できるだけ友好的な関係を貫いておきたい。
「また会おう。悪いがこのままじゃ──導きに呑まれたままじゃすぐに死ぬ。だから強くなって、制御してから再会しよう」
「……よく分かりませんが、強くなったらまた会えるんですね」
「ああ、そこのマチスが認めたらな」
「──分かりました! もう一度会えた時、絶対に話を聞いてくださいね!」
「ん? まあ、別に良いけど」
それを聞くと納得したのか、メィシィはマチスに連れられてとある場所に向かった。
神聖国観光もそろそろ終わり時、フィナーレはどうしようかな?
更新は再び二カ月に一度に戻ります……他の山田武作品もよろしくお願いします。