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復讐を始める



「さて、今頃頑張ってるだろうか」


 すでにメィシィと別れ、この国の裏に隠された情報を集め始めていた。

 マチスと合流、そして行動させており、彼女がどうするかを監視させている。


「アイツ自身に憎悪は足りない、憎しみも欠けている……復讐はできない。けど、力を合わせればどうとでもなる」


 情報自体は、少し偉そうな奴や小物臭い男どもから集められた。

 クローン増産所とその技術、サンプルに関する情報まで盛り沢山である。


「一人はみんなのために、みんなは一人のために……だったけか? 素晴らしいことだ」


 陽動作戦は成功し、俺がやることはもう片付いたというわけだ。

 関係各所へのサービスもしておいたし、俺の行動を邪魔する奴はもういない。


「誰かに責任を押し付け、誰かの利益を貪る考え方。面倒事を嫌う俺にとって……嗚呼、実に最高な思想だ」


 お土産は掻っ攫って手に入れてあるので、もうここに来る必要はなくなった。

 あとはマチス……それに生き残っていればメィシィを連れて帰るだけだ。


 この国の悪事に気づいたユウキが動き、いつか正される色んな意味で正義に溢れた場所になる瞬間を、どこかで見ることになる。


「さて、アイツらはどこにいるのかな?」


 ふらふらと足を進める俺。

 その足元には赤色しか残っていなかった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ついてこい」


「はいっ!」


 イムと別れたメィシィは、一人の男性とともに動いていた。


 黒に近い茶色の髪色に合わせた格好をする男は、聖堂の中を忍ぶこともなく真っ直ぐに進んでいく。


「主の指示はお前……メィシィを守護だ。これから主に仕えるのならば、その実力をテストしろということだろう」


「や、やります!」


「ああ、お前の復讐対象は聖人のクローン研究を行っていた学者ども。主がお前のためにそのままの状態で置いておいたそうだ。場所は分かっているな?」


「はいっ!」


 イムに与えられた武器で身を包み、戦闘態勢を整えていたメィシィ。

 体の調子は起きてから絶好調で、万全の準備ができているとも言える。


「配下もいるが手は出さない。己が手で力を証明しろ」


 入ったその部屋には異常が集まっていた。

 禍々しい色をした薬品や腐臭のする生き物の部位、カプセルの中で蹲ったまま眠る少年少女たち。


 それを見届けるように、数人の男たちがその場には居た。


「おや? 招かれざるお客様のようだ。その見た目からして、聖人モデル『アリシア』の一体みたいだね。ここは立ち入り禁止だと刻み込んでいたんだが……エラーか?」


 中でも特別な勲章のような物をぶら提げた男が、メィシィを眺めてブツブツと呟く。


 人工聖人たちには生まれる前から呪印が刻まれており、聖堂に属する者の命令には絶対に従うようにしているはずだった。


 しかし事実この場に居るメィシィに疑念を抱きつつも、学者としての興味本位を掻き立たせ始める。


「私はメィシィ、偉大な御方によって力を与えられた者。貴方がたに復讐を遂げるため、地の底より蘇りし者」


「ふむ。その御方という者によって新たな名前を貰ったようだね。エラーもあるみたいだから命令は……『座れ』」


「効きません」


 魔力の籠もった命令。

 人工聖人ならば、この言葉を聞いてしまえば聖堂に属する者の言うことへ従う。


 これは絶対的な強制権によるもので、本人の意思に反して必ず命令が実行されるものであった。


 しかし、イムがリュフをメィシィに改造している際、さまざまな不必要な術式を見つけては取り除いていたため、機能を発揮せずに不発に終わる。


「──“聖迅剣”」


 聖人は体に聖気というエネルギーを宿し、人智を超えた力を扱うことができた。

 中でも聖迅と呼ばれる技術は、体や武器へ聖気を宿して戦いに用いるために使われる。


「おぉっ、まさか聖気が使えるとは! 地下に送り出した廃棄物はすべて聖気が使えぬ不良品だったというのに! 御方という人物、それを利用可能にしたというのですか!!」


「黙ってください。命令が効かないとはいえど、昔を思いだして腹が立ちます」


「ふむ。ならばこちらも、簡単に済ませることにしましょう──『こいつを殺せ』」


 その言葉にこの場に居た数人の者たちが、ふらふらと動きだす。


 メィシィ同様に白髪の少年少女たち。

 人工聖人の中でも、始めから聖気を扱える者たちである。


 命令に逆らえず、同朋を殺させることに対して必死に抗っているのか……握られた拳は出血をしていた。


『──“聖迅”』


 彼らもまた、聖気を操り自身の体や武器に纏わせていく。

 苦しもうと体は動き、傷つけたくない少女の元へ一歩一歩近づく。


「生きたいですか? 死にたいですか? 逝きながら死にたいですか? 死にながら逝きたいですか?」


「──『返事をするな』。君が与えられた力に関する質問なら、防いでおいた方が正しいからね。黙らせておいたよ」


「口が動かずとも意志は伝えられます、そのことを私は知っています。さぁ、想い(ことば)を交わしましょう」


 瞬間、メィシィと操られた人工聖人たちが戦闘を始める。


 ぶつかり合う力は空気を振動させ、極限まで強度を高められた人工聖人を仕舞うカプセル以外が次々と壊れていく。


 学者たちはただ、貴重な研究データとしてそれを眺め続けた……遠くでそれを観る男にも気づかず。



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