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星を眺めよう



 あれから数日後、条約の調印式が盛大に行われることになった。

 第三王女は堂々とした態度で、こっちの国の王との調印を行っている。


「はぁ~、疲れた」


《お疲れですか? 代わりの人形を置いておくことも──》


「いや、構わない。ブラドはそれより、今は第三王女の警護を頼む」


《……御意》


 俺の影に潜っていた従魔──ブラドにそう指示して式を見物する。

 ブラドは今回の旅で、もっとも直接的に(・・・・)働いた従魔である。


 血と闇を操る影の王で、とある迷宮に住み付いていたのをスカウトしたのが出会いだ。

 最初は刃向かうことが多かったが、催眠と洗脳を何度も行うことで忠誠を誓わせた。


 まっ、その二つの単語から連想されるような鬼畜なことをしたわけではない。

 ただ、ちょいと記憶を消しただけさ。




「さて、早く終わらないかなー」


 今回は完全に誰にも見えないような細工にしてあるので、わけの分からない放火魔に絡まれることはない。


 仰々しいこの場でやることもなく、結局飽きがやってくる。

 この国の宝物庫はとっくに漁ってあるし、図書館もすでに調べてあった。


「どうして○○式ってなると、必ずと言っていい程に長時間待機イベントになるんだ? いや、まあいいけど」


 地球なら辛かったイベントだが、こちらでなら対策の仕様もある。


「条件をイベント終了時か任意に設定して、充実時程の鈍足化を選択っと……よしっ、これでできた」


 楽しいものほど一瞬で時が過ぎ去り、つまらなければ長く感じた。

 地球でもよくあったその感覚を、今では魔法で再現できるようになる。


 精神と脳に働きかけ、この時間が楽しいと暗示を行う。


 ──すると簡単、一瞬で時が過ぎ去る。


 目の前の式が凄まじい勢いで進んでいき、気づけばフィナーレになっていた。

 王と第三王女が調印を交わした書類を互いに持ち、外務大臣が挨拶を行っている。


「……早口言葉みたいに感じるな」


 実際の充実時程は、そういう意味じゃないけどな。


 俺の興味の薄さを魔法が汲み取ってくれたのだろうか、本当に時間を速く感じられるんだよ。




 その結果会話もすぐに終わり、パーティーが始まる。

 お偉い様ってのは、何かめでたいことがあればパーティーに絡めるのが好きだ。


 自分たちには、それをするだけの財力がありますよ、というのを自慢するためだとどこかで聞いたことがある気がする。


「うん、俺にとってはただ飯を貰える機会だから別にいいんだが」


 テーブル一つに俺と同様の偽装を施し、そこに並べられた料理を異空間の中へ根こそぎ仕舞っていく。


 この世界って料理スキルがあるから、美味い料理を作れる奴が多いんだよ。


 たぶん、熟練度があるんだろうな。

 俺がスキルをコピーしてもすぐに習得できなかったのは、おそらく熟練度が取得する分まで足りて無かったから。


 そう考えれば説明がつく。


「じゃなきゃ、料理スキルを持っているだけで誰でも同じくらい美味い料理が作れるってことになるからな」


 もちろん、スキル関係なしで本人の腕も味に関わっているだろう。

 だがそれでも、スキルの有無でかなり違いが生まれるのがこの世界での常識だ。


 たとえば剣術スキル。

 これが無い奴は、たとえ必死に鍛えてきた者でも持っている者に負けることがある。


 だがしかし、持っていようとも持っていない者に負けることがある。


 ほぼ確実に勝利を得るのは──剣術スキルの持ち主であり、それに驕ることなく修練を行ってきた者だ。


「いやまあ、どうでもいいけど。コピーすればある程度のヤツなら倒せるし」


 ユウキの(神聖武具術)は戦闘系のスキルの中でも、勇者に与えられるような高位の戦闘スキルだ。


 それをコピーして習得しているので、並大抵の相手であれば、スキルを所持して熟練度上げをした者でも倒せるだろう。


 さらに言えば、真面目に戦わなくても勝利は得られるからもっと簡単だけど。




 パーティーは夕方に始まった式から続き、夜まで行われている。

 貴族たちの面倒なやりとりは、ごめんなので避難中だ。


 誰も居ないバルコニーで、俺は独り星を眺めている。


 どんな場所でも異世界でも、星は輝く。

 星座の配置は異なるが、どうせ排気ガスでさほど見えてなかったんだから関係ない。


 この世界は魔法がある分、自然が多めで空が汚れることが無かった。


「だからかねー、星があっちよりも多く輝いているや」


 満天の星空、それがそこにはあった。


「けどな、星は独りで見るものであっていっしょに観たいわけじゃないんだよ──王女様は、あちらのお偉い方とご挨拶をしていてはいかがでしょう?」


「……いい加減、飽きました」


「そりゃそうだ、お前にも暗示を掛けてここに来れないようにしたはずなんだが……どうやってここに来た」


「教えるとでも?」


「あー、まあそうか」


 無理に聞き出す必要もないし、本当に言わなきゃいけないような弱点なら、国益のためにも教えてくれるだろう。


「にしても、よくやってたな。あの気疲れ王様のシナリオって、面倒だったろ?」


「大変だったけど……ブラドさんも協力してくれたから特に問題はなかった。気疲れ王って、父上のこと?」


 まあ、第三王女はいい眼を持ってはいても審美眼に欠けているからな。

 というか、それ以上に巧妙な手口であの王が隠していたのだろう。


「そうそう。お前の父親は才能は無いが、努力の結果あの椅子に座っている賢王だ。カリスマも才能も無いのに、知恵とペテンだけで辿り着いた」


「……あの父上が?」


「だから気疲れ王だ。俺に意味のない思考を使い、お前を守るための策を必死に考え、自分がいつ王の座を降ろされても国が安泰であるように動いている……アイツが下りることなんて、はるか先のことだが」


 監視をしていて、分かったことだ。

 実に俺の過ごしやすい環境を整えてくれるあの王に、俺はある程度の協力をする。


 これまでの調査を見るに、あの国以上に住みやすい国は無いからな。

 ついに見つけた、俺の安住の地である。


「父上に……カリスマも才能も無い?」


「そうだ。カリスマに見えるものは、そう見せているだけの覚悟。才能に見えるものは、ただすべてを国に尽くして得た経験だ。どっちも王子にはあるから、国は安泰だぞ」


「そう、なんだ」


 気持ちが読み取れようと、それすらも隠してあの王はやってこれた。

 薄氷の上でどこまで足掻くんだか……。


「気にしようが気にしまいが関係ない。あの国は王が集めた優れた人材が、お前が知る以上に居るから全部やる。お前はただ、したいようにやってくれとさ」


「……したい、こと?」


「これからもお前の父親の指示に従って人形みたいに生きてくか、俺を国賓として未来永劫養っていくために尽力するかだ」


 できれば、後半を選んでほしいものだ。

 グータラするにも、今は王からの依頼を受けて居る価値を示している。


 そこで第三王女が介入して、俺を養いたいとでも言ってくれれば……自由だ。


「後半は絶対にしない」


「ハハッ、冗談だよ……チッ」


「本音が漏れてる、声も気持ちも」


 視えているみたいだが、別にバレても困るようなことを思わないからどうでもいい。

 というか、俺の気持ちが分かるなら全部俺の代わりにやってくれよ、秘書的な。


「……貴方の面倒だ、何もしたくないって気持ちは視える。けど、あとは分からない」


「それだけ分かれば充分だよ。俺が面倒だと思ったことを、お前が代わりにやる……それだけで俺は、自由にやれるんだから」


「そんな未来は、一生来ないと思う」


「ハァ……やっぱりか」


 実に残念な回答だ。

 いや、俺の求める回答をしたら、それはそれでまたペナルティーだったけどさ。


「でも……」


 第三王女は言葉を溜めた。


「あの国は、貴方を受け入れる。貴方があの国を護ろうとしてくれさえすれば、どんなに性格が捻じ曲がって性根が腐っていても構わない……国益ならば、その間は」


「ひどいな、俺みたいな善人にそんなことを言うなんて」


 だが、たしかにそうだろうな。

 そのうち第三王女にも、言わなきゃならないかもしれない。


 ──俺の願いと、王の目的を。



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