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同盟を結んでみる

お姫様サイドのお話です



 ──嫌い、だけど絶対に頼りになる。


 それが彼女──フレイアが、とある異世界人に関して評した言葉だ。


 個人的には、反吐が出る程嫌悪を感じる。

 思考は狂っており、我が儘で自己中。

 何一つとして、好意的に見られる部分は存在していなかった。


 だが、客観的に見るならば、彼は間違いなく優れた人物なのだろう。

 言われたことをしっかりとこなし、言われたこと以上の結果をもたらす。


 王家という絶対的な地位に居る限りは、彼の願いをある程度受け入れ、彼を手元に抑えておく必要があったのだ。




 彼女には祝福(まじない)があった。

 他者の気持ちを色として識別し、視覚で捉えることのできるその力は、彼女へとさまざまな恩恵(のろい)を与える。


 他者が表層で意識した本音が、彼女には手に取るように把握できた。


 時間が経てば経つほど、能力が強くなっていき、始めの内は気持ちを理解せずに済んだ者たちも、いつかは彼女の視界には気持ちが色の付いた靄のように込み上げて見えるようになっていく。


 彼女に接する際に思う気持ちには、いくつかのパターンがあると彼女は知った。

 王家の者への尊敬や畏敬、容姿に対する好感や嫌悪、指示された内容に対する不満。


 最初から順に少ないものであり、彼女の指示を本気で行おうとする者がほとんど居ないことに、彼女は早い時期から気づいていた。


 ……そして、好感や嫌悪に関してはひどいものである。


 幼い容姿に欲情する者や、自身の望む体型で無いからと内心で馬鹿にする者、果ては自身をどうこうしようと思う者までいた。


 最後の者はすでに国から追放されている。

 どうなったかを知る気が無かったので、その者がどのような想いを胸に抱いて国を去っていったかは検討が付かない。


 彼女に対する謝罪の念が湧いただろうか、それとも憎しみが湧いたのだろうか。


 ──このときの彼女は、その答えを後者だと判断した。

 人とは信じることができず、絶対に分かり合うことの無い存在だと理解していたから。




 だがそんな、人間不信状態になりかけていた日々も突然終わる。

 イカれた大国ヴァ―プルによって、数十人の少年少女が異世界から召喚されたのだ。


 その情報を探らせていると、ある日ヴァ―プルから書状が届く。


 綺麗な紙、美しい文字、……汚れた想いの念と共に届けられた書状には、召喚者を一人派遣することが記されていた。


 表だって抗うこともできず、最終的に召喚者はこの国へやってくる。

 異世界からこの世界に呼ばれた者たちは、基本的に黒髪黒眼が特徴だ。


 その者もまた、そんな例から溢れることなく黒髪黒眼の少年であった。


 彼女は召喚者に会わないように、その者が依頼などで別の場所に移動したときのみ行動するよう徹底する。


 ただでさえ、今は侍女も警備も付けないように王に嘆願し、独自に動くことを許されていたのだ。


 わざわざ興味本位で召喚者に会い、また嫌な想いを見せられるのは御免だった。


 故に彼女とその者──イムが出会うのは、彼が国に派遣されてから、だいぶ時間が経ってからのことになる。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 玉座の上で踏ん反り返り、自分たちにとって都合の良い話ばかりを提示してくる。


 自分の見た目が子供だからだろうか、兄や姉だったなら、もっとしっかりとした態度でこの話を進めていただろうか。


 この王のことだ。

 第一王子でも無い限り、その不遜な態度は変わることなどないだろう。


 あの王(ちちうえ)のことだ。

 それが分かっていて、あえて自分にやらせたのだろう。


 現在、彼女は訪問した国の重鎮たちととある同盟を結ぶべく、話し合いを行っている。


 ──が、それは対等なモノでは無かった。

 彼女は床で頭を垂れ、重鎮たちはそれを高い場所から見下ろすようにして話している。


 この国にも机や椅子、ソファーなどが存在し、対等に話し合うことはできた。

 ……それでもその選択を取らなかったことには、王の優越があったのだろう。


 彼女の国(バスキ)は小国で、この国(レンブルク)は中国。


 それは国が有するダンジョンの規模によって決められたのが大きかったのだが、そんな理由を忘れ、相手が小国であると舐めているのもまた事実。


 ──そしてその想いもまた、彼女の眼にははっきりと見て取れた。

 彼女はそれでも繕った笑みを浮かべ、指示された通りに同盟の内容を話し合う。


 今回の同盟は、王が戦火を避けるために用意した同盟だ。

 ヴァ―プルが今の勢いのまま助長すれば、召喚者を火種にして戦乱の世が始まる。


 魔王と呼ばれる存在を餌にすれば、召喚者たちはどの国へでも向かうだろう。


 異世界から呼ばれた、超人たち。

 彼らは偏った知識を与えられ、それが真実だと思い込んでいる。


 大規模な儀式魔法によってゆっくりと植えつけられた思想は、そう簡単に解除できるものではない。


(なんでそれを、された本人(あのひと)が理解しているかは謎だったけど)


 このこともまた、イムによって報告されていた。

 精神干渉儀式魔法……これは本来、禁術として記された負の遺産である。


 一度受けてしまえば逃れることは難しく、解除には膨大な年月かそれ相応の衝撃を受けさせる必要があった。


(……でも、それを知った王の顔は面白かった。取り繕っていたけど、かなり内心で焦った色を見せてたな)


 そんな風に、つい先日のことを思う。

 イムによる暴露は、ヴァ―プルに敵意を持つ国々には貴重な価値を持っていたのだ。


 そうして集めた情報を元に、王は同盟を結ぶことを決意した。

 そして今、彼女は同盟の提携を結ばせるためにこの場所に居るのだ。



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