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素晴らしき日々を過ごそう



 あれから数日が経過している。

 それは、俺にとって素晴らしい日々が繰り返されているとも言えるだろう。


 ただただずっと同じようなことを作業的にこなし、気が付けばもう寝る時間……実に最高だよな。


 ──ああ、関係ないだろうがここで龍に関する話のエピローグかな?


 実はあの後、レベリングのためにもう一度一人で訪れたのだが、そこに居たのは龍ではなくてゴブリン(キング)だった。


 龍によると、俺が従魔として龍を強奪した時点で、ダンジョン側が龍を召喚することができなくなったとのことだ。


 まあ、地下でヒ……ヒナギ君が大暴れだろうしな。

 ユウキへの“真理誘導”と敵討ちができた時点で、本当なら用済みだろう。


 もう、切り捨てられても仕方がないのだろうな──それにクラスメイトにいるスキルの持ち主が、新たに龍を従魔にできるのは困るのかもしれない。


「ふんふんふ~ん」


 そして俺はというと、そんな退屈で素晴らしい日々への讃歌を鼻歌で歌い、訓練場で弓による曲芸を行っている。


 ──矢の代わりに剣を、槍を、斧を放ち、的をちょくちょく壊していくだけだ。


 元素魔法で作った的なので、自由に破壊可能なので怒られる心配はない。

 やりたいように遊ぶ……嗚呼、実に素晴らしい時間ではないか!


「ふんふふふ~ん」


 七色の矢を同時に番え、それぞれ別の的へと当てていく。


 ある的は発火し、ある的は冷凍され、ある的は電気に包まれ、ある的はバラバラに刻まれていった。


「ふふんふ《主よ》……んあ? どうしたんだよ急に……って、もうそんな時間か」


 今度は身体強化をギリギリまで行った状態で、『天の矢』を放とうと思ったんだが……定時連絡が頭の中に響く。


「それで、地下に異世界人は居たか? ──『マチス』」


《いえ、全階層を捜索したのですが、残念ながら確認できませんでした。隠し部屋などは捜索できていませんので、そちらにいる可能性もあるのですが……》



 マチスとは、俺が与えた名前だ。

 魔の地龍ジェルスだから略してマチス。

 安直だが、その名を貰った側が納得しているんだから……特に問題はないだろう。


 マチスには、『王家の迷宮』の探索を行ってもらっていた。

 ヒ……ヒメル君に関する情報を探してほしかったので、頼んだのだ。


 まあ、居ないならいないで良いんだが。


「ああ、そうならたぶん脱出したんだろう。アイツはもともとダンジョン物の知識を掴んでいたんだろうしな。……で、何か特別な物は存在していたか?」


《隠し部屋の一つにすでに封印の解かれて散らかされた鎖と、最深層に何者かによって造られたと思われる住居が存在しました》


 鎖と人工の部屋。

 前者は多分ヒ……ヒナギ君のハーレムメンバーが封印されていて、後者は誰かが昔住んでいたんだろう。


 ヒ……ヒワリ君が造った物かは分からないが、誰であろうと居たことは事実だな。


「へえ、印は?」


《すでに用意してあります。いつでも主をお迎えできるように、準備は整えています》


「そっか。なら、そのうちそっちに行く。マチスはそこでレベリングを行ってくれ」


《ハッ!》


 頭の中に声が聞こえてくる感覚が消え、定時連絡は終わる。

 ああ、ちなみにだがマチスを俺は導いていないぞ。


 主の【停導士】では自分の成長が止まります、ですが自分はもっと主のために強くなりたい的なことを言っていたな。


 ……まあ、そこら辺は自由意思にお任せしておいた。

 うん、強い駒の方が欲しいからな。


「さて、続きだ続き」


 再び弓を構え、俺は矢を射っていく。

 無駄なことだと分かっていても、誰にも止められないこと……それこそが素晴らしい。


 ──ああ、実に最高な時間だ!




 ……俺を自由にしてくれよ。

 先ほどまでの解放感はどこかへ消え去り、今は憂鬱な気分が体中を支配している。


「ねぇ、イム。ちょっと聞いてるの?」


「……ああ、はいはい。聞いてますよ」


「絶対聞いてないじゃない。アンタ、今までこんな所に隠れていったい何をしてたの?」


 バレた、あっさりバレてしまう。

 龍を倒すのに貢献した和弓女子は、貰えた大量の経験値で一気に急成長(Lvアップ)を果たした。


 その結果、誰かを導かなければ然程レベルが上がらない『停導士』によって発動していた催眠魔法は、成長した和弓女子を遮るだけの性能を失ったようだ。


 ──別の方法を試さないとな。


「……ハァ、誰にも見られないで練習をしたかったんですよ」


「どうして? みんなでやった方が教え合うことができるじゃない」


「いや、俺はそういうタイプじゃないんで」


 むしろ、一人で黙々とやりたいタイプだ。

 だからさっさと帰ってくれ……塩撒くぞ。


「今、変なことを考えなかったかしら?」


「どうしてそう思ったので?」


「女の勘よ」


 たぶん、それは勘じゃない。

 それはきっと、自意識過剰と言うんだ。


 そう言うと絶対に怒られて面倒なことに発展するので、そっと腹の奥に流し込む。


「さっ、一緒に練習しましょ。イムの腕前を見せてほしいのよ」


「俺、人前だと性能が落ちるタイプだから」


「前に見せてくれたじゃないの。それとも、あのときよりももっと凄いのかしら? ならなおさら見たいわね」


 ……チッ、すっかり忘れてた。

 そういや見せちまった時があったな。


「……どうして、そこまでして俺に関わろうとするんですか? 学校でまったく絡んだことがないじゃないですか」


「別に、ただイムの弓の腕前が気になっただけよ。ダンジョンで見たとき、それは格段に向上していたわ。だってイムの狙った所に百発百中だったじゃない」


「まあ、練習しましたから」


 うん、コピーしまくったからな。

 和弓女子のスキルでもある必中スキルもコピーしてある。


 ──完全に遠距離系のチートだよな。


「それじゃあ、これからも俺は一人で練習したいんで、それじゃあ」


「まっ、待ちなさいよ!」


 それで待つのは、忠実なヤツかバカなヤツだけだろ。

 前者はマチス、後者は和弓女子だな。


 ……ハァ、勇者のパーティーメンバーに絡まれるなんて面倒だな。

 どうせユウキにホの字なんだし、さっさとアイツの所に行けば良いのに。


 そんなことを思いながら、追いかけて来る和弓女子からスキルを駆使して逃げ出した。


 ──嗚呼、本当に面倒だな~。



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