派遣先から戻ろう
皆さん、大変お待たせしました!
「……ついに、来てしまったか」
「あの、そこまででしょうか?」
「察してくれ。俺には負担が大きいんだ」
スキルの熟練度配りが上手くいって、奴隷たちが力を手に入れ始めていた。
ついでに身体能力が向上し、俺のグータライフがより実現していく……様子を見ていたというのに、王城からの呼び出しである。
「むしろ、王城に逝って何になる? あそこに行っても脅されて、やりたくもないことをやらされるだけだ……分かる、このままじゃまだ抗えないって」
「イム様……」
「はぁ、だから嫌なんだ。早く自由になりたいものだ」
今回はアシを使わず、とぼとぼと自らの足で移動することにした。
せめてもの抵抗、時間稼ぎぐらいにはなるかもしれな『ヒヒーン!』い……。
「なあ、俺は馬車を用意しろなんて言っておいたっけ? 寝ぼけてたかもしれないから、絶対無いとは言い切れない」
「いいえ、ございません」
「じゃあ、迎えに王女を載せてこいとかも伝えておいたっけ? 気のせいか、見覚えのあるヤツが居る気がする」
「いいえ、ございません」
よく俺の屋敷に来るようになっていた、第三王女──フレイアの姿が馬車の中に……。
扉を開けて中から降りると、ドレスの裾を掴み優雅な挨拶をして──
「父上とリディアより、イムを連れてくるように言われました」
「……アイツら」
「本気で嫌がってますね……ですが、今回は用があります。共に王城へ参りますよ」
「はぁ……逝ってきます」
こちらの心情を詳らかにしてくるヤツを相手に嘘を吐くこともできないし、そもそも隠すなんて面倒臭い。
──どうせなら心情から俺の発言まで予測して、勝手に対応してくれないかな?
◆ □ ◆ □ ◆
馬車から降り、王城の中を進んで王たちが待つ玉座の間へ。
そこには忌まわしき王とメイドが待機しており、こちらを嘲うように見ている。
「……偏見」
「と、言われてもな。お二人とも、俺が逃げようとしてたのを分かったうえで、迎えを出しただろう?」
「もちろん──」
「──当たり前です」
「……なっ?」
偏見でもなんでもなく、ありのままだ。
それはフレイアの反応が証明しており、そもそも俺も疑っていない。
「で、今回呼んだ理由は?」
「もう休暇は良いだろう。それよりも、イムには行ってもらいたい場所がある」
「行く場所? 俺は俺のために動くし、益が無いならやるわけ──」
「──ヴァ―プル、では伝わらないか。お前たち異世界人を呼びだした国が、国に派遣した者たちをいっせいに呼んでいるぞ」
……なるほどなるほど、それはそれは面白くなっているみたいで。
どうやらコイツらにとっても、そのイベントは──好ましいようで。
「俺は何をすれば?」
「何も……と言いたいところだが、国力を低下してくれれば助かる。それ以外は、こちらで手を打っておこう」
「イム様、こちらが依頼内容です」
スッといつの間にか近づいてきた最凶のメイドが、紙資料を渡してくる。
……やっぱりまだ認識できないか、悔しいがサボるのは無理そうだ。
「何々? これは……マジで?」
「報酬に加え、イム様の望む長期休暇を再度提供いたしましょう」
「それなら仕方ないか……」
呼んだ理由は分からないが、どうせ教えられるような表向きの理由はどうでもいい。
彼らが異世界人を呼びだす理由は、間違いなく俺──というか魔王だ。
前にそのことをユウキにバラしていたこともあり、何か国で決めたのだろう。
それを俺は知らないと勘違いしているのだから、実に笑える話である。
「異世界人が集められるのと同時期、王族もまた集められる。魔王が存在する間、人族同士で力を合わせようという会議だな……事実上、ヴァ―プルの独壇場ではあるが」
「王様だけでいいのか? それとも、他のヤツも入れるのか?」
「王族、だけだ。リディアにはその間、この国の守護を任せるつもりだ」
「そりゃあ安全だな……はぁ、だからここには来たくなかったんだ。せっかくののんびりバカンスが台無しだよ」
少しずつ、激動に呑まれていく世界……とかそんなモノローグが入るかもしれない。
別の大陸の『英傑』たちと戦ったと思いきや、今度はこの大陸の強者が集う。
異世界人は与えられた強力なスキルを成長させ、相応の振る舞いができるようになっているはずだ……それはある意味、収穫時なので楽しみではあるけど。
問題は今後、俺の扱いがどうなるかということだ。
魔王なら魔王でそっちに着けばいいし、裏切り者ぐらいならそのままでいる。
「──たとえどんな結論に至ろうと、我が国はイムを手放さない。これは約束しよう」
「……当然だろう。これまで俺が、どれだけこの国に貢献してやったと思っていやがる」
「それでこそ、イムだな。最悪、用意していた計画を前倒しにすればいい。そのときはイムにも手伝ってもらうがな」
「やだよ面倒臭い。だいたいそれ、面倒臭いだけで俺に全然メリットが無かったし」
そんなこんなで、俺は一度召喚された国へ帰らなければならなくなった。
そこで決まるのは、果たしていったい……ある意味、ドキドキワクワクだな。
それでは、また一月後に!
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