休戦しよう
皆さん、お待たせしました!
「そ、その……助けていただき、誠にありがとうございました!」
「えっ? あ、うん……そうだったな」
空間魔法で逃げただけの俺と違い、彼女はなんだか凄い技を使っていた。
そう考えると、功績的な意味でも明らかに俺の方が助けられている。
防衛システムが発動しなかったとはいえ、救われたのもまた事実。
少女の能力はまだ分からないが、それをコピーさせてくれる意味でも感謝しないとな。
「俺こそありがとうだ。ああ、自己紹介が遅れたな……俺はイム。どこにでも居る普通の一般人だ」
「い、一般人はここには来れませんよ!?」
「あれ、そうだったか? ……まあ、それとなく迷い込んだってことで」
「えっ? あっ……はい」
催眠魔法を使って誤魔化すという選択肢もあったが、ここは適当にはぐらかすだけにしておいた。
「わ、わたしはサリスです! あ、あの、イムさんは……どうして、わたしを?」
「助けてもらったお礼だ。あとは……いろいろと聞きたくてな」
「き、訊きたいこと……ですか?」
「ああ、よければだが聞かせてほしいんだ」
おどおどとした挙動を見せる彼女なら、質問に答えてくれると思った。
助け助けられのイベントを起こしたばかりなので、少し考え……頷いてくれる。
──まあ、いろんなことを尋ねよう。
◆ □ ◆ □ ◆
まずここ、特殊な異空間らしい。
どれだけ破壊行動をしたとしても、現実にはいっさいの影響を及ばさない……なんとご都合主義な場所なんだろう。
「へー、異世界人が先祖にいるのか?」
「そ、そうなんです。けど、わたしは全然強くないのに選ばれちゃって……」
選ばれる、とは神の加護を受けることなんだとか。
そして職業が書き換わり、何かしらの凄まじい職業となるらしい。
「今はまだただの【英雄】ですけど、功績を神様が見てもう一段階上の【英雄】になるんだそうです」
「【英雄】か……凄いんだな」
「で、ですが、あんまり……【英雄】って柄でもないのに、どうしてわたしなんでしょうか……」
「…………さあ?」
最後には逆に質問されてしまう始末だが、まあだいたい終わったので充分だ。
「わたし、あんまり戦いは好きじゃないんです……けど、神様は自分と組していない相手は倒せって伝えてきますし……【英雄】っていったい、何をすればいいんですか?」
「んー。俺の考えでいいなら、答えられるけど……まあ、そうだな。そもそもサリスはどういう奴が英雄なんだと思う?」
「そ、それは……や、やっぱり、誰かを救える存在……ですか?」
「なら、それが【英雄】という職業だ。人をたくさん殺した奴が英雄なんて言う奴もいるけど、その分誰かを救う奴もいる。サリスにとって【英雄】ってのは誰かを守ることができるんだろう? なら、それを目指そうぜ」
ちなみに俺にとっての英雄とは、俺の代わりになんでもやってくれる都合のいい奴のことである。
誰かのために、なんてことは言わないので俺のために頑張ってもらいたいのだ。
もちろん、自分が英雄になりたいなんて思わない……絶対忙しいだろう、面倒臭い。
「なあ、力を得られたとして、【英雄】は神様の言うことを聞かないとならないのか?」
「え、えっと、神様に背くことをすると、剥奪されるって聞いたことがあります」
「つまり、都合の悪い奴は処分されるってことだな。マジか、神ってどんだけ気儘なんだよ……まあいいか。ちょっと触るぞ」
「へっ? そ、そんな急に……!?」
催眠魔法を彼女自身ではなく、その神様とやらに繋がるシステムっぽい感覚と接続してみる……なんとなくだが、できた感覚だ。
そして、それをさらに改竄してみる。
具体的には、システムを一方的なモノとして、剥奪ができないようにしておく。
「……さすがに進化は無理か」
「あ、あの……その……」
「おっと、悪い悪い。とりあえず、逃げ出しても【英雄】は剥奪されなくなったぞ。自分の理想の英雄が職業としての【英雄】としてやっていることと違うと思ったら……そのときは、いつでも止められるぞ」
「えっ……ええっ!」
一方的に力を押し付けておいて、剥奪するのも自在なんてのは不公平だろう。
だからこそ、受け取ったモノをどうするかも彼女自身に委ねるべきだ。
……という口実はともかく、その神とやらに催眠魔法が通じるか試しておきたかった。
とりあえず、間接的に干渉されたシステムなら改竄できるようだな。
「これはお礼だ。起こしてくれて、助けてくれたお礼……ついでに質問に答えてくれたこともな」
「だ、大丈夫なんでしょうか……?」
「…………まあ、たぶん」
「た、たぶんですか!?」
やったことのない初実験なので、細かい部分はさっぱりなのだ。
バレても剥奪されないし、もう一段階上とやらも条件を満たせば進化するはずだがな。
「あの、イムさん……これから何をするんですか? わ、わたしはこれから、他の方々から逃げるのですが……も、もしよろしければですが、い、いっしょにいませんか?」
「いっしょにか? うーん……」
「み、皆さん他の人を倒すために戦っていますので、きょ、協力したいのです」
「……どうしようか」
物凄く面倒臭いのだが、彼女が居れば先ほどの投げ技を使って敵を追い払ってくれるだろう……そう、わざわざ応対せずとも済むわけだな。
「よし、分かった。ひとまず休戦、いっしょに生き残ろうか」
「──ッ! は、はい!」
さて、設定を変更して“存在分身”は不可視状態で作成するようにしておこうか。
ついでに【英雄】の解析も行って……いろいろと試してみるとしよう。
それでは、また一月後に!




