異世界に呼ばれよう
異世界集団召喚──よくある展開だろう？
俺たちのクラスが授業をしている時、突然足元に出来た魔法陣が光った。
それで気絶した後、目が覚めれば──いつの間にか変な格好の人たちに囲まれていた。
そして、俺たちを呼んだというお姫様からその理由を聞いて王城へ移動……本当、良くある話だよな。
「任せてください。僕たちが魔王を討伐して見せますよ！」
クラスの中で最も優秀だった奴が勇者のポジションに就いて、他のクラスメイトたちを導いて逝ったりするあれだ。
えっ、誤字？ ……間違って無いだろう？
──必ず誰かが死ぬんだから。
「みんな聞いてくれ、この国の人たちが困っているんだ。彼女は、僕たちにそれを解決するためだけの力があると言っている。ならばその力に準ずるだけの行動を取って、この世界を救ってやろうじゃないか」
「へっ、ユウキの言う通りだな」
「そうね、やってやろうじゃない」
「みんなも頑張ろう！」
……で、そいつが説得すると、必ずいる幼馴染ポジションの奴らがそいつに同調してクラスメイトを洗脳して──
「……できる、かな」「でも、ユウキ君が言うんだから、大丈夫じゃないの？」「あの四天王が言ってるんだから……」「……チッ、ならしゃあねぇな」「ドゥフフ！ 僕の知識チートが活躍する時ですね」
――やる気になってしまう。
一人だけやる気のベクトルが違う気もするが、それでも皆が皆、前を向き始めている。
力があるなら責任も伴う。
そんな言葉、力が無いヤツがある奴を縛るために作った言葉だろうに。
「……うむ、勇者様がた、真にありがとうございます。貴方様がたなら絶対に魔王を倒せると信じておりますぞ」
それを聞いてた王様も表面上は嬉しそうな顔をしている。
……裏で何を考えているんだか。
「それでは、勇者様がたがご自身の力を知るための言葉をお教えましょう。私に続け、唱えてください──［ステータス］！」
『［ステータス］！』
俺も含めて全員がそう言うと、目の前に何かの画面が現れた──
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ステータス
名前：イム・トショク（男）
種族：【異世界人Lv1】
職業：【停導士Lv1】
ＨＰ：１００／１００
ＭＰ：１００／１００
ＡＴＫ：５０
ＤＥＦ：５０
ＡＧＩ：５０
ＤＥＸ：５０
ＭＩＮ：５０
ＬＵＣ：０
通常スキル
(言語理解)(鑑定)
唯一スキル
【停導士】
Ｌ(催眠魔法)(過剰睡眠)(意識遮断)
祝福
(地球神の加護)
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どこにでもいる普通の学生、名前が変だと言われることがあるぐらいだが……家族がありえないくらい日本人離れしていることを除けば、ごくありふれたジャパニーズ学生。
それがこの俺、トショク・イム……漢字の説明が面倒だし、どうせ異世界だ。
俺の一人称が名前だったとしても、カタカナを貫いていこう。
「おっしゃー、魔法が使える！」「付与魔法か……後方支援かしら？」「回復魔法……これでみんなを助けられる！」「おいおい、能力値はどれくらいだ？」「……お前も俺も同じだな」「運は違うみたいだな……プッ」
──クラスメイトはスキルや能力値を見て盛り上がっている様子だが、俺としてはさっさと平均値を言って欲しいな。
でなければ、これからの行動が決められないじゃないか。
『おぉ！』
驚くような声が聞こえたのでそちらを向いてみると、ユウキのステータスが周りにも見える状態で表示されていた……本当、自意識過剰だな。
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ステータス
名前：ユウキ・コウドウ（男）
種族：【異世界人Lv1】
職業：【勇者Lv1】
ＨＰ：１０００／１０００
ＭＰ：１０００／１０００
ＡＴＫ：１００
ＤＥＦ：１００
ＡＧＩ：１００
ＤＥＸ：１００
ＭＩＮ：１００
ＬＵＣ：１００
通常スキル
(言語理解)(鑑定)(火魔法)(水魔法)(風魔法)
(土魔法)(光魔法)(闇魔法)(剣術)(盾術)
唯一スキル
【勇者】
Ｌ(神聖魔法)(神聖武具術)(限界突破)
祝福
(女神ファーの寵愛)(地球神の祝福)
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「す、スゲェ、さすがユウキだな」「攻撃力とかは俺らの二倍、ＨＰとかなんて……十倍じゃん!!」「ゆ──」
他にもスキルが何だのと言っていたが、別にそこはどうでも良い。
全員がほぼ同じようなステータスってことさえ分かれば、それで充分だ。
（なら、できるだけここでゆっくりとしてやるか。何をしたいわけでもないし）
「……俺はただ、何もしたくないんだ」
クラスが異様な昂揚感を持つ中、俺は気怠げにため息を吐く。
「……おいおい、コイツのステータス見てみろよ。低すぎねぇか」「うっわマジかよ。全部１と０とかクソダセェ」「俺がコイツだったら絶望して死んでたなｗ」
そんなことをしていると、いつも苛められていた奴が苛めていた奴にステータスをからかわれていた。
それもまたよくある展開だよな。後で迷宮に落ちて成り上がりってか？ ……まあ、俺には関係ないから放っておくか。
◆ □ 拝 聴 □ ◆
暫くするとテンションも少し下がり、再び王様の方を見始める。
先ほどイジメられ始めたクラスメイトも、ユウキの幼馴染である女が庇うことで、一時的に終息したので問題ない。
……まあ、ユウキがその様子を羨ましそうに、かつ恨めしそうに見ていたのはなんだか面白そうだったけど。
「……では勇者様がた。召喚された疲れもあると思いますし、続きの説明はまた明日ということに……」
「丁寧な扱い、ありがとうございます」
そんな無駄なやり取りをやっている間も、俺は別のことを考えていた。
（俺の職業は自身の人生に他の奴らを巻き込むらしいが……巻き込んで得なんて無いだろうな。面倒面倒。俺は、一人で自堕落に生きたいんだよ）
俺のやることを代わりにすべてやってくれる猫型ロボットならウェルカムだが、そういうことじゃないなら、邪魔にしかならないだろうし不要だ。
責任を取るのも面倒だし、要らない。
まあ、スキルがある世界だし……ニートが脛を齧っても問題にならない存在が居るならば、ぜひともお世話になりたいけれども。
（大学で悩んでた俺に、人生丸々のことなんて考えさせんじゃねぇよ）
普通に悩んでたが……今となっては関係無いな。
そういったところだけは、このイベントに感謝している。
「では皆さまには一人ひとり専属の御付きが付きますので、その者に従って自分の部屋まで向かってください」
そう言って出てきたメイドや執事たち……俺たちの人数より一人少ないが、それは多分苛められていた奴を省いた結果だろう。
実際、彼の所にだけ誰も御付きの者が行かないで、お姫様から何やら言われている。
「ではイム様、私に付いて来てください」
「……あい」
どう動けば、いつまでも養って貰えるんだろうか……それを今日中に見つけないとな。
そう言ってくるちょっと可愛いメイドに適当に応えながら、俺はそんなことを考える。
