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盗賊勇者のプロローグ  作者: 利苗 誓
第1章 異世界の日常編
8/9

第7話 少女の家に



「大丈夫ですか……?」


 俺は、先程出会ったばかりの少女を負ぶっていた。


「大丈夫ですだよ。申し訳ないだ、迷惑かけて」


 少女、リニエ・エスコートは返答する。

 赤毛に三つ編みを束ね顔にそばかすを散らし、麦わら帽子を被った上で田舎臭い言葉を喋る少女。

 日本のラノベなら明らかに田舎に住んでいる顔立ちの少女だ。

 リンナと少し離れて個人で魔獣を倒せるかと実験していた時に少女が熊に襲われている所を発見し、俺が救助した。

 少女は、確実に異世界語を喋っていた。異世界に来た俺が、日本語でないと容易に理解できる程、それは日本語と異なっていた。

 が、何故か・・・理解できた。これは異世界召喚によるギフトなのか、それとも異世界に召喚されたことによる原因や理由に起因しているのか。

 今は異世界語が理解できる理由が分からない為、甘んじて現実を受け入れる他なかった。

 そして、俺は異世界語を理解するだけでなく、喋ることも出来た。まるで日本語を喋るかのように、それが母国語であるかのように、喋ることが出来た。

 俺はその後リンナを呼び、諸々の事情を説明した後、この赤毛の少女をどうするか話し合っていたが、少女から俺に負ぶって欲しいという打診があり、今に至る。

 何故俺なんだろうか、リンナではダメなのか。いや、確かにリンナなんか口調も汚いし目も切れ長で怖いから俺の方が優しそうなところはあるな。

 いや、何故じゃないな、思い当たる所だらけだったわ。

 少女は手の肉も足の肉も引きちぎられており、見るも無残な姿になっており、こんな状況でここまで明るく振舞えること事態異常と思える程であった。というか、本当におんぶで良かったのだろうか。手とか足とか当たるから凄い痛いんじゃないだろうか。

 と思い、軽く振り返り少女を見てみるが、恍惚な表情で顔を赤らめており、どうやら余り痛みは感じていないように見える。

 俺は、リニエに森の案内をしてもらいながら出口を目指すことにした。


「ミライ様ぁ、あっちの方角に一時間ほど駆けて欲しいだぁ、そこにおらの家があるべぇ」

「分かりました」


 俺はリニエと会話する。

 リニエの指示に従がえば、ようやく森を抜けることが出来ると思う。第一に目指すべきは取りあえずは王国だろうか。


「ちょっと、私も会話に混ぜてよ」


 俺とリニエが会話していると、リンナが会話に混ざって来た。


「リンナさんのこと忘れてただぁ」

「いや何よあんた、感じ悪いわね」


 と、リンナは少しそっぽを向く。


「まぁまぁ、ケガしてるんだし仕方ないよ」

 

 と俺がリニエの肩を持つと、リニエはますます機嫌を悪くする。面倒くさい。どちらかの肩を持つとどちらかが機嫌を悪くするという……。

 そして小一時間ほどリニエに従って歩き、リニエの家に着いた。





「でっけぇ……」


 俺は不意にそんな言葉を漏らした。

 無理もない、リニエの家は豪邸もかくやといった大きさで、牛や豚などの家畜が多数飼育されており、なんとも豪華な雰囲気を醸し出していた。最も、家自体はそこまで高級そうな資材に溢れていたわけではなかったが、大きさが格段に桁違いだった。

 取り敢えず俺はリニエの家に入る。


「おじゃましまーす」

「どうぞですだ、ミライ様」

「おじゃましまーす」

「御付きの方もどうぞですだ」

「御付きの方って何なの! 私ミライの仲間だから!」


 とリンナは声を上げる。御付きの方、か。いいな、今度からもし紹介する機会があったらそう紹介しよう。


「とりあえず居間に行って欲しいだぁ」


 リニエは目的地を告げ、俺は一先ず居間に移動させ、急遽手当を行うことにした。


「どうしたらいいですか?」

「ねぇ、手当ってどうするの?」

「ミライ様は治癒魔法、使えますか?」


 リニエは治癒魔法の存在を俺に確認してきた。勿論使えないが、魚を捕る時にスキルと思われるものが使えたから、原理を教えてもらえればおそらく使えるだろう。


「いや使えないけど、多分やり方を聞けばすぐ使えると思うよ」

「え……」


 俺は思っていることをそのまま口にしただけであったが、リニエはあんぐりと口を開けたまま、俺を見つめる。


「ミライ様は『プリースト』でいらっしゃるんだか……?」

「……? プリーストっていうのは分かんないけど、多分まだなんの職業にも就いてないと思うよ」


 プリーストとはおそらく異世界における職業のことだろう。リニエは理解力だけは高いことから、話にはついてこれていた。

 一々説明する手間が省けて良かった。


「じゃあ多分ミライ様でも無理だと思うだ。最低ランクEのスキルを習得するだけでも二週間はかかると言われてるだよ」

「「え……」」


 今度は、俺とリンナが驚く番だった。

 魚捕りの時、俺もリンナもほんの数分でスキルを習得している。

 そのことをリニエに告げるとリニエは再度瞠目し、「それならもしかしたら……」と、治癒の方法を教えてくれた。

 

 リンナはリニエに治癒を試してみる。


「……」

「……」

「無理ね、出来ないわ」

「やっぱりだか……」


 リニエはがっかりする。やはり、初心者が一瞬でスキルを使用することは不可能なのだろうか。なら何故・・あのスキルは一瞬で使用出来たのだろうか。

 その後、念のため俺もリニエに治癒スキル最低ランクEの『寛解キュア』を行う。


「……」

「頑張って下さいだ、ミライ様!」

「ちょっと、あんたさっきは私にそんなこと言ってなかっただろ」

「リンナは黙って下さいだ」

「私だけ呼び捨て!?」


 リニエとリンナが話しているうちにも、俺は手に魔力が流れるように集中する。

 手をリニエの傷跡にかざし、自分の魔力がリニエに移るように体内の魔力を操作する。

 治癒の原理はそういうことらしい。

 俺は手をかざし、間断なく魔力を送るイメージを続ける。


「……」

「……」


 俺は治療を続けるも、リニエの躰に変化はなかった。

 無理か……そう思い手を放そうとした直後。


「あ……」

「あ……」


 突如俺の手に光が集まり始めた。俺はこれを知っている。


 スキルの萌芽だ。


「嘘……」


 とリニエは驚き、俺の顔をじっと見ている。見るなら手じゃないだろうか。俺も驚きで瞠目する。

 手に光の粒子の奔流が収斂し、収まった。


「あ……あれ?」


 俺は素っ頓狂な声を上げる。と、すぐに光の奔流が爆発した。

 リニエの、ただでさえ大きな家中に光が行き渡り、アイドルのコンサートのような明るさに包まれた。

 そして、光の暴走が収まった後、リニエの体を見てみる。


「「「あ……」」」


 リニエの体が、まるで傷跡などなかったかのように、全快していた。


「す……すごいだぁ!!」


 と、リニエは子供のようにはしゃいだ。

 正直俺は異世界の常識がなさすぎて凄いのかどうなのか全く分からない。


「ミライ様、凄いだよぉ! 治療の最低ランクEの『寛解キュア』でも習得するのに二週間かかるって言われてるだよ! でもさっきミライ様がおらにかけてくれたスキルは最高ランクSの治癒スキルだよ!」


 リニエは興奮した顔で俺にそういった。顔が物凄く近い。俺がちょっとでも顔を近づけようものなら接触するほどの距離だ。

 もしかすると、俺のことが好きだったりするのだろうか。俺はそこらのラブコメの主人公と違ってあそこまで鈍感ではない。が、そこまで自分の考えに自身を持っている訳でもないのでまぁ今はスキルが上手くいった理由について考えよう。


「Sランクのスキルって普通使えるまでにどれくらいかかるの?」

「Eランクは二週間、Dランクは一ヶ月、Cランクは二ヶ月、Bランクは四ヶ月、Aランクは八ヶ月、Sランクは一年六ヶ月。スキルを習得するのに平均ではそれくらいかかるって言われてるだよ。ミライ様は一年六ヶ月かかるスキルを一瞬で使用出来ただよ! 凄いだ!」


 リニエは興奮している。そこまで褒められると悪い気はしない。

 というか、何故・・俺は治癒スキルの最高Sランクを使用出来たのだろうか。リニエは最低ランクの治癒スキルも使用出来なかったというのに。スキルというのは天性の才能とか相性が関係しているのだろうか。


「え? いや、ちょっと待ってください。僕はいきなりSランクのスキルを使えたんですか? じゃあEランクスキルとかは使えないっていうことですか?」

「いや、違うだよ。治癒スキルはSランクが使えればEランクも使えるだよ。治癒スキルはEランク『寛解キュア』、Cランク『治癒ヒール』、Aランク『快癒ハイヒール』、Sランク『完全な治癒フルヒール』の順にバージョンアップするだ。だからミライ様はEランクスキルからSランクスキルまで全部使えるようになってると思うだよ」

「なるほど、分かりました。物知りですね」

「おら、『召還魔術師』だから魔法のことはちょっと詳しいだよ」

「そうなんですか!? ちょっと驚きました」


 俺はそこで一度会話の流れを切った。なるほど、どうやら俺はこの一瞬で四つのスキルを使えるようになったらしい。

 Sランクの治癒スキルはEランクの治癒スキルの上位互換ということか。おそらく魔力消費量に応じてEランクスキルを使ったりSランクスキルを使ったりするのだろう。後で実験してみよう。

 

「でもミライのスキルはまだ熟練したそれじゃなかったなんだろう?」


 と、俺がリニエとの会話を一時中断していると、唐突にリンナが切り出した。自分は最低ランクのスキルも使えないのに、俺が最高ランクのスキルを使えたことに対して焦りでも感じているのだろうか。


「そうですだね、確かにミライ様のそれもそこまで熟達したものではなかったですだ。スキルが使えることとスキルの熟練度が高いことは違うですだよ」


 リニエはそう言う。スキルを使えるまでは最高ランクでも一年六ヶ月と短いが、威力を増したりするには更に研鑽が必要になるのだろう。


「でも使えただけですごいですだ!」

「うっ……」


 リンナは呻く。


「まぁ俺の才能がリンナより上だったってことだよ。諦めなお嬢ちゃん」

「死ねクズ」


 俺が揶揄すると、リンナはとんでもない暴言を吐いてきた。暴言女だ。


「そんな言い方はないだよ、リンナ。早くミライ様に謝るだ」

「えぇっ……」


 と、リニエはリンナを叱る。中々どうして、二人から三人に増えたことで俺の地位が向上したような気がする。

 リニエとリンナはその流れのまま何やら話しているが、俺は一旦その流れを切り、二人に相談する。


「あの~、リニエさん。ちょっと~お話良いですかね」

「? なんだべ、ミライ様」

「その~ですね、リニエさん。物は相談なんですが、良かったらこの世界のことについて詳しく訊きたいな~、とか思ったり思わなかったりとかなんというか……」


 と、俺は少し言葉を濁しながらリニエに相談してみた。リンナも異世界に来たことを思い出したかのようにハッとする。お前忘れてたのかよ。


「ミライ様はどこから来ただか? スキルを知らなかったり、何でなんだか?」

「いや~、俺もリンナも生まれがずっと遠いところでさ、超田舎だったからなんにも知らないんですよ。良かったら教えてもらえたり……」

「分かっただ」


 即答だった。理由だけが聞きたかったのか、リニエは即座に了承してくれた。

 それとも何かを理解してくれたのか。


「ただし、条件があるだ」


 リニエは二の句を継ぎ、条件を求めてきた。何だろう。リンナの身柄とかだったらリンナを置いて行こう。


「敬語、止めて欲しいだ」

「あ、うん」


 リンナにも言われたことだった。リンナは、ほら見ろ、とにやにやしながら俺を見てくる。クソウザい。軽く手刀を頭に食らわしてやった。


「そして、次におらのことをリニエと呼んで欲しいだ。さん付けはしなくていいだ。それで、おらと仲良くして欲しいだ」

「わ……分かった」


 二つ目の条件は謎だった。

 いや、今後仲良くやっていくには必要な要件か。リンナは「私とは仲良くしなくていいのか?」といった表情でリニエを見ていた。


「最後に、おらの家に暫く泊まって欲しいだ。それで、もうすぐある祭りに一緒に行って欲しいだ」


 最後の条件は願ったり叶ったり、渡りに船だった。俺たちも宿屋がなかったから苦労していた。

 泊まる場所が出来るだけで異世界生活も大きく異なる。

 俺は即座にその条件を了承した。


「じゃあ、これから頼むな、リニエ」

「こちらこそだぁ」


 えへへ、と身を捩らせ喜ぶリニエと握手を交わした。


 暫く放ったらかしにされていたリンナは言うまでもなくむくれていた。

 


篠塚 未来



スキル:

Eランク  『把持グラスプ』、『寛解キュア

Dランク

Cランク  『治癒ヒール

Bランク

Aランク  『快癒ハイヒール

Sランク  『完全な治癒フルヒール




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