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落ちこぼれの微笑み  作者: 雷山
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招待

第二次世界大戦時に大きな猛威を振るった第三帝国、現ドイツ連邦共和国は今もその「罪」というものを抱えながら長き闘争の中を歩んできた。

国家のため、人民のため、家族のため、愛する人のため、戦場へと向かう兵士が背負う思いは様々。たとえ恨まれようとも戦地に赴くのは自らの故郷のため。

 そして、戦いが始まるとそこには、伝説として広まる人物が必ずと言っていいほど生まれるものです。

オットー カリウス彼もその一人でした。

「よし、それじゃあ撮るよ~」

 4月20日、晴天の中、真っ白な花嫁と花婿を前に、三脚に固定したカメラのピントを合わせると、右手を挙げて合図を送る。

「ちゃんと撮ってくれよ!」

「分かってる!任せろ!」

 兄の一言を耳に入れながらファインダーを覗くと、最後にセルフタイマーを起動させた。

「これでよし、さあ撮るよ!」

 教会をバックに、階段に並んだ親戚一同の中に走りこむと、息を切らせて母の隣に並んだ。

 少しばかりの一同の静まりと同時に、カメラのおおきなフラッシュがたかれた。

 フラッシュは3回。最後の三枚目がとられたと同時に、周りはまた賑やかになった。

 再びカメラの前に小走りで近寄ると、電子画面の記録フォルダをみて確認する。

「どうだ、撮れてるか?」

 半分酒にやられた兄が笑いながら近づいてきた。

「当たり前だろ、本職だぞ」

 画面を一緒に覗きながら兄は片手に持っているワイングラスを回した。

「おうおう、まあ集合写真だし、大して変わったものもないか」

「あのなあ・・・」

 苦笑しながら兄の首を左腕で絞めると頭に右手拳を押し付けた。

「いてて、いてててて、ああっせっかくのワインこぼしちまうって」

 悶えながらも笑う兄をフェースターはあきれて解放した。兄は酒癖が悪いうえに弟を頻繁にからかうのだ。

 フォン フェースターの兄であるフォン デウハートはフェースターよりも4つ年上の兄であり、元は連邦軍の軍人だった。しかし同期の訓練中の事故が原因で退職、今はフランクフルトで、そこそこ有名な産婦人科の病院をもっている。

 フェースターは人望の厚い兄を見てきたために、自分の仕事を茶化されると、すぐに本気にしてしまっていた。

「ほんと仲良しなのね、ふふふ」

 白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁姿の姉が、芝生の中を歩いてきた。

「姉さん、改めて結婚おめでとう」

「ありがとうっ!」

 姉は楽しそうに、そういうと手に持っていた花束を、デウハートの顔面に向けてぶつけてきた。

「おわっ、なにしやがんだ」

「あんたはいい加減その酒癖直しなさいよ、みっともない、それに次に花婿になるのはあんたなんだからね」

 デウハートは左手にもっている姉から乱暴に渡された花束を見直して、ふん、と分が悪そうに立ち去って行った。

 姉は、教会の庭で集う親戚たちの賑わいの中に、兄が戻っていくのを笑顔で見送ると、一息ついて写真を今一度確認しているフェースターの横に肩を寄せた。

「みーせて」

 フェースターは写真を表示させると笑顔でカメラを手渡した。

「さっすがーよく撮れてるじゃん!」

 姉は隣をついてきた夫となったミウラと一緒にカメラをのぞき込んでいた。

 フェースターはそんな二人をみながら三脚をたたみ、ビニール製のケースへしまい込んだ。

 フェースターは三脚を肩にかけて立ち上がるとカメラを返してもらおうと二人に近づいた。

「あっ、しまう?ありがとうね、こんな時に仕事をうまく使わせてもらっちゃって」

「いや、いいよ、こんな時だからこそ使えるんだし」

 姉は苦笑するとはっとして、隣にいるミウラに弟を紹介した。

 姉と結婚を交わしたミウラは日本人だが、ドイツから日本に留学していた姉と親しくなり、さまざまなサポートをしてくれたという。

 そんな彼も結婚生活はこちらで送りたいという希望もあり、今はこうしてドイツに住んでいる。

「そっか、君が一番下の弟さんだね、僕が三浦弥一だよ、今日は写真たくさん撮ってくれたみたいでありがとう」

 ミウラが差し出した右手に自分の右手をかぶせると固い握手をかわした。

 腕を軽く振りながらフェースターは彼の手の大きさに驚いた。

「日本人って意外と背も高くて、大きいんですね」

「ははは、僕が周りより少し大きいってのもあるかな、でもまあ大して大きくないよ」

 身長180センチあるフェースターと同じくらいのミウラは、おそらく日本人の中でも大きいほうなんだろう、とフェースターは思った。

「そうなんですか?いやはやもっと小さいかと思ってましたよ」

 大げさにイメージしていた背の高さを手で表すと、夫妻は楽しそうに笑っていた。

 姉が笑ってくれているのをみているとフェースターは自分もうれしく思えた。

 話し終わり、カメラをカメラケースにしまうと、自分の携帯がメールの通知を表示しているのが目に留まった。

 送信相手は軍事系の雑誌多く出版している出版会社の編集長からだった。

 急ぎで話をしたい様子のメールだったが、軽く目を通すと、返信を保留にしてフェースターは自分の車に機材をしまいに行った。

 トランクをしめると、フェースターは再び携帯をとりだして、先ほどのメールに返事を返した。

(これから一時間後くらいにそちらに向かいます)

 送信し終わると同時に車に乗り込むと、エンジンを始動させた。

 姉には悪いが、せっかく入りそうかもしれない仕事を見逃すわけにはいかない。

 そう思いながらフェースターは車を発進させた。

 教会からすこし離れたところにある駐車場を出たフェースターの車は、親戚一同が集う庭近くを通りながら教会表側の正門を抜けようとしていた。

「フェースター!」

 姉に呼ばれてフェースターは庭の目の前で停車させると運転席の窓をあけた。

 花嫁姿でこちらに歩いてくる姉を見ると、少しばかり罪悪感がわいてくる。

「どこ行くの?」

「あー、ちょっと急用ができちゃってね、たぶん仕事の依頼だと思うんだけど急いでるみたいだからさ」

「仕事かー仕方ないわね、遅くならないうちには帰ってね、今日は私も料理するから」

「ほんと!?じゃああれも作ってくれるかな?」

 あれとは姉の得意料理であるブルーベリーパイのことだった。

 姉は笑顔でうなずくと車から離れてフェースターを見送る位置についた。

「やったね、じゃあ夕飯のパーティーまでには絶対帰るよ」

 と言って手を振るとフェースターは車を発進させた。

 バックミラーで後ろを見ると、姉とミウラさんが手を振りながら見送ってくれていた。

 フェースターはミウラがどんな人間なのか少し不安なところがあったが、さっきの対話でほぼ馴染めた気がしていた。

「あの人なら姉さんともうまくやっていくだろうな」

 そう呟きながらフェースターは教会の正門をくぐり抜けて、出版会社へと足早に向かっていった。



「あぁもう・・・」

 日がすっかり暮れてしまった。

 あの会社の編集長と話すのはこれで三度目だったが、仕事以外のプライベートで顔を合わせたことも何度かあった。

 連邦軍のパレード、日本への取材、米軍への取材、確かに会社としても軍事関連の取材に関しては、仕事の依頼としてのめるのだが、あの編集長を相手にしてしまうと話が尽きない。

 それほどまでに彼はオタクなのだ。

 軍オタクというよりは、彼は純粋に兵器が好きな人間といえる。

 フェースターが彼をオタクと罵ると、彼は愛好家と呼べ!と強く求めた。

 フェースターが兵器の何がいいのか、全く理解できない人間だったために、兵器好きである彼はフェースターに時々熱く語ってしまうのだった。

「なんだかんだ言って、用事は五分で済んだはずなんだけど、なんだこの時間は」

 姉の結婚式会場を抜け出してから、編集長との仕事の話を終えた時点で30分。

 日が落ちるまでもなく会場に戻れるはずだったが、それはできずに終わった。

 助手席には仕事用のノートパソコンと鞄、それに編集長からいただいたワインがある。

「あの人も用意がいいもんだ」

 出版社に向かう前に結婚式中だと少し話しただけだったが、祝いと詫びの二本だ!と言って、ワインを用意して待っていてくれるとは思わなかった。

 フェースターは軽く笑うと、実家の目の前で車をとめた。

 時刻はちょうど夕食時だ。

「ふう、着いた。しばらくあのひとと話すこともなさそうだし、一息つけりゃあ」

 酒瓶二つの入った紙袋を床におろし、一度エンジンを止めた静かな車内で編集長からもらった撮影依頼の内容を確認する。

 内容はパーダーボルンで行われる旧ドイツ国防軍兵の集会を撮ることだった。

 いたってシンプルな仕事内容だったために気軽に引き受けたが、その後の編集長の話でやる気を欠いてしまっていた。

「・・・はあ」

 自然と溜息をこぼしたフェースターは首を回すと深呼吸をした。今は仕事のことよりも姉を待たせていることのほうが重要だった。

 書類の入ったファイルを助手席の鞄にしまおうとすると、小さな紙がファイルから零れ落ちた。

「ん、あれなんだ今の」

 暗い足元に手を伸ばすとさっき落ちたであろう小さな厚紙を拾い上げた。

 カラフルで書いてある言語が英語の不思議な紙。

 裏返すと地図のようなものも描いてある。

「なんだこれ・・・写真、展?こんな紙入れてたのかあのひと」

 大して興味のなかったフェースターはそれをファイルに入れなおすと、鞄とカメラケース、それに酒瓶二つの入った紙袋を持って車から降りた。

 外に出たとき、実家の玄関が開けられて中から姉とミウラさんえがおで出てきた。

 フェースターは車の鍵をかけると、足早に二人の元へと向かっていった。

「おかえり、お疲れさま!」

 今夜は昼よりも楽しくなりそうだ。

 フェースターは仕事を忘れて家の中へと帰って行った。


戦争回顧録、頭の中でイメージしながら読むとその迫力に我を忘れて読んでしまう。

ティーガー戦車隊を読んでいて思ったのはそんなことでした。

それを物語として、小説にしてみるとどうなるだろうか。そんなことを思い、そしてドイツの戦いを決して無駄だったとは言わせないために真面目に書いてみました。

とはいえ、一素人が書いているものなので、温かい目で見ていただけると嬉しいです(笑)

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