スキル「死に水」で強くなる
何となく思いついたので書いてみました。
宜しくお願いします。
俺の名は高杉龍太。日本生まれの21歳だ。本当なら今頃大学に通っているはずの年齢だけれど、今、俺はモンスターと戦っている。
モンスターって何だって。そりゃ、ゴブリンやスライム、ドラゴンといったファンタジー世界の住人さ。今俺はとある事情で、アンデットキングと呼ばれる不死者の王と戦っている。こいつが強いのなんの。確実に魔王より強いね。平和な日本生まれの俺としては戦うなんてこっちの世界に来るまでしたことなんて無かったのにね。剣道は高校生の頃授業で数回習ったくらいなのに、俺は日本刀より幅のある所謂ロングソードと言われる剣を握って、不死者の王と戦っているのさ。もう数時間も戦っていて疲労も半端ない。辺りは一面焼け野原になっている。俺が連続攻撃を仕掛けると、奴も疲れてきたのかすべての攻撃を与えることが出来た。良し、これで最後だ。
「これで滅しろ、滅殺七星撃」
俺の必殺の剣が不死者の王をぶった切る。頭の真ん中から綺麗に二つに分かれて、不死者の王は左右に崩れていく。
「念のためこれもくらえ、滅殺業龍撃」
俺が剣を振ると業火の龍が飛び出て、不死者の王を焼き尽くした。後には、黒く焼け焦げた跡と髪飾りが落ちていた。炎でも焦げた形跡がない髪飾りは、戦いの場には相応しくない程、静謐さを醸し出している。
「やっと倒せたな。アンデットって何であんなに耐久力があるんだよ。首切ってもくっ付くって反則だよな」
俺は倒せた安堵感から一人事を呟いてしまう。
「まあ、これでセリナ婆ちゃんの願いが叶うな。死んだ娘の形見を取り戻せたんだから」
そう、俺が魔王より強い不死者の王なんて存在と戦っていたのは、世話になったセリナ婆ちゃんの娘の形見を取り返すためだったんだ。セリナ婆ちゃんは今残り少なくなった寿命を頑張って伸ばして形見が来るのを待っているから早く戻らないとな。よし、さっさと戻ろう。
「転移」
俺が呪文を唱えると、今までいた不吉な荒野から、木々の匂いが立ち込める森の中に一瞬で移動する。世界でもほとんど使えるものがいない高等魔術を使えば行ったことがある場所なら一瞬で行けるのさ。我ながらすごいぜ、俺をバカにしたあいつ等だって使えないしな。おっとボヤボヤしてはダメだ。俺は、目の前に佇む簡素だけれど趣のある小屋へ向かった。
「セリナ婆ちゃん、戻ったよ。まだ生きてるか。娘さんの形見取り戻したよ」
俺は大声で叫びながらセリナ婆ちゃんがいる寝室へと入っていく。
「リュータ何度も言っているでしょ。大声を出してレディの部屋へ入ってはダメだと。でも良かった無事帰ってきてくれたのね。心配したのよ」
寝室に入ると、ベッドの上で美女がほほ笑んでいた。この美女が俺が言うセリナ婆ちゃんさ。婆ちゃんはハイエルフで御年3000歳という年齢だ。エルフやハイエルフは死ぬまで若さを保ったままだから人間からは羨ましがられている種族だ。
「めっちゃ強かったけど、なんとか倒せたよ。これもオルフェ爺ちゃんの技のお陰だよ。はい、首飾りだよ」
俺はセリナ婆ちゃんへ髪飾りを渡す。
「そうかい、オルフェの奴も敵を取れたんだね。ああ、500年ぶりにあの娘が帰って来たんだね。ありがとう、リュータ。これで思い残すこともないよ」
「何言ってるんだよ、婆ちゃん。髪飾りを取り戻せたんだからこれからは落ち着いた生活が出来るんだよ。長く生きたんだからもう何百年生きても大丈夫だよ」
俺は泣きそうになりながらそうセリナ婆ちゃんに言う。
「私が拾ったときはまだ、幼さの残る子供だったのに今じゃ立派な青年だね。リュータならこの先私が居なくても立派に生きていけるはずさ。それに死んでも私はリュータの中にいるんだからね」
セリナ婆ちゃんが、優しい顔で俺に語り掛ける。
「オルフェのやつもリュータの中に居ることだし、夫婦水入らずでこれからの行く先を見守ることにするよ」
「セリナ婆ちゃん……」
ダメだ、涙が止まらない。俺がこの世界で生きてこれたのもセリナ婆ちゃんのお陰だ。婆ちゃんがいなくなったらどうしたらいいんだよ。
「なんて顔しているんだい。こういう時は笑顔で見送るものさ。いいかい、リュータは種族は違っても間違いなく、私たちの孫だよ。精霊の巫女セリナと守り人オルフェのね。この髪飾りはリュータにあげましょう。いつかリュータに思い人が現れたら掛けておやり」
婆ちゃんは持っていた髪飾りを俺に手渡してきた。
「ばあちゃん。分かったよ。俺もいい年の男だ。もう泣かないよ。それに婆ちゃんが死んでも俺の中で助けてくれるんだしな」
「ああ、そうだね。大事な孫さ。私たちが見守っているよ。そろそろお別れのようだね。万物の主たる精霊王よ、どうか孫に精霊の加護があらんことを。じゃあ、おやすみ、りゅ……た、げんきで……ね」
そう言ってセリナ婆ちゃんは目を瞑ると二度と開けることはなかった。
「ゆっくり休んでよ。セリナ婆ちゃん、オルフェ爺ちゃんと仲良くね」
俺がそう言ってセリナ婆ちゃんの口に綿に浸した水をあげると、婆ちゃんの体から光る何かが出てきて俺の中へと吸い込まれていった。
スキル「死に水」により、対象者セリナの能力がスキル保有者リュータへと移され ました。スキル保有者リュータは以下のスキルを獲得します。
精霊魔法(王級)
鑑定魔法(森羅万象)
空間魔法(亜空間構築、重力操作)
召喚魔法
錬金術
調合
動植物言語理解
弓
料理
スキル「死に水」により、対象者セリナの加護がスキル保有者リュータへと移され ました。スキル保有者リュータは以下の加護を獲得します。
精霊王の加護
祖母の愛
感情のない女性の声が頭の中に響く。電話問い合わせの時に番号を押してくださいと言うあれに似ている。
どうやら、セリナ婆ちゃんの魂が俺の中に無事入ったようだ。これで俺はまたかなり強くなったと思う。
これを聞くのも3回目だ。聞くたびにどんどんスキルが増えていくな。最初は冒険者のグリンさん、次がオルフェ爺ちゃん、三回目が今回のセリナ婆ちゃんだ。
俺は、セリナ婆ちゃんの遺体を抱き上げ家の外に出る。小屋の裏に大きな木が生えておりその根元にはオルフェ爺ちゃんの墓があるんだ。俺はその隣に土魔法で穴を掘る。人ひとりが横になれる大きさに掘れたので俺は婆ちゃんをそこに寝かせる。
「じゃあな、婆ちゃん」
再度魔法で穴を埋め、その上に樹で作った墓標を差し込む。
墓が出来ると俺はしばらくそこに座ってこれまでの思い出を思い返していた。
そう、あれは俺が17歳の夏休み前だった。期末試験も終わり俺は家に向かって校門を出たところ、前を歩いている同級生の男女6人グループの勇者召喚に巻き込まれ異世界に来てしまったんだ。
気が付くと、高飛車な感じのお姫様っぽい女や王様っぽいデブが偉そうに上から見下ろしていたんだ。あれよあれよという間に、テンプレ通り、スキル鑑定を掛けられ、6人が異世界の勇者という称号を貰っており、各種強そうなスキルを有しているのを喜ばれている中で、俺は一般人(巻き込まれビト)というテンプレ称号と『死に水』というよくわからないスキルと『出会い』というスキルのが2個あるだけだった。
そんな俺は、小説でよくあるテンプレ通りに6人からバカにされ、王や姫から汚物を見る目で見られ、騎士団長の嘲笑が聞こえる中、兵士に襟を掴まれ、そのまま街の外に追い出されたという訳だ。
まあ、バカにされたことはムカつくが、殺されなかっただけマシだと思い俺は気にしないことにした。まあ、どこかも分からない世界でいきなり街の外に追い出されて行く当てなんてなくて当然で、俺は辺りを彷徨うことになった。
街の外は見渡す限り自然が沢山ある、これぞ異世界って感じだ。しかもモンスターなんていうバケモノがうろうろしてて死にそうになっているところを助けてくれたのが、冒険者のグリンさんだった。
グリンさんは、モンスター討伐に向かってなんとか倒せたが深手を負って死にそうなのに、俺を助けてくれたんだ。俺が礼をいうと、
「街の不良で、何をやっても中途半端だった俺が最後に人を助けることが出来て思い残すことはないよ」
グリンさんはそんな恰好いいことを言って死んでいったんだ。俺は助けてくれた人への最後の務めだと思って近くの川から水をすくってグリンさんに飲ませた。所謂、死に水を取るってやつだ。ちょうど俺の爺ちゃんの葬式の時にそんなことをやったから同じようにしてあげようと思いやってみたわけさ。
そしたらグリンさんの体から光る何かが出てきて俺の中に入ってきて聞こえたのが、セリナ婆ちゃんの時みたいな声だった。
スキル「死に水」により、対象者グリンの能力がスキル保有者リュータへと移され ました。スキル保有者リュータは以下のスキルを獲得します。
剣術
旅知識
どうやら俺のスキルは名前の通り、臨終の際に死に水を取ると相手のスキルを獲得できるらしい事がその時分かった。ただ、これ以外にも制約があるというのが分かるのは、セリナ婆ちゃんたちと出会ってからだけどな。
セリナ婆ちゃんたちに出会ったのは、それから2日後のことだった。グリンさんのスキルと装備を貰って(ちゃんと墓を作って埋葬したけど)、飯になりそうな獲物を探しているときに出会ったんだ。もう丸二日何も食べていなくて死にそうになっていた時に、オルフェ爺ちゃんが見つけて、この小屋まで連れてきてくれたのさ。初めてエルフなんてものに出会ったときは驚いたね。女かと思うくらい男の爺ちゃんもイケメンだったんだ。
そんで飯を食べさせてもらって(婆ちゃんの料理は美味しかったな)、理由などを説明するとここに置いてくれて、さらに生きていくのに必要な事を教えてもらうようになったんだ。
俺のスキルが何かをセリナ婆ちゃんの鑑定(森羅万象)で見てもらって初めてその内容が理解できた。スキル「死に水」は臨終に立ち合い、死に水を取ることでその対象者のスキルをスキル保有者が獲得できるが、それには対象者の思いを叶えなければならないという制約があった。グリンさんの場合は、一生に一度でも人を助けることがしたかったという思いを偶然叶えたことにより、俺はスキルを手に入れることが出来たらしい。
あと、スキル「出会い」というのは人や動物と良い出会いがあるというものだった。これのお陰で死ななかったのかもしれないな。
その後、俺はセリナ婆ちゃん達と3人で暮らしていく中で色々分かった来た。セリナ婆ちゃんは元々、エルフの国の姫で精霊の巫女と呼ばれる役に付いていたらしい。爺ちゃんはセリナ婆ちゃんを守る、守り人と呼ばれる護衛で色々あって好き合い、結婚したんだって。いいな、恋愛。俺も恋愛したいぜ。
で、娘も生まれて幸せに暮らしていると、500年ほど前にあの不死者の王がエルフの国を襲う事件が起こり、娘さんもその時に亡くなってしまったとのことだ。それ以来、二人は敵を取るために不死者の王探して今に至るという訳さ。
その話をしているときの二人は、すごく悲しそうな顔をしていたな……
この世界に来て3年立った去年、事件は動き出した。狩りをしている俺と爺ちゃんの前に不死者の王が現れたんだ。婆ちゃんが調子を崩してきて、薬草を取るのがメインだったから装備も軽いもので、不死者の王を倒すことは出来るどころか逃げるのも無理だった。
もう無理だと思ったときに、爺ちゃんが自分の命を削って放った一撃で不死者の王にも傷を負わせることが出来て辛くも俺は生き残れたんだ。ただ、爺ちゃんは生命力を魔力に変換して使ったからもう手の施しようがなかった。
「リュータ、私はもうダメだ。ただ、あいつを一人にすることは出来ないし、娘の敵を取ることも出来ていないのが心残りだ」
「爺ちゃん、大丈夫だよ。戻れば婆ちゃんが何とかしてくれるよ。だから頑張ってくれよ」
「お前は性根がいい男だ。こんなことを頼むのも悪いが、どうかセリナを一人にしないでくれ、赤の他人の面倒は嫌だろうが……どうか頼む」
「なに言ってるんだよ。爺ちゃんと婆ちゃんは俺の家族だよ。俺が纏めて面倒見るから頑張ってくれよ。娘さんの敵の不死者の王とかいうあいつも俺がぶっ殺してやるからさ」
俺は泣きながらオルフェ爺ちゃんに縋りつく。段々、体が冷たくなってくるのが分かる。
「そうか、俺たちはいい孫を持ったな。それならばどうか頼む。私が不死者の王を倒すために編み出した数々の技、そして魔法などをリュータに渡そう。これを使いどうか娘の敵を取ってほしい」
「わ、分かった。俺が倒してやるよ。さあ、俺の背中に乗ってよ」
「いや、私はもうダメだ。もう感覚もない。セリナのことや敵のこともリュータに背負ってもらったんだ、思い残すことはないな。あいつに伝えて欲しい、今までありがとう、また会おうとな」
そういうとオルフェ爺ちゃんは死んでいった。俺は爺ちゃんを背負い婆ちゃんのところまで急ぎ戻った。
小屋に戻ると、婆ちゃんは爺ちゃんのことを知っていたのか、赤い目をしながら俺達を待っていた。俺は爺ちゃんをベッドに寝かせ婆ちゃんを残して小屋を出て一人で外で座っていた。
「リュータ、よく無事だったね。お前まで殺されていたかと思うと私は死んでも死にきれないよ。すべてのことは精霊から教えてもらったよ。さあ、あの人にリュータのスキルを使いなさい。それにより、リュータの中であの人も生きていくわ」
セリナ婆ちゃんに促され俺はオルフェ爺ちゃんの死に水を取った。
スキル「死に水」により、対象者オルフェの能力がスキル保有者リュータへと移さ れました。スキル保有者リュータは以下のスキルを獲得します。
オルフェ流剣術
守り人の知識
空間魔法(移動系)
結界魔法
土魔法
火魔法
風魔法
水魔法
索敵
隠密
スキル「死に水」により、対象者セリナの加護がスキル保有者リュータへと移され ました。スキル保有者リュータは以下の加護を獲得します。
戦女神の加護
祖父の愛
色んなスキルを貰ったけれど、それだけじゃ借り物のため俺はそれから1年間只管修行に明け暮れた。そんでもって何とかすべてを自分のものに出来たから、悲劇の権化の不死者の王の討伐に向い、何とか倒すことが出来た。
今までのことを思い返してみても、かなり色んな事があったな。よく生きてこれたぜ。しかしこれからどうするかね。俺たちを召喚した国には行きたくはないし、同級生6人とも会いたくないな。風の噂では、魔王を倒すために呼んだのにまだ倒せていないみたいだしな。なんでも、ハーレムだ、逆ハーだとかにうつつを抜かしているらしい。
何やってんだろうなあいつらは……
そんな訳で俺は取りあえず旅に出ることにした。なんか、婆ちゃんから貰った加護の影響か誰かが俺を呼んでいるような気がしたからな。
小屋の品物を全て空間魔法で収納し、俺は旅に出る。
目指すは、精霊王が居る世界樹だ。ここからだと大体1週間で着くな。
俺を呼んでいるのが精霊王だと思いつつ、世界樹へ向けて進んでいく。これから先起きることをまだ知らずに。
(終わり)