第8話 聖銃フェイザー
「――来たれ神滅魔装、我が聖銃フェイザー!! 我が心を燃焼させ、我が魔装は駆動する――!!」
これより先は神滅巨人闘争。
神代においてなお征服されたことのない広大な星の海にそれは顕現した。
遥かな空。大気を越えてその果て。星の海に存在する月にて、神滅魔装は顕現する。
それは巨大な銃。いや、砲と言うべきだろう。長大な砲身を持つ巨大な砲が月面付近にて顕現した。
行うのは単純だ。砲であるがゆえに、対象を貫く。それが目的。
敵もいない空間で、しかし誰よりも敵の存在を感じていた存在は高揚ではなく防衛本能にて魔心臓を駆動させていた。
「目標間浄化――弾体形成」
高濃度魔力が目標との間に道を形作って行く。それと同時に薬室内部にて弾体が形成されていく。それ自体に加速術式を幾重にも織り込み、貫通術式、強度補強術式等数多の術式を織り込んだ弾体が形成される。
目標を追尾し加速する魔弾を形成すると同時に、目標に向けての道が出来上がる。
魔力にてつながれた道はまっすぐに地上へと弾体を送り出すだろう。
「加圧開始、加速路起動――」
薬室を魔力が加圧していく。砲身に備え付けられた弾体を加速するために路がその役割に向けて魔力を奔らせていく。
砲後方から排気される魔力がさながら光の翼のように広がって行く。地上からでも見える頃だろう。照準器の向こう側にある男が空を見上げている。
だが、何ができるというのか。気が付いたところで攻撃を止めることなどできない。相手は人間で、人間は空を越えて星の海に出ることなど叶わないのだから。
そうそれでも怖いのだ。
「怖いな……」
睨みをあげる老人。その者が持つ覇気、紡いできた剣気が恐ろしい。
眼孔だけがぎらりとこちらに向いている。それを認識しただけでまるで刃で刺し貫かれたかのように感じる。
それがたまらなく怖く。魔心臓が魔力を産み続ける。弱い種族であるがゆえに、魔心臓は高揚ではなく恐怖で駆動する。
死にたくないがための防衛本能は神滅魔装の顕現すら許すのだ。
高まる魔力に比例して、光の翼が巨大となっていく。
「発射――」
臨界まで高まった砲。解放された弾体が加速路を通り飛翔する。遅く、されど速く。超加速を続け、砲から吐き出された弾体は真っ直ぐに狙いをつけた男、勇者アルスへと向かう。
怖いからこそ、相手の攻撃が届かない位置から攻撃する。それが衛星軌道上に存在する月。そこから惑星に弾を届かせるだけの大魔力があったからこその将軍。
「怖いから、死んで」
その一撃は、星が協力するゆえにまさに星の一撃。
大気圏に入り、赤熱する弾体は真っ直ぐにアルスへと向かった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「見ているな」
それに気が付いたのは偶然ではなく必然であった。遥かな空の向こうから己を狙う者がいる。つまりは殺気をアルスは感じた。
殺気。それは相手を殺そうとする意気。如何に隠そうとも、距離が離れていようとも。相手に注意を向けたのであれば絶対に出るもの。
それをアルスは感じ取った。
相手が巨大な翼を広げたのはそれと同時だった。
「なんですの?!」
「凄い魔力です」
「あははははは、ついに来たんだ。あの子が。臆病者が――」
ヨウヒメは驚きの声をあげ、ツァリーヌですらその莫大過ぎる魔力に呆けるほど。グッドマンただ一人が真相に至り笑っている。
「十将軍が一人。臆病者ノルン。ずっとどこにいるかわからなかったけど、あんなところにいたんだー。流石臆病者は魔力の貯蓄が半端じゃないねー」
「感心している場合じゃありませんわよ!! どうするんですの! もう相手は、戦闘態勢ですわよ!」
「んー、こっちも戦闘態勢っぽいし? なんとかなるんじゃない?」
ヨウヒメが見れば腰を深く落としアルスは剣を構えていた。迎撃するつもりなのだということを知って。
「いやいやいや!? そりゃ、確かに燃えるシチュエーションですけども!! あれは無理ですわよ!」
「えー? なんで?」
「だって、あれ星の一撃ですわよ!?」
星の一撃。この星の力に引かれて落ちてくる弾体。それだけでなくそれ自体が加速しているのだ。その威力はかつてこの星に堕ちた隕鉄と同程度。
大陸を抉り消したその威力がまさに今、アルスめがけて落ちてくる。
「皆尽く斬れ堕ちろ」
その弾体が威力を発するのは良くも悪くも接触した瞬間だ。それを本能的に感じ取ったアルスの思考は単純であった。
地面に落ちてくる前に切り裂く。理屈がわからなくとも結果が想像できさえすれば対処法など思いつく。
切り裂いてしまえば、何も問題などありはしないだろう。
だから、構えると同時に剣を抜き放つ。
凄まじいまでに圧縮された殺意が抜き放ちとともに解放される。
放たれた殺意と凄まじいまでの剣圧が斬撃となって飛翔する。
一撃だけではない。剣を振り回せばそれが全て斬撃を射出する。延長された剣の刃として滅多切りにされる弾体。
細切れになるまで、いやそれ以下になるまで振るわれた刃によって砂と変わらないまでに切り裂かれた弾体は一切の効果を発揮しない。
「そこか」
そして、アルスはその先を見据えている。どれほど遠くにいるのか見当もつかない相手。しかし、どこにいるのかわかった。
このままで斬れないというのならば近づくかこちらに近づければいい。基本アルスにできることは前者のみ。しかし、届かない。
「斬る」
それでも、そこがどれほど遠くとも斬る。
アルスは勇者なのだ。勇者であるならば、出来ないことなどありはしない。
鍛え上げられた刃に届かぬ道理などありはしない。
「オオォオオオオオォォオォォォォ――――」
アルスが声を上げる。大上段に剣を振り上げ振り下ろす。
結果は如実だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ノルンはその殺気を感じ取った。その瞬間には動いている。
相手が何をしようとしているのか、それはスコープ越しでなくともはっきりと伝わる。
殺意は明確な言葉だ。臆病者だけが、それを強くはっきりと言葉として認識できる。
身体を震わすほどの殺意。それは如実に斬ると伝えてくるのだ。
その瞬間には、ノルンは神滅魔装を人型へと変形させている。手に持った巨大な砲は真っ直ぐにアルスへと向けているが攻撃が目的ではない。
――来る。
その思考と同時に既に回避は完了している。斬撃という線が月に刻みつけられている。いや、いいや違う。
月がぱっくりと切り裂かれた。ここまで届くほどの殺意。空気を飛翔させる斬撃飛ばしではなく、殺意を形にして切り裂いたのだ。
もし一瞬でも躱すのが遅ければノルンの神滅魔装フェイザーが真っ二つになっていたことだろう。
つまりこの場所も安全ではなくなったということに他ならない。むしろ、危険だ。
この場にとどまれば斬られた場合、どうしようもなくなる。地上に戻れはするだろうがどこに行くかわからない上にその間にどれほど身体が破損するかわかったものではない。
ゆえにノルンの行動は迅速であった。魔力の翼を広げて加速。砲撃を放ちながらアルスへと突貫する。
「怖い、怖い、怖い」
怖い。その感情が魔心臓をより大きく駆動させる。魔力は奔り、凄まじいまでの砲撃を地上へと叩き込む。
「怖い」
怖いからこそ、殺せ――。
魔族の中でもっとも臆病な者がここにその殺意を真に発露させる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「来るか」
対して、アルスは笑っていた。これほどの相手だ。勝てばきっと、己はまた強くなれるのだろう。
あの槌の男が言った極まるという事実。ならば斬るのみだ。来るというのならば遠慮なく斬らせてもらう。
「さあ、来い」
――俺はここだぞ。
放たれる砲撃。正確無比な射撃だった。だからこそ斬りやすい。
正確にどこに来るのか相手の殺意が教えてくれる。その位置に刃を置けばいい。そうすれば切れる。斬れないなど考えない。
全て斬る。
そう決めている。ならば斬れないなど考えない。斬れなかったらその時だ。所詮、アルスという人間はそこまでだったにすぎないということ。
それに魔王を倒すと決めている。ならば斬れないはずなどないのだ。
「む」
その時、弾丸の射線が切り替わった。
腕や足などを狙った射撃。先ほどの正確無比さはどこへ行ったのか。真逆のへたくそな射撃。
「――――」
だが、その効果は如実だ。斬り払いが難しくなっていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ノルンがやったことは単純だ。
狙いをつけることをやめた。だいたい、神滅魔装の弾丸である。その大きさは神滅魔装の大きさに比例して巨大だ。
狙いを付けたところであまり意味はない。
あとは反動制御術式、射撃補正、射線確保の術式の一切の駆動を停止させた。
回転していた術式帯が活動を停止するとノルンの射撃は大きくブレを内包した。見るからに無様なしゃげk知恵あるがその結果、射線を読ませにくいという副次効果をも内包している。
「駄目、か」
だが、それでもアルスを穿つことはできない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「見えたか」
斬って、斬って、斬って、切り裂く。全てを斬り裂けば相手の全貌が露わになる。巨大な翼を広げた神滅魔装。
それは空を駆けその砲で地上を焼き払う地獄の天使のようであった。
だからどうした。
「斬ってしまえば同じことよ」
走る斬線。
全てを斬れと言っている。
ならば斬るのみ。
斬線に沿って刃を走らせれば斬れるのだ。
走る斬線に刃を乗せた。ただそれだけで斬るという行為は終了する。
大気を斬り裂いて、神滅魔装をも斬った。
かつてはあれほどまでに斬れなかったものが、斬れるようになった。それは間違いなく成長といえるだろう。
だが、アルスは満足などしていない。ただ神滅魔装しか切れていないのだ。敵を斬れていないのではまったくもって誇れない。
もはやアルスの前では神滅魔装すら無意味。だから どうしたというのだ。そも数々の戦いを経て極まりつつある男にとってこの程度のものきれなくてどうするというのだ。
斬れる。そう思えば斬れる。
全てが斬れていなかったのは未だに未熟である証拠。ここまで戦ってきて、いまだにこれだ。
アルスはただただ嘆く。この程度しか成せぬ己の才に。
だからこそ人類が滅んだというのに、まだ無様を晒すか。
魔王を倒すには到底足りぬ。ならばどするか。簡単だ、斬れ。斬れないのだから、斬れるようになれ。――斬れ。
至高の全てが斬れるようになるまで。斬って斬って斬り続けろ。もとよりアルスにはそれ以外にできることなどありはしないのだから。
「ああ、俺は弱い。だからこそ、斬る」
そう斬るのだ。
斬って、斬って。
その先で至高に届けと。
アルスは刃を振るう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
神滅魔装が斬られた。
それを認識したノルンはそれを即座に乗り捨てる。背後で粒子となって消えていく神滅魔装。普通ならば終わりだ。
そう普通であれば。それでいいのだ。むしろ、ノルンの真価はここからの戦いだ。
ノルンは自らの体を変化させていく。そうしてアルスの前に降り立つ。
「ほう、俺か」
そうアルスが言った。アルスの前に立っていたのは自分だったからだ。
これがノルンの真価。
「彼はスライムだからねー」
グッドマンがそう言う。
ノルンはスライムだった。どこにでもいるあのうねうねとした最弱生物と呼ばれるほどに弱い魔物だ。吹けば飛ぶ、焼かれれば死ぬ。
水だけあればどこにでも生きていけるほどに適応力は高いがそれだけ。
ふつうはさほど意思を持たない魔獣と魔物の中間に位置するような存在だった。
「スライムって、あのスライムですの?」
それを知っているヨウヒメがそう聞く。あまりにも聞いていたものと目の前にいるノルンの姿はかけ離れているからだ。
彼女の中のスライム像は、うねうねしていたものだ。それ以外に見たことはない。スライムと言えば上下水道の集積地にして水を綺麗にしてくれる存在だ。
あの手のスライムはうねうねとしていたし、色もどれだけ下水を吸ったかによって違ってくる。ぶよぶよとして臭いのきついアレだ。
だからこそグッドマンのいうスライムと結びつかない。
「あれ、ヨウちゃん、上位スライムにあったことないの?」
「あいにくと」
「うっわー世間知らずー」
「うるさいですわよ!」
「ほら、ツァリちゃん解説ー」
「はい、えっとですね、ヨウヒメさん、スライムというのは不定形生物なんですけど、上位スライムになると色々な能力を持っていて擬態能力もその一つなんです」
上位スライムとなれば完全な魔物の扱いになる。それは意思を持ち自ら魔心臓を駆動させることができるからだ。
そんな上位スライムたちは様々な野力を持っている。ツァリーヌが言った通り擬態もその一つだった。
「なるほど、ならあれはアルスに擬態したってことですのね」
「そういうことになりますね」
「ふふふん。彼の真骨頂はここからさー」
「真骨頂?」
これ以上何があるというのか。
グッドマンのその言葉の意味は直ぐに明らかになった。
「――――」
ノルンの剣戟で天地が割れた。
まるで寸分たがわぬ鏡写しのような動きが目の前で繰り広げられている。
「自分と戦うとは良い、気分だ」
それは自分との戦いだった。これがノルンの真骨頂。擬態を使っての相手の模倣だ。
寸分たがわぬ動きでノルンはアルスの斬撃を繰り出してくる。自分の斬撃を受けるというのは初体験だ。
自分を斬る。普通ならば躊躇するだろうがアルスに躊躇はない。
「斬る。今の自分を斬れねば到底、魔王など斬れまい」
ゆえに斬る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
高まる相手の殺意にノルンはただただ震えていた。
ノルンは臆病者だ。そして、自らを弱者だと思っている。
なにせ、他の十将軍のように剣で山だとか海だとか、空なんかを割ることは出来ないし、極大の魔法が使えるわけでもない。
できることは臆病者ゆえの莫大な魔力を振るって弾を遠くから撃つか、今のように相手に化けることくらい。
相手の斬撃などまともに受ければすぐに死ぬだろう。だが、肉体が削りとられることはない。
相手に化けている。ノルンはそれだけが出来るのだ。その再現率は実に100パーセント。完璧だ。
そこにノルンの臆病さが加わる。死にたくないからこそ、傷つかないように必死になる。ぶり返しそうになる震えすら忘れてがむしゃらに死を拒絶し続ける。
それは極限の回避性能を付与されたに等しい。アルスですらできないようなありえない死の察知によって尽くの必殺を躱して逆にその必殺をアルスへと放ってくる。
その根底にあるのはだって死ぬのは怖い。傷つくのは嫌だ。
誰だって傷つきたくない。死ぬのは怖い。そんな普通の感情が大半を占めている。だから、先制攻撃でさっさと脅威を取り除こうとした。
それが出来ないからこうやって戦っているわけだ。
ただひたすらその臆病さから来る危機感センサーをフル稼働して相手の攻撃を防いで逆にカウンターを叩き込む。
――倒れろよ。
既に百度は切りつけただろうか。アルスの身体には無数の傷が刻まれ血を流しているし、いくつか左手の指が飛んでいた。
それでもアルスという男は倒れるということを知らない。むしろ、まるで軽くなったとばかりに剣戟の速度が上がって行く。
それでも、持ち前の臆病さで知覚して刹那で斬り続ける。
また斬られたところで、軟体生物だ。スライムであるがゆえに斬撃は効果が薄い。
「斬る」
――怖い。
その殺意が怖い。全てが怖いのだ。
ゆえに、その殺意が回る度に、斬撃が放たれるたびに、ノルンはただひたすらに自らの臆病さを研ぎ澄ませていくのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あはははは、これだからノルンはおもしろいんだよねー」
「いや、笑っている場合ですの? これ結構やばいですわよ」
ヨウヒメは状況を正確に把握している。戦況はアルスが不利だ。
互いに同等の技量で戦っているが、違う点がいくらかある。まず魔力。それからノルンの臆病さだ。
特にセンサーの差は大きい。アルスが殺気に応じて避けるよりも早く彼のセンサーは斬撃を回避させてその瞬間にカウンターを放たせる。
その精度だけ見ればアルスを優に超えている。恐怖を感じていないらしいアルスには磨かれないものゆえにその差は大きい。
なぜならば避けるだとか躱すだとかは恐怖というものが源泉の行動であり臆病者は総じてそういうのが巧いのだ。
斬撃は回避され、大地と山を斬り裂くもノルンの身体は切り裂かない。
「うーん、やっぱり面白いよねー」
「きっと大丈夫です」
「ツァリちゃんの言うとおり。なんとかなるでしょー。もうあれ止められるの魔王くらいだろうし」
「まあ、そうですわね。そうなんでしょうけど」
それとこれとは話は別で、自分の男が良いようにされているのは不快だ。ああできるのが自分ではないというのが酷く不愉快だ。
あれ、よくよく考えれば自分はアルスとは戦っていない。
「全部終わったら、一発。あー、殺されそうですわ」
魔王を倒した相手に立ち向かう。
それはそれで、実に燃える展開であるが目的を果たす前に死ぬのは勘弁願いたいところだ。誰であろうともあの男は手加減を知らないのだから。
せめて第二夫人として子を授かってから死にたいものである。
「そのためには、ツァリーヌ、頑張って下さいね」
「はい?」
「先は長そうですわー」
そんなのんきながらも、ヨウヒメはアルスを見やるのをやめない。真剣なまなざしで見つめる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ああ、この程度なのか」
自分と戦ってアルスは酷く落胆していた、この程度なのかと。この程度でよくも魔王を倒すと言ったものだと落胆する。
なんたる浅慮。案たる傲慢。何たる弱さだ。そして、その程度も斬れない己の何たる弱きことか。
相手は自分と同じ動きをしている。見切りは完璧。その動きは手に取るようにわかる。だが、攻撃が当たらない。
相手が臆病者だからだ。その分、回避、受け流し、受け身、その全てが巧い。
だが、それは言い訳だろう。相手が巧いのは当然だ。数百、数千年を生きてきた魔族が相手なのだから当然だろう。
そんなものは言い訳でしかない。つまるところ、全てはアルス本人が弱いことが原因なのだ。
弱い弱い。
この程度で勇者とは片腹痛い。呆れて物も言えぬほどだ。
だからこそ、
「やめた」
「――!?」
相手が避けるのならば、こちらは避けない。
突き刺さった刃が身体の中を抜けていく。熱く、冷たい感覚が身体の中心を駆け抜けていく。
柄まで刺さるように抵抗することなくアルスは刺された。
そして、相手の腕をつかんだ。
「捕まえたぞ」
老骨とは思えぬほどの剛腕で相手の腕をつかみ取る。実体のないスライムと言えど、今は実体がある。ならばつかめるのは道理。
そして、掴んでしまえば、
「斬る」
逃げるに逃げられないだろう。
相手が姿を変える前にアルスはノルンを切り裂いた。
さらに返す。
一撃ではスライムは死なない。完膚なきまでに細切れにしていく。
全てを細切れにしてそれは動かなくなった。
すっかりダウンしている今日この頃です。
なんというか、書けない症候群。
ただ、スチームパンクスポーツ物という異色の何かは構想しています。




