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交代

己多は、蒼の元で軍へと入り、他の軍神達を育てることに専念することになった。やはり元は蛇の王であっただけあって、己多は大変に優秀で、機転も利いた。それに、龍軍も駐屯するこの月の宮では、己多の旧知の友も居るようで、穏やかに毎日を過ごしていた。

美加のことは、ヴァルラムから知らせて来た通り、ヴァシリーと仲良くやっているらしい。どうやら美加も甲冑を着て、最近では訓練場に立つことが多くなったようだ。そこは維月の血だと十六夜は笑ったが、月でもない美加のこと、まだ小競り合いのある大陸で軍神などと怪我をしたらと、維月はとても案じていた。

それでも、美加は大変に優秀であるらしい。夫であるヴァシリーの傍らで、最近では任務もこなすのだと聞いている。そんな美加に、婚姻の祝いはドレスを飾るレースやベルベットの他に、頚連や額飾り、そして甲冑が贈られた。あちらでもその軽い甲冑は大変に重宝しているのだそうだ。

維心と維月は、また龍の宮で仲睦まじく暮らしていた。

時に十六夜が迎えに来て月の宮へと里帰りする。しかし維心も、後から追いかけて来る。いつものように、そうやって過ごしていた。


龍の宮から維心の遣いでやって来た、維明を前に蒼は言った。

「そうか、美加は元気にやっているのですね。」蒼は、感慨深げに言った。「こっちでも、晃維から預かった奏は元気にしている。維明様には、奏にお会いになったことは?」

維明は、首を振った。

「姿は見たことはあるがの。ところで蒼、そのように話すのはやめよと言うのに。我は前世の記憶は持っておっても、以前の維明と同じぞ。」

蒼は、首を振った。

「もう、母も維心様も知っておるのですから。オレも、知ったからには無理ですよ。」

維明は、息をついた。

「困ったものよ。我に以前と同じように話しかけるのは、十六夜と維心だけになってしもうた。ま、他の神は知らぬしそのままであるがな。」

蒼は、頷いた。

「そうでしょうね。でも、知ってから宮ではいかがですか?維心様がぴりぴりなさっておいでだとか。」

維明は、ふーっと息を付いた。

「そうなのだ。我は努めて皇子であろうとしておるのだが、維心は複雑なようで。維月が絡むとなおのこと。今日とて、別に我が美加のことを知らせたり奏の様子を聞きに来なくても良いではないか…軍神を使えばこと足りる。それなのに、行って来いと命じられたのだ。己が会議で宮を留守にして、維月を一人にするからと。」

蒼は笑った。

「維心様らしい。心配で仕方ないんだろうと思いますよ。此度はオレに、神の会合に来なくていいと言って来たのも、だからだったのですね。オレはいい休みをもらえたとホッとしていたけど。」

維明は、肩をすくめた。

「何を申す。我は、余計な気を遣ってしもうておるわ。」と、立ち上がった。「とはいえ、我とて維月と話す時間くらい欲しいのは事実。会合はまだ終わるまい。用は済んだし、戻る。」

蒼は、慌てて立ち上がった。

「お待ちください!分かっていて引き留めなかったと、オレが維心様に叱られてしまう!」

維明は、フフンと笑って戸口へと歩き出した。

「今、引き留めたではないか。それでも帰ったと申せば良いわ。ではの、蒼。」

維明は、ためらいもなく出て行った。蒼は、また面倒な事にと思ったが、前世の維明を知っている。本当に今生は、子として生きるつもりなのだろう。

困った事だと思いながらも、蒼は苦笑してそんな維明を見送ったのだった。


神世は、今は穏やかだった。

しかし、王の代替わりが始まり、新しい王達が世に君臨し始めた。箔翔も然り、克輝も然り、そして大陸では次の王の候補も育ちつつある。

維心も、前世の記憶があるので古くから君臨しているかのように振る舞ってはいるが、将維から代替わりした新しい王。

力のある神も多く出現し始め、帝羽を筆頭に王ではないのに王のような神も育って来ていた。

神世が変わって行く…。

蒼は思った。自分は不死の月。もう何百年も姿を変えず、こうして生きて来たが、これがその事かと、急に孤独感に苛まれそうになって、蒼は慌てて空を見上げた。

月が居る限り、自分は一人ではない…。

蒼は、自分に言い聞かせた。移り変わる世。変わらぬ自分。これからも続いて行くのだ。愛しいもの達に死に別れながら、新しい命に先を教えて導いて行く、その長い長い生が…。

最後は短くなりました。まだまだ箔翔や帝羽、維明や奏などのお話は続いて行くのですが、一度ここで休憩しましてアーシャンテンダを書いて行きたいと思います。未熟者なので、二つを同時に書くと頭が混乱して時間が掛かってしまい、毎日更新が出来ないので…。申し訳ありません。出来そうならば、またお知らせ致します。2/3

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