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独立

桜の宴は無事に終了し、維心と維月はまた、たくさんの龍達と共に龍の宮へと帰って行った。

維心が残したお礼の品は、いつもより格段に多く、宮は帝羽が言ったようにタオル生地の製品を慌てて作らなくても、とにかくは今期困らないだけは潤った。

しかし、これからの事もあるので、蒼はまた会合の席を設け、皆の意見を乞うた。

「帝羽が提案してくれたからこそ気付けたことだが、今まで力を入れておらなんだあのタオル生地の生産を、上げるようにしようと思うておるが、それを利用した製品の開発を、誰かに請け負ってもらいたい。適任の者は居るか。」

蒼が言うと、翔馬が首をかしげた。

「今まで、職人を育てることばかりを考えておりましたので…今世にない物を考える者など、考えたこともございませなんだ。」

帝羽が言った。

「学校の方には居らぬのか。人世に詳しい者ならば、あちらにもうある物で、神に需要がありそうな物を作らせれば良いのだ。」

翔馬は、手元の紙を見た。

「確かに、何人かそのようなことなら考えられそうな者はおりまするが、縫製が伴うと、技術が必要となりまするので。タオルは確かに機械が織りまするが、そこから先は手作業でございます。」

裕馬が、あ、と手を打った。

「一人、女神が居る。人世に居た時はパッチワークが趣味だったと言っていた。つまりは、縫い物が出来るってことだろう?あの女神を宮で使えばいいんじゃないか。他にも、侍女の中でも裁縫が得意な者が何人か居るだろうから、そいつらにさせよう。形は、こっちで考えなきゃあいつらも困るだろうけど。」

帝羽が言った。

「とにかくは、このような形に出来るのだという宣伝であるから、最初だけで良いのだ。そこから後は、その生地を使って各宮の職人が縫製をするであろうから、こちらはタオル生地でのいろいろな可能性を提示して、その生地を使いたいと思わせれば良いのだから。あくまで、タオル地を欲しいと思わせることを考えよ。」

蒼は、頷いた。

「じゃあ、試作品の生産の方はそれらに命じるとして、何を作るかだな。」

帝羽が、言った。

「我はタオル生地の生産機械を見て参りましたが、あれは思ったよりたくさんのことが出来るようでございます。機械を扱っている者の話しによれば、ただ今でも厚さや肌理の細やかさ、柔らかさなども変えることが出来るとか。」

蒼は、帝羽を見て頷いた。

「確かに、バスタオルなんかはぶ厚目だし、龍の宮へ送るタオルなんかは糸の質までいいんだと聞いている。糸も三本使ったり二本で済ませたり、いろいろ出来るようだな。」

帝羽は、続けた。

「はい。なので用途に合わせて生地も換え、赤子から成人までその年齢に合った製品を作って行けばと。軍神などには、丈夫で薄く吸汗性の高い襦袢などがあれば。」

翔馬が、驚いた顔をした。

「なんと、襦袢にまであの生地を?…考えたこともございませなんだ。しかし、確かにその通りでございまするな。赤子にも、柔らかく薄い生地で肌襦袢を縫えば、恐らく需要は高いのではありませぬか?」

蒼は、目を輝かせた。

「そうか、襦袢にとなると、かなりの生地が要るし、需要は増えるな。」と、少し黙ってから、続けた。「…龍の宮では、王や王妃がまとう着物の柄やアクセサリーが流行るって聞いたことがあるんだけど。」

翔馬が、何度も頷いた。

「はい。龍の宮の最高の職人が編み出すその古典的でありながら斬新な柄やデザインが、龍の宮どころか神世では瞬く間に流行るのでございます。つまりは、真似をするのでありまするな。あの方々は、言わば雲の上のような地位であられるから。まあ、流行の最先端と申しますか。」

蒼は、頷いた。

「じゃあ、母さんと維心様に着てもらえるようなものを作ったらいいんだよ。最高級の糸で、軽くて薄い伸び縮みする襦袢なら、寝間着にするのも最適だしさ。光沢が出るように、糸を植えつけて行くような形の…ベルベットみたいなのもいいんじゃないか?神世では見ないから。」

裕馬が笑った。

「ベルベットで?重ね襟とか作るのか?」しかし、自分で言ってしまってから、ハッとしたように口を押さえた。「…いや、有りかもな。でもそうなると、ベルベット用の機械も人世から調達しなきゃな。うちの機械じゃ無理だろう。」

翔馬が、何度も頷いた。

「はい。龍王と王妃が身に付けてくだされば、間違いなく神世で流行りまするし。そこの辺りも考えてみましょう。」

そうして、月の宮では経済的に独立するため、いろいろな案が出されて急ピッチで開発は進んで行ったのだった。



「…これを?」

維心が、龍の宮で目の前に差し出された、見た感じは普通の寝間着用襦袢を見て言った。維月は、頷いた。

「はい。人世のバスロープの長い版だと私は思ったのですけれど、着てみたらこれはとても楽なのですわ。お休みになる時は、絶対こちらの方がよろしいかと。寝返りも打ちやすいですし。」

維心は、あまり気が進まないようだったが、維月に着替えさせられるまま、その変わった生地の襦袢に手を通した。いつもの物のようにぱりっとした感じはなく、身に添うように柔らかい。そうして、腰紐を別に結ぶのではなく、内側と外側についている短い紐で前を合わせて綴じるようだ。

着せられた維心は、とても着物ではない形になっているそれを、居心地悪げに見た。

「これで、居間へは出れぬの。」

維月は、頷いた。

「寝る時だけでございます。確かに上に袿を羽織る訳にはいきませぬが、それでも楽でございましょう?」

維心は、腕を少し振ってみた。

「確かに、伸び縮みするゆえ引っ張られる感じは全くない。だが、主もこれを着るのか。」

維月は、頷いた。

「はい。寝るための物でございまするから。」

維月は、先にぎこちなく寝台へ入って待つ維心を背に、さっさと着替えた。ああ、なんだか懐かしい。人の頃の感触…寝るときまで、きっちりしないでいいって安心感が…。

維月は、身軽になって飛ぶように維心の横へと滑り込んだ。

「ああ、とっても楽ですわ!とても懐かしい感じ。いつなり、着物に拘束されておるような緊張感がありましたけれど、これは人世に居た頃の寝具に着替えたような開放感が。」

維心は、はしゃぐ維月に苦笑した。

「生まれてこの方着物で寝たことしかないゆえ、我には何やら心もとないが、確かに開放感はあるの。足を動かしても、伸びよるから突っ張る感じがないしな。」

維月は、ふふふと笑って布団にもぐりこんだ。

「私はこれからこれで休みまする。楽でございまするから。」

維心は、じっとそんな維月を見ていたが、急に襟の辺りを掴んだかと思うと、ぐいと引っ張った。

「きゃ!」

維心は、見る見る表情を明るくした。

「おお、ほんによう伸びるわ。ちょっと引いただけなのに。これは良い、わざわざ腰紐を解く面倒もないし。」

維月は、慌てて胸を隠した。

「維心様!どういう基準で判断されておるの?もう!」

維心は、ふふんと笑った。

「我も気に入ったのだから良いではないか。さあ、妃の務めを果たせ。」

維月は、ぷうと膨れながらも、維心の首に腕を回した。

「維心様はそのような意地悪ばかりおっしゃるんだもの…。」

しかし、それから維心と維月はその襦袢を寝間着に使うことに決定した。


あれから、龍の宮には山のように試作品が贈られて着ていた。

瑠維の産着は柔らかい高級タオルで縫われた物ばかりになった。最初、試作品が来た時に、これは良いと乳母と維月が太鼓判を捺し、それを聞いた宮の縫製の職人が、月の宮へとその生地を発注し、そうして、龍の宮の職人が縫った、繊細なタオル地の産着が誕生したのだった。

緻密に居られたタオルは、大変に手触りも良く、心地よい。果ては草履の鼻緒にまで使われたりと、とにかくはたくさんの試作品があった。

しかし、実際に維心が使えるものは、それほど無かった。公式に出て行く時には、やはり通常の絹で縫った着物を着ていたからだ。タオルは、表に見えるところで使われることがあまりなかったのだ。

しかし、龍の宮の皇女に着せられている産着の生地が欲しい、という問い合わせは、月の宮には多く寄せられた。維心と維月が、寝間着にタオル地のものを使っているということは、皆に知れるようなことではないので、伝わらないのだ。

しかし、帝羽は諦めなかった。まだ、ベルベットが残っている。これを、何とか龍の宮の職人の手で何かに出来ないか。

帝羽は、月の宮の真新しい機械がせっせと織った色とりどりのベルベット生地を手に、皆の期待を一身に背負って龍の宮へと飛び立ったのだった。

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