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友の宮

そうして、瑠維は無事に嫁いで行った。

あちらへ行って、滅多にこちらへ戻っては来れない事実を知ってからは、しばらくホームシックに掛かったようだった瑠維も、今では落ち着いているらしい。

自分が臣下の妻という立場になったことを、やっと自覚して、何とかやっているらしいことを聞いて、維心も維月も、そして維明もホッと胸を撫で下ろしていた。

炎嘉からは、あれから維明は鋭い指摘を受けた…主は、誰の生まれ変わりぞ?

炎嘉のその言葉に、炎嘉がただの王ではないことを改めて悟った維明は、それでも言った…生まれ変わり?我に前世があるとおっしゃるか。しかし、我には覚えがありませぬゆえ、父上か母上にお聞きいただけませぬでしょうか…と。

炎嘉は、それを聞いてそれ以上何も言わなかったが、何かを悟ったのは確かなようだった。

やはり、前世維心と世を太平に導いた神。

維明は、改めて炎嘉の能力を感じていた。


そんな事に思いを馳せている時に、しばらく会っていなかった箔翔から維明宛てに書状が届いた。私的な書簡で、毎日退屈に庭を眺めておるが、主はどうか?と書かれてあった。

維明は、確かに前世の記憶が戻ったものの、今生の記憶もしっかりしていた。そう、前世と今生が合わさった感じが、今の維明であったのだ。

なので、箔翔が友だという記憶も確かに今の維明のものだった。久しぶりに会ってみたいと思った維明は、それを維心に話して、鷹の宮へと行く許可を貰い、帝羽一人を連れて龍の宮を飛び立ったのだった。


維明が鷹の宮に到着すると、箔翔は迎えに出て来てくれていた。そして、笑顔で維明を迎えた。

「維明。何やらしばらく会わぬ間に、気が落ち着いてしもうて。どうしておった?」

維明は、笑い返しながら言った。

「相変わらずよ。軍務と政務ばかり。主は、公青の妹を妃に迎えたのだろう?うまくやっておるか。」

箔翔は、それには少し表情を曇らせた。

「まあ…あんなものだろう。」と、奥へ促した。「帝羽も、久しいの。ここは主の里。好きに過ごすがよいぞ。」

帝羽は、頭を下げた。

「は、ありがとうございまする、兄上。」

箔翔は、先に立って歩き出す。維明は、急に心配になって聞いた。

「箔翔?主、妃が気に染まぬのか。」

箔翔は、憮然とした様子で歩きながら言った。

「気に染まぬとて…悪い訳ではないがの。何しろ、姿を少し見ただけの女であるし。慕わしいとか、そんなものは最初から無い。だが、妃とはそういうものだと他の王も申すし、数が増えて参ったら、中には好ましい女も居ると聞いておる。なので、これも王としての義務かと諦めておるのだ。毎日通う必要もないし、まあ良い。」

維明は、確かに神世の王の婚姻は、そんなものだと知っていた。だが、何しろ維心があんな感じであるし、自分も前世慕わしい女しか手にしなかったし、何か違和感があった。

「そうか…難しいの。」

箔翔は、ふっと笑った。

「主は良いではないか。父があのようだから、何とでも言うて気に入った女だけを娶れば良かろう。羨ましい限りよ。」

維明は、苦笑した。確かに、前の我ならそうせねばと焦ったやもな。

「別に…まだ先の話よ。何しろ我は、まだ皇子であるからの。主とは地位が違う。」

箔翔は何も言わずに頷いて、自分の居間へと入って行った。少し前、そこは父の居間だと言って、慣れない様子だった箔翔も、しばらく見ない間にすっかり自分の居間という風情だった。

中へ入ると、定位置に座った箔翔に、侍女がやって来て頭を下げた。

「王。お茶などお入れ致しましょうか。」

箔翔は、面倒そうに手を振った。

「我は要らぬ。」そして、維明を見た。「主は?」

維明は、首を振った。

「我も要らぬ。」

それを聞いて、箔翔は侍女に手を振った。侍女は、また頭を下げて出て行った。箔翔は、ため息を付いた。

「放って置いてくれぬのだ。何かあるかとああしてこちらを伺って。面倒でならぬわ。皇子の頃はそれほどでもなかったのに。」

維明は、気だるげに座りながらそう言う箔翔に、心配そうに顔を見つめて言った。

「主…変わったの。前は精進せねばとそればかりで、我とよう立ち合ったものであったのに。」

まるで維心のようだ、と維明は心の中で思っていた。箔翔は、維明を見て言った。

「精進とて、どうすれば良い。ここでは我より強い神など居らぬ。皆、王、王と奉るばかりで、学ぶ事など何もないゆえ、我は会合などで会う王達から学ぶよりない。だからと言うて宮を開けるとうるさいゆえに、こうして暇にしておるしか無いし、宮へ招いても他の王も同じような状態でな。宮からなかなか出れぬのだ。」

維明は、思った以上に箔翔が煮詰まっていることに困惑した。

「確かに…王になってしまっては学ぶのは難しいやもな。なので皆皇子の間にあちこち出かけるのであるし。」

箔翔は頷いた。

「今になってようやく分かったわ。同じような悩みを抱える若い王は多い。そら、瑠維に懸想しておった克輝もそうよ。我はあれと、よう会合で会うておった。立ち合いで勝たねばならぬのに、精進しようにも軍神達が不甲斐ないと、地団駄踏んでおったわ。なので何度か立ち合いに付き合うてやったが、あれは明輪に負けたらしいの…ま、あの技術では無理もないが。」

維明は、意外なところで箔翔もあの騒ぎに関わっていたのを知って、驚いた顔をした。

「そうなのか。知らなんだ。確かにあの短期間で、克輝が腕を上げておったのは父上も認めておられたからの。主が指南したのなら、わからいでもない。」

箔翔は、頷いた。

「我の話し相手というたら、今ではそれら若い王なのだ。知らぬことが多いゆえ、誰かに聞きたいがさりとてそのような基本的なことをと呆れられるのも気兼ねして、だがあれらになら、気兼ねなく聞けるからの。妃のこともそうよ…一目見ておって、美しいと思うたので、どうせ誰か迎えねばならぬのなら、顔も知らぬ女よりも知っておる女が良いとあれを選んだ。だが、話をして性質などを知ってから望んだわけでもないし、どうもピンと来ずでな。始めは知ろうと努力もしたが、神の女は何も言わぬし控えめすぎて、何を思うておるのか皆目分からぬ。なので諦めた。あれを慕わしく思うのは無理よな。次に期待することにする。」

乱暴な話だが、神世の王との婚姻が、ただ生活を保障してもらうためだけであるのを考えると、それも仕方がないことだった。だからこその、一夫多妻であるからだ。

維明は、維月ならば黙っておらぬだろうと思いつつ、頷いた。

「主がそう申すならば仕方のないことよ。だが、一度龍の宮へも参らぬか。あちらで我と立ち合おうぞ。さすれば、主も気が晴れようから。本日ここへ着いてから、何やら後ろ向きなことばかり聞いておるぞ。」

箔翔は両眉を上げたが、困ったように笑った。

「すまぬ。主の顔を見たら、つい愚痴ってしもうたわ。王など、良いことなどない。妃は決められるし、政務ばかりであるし、自由に出掛けることも出来ぬ。篭められているようで、憂さが溜まるのだ。」

維明は、頷いた。

「良い、我なら何でも聞こうぞ。だがの、そのように塞いでおってはならぬ。我が父上であっても、あのように気ままにしておられるではないか。政務さえさっさと済ませれば、臣下達もあまりうるさく言えぬものだと我は思うぞ。実際、我が宮がそうであるし。」

箔翔は、息をついて頷いた。

「気を遣わせてすまぬな。とにかくはまあ、ぼちぼちやっておるしな。それほどに塞いでおるわけでもないのだ。維明、そのように案じるでない。」

どうも、かなり心配そうな顔をしていたらしい。維明は、慌てて表情を引き締めた。

「いや…しばらく会うておらぬ間に、主が悲観的になっておるように見えての。我も己の方で手一杯で、気に掛けずにすまなんだ。」と、立ち上がった。「さ、ここでじっとしておるのが悪いのだろう。久方ぶりに、我と立ち合おうぞ。」

箔翔は、深く息をついたが、立ち上がった。

「どうせ腕を上げておるのに。我は、全く変わっておらぬのだぞ?」

しかし、そのまま維明と共に、鷹の宮の訓練場へ向かったのだった。

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