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夢の続き12

維心は、龍の宮で突然に頭を上げた。前で報告をしていた洪が、見る見る表情を変える維心に狼狽して言った。

「王…?いかがなさいましたか?」

維心は、立ち上がった。

「義心の狼煙。」

そして、すぐに窓へと向かう。神世の狼煙とは、人世のそれとは違い、軍神が不意の出来事に遭遇して事を自分では収められないと判断した時、それを王や他の仲間に知らせるために、放つ警告の気なのだ。そして大概が、その気を放った後、時間を稼いで世を去る。

同じようにそれを気取った龍軍の軍神達がもう上空へわらわらと集まって来ていた。維心は、着物姿のまま飛び立って言った。

「百で良い。付いて参れ。」

そして、見る間に龍身を取って、物凄い速さで飛んでいく。

軍神達は、必死に王の後を追った。


「急げ、狼煙を放たれている!」

鳥軍の将が叫ぶ。しかし、この月の玉はびくともしなかった。炎嘉は、この月の玉で守られた時点でどうしようもないことは知っていた。遠く、維心が気がする…来る。

「…間に合わぬ。」

炎嘉が、そう言ってすぐに、強大な気がこちらへ向かっているのを感じ、鳥の軍神達が構えようとした時には、もう目の前に大きな龍が来ていた。その後ろから、次々に軍神達と思われる龍が到着し、鳥の軍神達も慌てて鳥へと変化した。

「維心。たかが小競り合いに、龍身で来るとはな。」

巨大な龍は、炎嘉の方を見た。

《小競り合いとな?たかが輿一つに百もの軍神を引き連れて来る主に言われとうないわ。》

炎嘉は、嘲るように顎を動かして、笑った。

「そうか。そう見えるか。」そうして、炎嘉も見る見る鳥へと変化した。《しかしどうしても譲れぬものがあると申したはずぞ!》

炎嘉から変化した鳥は、他のどの鳥よりも大きく、強い気を放っていた。しかし、龍身の維心の気には敵わないのは明らかだった。しかし、炎嘉は強い気を放って維心を攻撃した。維心は、さっと尾を一振りしてそれを散らした。

《やめておけ。我には敵わぬと知っておるはずぞ。我も主を滅するつもりなどない。》

《奇麗事など申すな!》炎嘉は、また気を放った。《我とて初めて己から望んだもの、退く訳にはいかぬ!手にしたいなら、殺せ!その根性がないのなら、去ぬるがよい!》

維心は、その深い青い瞳で炎嘉を睨んだ。

《よう言うた。》

維心と炎嘉は、上空で激しく気を放ち合った。


蒼と維月は、それを輿から見て、仰天していた。あの、物凄く大きい龍が維心様。そして、そっちの大きな鳥が炎嘉様。

本性である姿に戻った二人の気の力はすさまじく、眼下に見える木々もその圧力に大きくしなっている。獣達も、必死に逃げて行くのが見えた。月の玉の中に居ても、その力はびりびりと身に感じて痛かった。回りの気流が激しく乱れ、渦を巻いて雲が巻き込まれて行くのも見える。維月は、まるで特撮映画を見ているような光景に唖然としていたが、十六夜の声で我に返った。

《まったく!回りが迷惑してるじゃねぇか!山の上空だから良かったものの、人里だったら人に被害が出てるところだ!あーあ、見てみろ、高圧線が切れちまって、今頃あっちじゃ停電だぞ!》

維月は、輿から身を乗り出して下を見た。確かに、山肌に点々と立っている鉄塔から繋がる電線がちぎれてしまっているうえ、鉄塔もいくつか倒れている。

…大迷惑じゃないの!

人だった維月は思った。この季節、電気がないと寒い。神様の癖に人に迷惑掛けて!

そう思った維月は、輿から飛び出して浮いた。外に居た義心が、驚いて維月の方へ飛んで来た。

「維月様!なりませぬ、中へ!月の守りがなければ、我らとっくにあの気の圧力に消し飛んでおるところ!」

義心は、ぐいぐいと維月を押して輿へと戻そうとする。しかし、維月は首を振った。

「人に迷惑を掛ける神様なんて!義心、私は止めなければいけないの!」

義心は、無理だと首を振りながら維月を押した。

「無理でございます!あのようになった王同士の争いなど、誰にも止められませぬ!」

だが、維月は首を振った。

「いいえ!」そして、維心と炎嘉に叫んだ。「お二人とも!私は、ここですわ!」

すると、あれほどに気を放ち合っていた二人が、ピタリと止まった。そして、こちらを振り向く。

それを見た蒼は、輿の中で身震いした。確かに止まったけど、我を忘れてこっちへ向かって来たらどうするんだよ…確かに、十六夜が守ってくれてるけど。

鳥の炎嘉が、維月の方へと寄った。

《維月…我は、ただ主に会いとうて参った。なぜに会ってはくれぬ。あれほどに楽しく語らったではないか。》

維月は、炎嘉を見上げて答えた。

「炎嘉様。炎嘉様は王であられるから、それを当然とされて分からないのかもしれませんけれど、私は人だったので、同席している他の神を気遣うことも出来ないようなかたを見ると、我がままだと感じてしまうのですわ。自分が自分がという押し付けは、苦手でございまする。あの時炎嘉様は、蒼も維心様も居るのに、ずっと私にばかりで、私が他へ話しかける暇も与えてくれませんでした。とても疲れましたの…なので、またお話しするつもりには、なれませんでした。」

神である維心にも炎嘉にも、維月の直接的な拒絶の言葉は鋭く突き刺さった。鳥の姿の炎嘉の赤い瞳は、悲しげに光った。

《それは…その、他を寄せ付けぬ強さを見せねばと…。》

すると、意外なことに横から龍身の維心が言った。

《維月、神世はの、力社会であるのだ。力や能力が優れている者が上に立つ。なので、炎嘉はあの時、自分の方が主に対して豊富な話題を提供することが出来る、とその能力を示すためにああしておった。我には残念ながらそのような能力はないゆえ、割り込むことが出来なんだ。神は、その時々で己が一番であることを、証明せねばならぬのだ。》

炎嘉は、驚いて維心を見た。今、自分を庇った…維心が。

維月は、困ったように顔をしかめて維心を見た。

「ですが、維心様、神世ではそうでも、人世では違うのですわ。私には、わがままで空気の読めない男のかたに見えたんですもの。いろいろなタイプの女が居るとは思うけど、私はもっと控えめで、内に秘めた強さを持つかたに惹かれますの。」

維心も炎嘉も、ため息をついた。

《難しい。人を学んだつもりで居たのに。女神達とは、絶対的に違う。》

炎嘉が言うのに、維心も頷いた。

《特に、維月は気が強い方の女での。我も接しておって知ったが。先ほどの、主に言うた言葉には、己のことではないのに我もショックを受けたわ。我が主であったなら、あのようなことをはっきりと言われると立ち直れるか疑問ぞ。》

炎嘉は、じっと維心の目を見た。

《確かにかなり萎えておる。》そして、するすると人型に戻り始めた。「困ったもの。せっかくに略奪して宮へなんとしても連れ帰ると決心しておったのに。今は、そうせずで良かったなどと思うておるわ。」

維心も、見る間に人型へと戻って行った。そして、炎嘉に言った。

「気が強いのは好みでないか?」

炎嘉は、首を振った。

「我は、従順なのが良いやもな。主はどうか?」

維心は、首をかしげた。

「他の女を知らぬゆえ。だが維月が良いのであるから、恐らく気は強い方が良いやもしれぬ。」

炎嘉は、肩をすくめた。

「やってられぬわ。確かに、あんな女は居らぬから、主が今まで独り身であるのも頷ける。」と、鳥の軍神達に合図した。「去ぬわ。何やら一瞬で夢から覚めたような心地よ。今日は、14番目の妃に通う順番であるし、早よう帰ってやるとするか。」

維心は、呆れたように炎嘉を見た。

「相変らずよな。もう、維月は良いのか?」

炎嘉は、ふんと鼻を鳴らしながら背を向けて言った。

「主が気に入りと申しておるのだし、我は良いわ。ま、せいぜい頑張るのだな。」

炎嘉は、あっさりと鳥の宮の方角へと飛び去って行った。維心は、あれほど執着していた炎嘉が、たった一言ですっかり冷めてしまった様を目の当たりにし、心の怖さを知った。心とは、何と不確かなことか。

維月は、ためらうように維心を見た。

「あの、維心様…。申し訳ありませぬ。早く収めてしまいたかったので…人が苦労して作った建造物も、お二人の諍いのせいで、あのように倒れてしまっておりますし。炎嘉様には、一度きついお灸をと思うておったので、ついあのように申してしまいました。」

維心は、それを聞いて驚いた。維月は、では計算ずくで?

「では主、わざとああいう風に申したのか。」

維月は、頷いた。

「はい。王は、非難されることに慣れておられぬでしょう?自分では当然だと思うて来たことであれば、なおのこと。ですので、ああいう風に申しました。もちろん、私の本心でありますけれど、これまで黙っておりましたの。それで炎嘉様が怒り出しても、十六夜が居りますし。」

維心は、あの咄嗟の瞬間にもやはり利口な維月にますます感心した。やはり、維月を妃に…。

「維月。」維心は、維月の手を取った。「我の妃に、なってはくれぬか。主ならば大丈夫ぞ。主は強い…我と共に、龍族を守る力に、きっとなってくれるであろう。」

維月は、取られた手に真っ赤になったが、しかし下からちらと維心を見上げて、意地悪げに言った。

「まあ維心様…私の力だけをご所望でいらっしゃいまするか?」

維心は、びっくりして維月をまじまじと見たが、維月の目が笑っているのを見て、からかわれているのだと知り、ニッと笑った。

「そのように。また我をからかうのだの。もう、我は学習しておるぞ?」と、維月を引き寄せて、抱き寄せた。「主を愛している。我の妃に。」

維月は、微笑みながらも涙ぐんで、何度も頷いた。

「はい…はい、維心様。どうか、末永くよろしくお願い致します。」

維心は、それは嬉しそうに微笑み、維月を抱きしめた。

「我こそ。維月…生涯離さぬ。」

そうして、維月は維心の元へと嫁いだのだった。

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