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あの二人は?

維心は、自分の部屋の寝台で横になりながら、隣に横たわる維月の肩を抱いて言った。

「それが、不思議なのだ。」維心は、天井を見ていた。「やけにはっきりとした夢を見ての。長く眠っていたような心地だった。懐かしく、かといって前世の記憶でもないのだが、あれは間違いなく主と我だった。それを見て、思い出したのだ…主は決して、当たり前に我の側に居たのではないということに。」

維月は、驚いたように維心を見上げた。

「不思議なこと…。私もですわ。まるで前世のようであって、前世ではない。それでも維心様は、私を望んで下さいました。炎嘉様も私をとおっしゃって下さいましたけれど…人当たりが良さそうでありながら、強い姿勢を感じて、警戒しておりました。維心様は、誠実に控え目に話して下さったけれど。」

それを聞いた維心は、急に起き上がって維月を見た。

「もしや…炎嘉は、月の宮へ訪ねた我を追って、参らなんだか?」

維月は、維心が急に起き上がったのでびっくりしてしどろもどろになりながら答えた。

「は、はい…あの、蒼が炎嘉様からの書状に断りのお返事ばかりしておったので、炎嘉様は来られなかったのですけれど、維心様に会うという口実で、来られたのですわ。」

維心は、視線を虚空へ漂わせた。同じ夢だ。いや、もしかしてこれは夢ではないのか。そうだ、夢の内容にすっかり忘れておったが、我は寝入り際、同じ夢ばかりを二日続けて見たのにおかしいと、原因を調べようと思うたのではなかったか。しかし、起きる神経が働かなかった…疲れているからと思うておったが、もしやあれは、眠っていたのではなく、何か、別の?

維心が、何かを考え込んでいるので、維月は布団で胸元を隠しながら、自分も起き上がって維心を見つめた。

「維心様?同じ夢でありましたか?」

維心は、ハッとして維月を見た。

「…同じぞ。だが、夢ではなかったのやもしれぬ。」と、何かに思い当たったように、寝台脇の引き出しを見た。「もしや…あの、玉か?」

維月は、同じ方向を見た。玉って…もしかして?

「瑠璃色の、玉でありまするか?」

維心は、頷いて引き出しを開けた。そこには、常と同じように黒い布製の巾着があり、それを開けて巾着をひっくり返すと、そこから小さな瑠璃色の玉が、維心の手の上へ転がり落ちた。

「隣りの世を見るためのものでありますね。」

維月が言う。維心は、じっとその玉を見つめて、何かを探っているようだ。そして、しばらくそのままで居て、手を下ろすと、ふーっと息を付いて、維月を見た。

「…この玉からは、力を放っていた残照が残っておる。こうやって気取れるということは、つい最近であるということだ。」と、維月の手にその玉を乗せた。「それに…主にも、分かるのではないか?」

維月は、びっくりしたように維心を見た。

「お父様の気がしまするわ!」

維心は、頷いた。

「碧黎が、何かしておったのだろう。我の真横でこのようなことが行なわれておったのに気取れなんだということは、碧黎が己の力で包んでおったと考えられる。蒼が、数日前に十六夜の遣いだと言うて、これの存在を聞いておったのだ。これで、繋がったの。」

維月は、じっとその不思議な光を放つ玉を見つめた。そうなの…お父様と、十六夜が…。

しかし、維心は首をかしげた。

「だが、解せぬ。主とよう使っておったゆえ分かっておるが、これでどの隣りの世へ行くのかを決められた例はなかった。なのに、我らは二日続けて同じ世を見ておったことになる。」

維月は、苦笑して維心を見た。

「まあ維心様…お父様でありまするのに。」

維心は、面白く無さげに顔をしかめた。

「全く、主の父は厄介ぞ。思いもしないことをしよる。」と、維月の肩を抱いた。「…しかし、此度は感謝せねばならぬがの。」

維月は、維心を見上げて微笑んだ。

「はい…十六夜にも。」そこで、あ、と口を押さえた。「あちらへ、何も言わずに出て参ってしまいました。私は、一度あちらへ行って十六夜に話して参りますわ。こんなことを考えてくれるほど、心配をかけておったのですから。」

維心は、また維月を抱いて寝台へ倒れ込もうとしていたところだったので、眉を寄せたが渋々頷いた。

「確かにそうよ。では、我も参ろう。礼を申しておかねばならぬからの。」

そうして、維月は維心に抱かれて、月の宮へと飛んだのだった。


月の宮では、十六夜と碧黎が並んで待っていた。こうして戻って来るのを、二人共知っていたようだった。

維月と十六夜の部屋の前の庭へと降り立った維心は、維月をそこへ下ろしながら、さすがに気まずそうな顔をした。今生、何度こうしてこの二人に助けられたことか。これが無ければ、もしかして維月はとっくに自分のことなど忘れてしまっておったやもしれぬ。

維心は、そう思っていたのだ。

十六夜が、進み出て視線を下に向けている、維心の顔をわざと下から覗き込んだ。

「なんだ?ついにお前もオレに謝ろうと思ったか?」

維心は、横を向いて十六夜から視線を避けながら、言った。

「悪いと思うておるわ。だからこうして、参ったのではないか。だが、謝るためではない。礼を言いにの。」

十六夜は、口を尖らせた。

「なんでぇ、素直じゃねぇな。」

すると維月が、横から走り出て十六夜に抱きついた。

「十六夜!ありがとう、放って置くことも出来たのに。お父様に頼んでくれたの?」

十六夜は、維月を抱きとめて笑いながら頷いた。

「最初は放って置けって言ってた親父も、維心の手に負えなくなるかもしれないって言って、この方法を考えてくれたんだ。親父があの瑠璃色の玉のことを知っていて、あれが維心の側にあるなら使えるかもしれないって言うから、蒼にわざわざ確かめさせたんだよ。」

維月は、視線を斜め上に向けた。

「んー確かに維心様もそうおっしゃっておったけれど、どうして私に聞かなかったの?知ってるのに。」

十六夜は、首を振った。

「維月は勘が鋭いから、いきなりそんなことを聞いたら警戒して教えてくれないかもしれないって思ってな。維心なら、聞かれたら事実だけは言うだろう。あるかどうかだけが知りたかっただけだからな。」

維心は、呆れたように十六夜を見た。

「確かに我は聞かれたことには答えるが、我とて何かおかしいとは思うたのだぞ?」

すると碧黎が、後ろから言った。

「おかしいと思うただけであろうが。我が術を使っておるのに、気付かなんだ癖に。」

維心は、そう言われると渋い顔をした。

「それは…主の力を気取ることが出来なかったのは我の非であるが…。」

碧黎は、笑うと維心の肩をぽんと叩いた。

「ああ、気にするでないわ。いくら主でも、我には敵わぬ。それは我とて知っておるよ。」

維心は、面白くなかったが、しかし今回は自分達のためにとしてくれたことなのだ。結果的に、忘れていたことを思い出し、救われた気持ちだった。なので、何も言わずに十六夜と碧黎に従って、居間へと入って行った。


居間の椅子に、維月と十六夜が並んで座り、維心はその維月の横辺りに座った。碧黎は、そんな三人の前に座り、言った。

「して維心。もう維月と離れて暮らそうなどと思わぬようだの。別に我はどっちでもいいが、ややこしくなりそうだったので介入させてもろうた。ま、せいぜい頑張るが良い。これからもごたごたするやもだがの。」

維心と維月は、顔を見合わせた。そして、維月の方が言った。

「お父様…私達は、もう大丈夫ですわ。私の意識が低かったために、このようなことになっておったのです。これからは、気を付けまするから。」

維心も、横から言った。

「維月が悪いのではない。我が初心を忘れたため起こったこと。これからは、此度のことを思い出すようにするゆえ、何も起こらぬ。」

碧黎は、十六夜と顔を見合わせた。十六夜は、ため息をついた。

「まあ、お前らが仲良くなったのはいいことだ。だが、誰にだって不測の事態ってのが起こる可能性があるってことだ。それを親父は言ってるんだよ。」碧黎はそれを聞いて眉を上げたが、何も言わなかった。十六夜は、さっさと話題を変えた。「で、維心。お前、あっちの状況を見てるだけでなく、あっちの自分に話し掛けただろう。あれ、どうやったんだ?」

維心は、急に話題が変わったので驚いた顔をしたが、頷いた。

「ああ。我もどうやったのかは分からぬが、一心に呼びかけたのだ。維月に話をせよと…あちらの我が、あまりに不甲斐ないゆえな。あのままでは、炎嘉に持って行かれてしまうと。」と、その時を思い出したらしく、維月の手を握った。そして、続けた。「そう、それで頼みがあるのだ。あれが、ただの夢ではなく隣りの世の事だと言うのなら、碧黎、主には我に同じ世を見せることは出来るか?」

碧黎は、両方の眉を上げた。意外だったらしい。

「もちろん出来るが…またあれを見たいと申すか?」

維心は、真剣な顔で頷いて、身を乗り出した。

「先が気になる。維月は、まだあの我と婚姻するとは言うてはおらなんだ。あの維心は、まだ何も知らぬ。大昔の我なのだ。しかし、大昔の我には炎嘉という敵は居らなんだ。なのに、あやつには居る。このまま、あやつ一人で無事に維月を娶ることが出来るのか、我は案じておるのだ。」

碧黎は、呆れて椅子にそっくり返った。

「何ぞ、あちらの己にまで維月をと言うのか。ほんにまあ、徹底しておることよ。隣りの世の事ぞ、あっちでぐらい、炎嘉に譲ってやるが良いぞ。」

維心は、とんでもないというように大きく首を振った。

「何を言う!我は、まるで己のことのようにあれの内側であれの心情を感じ取って見ておったのだ。もはやあれは、我自身のようなものぞ。知らぬで起こっておることならば、我とてこんな心持ちにはならなんだ。だが、知ってしもうた今は無理ぞ。碧黎、今一度、我をあちらへ。めでたく維月を娶るまで、見守りたいのだ。」

それを聞いて、維月も身を乗り出した。

「お父様、私からもお願い致します。あの隣りの世の私は、まだ維心様のことは何も知りませんでした。維心様はとても不器用でいらして、私がこちらの維心様と初めてお会いした時よりも、遥かに慣れておられぬようでした。炎嘉様のことは、あの私もとても警戒しておりましたけれど、炎嘉様のこと、維心様の目を盗んで、気を許した隙に連れ去ることもあるかもしれませぬ。どうか、今一度あの世へ。私も、気になって仕方が無いのでございます。」

必死に頼む二人に、碧黎は苦笑して仕方なく頷いた。

「しょうがないの。では、今宵連れて参ろう。あちらの維心が、あちらの維月を娶るまでであるぞ?」

維心と維月はホッとしたように目を合わせて、微笑み合った。十六夜が、維月を見た。

「お前も見たいのか?」

維月は、頷いた。

「ええ。今夜あちらへ戻って、お父様に二人まとめて送ってもらえるようにするわ。」

十六夜は、頷いた。

「分かった。だがオレも見たいし、オレも一緒に行くよ。」

それには、維心が狼狽した顔をした。

「ちょっと待て。まさか主、今夜泊まるつもりか。」

十六夜は、維月の肩を抱いて小さく舌を出した。

「そのまさかだよ。今日は三人で川の字で寝ようや。」

維心は、抗議するように立ち上がった。

「何を言うておる!せっかくに維月が戻って参るというのに!」

十六夜は涼しい顔でそっぽを向いた。

「知らねぇなあ。お前こそ、つい昨日まで知らん振りだったくせに、ちったあ我慢しな。」

十六夜と維心はぎゃあぎゃあと言い合っていたが、結局維心が折れて、維月と三人で龍の宮へと向かったのだった。

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