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夢の続き5

維月は、振り返って何が出るかと構えていた。すると、そこからは背が高く体格のいい、見たこともないほど凛々しく美しい神が、出て来た。

あまりにも予想外だったので、維月は完全に固まってしまった。もちろん、侍女達二人も完全にフリーズしてしまっている。その神は、髪が黒く、今までに見たことがない深い青い色の瞳で、まるで後光が差しているかのようで、涙が浮かんで来るほどに美しかった。

維月が言葉を失っていると、相手の神も驚いたようでしばらくその場に根が生えたように佇んでいたが、すぐに我に返ってこちらへと足を踏み出した。

「その…維月殿か?我は、維心。このような場所で…まさか、主が居るとは。」

維月は、名を呼ばれて我に返り、その深く低い良い声で自分に話しかけているという現実に、真っ赤になった。そして、下を向いて、必死に答えた。

「は、はい。あの…茶会などには慣れぬので。い、維心様には、なぜに私をご存知であられますか?」

維心は、何と答えたものかと思いながらも、正直に言った。

「炎嘉は、我の友での。主が炎嘉に挨拶をしておる時、我はあの場に居ったのだ。」

維月は、少し落ち着いて来て、それでも下を向いたまま言った。

「炎嘉様の…?では、維心様も王であられますか?」

維心は、素直に頷いた。

「我は龍族の王。」

途端に、維月も侍女二人も、仰天して顔を上げた。龍族の…龍王、維心様?!

維月は、呆けたように維心を見つめた。確かに、神世随一と言われるだけある端整なお顔だわ。でも、直視するのも難しいほど美しいのって大変…見るたびに、心臓が止まりそう。

「い、維月様…!ベールを!」

維月は、ハッとした。そういえば、格上の神の前で許しもなくベールのままではかなり失礼なのだった。

維月は、慌ててベールを下ろした。

「申し訳ありませぬ!大変に失礼を…。」

維心は、途端に感じる維月の珍しい気に、眩暈を覚えた。ああ、この気…。我を酔わせてならぬ。なぜに、こんな気があるのだ。側に居ると、心地良い。

「良い。気にするでない。それよりも、我と話さぬか?」

維月は、ためらいがちに侍女達を見た。侍女達は、何度も頷く。どうやら、龍王からの求めに応じない選択肢はないらしい。

維月は、頷いた。

「はい。では…。」

維月は、すっと手を差し出した。維心は、慌ててその手を取った。そういえば、手を取るのだったな。今まで、女の手など取ったこともなかったゆえ、分からなかった。

そうして、維月の気を感じていて、ハッとした。そういえば、このままでは炎嘉が気取る。

「ベールを。」維心は、維月のベールを掛け直した。「これは、掛けておいたほうが良いの。」

維月は、頷きながら、少しホッとした。これで、直に維心を見ないで済むので、緊張も緩みそう。

「あちらへ参ろう。」維心は、維月を抱き上げた。維月は、突然の事にまた固まった。維心は、それには気付かずに続けた。「主らも、付いて参れ。」

維心は、侍女達に言うと、そのまま滝を離れて飛んだ。このままここで居たら、すぐに炎嘉が維月の気の残照を追って参るはず。

維心が場所を移動しようと低く飛ぶのに、侍女達二人はついて飛んで来ていた。


炎嘉は、女神達の囲みから出ることも出来ずに、ずっと維月を探して気を探っていた。そして、やっと滝の方角に維月の気を感じた。滝…なぜに、そのような所に。

炎嘉は、途端に居ても立ってもいられず、周りの女神達がまだ何か言っているのもそこそこに、庭へと急いで飛んだ。

維月の気は、現われた時と同じように、またスッと消えた。これは…恐らく、気を遮断するベールか。

炎嘉は、舌打ちをした。確かに、あれほどに珍しい気を隠すことは考えるだろう。しかも、茶会の席にも来ずに、あれほど遠くに居る。つまりは、維月は婚姻などに興味はないということだ。

ならば、その気になってもらわねばならぬ。

炎嘉は、滝に到着して、回りを見回した。しかし、もう誰の気配もない。何か、他の気配がするような気がする…維心のような。しかし、維心はあのこれ見よがしな大きな気のはず。

炎嘉は、まさかと思った。あの、女に明るくない維心が、維月を探し出して、ここから連れて行ったのか?

そんなはずはない…だが、維心も男だ。これまで何も知らなかっただけに、こうと思えば行動は早いのではないか。

炎嘉は、焦って回りを探し回った。維月…維心に掠め取られるのか。そんなことは耐えられぬ!あれも唯一望んだ幸福かもしれぬが、我とて同じぞ!他は譲れても、維月だけは…やっと見つけた、我の希望であるのに!


その頃、維心は既に維月を、宮の外の森へと連れて来て、そこで歩いていた。維月は、緊張して動きがぎごちなかったが、それでも慣れて来た方だった。

維心は、何を話していいのか皆目見当もつかなかった…何しろ、女どころか男であっても、滅多に話す事など無いのだ。困っていると、維月が、おずおずと言った。

「あの…維心様には、見合いの茶会に来られたのに、このような場所で居って良いのですか?」

維心は、維月を見た。そうか、維月は何も知らぬから…。

「…我は、端から見合いなどに興味はない。妃を娶るつもりも無かったからの。」

維月は、不思議そうに維心を見上げた。

「まあ。もう他に居られるから?」

維心は、首を振った。

「いいや。我には一人も妃は居らぬ。鬱陶しくてな。」

維月は、眉を寄せた。鬱陶しくてって…じゃあ、どうして私をこんな所に連れて来てまで、話そうとおっしゃったのかしら。

「存じませんでした。失礼を…。」

維心は、維月が気を悪くしたのかと慌てて言った。

「主は良い。」

ますます訳が分からなくて眉を寄せる維月に、維心は観念した。正直に話すより他、何も思い付かぬ。

「…実はの。我とて、このような事は初めてなのだ。今まで、女は面倒で鬱陶しくてならなかったが、主とは話してみたいと思うた。なので、こうして話し掛けたのだ。だが、こんな経験はないゆえ、何を話して良いやら分からぬでな。」

維月は、呆気に取られてそれを聞いていた。話したいって…話すぐらい、いいけど。

「はい…では、何をお聞きになりたいでしょうか?月の事とか?」

維心は、何でもいいかと頷いた。

「それで良い。」

維月は、頷いて言った。

「私は陰の月。月の裏側でございます。陽の月は、十六夜と申して、男の人型で、とても優しい性質でありますわ。てすけれど、力はとても持っておりますの。その陽の月との間の子が、蒼ですの。純粋な命が生まれて、蒼に宿りました。私達は、三人だけの月の種族でございます。」

維心は、普通に聞いていたが、ふと驚いたように顔をあげた。

「では、主は陽の月と婚姻関係にあるのか?」

維月は、首をかしげた。

「いえ、そんな感じでは…何か、兄弟のような感じですわね。蒼を人のまま一人に出来ないと、十六夜が新しい命を作ろうと成した子であるので。」

維心は、ホッとしたように頷いた。

「そうか…ならば、主は独り身か。」

維月は、頷いた。

「はい。今はそうですわね。」

「ならば、我の妃に!」突然に、割り込むように声が飛んだ。維月は、驚いて振り返った。「我の妃に、維月。正妃にするゆえ!」

炎嘉が、息を切らせて降りて来ていた。維心は、心の中で舌打ちをしながら、険しい顔をした。もう、見つけおったか。

炎嘉は、維心を睨み付けて維月の手を強引に取ると、茫然としている維月に言った。

「維月…我が宮へ嫁げ。悪いようにはせぬ。主だけに通うても良い。」

維月は、我に返って炎嘉を見つめた。妃って…結婚?!

維月は慌てて首を振った。

「そのような!身分が違いますわ!私は、人であったのです。考え方も、神とは全く違います。珍しいからこんな女も混ぜようと思われておるのでしょうけれど、無理でございます。」

しかし、炎嘉は食い下がった。

「これから学べば良いではないか。主は月の宮の王族ぞ。身分違いというて、それほどではない。」

維月は、それでも首を振った。必死に炎嘉から手を離そうともがいている。

「人は、お互いただ一人として婚姻致しまするの!たくさん妃が居られる王などに、嫁ぐなど無理なのです!それならばただびとと婚姻して、二人で慎ましく暮らしたいのでございます!」

維心は、それを聞いて兆加が間違っていなかったのだと知った。やはり、維月は人の考えなのだ。神の常識は通用しない…。

「…我は、独り身ぞ。」維心が、横から言った。「ただの一人も妃は居らぬ。主の他に娶らぬと約す事も出来る。ならば維月、我の妃に。」

維月は、仰天して維心を振り返った。維心様まで?!どうなってるの…ドッキリか何か?

しかし、二人とも大真面目な顔で維月を見ている。侍女達も、固唾を飲んで見守っていた。

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