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「我か?」碧黎が、十六夜に言った。「維明と我が言うことが同じだと言うて、我にあれの感性まで分からぬわ。しかし、気持ちは分かる。別に、愛おしいからと身を繋ぎたがる主らの方が、我には奇異に見えるのだからの。側に居ってその命を感じておるだけで良いではないか。なぜにそれが分からぬか。」

十六夜は、息をついてから言った。

「オレにだって分かるが、それでも維明はオレ達とは違うだろうが。そんな衝動がないオレでも、他の男が維月にしてることを、自分がしないのはおかしいんじゃないかって焦っておんなじようにしてる訳だし。あいつは身を持ってるのに、親父みたいに見てるだけで最後まで満足出来るっていうのか?」

碧黎は、肩をすくめた。

「知らぬわ。なぜに我に聞く。我は、そのような個々の感情まで分からぬと言うのに。維明は、確かに維心と全く同じ優秀な魂ぞ。しかし環境がいろいろとあやつらを育て、ああしてそれぞれ個性が出来ておる。あの個性は我が作ったものではないし、我はあれらがこの色恋というものに、どう感じてどう判断するのかまで分からぬわ。」

確かにそうだった。何しろ、恋愛という概念すら最近知った碧黎なのだから、そんなことまで分かるはずもなかったのだ。

蒼の居間で話していたので、蒼は居心地悪げにそんな二人の話を聞いていた。十六夜は、蒼を見て言った。

「維心と維月を元に戻す方法を考えてたってのに、維明まで戻って来て余計な心配を増やしてくれるな、全く。」

蒼は、首をかしげた。

「まあ、でもまずは維心様と母さんじゃないか?維明様は、元々落ち着いた性格だったじゃないか。多くは求めないから、十六夜が心配して世話してたぐらいだったのにさ。」

十六夜は、蒼に言われて、前世の様子を思い出して遠い目をした。

「確かにな…あいつがあんまり何も求めないから、不憫になってよ。だが、今生は第一皇子に生まれて、恵まれた環境に居る。我がままが出て来ても、おかしくないように思ってよ…何しろ、維心ですら前世とはちょっと変わっちまってるんだし。」

それには碧黎も、頷いた。

「いくら前世の記憶を持っておっても、今生を生きておるのだ。段々に今生の育ちも出て参る。維心も維明も、今生は苦労らしい苦労はしておらぬし、まあ恵まれておるわな。ならば、面倒な性質も出て参る可能性もある。」

十六夜は、急に心配になった。維心が変わったのなら、維月も変わったのかもしれない。維月と自分は、未だに仲良くやっているが、あの二人は駄目なのかもしれないということなのか。

十六夜の表情を見て、碧黎が続けた。

「何度も申しておるではないか。主らは、転生したのだ。新しい生を生きておる。維心と維月がいくら仲睦まじかったとは言うて、それは前世。今生はその記憶を引きずって共に参っただけなのかもしれぬぞ?もしかしたら、他に相手が居るのかもしれぬし、今生は主と二人で落ち着いて生きて参るのかもしれぬ。無理に戻そうとせぬほうが良い。」

十六夜は、碧黎を見た。

「だが…だったら、今生は維心にも他に相手が居て、そっちと縁付くために維月と離れちまってるってことか?」

碧黎は、困り顔で十六夜を見た。

「だからそんな詳しいことまで我には分からぬというに。だが…」と、碧黎は、ふと十六夜の頭の上の方へ視線をやった。「…ま、それも縁。主も学んだことを使うが良い。我にばかり聞くでない。」

十六夜は、あ、と自分の頭上を見た。そう言えば、縁が見えるようになったのだった。維心と維月の縁は、どうなったのだ?

「やっぱ、親父に相談してよかった!」十六夜は、飛び上がるように立ち上がった。「ちょっと維月を見て来るよ。じゃあな!」

蒼は、相変らず思い立ったらじっとしていられない十六夜に、慌てて言った。

「え、十六夜!今は維明様と庭を歩いてるんじゃないのか、こら!」

しかし、十六夜は飛んで行った。


維心は、久しぶりに月の宮へと来ていた。

しかし、常のように表から堂々と入って行くのは気が引けて、しばらく上空で浮いて、中の様子をじっと確かめていた。別段、変わったような様子はなく、宮は穏やかにしているようだ。

ふと、無意識に維月を探して奥の庭の方へ視線をやった維心は、そこに二人の人影を見つけて、そのうちの一人が維月だとすぐに分かった。久しぶりに見るその姿は、やはり慕わしくて仕方が無かった…やはり、魂から繋がっているということなのだろうか。

維心がそう思いながらも、一緒に歩いている男に視線を向けると、それは自分かと見まごうばかりの姿の、維明だった。常、維明が維月と散策するのは見て来たが、あれほどに女の扱いに長けていただろうか。維月の手を取ってはいたがどこかぎこちなく、どう見ても慣れておらず、そこが子が親の手にすがって歩いているような感じを受けて、維心もまだ子供だと思ったものだったのだ。

それが、今の維明は違う。慣れている…歩みもまるで、歳を経て重みを増した龍のような、そんな印象を受けた。何よりその視線には、愛情を感じた。子が親に向けるような、幼い愛情ではなく、自分と同じもの…。

やはりそうなのか、と維心が身の内から湧き上がる憤りの感情を抑え付けて見つめていると、その維明に手を取られている維月は、とてもぎこちなかった。戸惑っているようだ。

維心は、十六夜に知られるのはシャクだったが、居ても立っても居られず、そっと結界に触れた。すると、結界はスッと変化して自分を通した。蒼か十六夜が自分を気取って結界を通したのだと分かる。これで、あちらにも自分がここへ来た事実を知られてしまったのだ。

維心は、それでも確かめねばならなかった。維明が、維月に手を付けたのか。前世の叔父上が、やはりその魂には抗えずに維月を欲したのか…。

維心は、そっと気配を消して、二人の後を追っていた。


維月は、突然に雰囲気の変わってしまった息子に、とても困っていた。まるで、維心のような。いや、前世の維明様のような。だが、この息子には前世の記憶もなく、全くの新しい生を生きていたのに。そんなはずはない。

維明は、いつもなら一人で話しているのに、口数の少ない維月に言った。

「どうなされた?いつもなら、お一人でも話しておられるのに。」

維月は、維明と視線を合わせることが出来ずに、言った。

「だって…あの、とても変わってしまったわ。維明、あなた、昨日まではいつものように他の若い龍達と変わらぬ感じの気だったのに。今日、突然にそんな風に、まるで父上のような気に変化してしまったわ。本当に、何があったの?ええっと…好きな子が出来たとか?」

維明は、驚いたような顔をしたが、次の瞬間には、苦笑して首を振った。

「いいえ。我には、そんなことはありませぬ。今は、父上のようにならねばと、精進しておる最中であるのに。そのような、浮かれた気持ちにはなれませぬな。」

維月は、その維心のようなそうでないような気に、覚えがあった。維心は、もっと激しいのだ。しかし、そっくりでありながら穏やかな気。これは…。

「…維明様…。」

維月は、思わず知らず、呟くように言った。維明は、驚いたように維月を見る。維月に、バレたのかと思ったのだ。

しかし、維月は別の方向をぼうっと見ていて、自分を呼んだわけではないようだ。ただ、自分が前世の維明に似ていると思ったのだろう。

維明は、微笑んだ。

「母上。どうなさったのですか?我に、敬称を付けられるなど。」

維月は、ハッとしたように維明を見た。

「ごめんなさい。あの、前世の維心様の叔父君の名が、あなたと同じものなの。それで、思い出して、つい。」

維明は、息をついて、維月の手を取った。

「どのようなかたでありましたか?」

維月は、遠い目をして、言った。

「とても、穏やかで優しいかただったわ。維心様とよく似ていらして。とても凛々しいかたでね。でも、ご自分のことは全く望まれない、とても無欲なかたで。共に黄泉へも参ったのよ。あちらでも、共に過ごしたわ。私たちが転生する直前にお会いしたのが、最後だった…。」

維月は、それを思い出しているのだろう。少し、悲しげな顔をした。それを見て、維明は維月をそっと引き寄せて肩を抱いた。

「では、また会えるのではありませんか?」

維月は、また戸惑うような顔をした。そして、維明を見上げて言った。

「ええ。でも、何も覚えておられないわ。記憶は、持って参られないとおっしゃっておったもの。だから、私も維心様も、不遇でいらした前世を忘れて、お幸せになって頂けたら良いと思うて…。」

維月は、そこで言葉を切った。この維明が、あの維明様の生まれ代わりなのだ。言っていた通り、記憶も持たずに生まれて来た。だから、もうあの維明には会えないのだ。

維明は、じっと維月を見つめた。そして、悲しげに潤む維月の瞳に、言った。

「もう一度、その維明に会いたいと思われるか。」

維月は、維明を見上げてそれを聞きながら、首を振った。

「いいえ。良いの。維明様は、とても不遇でいらしたのだもの。それを忘れて、お幸せになられたらと思うわ。私の、勝手な望みでそんな風に思ってはいけないのよ。」

それでも維明は、維月を見つめ続けた。

「そうではない。我が聞いておるのは、主の望みぞ。また、その維明に会いたいと、主は思うか。」

維明の口調は、知らずのうちに前世のそれになっていた。だが、維月はそれに気付かず、答えた。

「…ええ。」維月は、下を向いて、袖で口元を押さえた。「今の、私の迷いを聞いて欲しいと思ってしまう。あのかたは、何事もとても穏やかに聞いてくださった。維心様とそっくりであられるのに、やはり維明様は維明様であられて…あのお優しさに、私は甘えておったのね。」

維明は、唇を引き締めて、ぐっと黙った。維月は、自分に会いたいと思うてくれている。今、自分はここに居る。だが、生涯掛けて子として維月を見守ると決めていた。この記憶を戻したことを言ってしまっては、維月も維心も困るだけだろうと…。

維明は、維月を前に揺れていた。

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