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叱責

蒼は、維心の元へ飛び立つために、準備をしていた。

あれから戻って来た十六夜と話しをしたが、やはり十六夜も反対していた。蒼にしてみれば、自分の娘を差し出してまで助けて欲しいと困っている烙真を、見捨てることなど出来ないと思っただけだった。これまででも、翔馬や他の臣下が反対しても、結局何とかなることが多かった。なので、今度のこともそうだと思ったのだ。

しかし、今度ばかりは翔馬も退けないらしい。こそっと財政を担当している弟の恒に話しを聞きに行ったら、恒は憮然としてこう言った…蒼は、自分で稼いでないから分からないんだろうけど、またローンが、しかも返済がいつまで続くか分からないローンが増えるんだって言ったら分かる?と。

蒼には、あまり分からなかった。人世に居た時には、きちんと数字で分かった。金だったからだ。

しかし、神世に来てからは物で、しかもそれが精巧で珍しいほど価値があるのだとしか、知らなかった。つまりはそれを生み出す優秀な職人が要るのだと聞いて、龍の宮から職人を借り受けてまで職人を育てて来た。少しは、育って来て楽になったのかと思っていたのに。

蒼は、ため息をついた…とにかく、維心様に聞いて来よう。母さんもきっと、助けてやれと言うだろうし、そうしたら維心様が、何か方法を考えてくれるだろう。

蒼はそう思って、数人の軍神を伴って月の宮を飛び立ったのだった。


龍の宮では、維月が瑠維を抱いて居間で維心と和やかに過ごしていた。維心そっくりの瑠維は、それは美しく、今から侍女達も男の出入りを警戒するほどであった。維月は、じっと自分を見上げる瑠維に微笑みかけた。

「まあ瑠維?母がそれほどに珍しいかしら?そんなにじっと見つめられては、恥ずかしくなるわ。本当に美しい顔立ちであること。」

維心が、横から維月の肩を抱いて、瑠維の顔を覗きこみながら言った。

「また維月は。我に似ておるのがそのように主の気に入ったか?しかし我は、この瞳の色が愛おしくてならぬ。他は全て我と同じ青であったからの。やっと、主と同じ色の子が出て参ったと嬉しいのだ。」

維月はふふと笑った。

「まあ維心様ったら…いつなり、そのことばかり。ですが維心様がお気に入ったとおっしゃるのなら、良かったこと。」

二人が微笑み合っていると、そこへ侍女が入って来て、頭を下げた。

「蒼様の、ご到着でございます。」

途端に、維心が少し険しい目をした。維月は、そんな維心を見上げて言った。

「もしや、維心様がおっしゃっていた、あれでは…。」

維月が言うのに、維心は、息をついて頷いた。

「恐らくの。主も少し、我慢せよ。蒼のためぞ。」

維月は深刻な顔をして、頷いた。そして、乳母に頷き掛けると、瑠維を手渡し、出て行くのを見送った。

維心と二人、じっと居間で座って待っていると、戸が開かれて、蒼が入って来た。いつものように、穏やかな気をまとっている。維心は、言った。

「よう来たの、蒼。座るが良い。」

蒼は、頭を下げた。

「維心様には、皇女様のご誕生、誠におめでとうございます。」

維心は、頷いた。

「後で、主も顔を見て帰るが良いぞ。して、本日は祝いに来てくれたのか?」

蒼は、維心の前に座りながら、首を振った。

「いえ、政務のことで少しお聞きしたいことがありまして。」

維心は、先を促した。

「申すがよい。」

蒼は、言った。

「維心様には、来たの烙真はご存知でしょうか。」

維心は、何気ない風で頷いた。

「知っておる。あれの妹が、離縁されて戻ったので支援が絶たれ、支援してもらえる宮を探しておるのだと、兆加から聞いておる。」

蒼は、やっぱり知っているんだと少しホッとしながら、言った。

「オレは、烙真を支援してやりたいと思っているのです。」

維心は、驚いたように言った。

「ほう?主、あれの娘を娶るか。」

蒼は、慌てて首を振った。

「いえ!あの、他の妃にもう、気苦労を掛けたくないので。あの、支援だけをするのは、おかしいのでしょうか。」

維心は、じっと黙ったが、蒼を睨むように見て、言った。

「おかしい。筋ではないからの。そのような例を作ったら、後から後から他の宮も支援を申し入れ、そうしてそれが、終わりなく続くことになる。どうしても何かしてやりたいのなら、一度だけ、何か贈ってやるが良い。それで、支援先が見つかるまで凌ごうほどに。」

それでは、一時だけしか凌げない。蒼は、きちんと助けてやりたかった。そうして、楽になったら、支援をやめればいいんじゃないだろうか。

「とりあえず支援をして、皇女の嫁ぎ先が見つかって支援を受けられるようになったら、こちらからの支援をやめると言う形では?」

維心は、それにも首を振った。

「何を言うておる。そのようなこと、出来るはずはないであろうが。何もせずとも支援が受けられるのに、なぜに娘を急いで嫁がせねばならぬ。そのような取り決めで、宮から物資を支出するなど聞いたこともないわ。どうしてもと申すなら、主が妃を娶ればよい。そうせよ。」

蒼は、取り付く島もない感じなのに、維月をちらと見た。しかし、維月は袖で口元を隠したまま、じっと黙っていた。蒼は、言った。

「妃は、娶れません。でも、娘を差し出してまで助けて欲しいと言っているのに、オレには放って置くことなど出来ません。」

維心は、常にないほど険しい顔で、蒼を見た。

「主、己の宮の財政を知っておるか。」

蒼は、急なことだったので驚いたが、答えた。

「それは…大体なら。数字ではないので、分かりづらくて…。」

維心は、更に言った。

「数字ではない?だから何ぞ。己の宮のこと、全て把握しておらねば、王とは言えぬ。支援支援と申すが、そうよの、人の世の言い方で、どれほど稼いでおるのか分からぬ状態で、宮を支援するのにどれほど支出するのか、主は知っておるのか?烙真の宮の規模は?臣下の数は?そうして、今の宮の状況は?どこに向かっていくら支出しておる。己の臣下達に下賜する分の割り当ては?それは、収入に見合っておるのか?」

蒼は、いつになく厳しい口調で言う維心に、たじろきながら言った。

「翔馬は、とにかくは烙真の宮だけなら楽に支援出来ると…。」

維心は首を振った。

「無理ぞ。烙真だけではない、間違いなく他の宮も支援を求めて来る。神世を学んだのではなかったか。甘いものではないのだ。我も我もと言うて来るぞ。果ては断っても、結界外で居座ってでも何か持って帰るまで帰らない。死んでも何か持って帰れと王から命じられた臣下達が来て、主に乞うからの。本当に死ぬまでそこに居るぞ。王の命とはそういったもの。主にそれを見捨てることなど出来まい。」

蒼は、びっくりして維心を見た。まさか、そこまでなんて。

「そんな…でも、何か少しだけでも持ち帰らせれば?」

維心は、また首を振った。

「甘い!蒼、主は何を今まで学んでおったのだ。月の宮の財政は、我でも把握しておる。なぜなら、足りぬとみたらすぐにこちらから支援を送るため。我は歳の初めにそちらの財政も報告させ、それに見合った物がそちらの職人では間に合わぬとみたらこちらから送る。充分であったなら、この限りではない。しかし、ここ数年は何やら支出が増えておって、足りぬことの方が多い。主、誰彼構わず物を贈っておるのではないのか。頼んで来たものを、断ったことはあるか。」

蒼は、ショックを受けた。維心まで、月の宮の財政を知っていたのだ。だからこそ、困ったことなど今まで起きなかった。維心は、自分の宮だけでなく、月の宮のことまで考えて采配していたのだ。

「その…困っておったなら、支援としてではなく、その時だけ、幾つか物を贈ったりはしておりました。確かに、頼まれたら断ったことはありません。翔馬も、それなら何も言わずに贈っておったので…。」

維心は、大きくため息をついた。そうして、横に座る維月を見てから、言った。

「少し、主は知らねばならぬの。もう数百年王座に居るのに、未だ財政を見ておらぬと。何というていたらくか。人であったからと、甘やかせ過ぎたやもしれぬ。」と、急に立ち上がった。「兆加!」

突然に維心に呼ばれた兆加は、必死に走って転がるように居間へと入って来た。ぜいぜいと肩で息をしながら、維心の前に膝を着く。

「は、はい王よ。御前に。」

維心は、キッと睨むように兆加を見た。兆加は、震え上がった。何だか分からないが、王が怒っていらっしゃる。

「月の宮への、物資の支援を、凍結せよ!これよりは、着物一枚送ること許さぬ!」

兆加は、びっくりして尻餅をついた。維月様の、ご実家であるのに?!

「お、王…あの、ですが維月様は、」

「維月も、了承しておる。」維心は、きっぱり言った。「人の世で言うのなら、己の稼ぎも考えずに湯水のように金を使う者に、その有り難みを学ばせねばならぬからの!」

維心は、そう言い放つと、維月を引っ張って蒼を振り返りもせずに奥へと入って行った。

蒼は、ただ呆然とそれを見送った。


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