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白状

美加は、ぞろぞろと入って来た軍神や蒼を見て面倒そうな顔をしたが、その中に父が混じっているのを見て、飛び上がるように椅子から立ち上がると、床につくのではないかというほど頭を下げた。その様子に、嘉韻は想像以上に美加が明維を怖がっていることを知った。蒼が、進み出て言った。

「美加、此度のこと、明維も知ることとなって、こうして来た。腕輪の件、間違いなく主がやったのだということは、状況から見て間違いない。指輪の件であるが…明維から、聞きたいことがあるそうだ。」

美加は、ぶるぶると震えていた。あれから、じっと部屋へ篭っておとなしくしていたのに。どうしてお祖父様は、お父様を呼んでしまったの。

母の父である祖父の蒼は、穏やかで滅多に怒らない王だった。何かしでかしても、何度も謝れば許してくれた。今回も、こうしてじっと篭って反省しているふりさえしたら、見逃されるのだと思っていたのだ。

明維が、進み出て言った。

「美加。既に主は取り返しのつかぬことをした。我も、甚だ遺憾ではあるが、全ては龍王の沙汰待ちということになるのだが、その前に聞きたい。指輪も、主か。」

美加は、ぶんぶんと首を振った。

「いいえ!あれは瑠維殿がパイと一緒にゴミ箱へ!我は、知りませぬ!」

明維は、じっと美加の目を睨んだ。

「…偽りぞ。」明維は、強い声で言った。「父に、それが分からぬと思うたか。まだ癖が治らぬようであるの。あれほどに、他人の物を許可無く手にしてはならぬ、偽りを申してはならぬと言うて聞かせて来たというに。恐らく、龍王も王妃も、此度の件の犯人は誰なのかもう知っておる。なぜなら、物を手にしたら、その前に手にした者の気が波動として残るからだ。指輪には、誰の波動が残っておったのかの?」美加が、青い顔をした。明維は続けた。「それでも黙っておったのは、本人が罪を悔い改めて詫びるのを待っておったからだと推察される。しかし、二度目が事件が起きた。此度は明らかに主。龍王として、ことを公にしたのは、犯人が悔い改める様子がないゆえであろう。そこから考えられるのは、同一犯で指輪も犯人は主であるということだ。違うか?」

蒼は、その何の愛情も感じない、まるで臣下を追求するような言い方に、明維が美加に何の愛情も持っていないのを改めて知った。最初から、そんな風だった。ここへ寄越したのも、どうにかして欲しいというよりも、厄介払いのような感じだった。蒼は、そんな風にしてしまったのを後悔した…娘をどこかに嫁がせたくて、明維が言うのに深く考えずに大喜びで美羽を嫁がせた。しかし、考えれば明維はあの礼儀には特別に厳しい龍の宮で育った皇子。少し礼儀を弁えない程度ならばまだしも、美羽は全くだった。なので、嫁ぎ先がないと蒼も嘆いていたほどだった。後先考えずに、本人達がいいならと、さっさと美羽を嫁にやった…その後、どうも上手く行っていないようだとは、美羽の母の悠から聞いていた。だが、考えないようにしていたのだ。

その結果が、これか。

蒼は、下を向いた。すると、美加がキッと顔を上げた。

「あの子が、我を差し置いて、帝羽と共に居たからですわ!」美加は、急に叫んだ。「困らせてやろうと思ったのです!お祖母様が大切にしている指輪を、調理の際には外すことは知っておった。だから、一緒に調理しようとお祖母様が言った時から、どうにかしてあの子に罪をなすりつけてやろうと見ておった。隣りの部屋へとお祖母様が言った時、最後に出るようにわざとゆっくりと動いて、二人が出てすぐに指輪を手にして、本当はあの子の袖にでも入れようと思ったけれど、隙がなくて困ってゴミ箱へ。うまくあの子が掃除をしてくれたので、皆がそう思うように話したのです!」

嘉韻は、やはり、と眉を寄せた。これで、指輪の件で有罪は確定した。すると、明維が無表情で、驚くほど落ち着いた声で言った。

「して、腕輪は?」

美加は、父が珍しく黙って話を聞くので、これは正直に話せば叱られないかもしれない、と続けた。

「あの子の部屋へ、話に行って。我が、帝羽と仲が良いのだと、その夜庭で会う約束をしておるのだと話したら、思った通りショックを受けたようにふらふらとしたので、手を取るふりをして、腕から取ったのです。」

明維は、頷いて無表情のまま言った。

「なぜに取ろうと思うた?何をするつもりであった。」

美加は、すらすらと答えた。

「コロシアムの観覧席で、我が帝羽に申したことを、真実だと帝羽に思わせるため、あの子のふりをしようと。あの腕輪を我が落とせば、帝羽は我を瑠維殿と信じると思うたから。後でこっそり返して置くつもりで。思った通りだった。でも…帝羽は、あの子があれだけ性悪である事実を突きつけられても、まだ近寄って来た…なので、あの場で帝羽に罪を被せて、婚姻を約させようと思うたのです!」

どうだ、と言わんばかりだ。美加にしてみれば、父が怒りもせずに話を聞いているので、自分の策に感心しているからだろうと思ったのだ。

しかし、話し終わって皆を見ると、嘉韻は絶句して、まるで何か嫌なものを見るような目でこちらを見ているのに気付いた。その横の帝羽も、怒りに身を震わせて、目を薄っすらと光らせて黙って美加を見ている。蒼は、わなわなと震えていた。こちらも、怒りで顔を赤くしている。美加は、戸惑って父を見た。

父は、これ以上にないほど、軽蔑の眼差しで自分を見ていた。しかも、その瞳は怒りで鋭く光っていた。

「お、お父様…。」

美加は、後ろへと無意識に退いた。明維は、しかし静かな口調で言った。

「我は、もう主の父ではない。」明維は、言った。「主のしたことは、そういうことだ。ただの窃盗ではなく己の利を考えて他の神を貶めようとした悪行であると、今主は主自身の口で語った。それは、ここに居る皆が聞いた。恐らく、温情で命までは取られぬ。だが、主は我の子と認めることが出来なくなった。主の母も、主の母であるゆえに我はこれ以上面倒を見ることが出来なくなる。蒼は、主の母であるゆえに己の娘を己の娘としてここへ迎えることが出来なくなる。主は、ここを出されて王族としての一切の権利を剥奪される。龍の王族も月の王族も、身内に犯罪人が居ってはならぬからだ。」

美加は、あまりのことに、恐ろしいことも忘れて明維の袖に取りすがった。

「お、お父様!そのような、我はただ妬ましかっただけ。品も無事に持ち主の手に戻っておりまする。全ては終わっておること。もう、このようなことはしませぬから!」

明維は、その手を袖をスッと振って払った。

「無礼ぞ。主はただびと。龍の第二皇子に軽々しく触れることは許されぬ。」と、蒼を振り返った。「父上に、連絡を。沙汰をお待ち申しておると、ただ今の件を知らせてくれぬか。我は、謁見の間にてお待ちする。」

蒼は、頷いた。そうして、呆然と床に崩れている美加を見て、嘉韻に言った。

「維心様が、沙汰を下される。謁見の間へ連れて参れ。」

嘉韻は、膝を付いて頭を下げた。

「は!」

嘉韻は、そのまま自分が連れて行ってもいいのに、わざわざ部下の軍神を呼んで、連れて行かせた。実は、今聞かされたことに、吐き気を覚えていたのだ…何と醜い心。人であっても、ここまで醜い心を持つのは少ないと聞いている。それなのに、神の、しかも王族にこんな者が現われるなんて。

嘉韻は、ショックを受けていたのだ。しかし、帝羽もそれは同じだった。そして、そんなものに翻弄されて心を痛め続けていた瑠維を、守ってやれなかった自分を、心の中で責めていた。

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