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月の宮2

翔馬は、蒼の居間で膝をつき、一生懸命説明していた。

「ですから王よ、此度の支援は見送られた方が良いかと。あちらから、妃を娶られると申すなら、支援も出来るかと思いまするが、ただ今の状態では、とても無理なのでございます。」

蒼は、険しい顔をした。十六夜が、横でそれを聞いている。蒼は、口を開いた。

「だから、妃はもう要らぬ。この間も言ったじゃないか。支援だけなら、出来ようが。」

翔馬は、首を振った。

「そのような、先も分からぬ支援をすることは出来ませぬ。前例を作ることも出来ませぬ。龍の宮でも、そのような支援はしないと聞いておりまするのに、その支援を未だ受け続けている月の宮が、そのようなことは出来ぬのでありまする。」

十六夜が、口を挟んだ。

「蒼、神世はややこしいんだろうが。確かに、維心が山ほど着物やら何やら送って来るから、ここは大丈夫なんだがな、他の宮まで維心に面倒見てもらう訳にはいかねぇだろうが。」

蒼は、十六夜を見た。

「だから、烙真の所はオレが見るだろう。」

十六夜は、首を振った。

「だから、自分の面倒見切れてないのに、他人の面倒みれねぇじゃねぇか。足りねぇぶんは、全部維心だろうがよ。確かにあいつは面倒見てくれるだろうが、それで支援してるっていうのか。」

蒼は、翔馬を見た。

「うちは、そんなに財政に困ってるのか?」

翔馬は、首を振った。

「違うのです。今のままでは、烙真様の宮ぐらいなら支援出来まする。ですが、烙真様のことが他の宮の耳に入れば、我も我もとなるのは目に見えておりまする。その時に、前例があるため、断る術がありませぬ。それが、未来永劫、断る術がないまま続くことになってしまうのです。妃が居るからの、支援とは違いまするから。」翔馬は、下を向いて小さく続けた。「…帝羽様は…やはり筋が違うのではと、おっしゃっておられた。」

それを聞いた蒼が、翔馬を見た。

「帝羽に、話したのか?」

普通、軍神に財政の話などはしない。翔馬は、頷いた。

「王を、説得していただこうと思ったのでございます。しかし、帝羽様は知っておられながら、王がお決めになった通りに、とおっしゃる。自分が意見することではないと。」

確かに、その通りだった。軍神は軍務こと以外には口出しはしない。それに、その軍務のことであっても、王の決定には絶対的に従うのが、軍神だった。

「…帝羽か…。」

十六夜が、考え込むような顔をした。帝羽は、最近宮でも臣下達からよく聞く名。何かあれば、皆帝羽にまず相談に行くのだという。穏やかで感情的になることもなく、威厳に満ちた様はまるでどこかの王のようだと皆に噂されているのだそうだ。

蒼は、翔馬を睨みつけた。

「確かに、帝羽は次席軍神で、オレも頼りにしているが、財政や政務関係は筆頭の主が話して良いものではあるまい。あれもそのようなことまで聞かされて、迷惑しておるのではないのか。支援の件に関しては、オレも維心様にご意見を聞いて来るゆえ、主はこれ以上帝羽に話すでない。あれは、確かに誰にも言わぬだろうが、相談する際はオレに一言聞いてからにせよ。わかったの!」

翔馬は、いつになく声を荒げて言う蒼に、深々と頭を下げた。

「申し訳ございませぬ!それでは、この件は王が、龍王様にご相談された後にということで。」

蒼は、黙って頷いて、横を向いた。翔馬は、そのまままた頭を下げると、そこを出て行った。

十六夜は、蒼をちらと見てから、伸びをした。

「あ~とにかく、オレは出掛けてくらぁ。じゃあな。」

スッと、窓へと飛んで行く。蒼は、今の話をしようと思っていたので、慌てて十六夜を追った。

「十六夜!待てよ、十六夜はどう思ったんだよ!」

十六夜は、空へと飛び上がりながら言った。

「後で話す。とにかく、オレは用事を思い出したんでぇ。」

十六夜は、結果外へと飛んで行った。

蒼は、取り残された。


その数時間前、夜明けの龍の宮では、維月が産気づいて大変なことになっていた。

維月はもう、これで今生維心の子は三人目、十六夜と嘉韻の子も入れたらこれで五人目なので、余裕だったが、維心がもう、とにかく大騒ぎしていたのだ。

「おお維月、先に水が降りるなどと、これまであったであろうか。おお、あったの、前世緋月を産んだ時。しかしその時は子が出ぬで有に腹を切って子を出してもろうたのではなかったか。もしもそんなことになってしもうたらどうするのだ…涼は一人で出来るか。どうしたらいい、常とは違う!」

維心は、産所で寝かされて治癒の龍達に囲まれていた状態だったが、維心の手を握って言った。

「維心様、落ち着いてくださいませ。先に破水しても、子は大丈夫ですから。前世は人の体であったし、無理をしたからでございまするわ。今は、月の実体化した体。大丈夫でございますから。皆もおろおろしておりまするわ。維心様が落ち着いて下さらないと。」

そこまで言った時に、また痛みが来た維月は、グッと目を閉じて顔をしかめた。治癒の龍が言った。

「はい、王妃様、お気張りくださいませ!」

維心が、維月の手を必死に握っている。まるで維心が産んでいるかのように、つらそうな顔をしていた。これほどに苦しそうなのに、子が欲しいとわがままを言うのだから、維月は苦笑した。

「維心様、本当に大丈夫でございます。痛みは、こうして時々に参るだけ。最後には、子の顔が見れるのですから、そのように苦しげなお顔はなさらないで。」

維心は、維月の手をさすりながら言った。

「分かっておる。しかし、主にこのような思いをさせねばならぬとは。我は、何とわがままを言うてしもうて…。もう、子が欲しいなどと言わぬから。」

維月は、維心の頬を撫でた。

「まあ維心様、維斗の時も、そのように。よろしいのです。本当に、大丈夫ですから。」

「維月…。」

維心が言うと、また維月は顔をしかめた。間隔が近くなっている…こういう時は、生まれるのが近い。

維心は、前世から今までずっと出産に付き添っていた経験上、咄嗟にそう思った。

「今少しです!王妃様、お力を緩めずに!」

「んん~~!!」

維月は、必死に力を入れた。維心は、必死に手を握って踏ん張った。顔色は青く、息も詰めていてまさに一緒に産んでいるかのような姿だ。そんな姿に、治癒の龍達は維月よりも維心の方が大丈夫かと案じた。

「ふぎゃあああ!」

赤子の、元気な声が響き渡る。維月は、途端に力を抜いて、ほーっと息をついた。維心が、横でホッと息をついて、ふらふらと力を抜いた。維月はびっくりして、息を乱しながらも、言った。

「維心様っ!?大丈夫でございまするか?!」

維心は、維月を見て頷いた。

「大丈夫ぞ。少し、張り詰めていた気が抜けての。」

維心が、子が運ばれて、たらいで洗われているのを見ている。維月からは、見えなかった。

「やはり、皇女でございまするか?」

維心は、頷いた。

「そのようぞ。我にも、よう見えぬが…?」

維心は、言葉を切った。維月は、どうしたのだろうと、維心を見上げた。

「維心様?何か問題でも?」

侍女が、産着にくるまれた子を恭しく維心に差し出した。

「第一皇女様、ご誕生でございまする。」

維心は頷いて、その子を腕に抱いた。そうして、じっとその子の顔を見つめて黙っている。維月は、自分からは見えないので、維心をせっついた。

「維心様、私にもお子の顔を見せてくださいませ。」

維心は、じっと皇女の顔を見ていたが、ハッとしたように維月を見て、そろそろと維月に赤子を見せた。

「まあ!なんて可愛らしいのかしら!」

維月は、その顔を見て声上げた。しかし維心は、複雑そうな顔をした。

「しかし…なぜに我か?いつなり、女は主に似ておったではないか。なのに、此度は娘まで我に似ておる。」

維月は、プッと噴き出した。

「まあ維心様ったら。どちらに似ておっても良いではありませぬか。それに、維心様に似てこれほどに美しい顔立ちの皇女だなんて。今から、先が案じられますること…殿方が大変ではありませぬか?」

維心は、苦笑して皇女を抱き上げた。

「とにかくは、臣下達が待っておるしの。出て参る。」

維月は、頷いた。

「いっていらっしゃいませ。」

維心は、皇女を抱いて、隣室で正装して待つ臣下一同の前へと進み出た。臣下達はじっと待っている。維心は、皆に言った。

「第一皇女、名を瑠維(るい)とする。」

臣下達は、一斉に頭を下げた。

「ははー!王、瑠維様のご誕生、誠におめでたいことと、臣下一同お慶び申し上げまする。」

兆加が口上を述べる。維心は頷いた。そうして、奥へと瑠維を抱いて引き返し、乳母に瑠維を渡すと、維月の元へ飛んで戻った。

「維月、では我の部屋へ。」

最早、それは侍女達も分かっていた。本当なら、妃の部屋へ戻して状態を見るものだが、維心はいつも、断固として自分の部屋へ連れて行くと聞かないからだ。

「はい、維心様。ですが、もう元へ戻っておりまするけれど。」

月として生まれ変わってからの維月は、出産しても本当に後を引かなかった。だが、維心は維月を抱き上げて言った。

「ならぬ。何かあってはならぬから、我の部屋で少し眠るのだ。昨夜からであったし、寝ておらぬではないか。さ、休むぞ。」

維月は、苦笑して頷いた。

「わかりましたわ。」

維心は、維月を抱いて部屋へと戻ったのだった。

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