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略奪

侍女が、瑠維の部屋へと飛び込んで来た。

「瑠維様!お早く、袿を羽織られて!」

瑠維は、月も昇り始めていたので、休もうかと侍女達に手伝われて寝具に着替える途中だった。父は、母の所へ行くと、やっと政務を終えて宮を飛び立ったばかり。それなのに、その侍女は急に飛び込んで来て、そんな瑠維に袿を着せ掛けた。他の侍女も、びっくりしている。

「え…どうしたの?何かあったの?」

その侍女は、頷いた。

「克輝様が来られたのですわ!維明様がご対応なさっておいでですが、瑠維様に一目会わぬうちはと、今にも押し入って来るのではないかというような様で!維明様ならば、例え押し入ろうとしても押さえておしまいになるでしょうけれど、王がご不在の今、何があるか分かりませぬゆえ!」

「ええ?!」

途端に、回りの侍女もおろおろとした。瑠維は、混乱した。ここへ、押し入る?つまりは…。

「略奪に来られるやもということですわ!」

他の侍女が、袿を着せた瑠維をぐいぐいと押して、宮の奥へと誘導した。瑠維は、事態を悟って顔色を無くした。お父様がいらっしゃらないのに…?!

瑠維は、あまりのことに、ふらふらと気を失いかけた。下にも置かぬほど大切に育てられたので、そんな乱暴なことは思ってもいなかったのだ。

侍女達は、そんな瑠維を必死に支えて引っ張った。

「瑠維様、お気を確かに!しっかりなさらなければ、御身が危険なのですわ!」

瑠維は、朦朧としたまま、侍女達に促されるまま、奥へ奥へと連れて行かれた。一番、安全な場所…きっと、お父様の居間へ向かっているのだわ。

瑠維は、そう思いながら、もつれる足を侍女達に直されながら、必死に父の居間へと向かった。ああお父様、お母様…!


維明は、目の前の克輝を睨んで父の代わりに玉座へと座っていた。克輝は、しかし強硬な姿勢を崩してはいない。目の前の王は、自分とさして歳も変わらないような王。それでも、王と皇子では地位が違った。自分の権限は、この王の権限より無い。それを、相手は知っていて、こうして強く出ているのだ。

しかし、維明は言った。

「妹には、会わせることは出来ぬ。」維明は、険しい表情を崩さずに言った。「父上の許可無くして、あれをどうこう我に決めることなど出来ぬ。」

克輝は、それでも言った。

「それでも、妹君にここへ来るようにとは、言うことが出来よう。主は兄であるのだからの、維明殿。」

維明は、首を振った。

「あいにく、妹は簡単に顔を見せるような育ちではないからの。顔が見たければ、また何かの催しにでも来られれば良い。あれには、縁談など掃いて捨てるほど来ておる。主もその列に並ぶが良いわ。」

克輝は、ムッとした顔をした。そして、ふふんと維明を鼻で笑った。

「皇子の分際で、王をそのように扱って良いと思うておるのか。追い返すことなど、出来ぬはずであるぞ。」

確かに、そうだった。維明が、じっと克輝を睨んでいると、そこに、義心が入って来て膝を付いた。

「維明様。」

維明は、義心を見て軽く返礼した。

「義心。」と、克輝を顎で示した。「何やら、瑠維に会うまで帰らぬとか申す。」

義心は、立ち上がって克輝を振り返った。克輝は、少しひるんだ…知らぬ者などいない、龍軍の義心。これに敵う者など、恐らく龍の王族しかいないだろう。

「感心しませぬな、克輝様。このような時間に押し入って来られるとは。我らも、お相手をしないわけにはいきませぬ。」

克輝は、義心をにらみつけた。

「押し入ると?我は正面から訪ねて参ったのだ。瑠維殿の、お顔を見たいと言うておるだけぞ。」

義心は、維明を見た。

「維明様、このような時間に妹姫に会わせろと言って参った輩は他に居りましたでしょうか?」

維明は、ふんと鼻を鳴らした。

「居らぬ。育ちが知れるの。」

克輝は、維明に言った。

「維明殿!口が過ぎるぞ!」

義心が、刀に手を掛けた。克輝は、それを見て少し後ろへ足を退き、それでも言った。

「何をしておる?我を斬ろうというのか。」

義心は、じっと刀の柄に手を置いたまま、言った。

「皇子に無礼を働かれたなら、それは我の責務でありまするゆえ。」

義心と克輝は、じっと睨み合った。義心は、全く構えてもいなかったが、克輝は、虚勢を張っているのか、睨んでいながらも額からは玉の汗が流れ落ち始めていた。


その頃、維心は庭から、帝羽と共に龍の宮の自分の居間へと到着していた。そこには、瑠維が侍女達に回りを囲まれて、ぐったりと椅子にもたれかかって目を閉じていた。維心は、それを見て言った。

「ここへ逃れておったか。して、まだ克輝は謁見の間か?」

維心が言うと、侍女達はぱあっと明るい顔をした。

「ああ、王!ようお戻りに!はい、今、維明様がご対応を。義心様も向かったと兆加様にお聞きしました。」

瑠維は、弾かれたように目を開けた。

「ああ、お父様!ああ、お会いしたかった…。」

さめざめと泣き崩れる瑠維に、維心は、苦笑した。

「留守にしておってすまぬの。しかし、主はもう少し強うならねば。母を見習うが良い。」と、帝羽を見た。「ここで、瑠維を守れ。我はあれを追い帰して参るわ。面倒であるがの。」

そういうと、維心は謁見の間へと一人で向かって行った。


そのまま、義心と克輝がにらみ合っていると、聞き慣れた低い声がそこへ入って来た。

「おお、何やら取り込んでおるようよ。」

それを聞いた維明が、ぱっと表情を明るくすると、玉座から退いて頭を下げた。維心が、大股にゆっくりと歩いてその玉座へと座る。克輝は、さすがに維心を前にすると、小さく頭を下げた。維心は、返礼もせずに言った。

「して、克輝。我は機嫌がようない。」いきなり言う維心に、克輝は驚いた顔をした。維心は続けた。「妃に会いに行っておったのに、臣下に呼び戻されたわ。このような時間に、何をしに参った。大概迷惑ぞ。余程の用であろうの。」

克輝は、そう言われて口ごもった。余程の用と。

「我は…再三、瑠維殿をと申し入れておったはず。こちらでは、そのようなつもりはまだ無いの一点張りで、見合いの席すら設けていただけぬ。なので、一目お会いしたいと、こうして参ったのでありまする。」

維心は、しかしぐっと眉を寄せた。

「瑠維?縁談か?」そして、パシッと椅子の肘を打った。「何を考えておる。このような時間に先触れも無く訪れて、我が一人娘に目通り許すと思うてか!我が宮は、神世一礼儀を重んじる宮。そこで育った皇女を、主のように礼も弁えぬ男に任せることなど出来ぬわ!いい加減にせよ!」

克輝は、知らずに震えて来る足をしかし踏ん張った。そうして、言った。

「我には、それほどに深く思う気持ちがあると言うことでございまする!その辺の神と、同じにして欲しくはありませぬ!」

維心は、立ち上がった。そして、言った。

「その思いとは、相手の迷惑など関係ないということか?我は主のような男を、縁続きにして神世にあざ笑われるのではないかと案じるわ。その思いとやら、試してやろう。瑠維を望むなら、もっと礼儀を学ぶが良い。そうして、我が宮の軍神にも劣らぬ力を身に付け、龍達と立ち合うてみよ。それが出来たなら、主に瑠維をやろうぞ。あれは、我ら龍を見て育った。それと同じであるなら嫁ぎもしようが、遠く及ばぬなら仕えることなど出来ぬわ。主が次にここへ来る時、立ち合うわせるとしよう。」と、くるりと踵を返した。「待っておる。下がって良い。」

維心は、そう言い置くと、振り返りもせず、そこを出て行った。

まるで臣下に話すかのよう…。克輝は、唇をかみ締めた。力では、遠く及ばない。なので、龍王にあのように扱われても、言い返すことが出来ない。ならば、見返すのみ。

「…帰る!」

克輝は、そう宣言すると、謁見の間を出て行った。

残された維明と義心は、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。

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