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試合

その日は、よく晴れ渡っていた。

何のことはない、維心が晴れさせていたからだったが、今日は龍の宮の訓練場で、軍神達の中でも精鋭が王にその成果を見せる大切な日だった。

内輪ということで、今日そこに観覧に来ているのは、月の宮の王族、そして軍神の将とその家族だけだった。月の宮からは、そちらの軍神の将の子が、こちらで龍軍の軍神として仕えているので、他人ではなかったからだ。

維心が、隣りに座る蒼に言った。

「そら、明人の息子の明輪も、もう立派に仕えておるであろう?慎吾の息子の慎也もだ。明人も慎吾もここの軍神と縁続き。思えば月の宮とは縁深いことよ。」

維月が、向こう側の隣りからふふと笑った。

「まあ維心様ったら…ご自分が、そのようにとおっしゃったのでありまするのに。」

維心は、バレたかというように笑った。

「知っておったか、維月よ。良いではないか、主の里であるのだ。我はこれで満足であるよ。」

今日は、将維の姿も見える。しかし、観覧席ではなく、下のフィールドの方に居た。維明に、何やら話している…どうやら、維明から今日の審判を頼まれているようだった。動きの速い将が多いので、それが見える者でないと務まらないからだ。

蒼は、皆の顔ぶれを見てため息を付いた。

「本当に…月日の流れとは早いものです。生まれたと聞いたのは、ついこの間のような気がしていたのに。」と、向こう側を指した。「嘉韻の息子の嘉翔も、今は軍に入って高い序列がついております。血は争えないのか、大変に真面目で勤勉なのです。」

維心は、それを聞いて少し複雑な顔をした。嘉翔は、自分が勢いで維月を離縁していた時に生まれた、維月と嘉韻の子。その姿は龍でありながら金髪で、ほんのり赤い瞳で嘉韻そっくりだった。維斗と歳が近く、そろそろ100歳に近くなっているだろう。思った通り、嘉翔の姿を見た龍の宮の女達は大変な騒ぎだった。少しでも近くでと、観覧席の前の方へ押しかけて身を乗り出している。維月は、それを上から見て苦笑していた。確かに、嘉韻もそれは追いかけ回されて大変な思いをしていた。嘉翔も、同じ目に合うのね。

嘉翔は、それを知ってか知らずか、全くそ知らぬ様子で、そちらをちらとも見ないでいる。きっと、知っていて見ないのだろうなあと維月は思っていた。

その維月の向こう隣に座る瑠維は、初めて来た訓練場にわくわくしながらも、そのような様は出しては嗜みが無いので、扇で上気する頬を隠しつつ、じっと回りを見ていた。そして、蒼や維心の会話を聞いていたが、嘉翔を見て、驚いていた。あれが、お母様がお話しくださっておった、我の異夫兄弟なのだわ。それにしても、見たこともないほど美しいお顔だこと。

瑠維には、何もかもが珍しかった。ここには母がいるので、うるさい乳母も付いて来ていない。なので、気を張る必要もなく、瑠維は遠慮なくあちこちを見ることが出来ていた。こんなにたくさんの神を一度に見るのも初めてのことであったし、軍神達の甲冑姿は目が覚めるほどに凛々しく見えた。甲冑の設えでその軍神のだいたいの序列が分かったが、瑠維にはどの軍神もとても立派に見えた。

「あ、お兄様…。」

瑠維が、小さく言った。維月が、それに気付いて瑠維の視線の先を見た。

「まあ、本当。でも、維明はもっと後に立ち合うのだと聞いたわ。本日は序列が下の者から順に始めるのだそうよ。」

瑠維は、維月を見た。

「維斗お兄様は?」

維月は、向こう側を指した。

「維斗は、あちら。まだこれらと立ち合うには難しいから、本日は出ないようよ。」

そうして見ていると、本日出場する軍神達が並んでこちらを向いて膝を付いた。義心が一人進み出て、貴賓席の維心に向かって膝を付いて頭を下げた。

「王。ただ今より、御前にて軍神選抜による立ち合いをさせて頂きまする。」

瑠維は、その姿を見た途端にびっくりしたように身を硬くして、そうして真っ赤になった。維心は立ち上がって、言った。

「楽しみにしておるぞ。皆、日ごろの成果を我に示してみよ。では、立ち合いを始めるが良い。」

「ははー!」

全員が、一斉に維心に向かって頭を下げた。維心は、また椅子へと座った。維月が、隣りの瑠維にこそっと言った。

「瑠維?大丈夫?」

瑠維は、下を向いて赤くなった頬を何とか冷ましながら、頷いた。

「はい、お母様。進み出られたかたが、あまりに凛々しくてあられたので…。」

維月は、苦笑しながらも頷いた。

「あれは軍神筆頭の義心。確かにとても精悍で、身のこなしも美しい殿方ですものね。」

すると、維月の隣りの維心がぐいと維月を引っ張った。

「何を言うておる。義心が何ぞ?」

維月は慌てて答えた。

「何でもございませぬわ。ほら、立ち合いが始まりまする。」

維心はまだ怪訝な顔をしていたが、維月に促されるまま前を向いたのだった。


そうやって、立ち合いは順調に進んで行った。後半になると、さすがに龍の宮で序列が高いだけあって、皆物凄い速さで立ち合っていた。王の前で無様な姿は見せられないと、皆必死なのだ。

そうしているうちに、義心と維明が出て来た。瑠維は、思わず身を乗り出した。

「お兄様…。」

あのかたと、立ち合われるの。

瑠維は、思わず知らず手に力が入り、扇も降りてしまっていた。維月が苦笑してそんな様子を横目に見ていると、維心がこちらへ少し体を傾けて、維月の耳元に言った。

「あれは、維明だからか?それとも、義心か?」

維月は、苦笑したまま小さく答えた。

「きっと、両方ですわ。でも…義心は、なりませぬわね。緋月の事をお忘れですか?」

維心は、ため息をついて頷いた。

「覚えておるよ。しかし、義心なら我も安心であるのにな。惜しいことよ。」

維月は、首を振った。

「恐らくまだ、憧れのような感じで見ておるだけですわ。瑠維も婚姻など、思いもしないでしょう。見守ってやってくださいませ。気になるだけですわ、きっと。」

維心は、頷きながら義心と維明の立ち合いを見ていた。確かに、義心はかなりの技術を持っている。恐らく、維明がこうして立ち合っていられるのも最初の数分、それで決することが出来なければ、義心が取る。義心と維明は、気の大きさは全く違うが、義心の技術は今やかなりのものだったからだ。今回の立ち合いに、気を使うことは禁じられていた。

維明は、維心が思った通りおされ気味になっていた。しかしそれすら、他の神にも見えている者は少ないだろう。それほどの速さで立ち合っているからだ。

しかし、維月も月であるので、動体視力はかなり良かった。なので、二人の動きを目で追っていた。

「…義心は、大変に腕を上げておること。」

維心は、頷いた。

「将維では勝てぬかもだろう。」維心は、笑った。「あれももう少し鍛錬せねばの。最近はあまり立ち合っておらぬのだと聞いた。いくら隠居しておっても、有事には動けるように、ある程度のことはしておかねばならぬのに。」

確かに、そうだった。あれから、義心はどこまで強くなったのだろう。これでは、炎嘉様でも敵わないかもしれない。こんなに強くなっていたなんて。

維月が言葉を失って食い入るようにその立ち合いを見ていると、維明が振った太刀が、義心の肩を掠めたのか見えた。

「あ…!」

維月が、思わず声を漏らす。そこで、どちらかの刀が飛んだのが見えた。

「一本!」将維の声が言った。「勝敗は決した。義心!」

義心が、刀を振って鞘に収め、地上に降りて膝を付いて頭を下げた。維明は、自分の刀を拾って来たほかの軍神から受け取ると、それを鞘に収めて軽く返礼した。

そうして、二人は維心の方を見て、また頭を下げた。

「義心は、読んでおったのだ。」維心は、言った。「維明の太刀があの筋で来ることを。あの位置ならば己の袖だけ切らせるだけで済む。そこで、維明の腕を打ったのよ。なので、刀が飛んだ。維明は、もっと先の先を読まねばならぬの。」

維月は、感心して義心を見ていた。そうすると、ふと義心がこちらを見上げた。視線が合って、思わず維月は微笑んだ。すると義心は、少し驚いたような顔をしたが、少し微笑み返し、深々と頭を下げると、また訓練場の方を向いて立った。

「では、最後の軍神、前へ!」

将維に言われ、出て来たのは帝羽だった。維明は下がって行き、しかし、もう一人が見当たらない。それでも、将維は頷いた。

「では、構えよ。」

帝羽は、刀を抜いて構えた。すると、今立ち合いを終えたばかりの義心がまた刀を抜いて帝羽と向かい合った。

「まあ、また義心が相手を?維明と帝羽を連続で相手なんて、いくらなんでも疲れておるのではないかしら。」

維月が心配そうにそう言うと、維心が、面白くなさげにふんと鼻を鳴らした。

「あれがあの程度で疲れてなどおるものか。腹が立つの、主の前でいい顔をしおってからに。」

瑠維が、驚いたように維心を振り返る。維月は、慌てて維心をなだめた。

「何をおっしゃっておられるの?維心様、義心はいい顔なんてしておりませぬわ。あの二人の相手になるような軍神が、他に居らぬからでありましょう。そのようなことおっしゃらないで。」

維心は、まだ不機嫌にしている。蒼は、あちら側の隣りで苦笑しながら、相変らずだなあと帝羽と義心の立ち合いに意識を向けたのだった。

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