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成長

それからまた、時はゆるゆると過ぎて行った。

維明も立派に成人し、姿は維心により近くなり、そうして落ち着いた雰囲気をまとうようになった。

箔翔は数年の間に鷹の宮へと戻り、王として君臨するようになっていた。結蘭の輿入れは、そろそろではないかと言われながら、あれからもう、婚約したまま二十年ほど、さすがに公青も痺れを切らしていた。

そして、やっとという感じで、来月初めには輿入れだと、神世に告示されたのだった。

維心は、兆加からその知らせを聞いて、顔をしかめた。

「まあのう…あまりに長いわな。よう公青も待ったもの。箔翔が乗り気でないのは分かっておるが、それでも己から選んで約して置きながら、二十年もほったらかしとは。」

兆加は、頷いた。

「は。鷹の宮の臣下も、さすがに長いと王に再三申し入れて、やっとのことであったとか。」

維心は、憮然として頷いた。

そこへ、維月が入って来て微笑んだ。

「まあ維心様、何やらおめでたいことだと噂が流れておりまするが。」

維心は、維月を振り返って苦笑した。

「もう主にまで知れておるか。」

維月は、頷いた。

「はい。維明の対の侍女達などが、そのように。」

差し伸べる維心の手に、維月は自分の手を置いて言った。維心は、ため息をついた。

「そうか、箔翔は維明に知らせておるであろうしの。それにしても、妃選びとはいつなり面倒なもの。維明もそろそろであるが、その後にはまだ維斗(いと)が居る。案じられることよ。」

維斗は、維月が産んだ第二皇子だった。すくすくと成長し、今では普通の神の20代、つまりは姿はまだ人の12歳ぐらいの姿になっていた。例に漏れず維心そっくりで、それでも維明ほどではないので、育っても見分けは充分につくだろうと思われた。

「まあ維心様、維斗はまだあのように幼い姿でありまする。今から妃の心配など…。」

維心は、咎めるように言う維月に、わかったわかったと手を振った。

「ああ、わかった。何も言うまいよ。主の体に障る。」と、維月の大きな腹を撫でた。「して、具合はどうか?そろそろかの?」

維月は、維心の横へ、よっこいしょ、と座った。維心が、慌てて場を大きく開けて維月を圧迫しないようにと気を遣う。維月はふっと息をついて、頷いた。

「はい、順調であるようで。ですがあれほど申し上げましたのに、此度は娘でありまするわよ?維心様、またお育てになるのに、お悩みになるのではありませぬか?」

維心は、首を振った。

「良い。我も学習しておるから、娘のことは主に任せる。神世の女らしゅう育ててくれぬか。はねっ返りであると、どうにも出来ぬからの。皇女であるのに。」

維月は、苦笑した。

「はい。私も、此度は甘やかせずに、乳母にも礼儀をよう教えてくれるように申すつもりでございます。神世で住むには、やはり神の女らしい方が暮らしやすいのでございまするから。ですが私がこうでありまするのに、娘にだけ厳しくとは申しにくいこと。」

維心は、また首を振った。

「主は性質が他と違うだけで、礼儀などには通じておるではないか。我は、そこまで謹厳にとは思うておらぬから。とにかくは、神世の女らしくということぞ。維織がよう育ったではないか。あのように。」

維月は、まだ少し自信がなかったが、それでも微笑んで頷いた。

「はい、維心様。」

兆加は、微笑ましくそんな様子を見ながら言った。

「本当におめでた続きでございまする。箔翔様にも、こちらでよう学んでおられましたので、あちらでは落ち着いた様であるのだと玖伊が申しておりました。この上妃を迎えられれば、王としての重みも出て参られましょうから。」

維心は、頷いた。

「確かにの。最近では会合でも落ち着いておるわ。最初の頃の不安げな様は無うなった。もう、己の弟を頼ろうなどとは思うておらぬであろうの。」

兆加は、そういえば、と言った。

「その、弟君の帝羽様には、月の宮でどのようにお過ごしでありましょうか。我らが知る所によると、入って早々次席軍神として序列がついたのだと聞いておりまする。」

維月が、苦笑した。維心が、頷いて言った。

「あれは箔炎の子。あの大きな気には、普通の軍神では太刀打ち出来ぬ。王であってもおかしくはないのだからの。義心がやっと追いつくぐらいの気であるし。しかし、まだ技術では嘉韻には勝てぬ。なので、気の大きさではなく、技術で次席なのだ。気だけなら、とっくに筆頭であろうの。」

維月が、横から言った。

「嘉韻も、今に追いつかれるという緊張感があると言っておったわ。何しろ勤勉で、毎日新任の軍神達と居残ってまで鍛錬しておるのだそうよ。まさに王、といった感じ。他の軍神達も、まるで王を見るような目で帝羽を見るのだと聞いているの。」

維心は、それを聞いて眉を寄せた。

「…それはそれで困ったもの。」

維月が、驚いたように維心を見上げる。すると、兆加も頷いた。

「はい。それでは、恐らく…。」

維月は、気になって言った。

「何か問題でも?」

維心は、少しためらうような顔をしたが、軽く頷いて答えた。

「どうせそのうちに主も分かるか。維月、王は宮に何人居る。」

維月は、きょとんとした。

「え?一人でございましょう。」

維心は、頷いた。

「そうだ。王はの、宮に二人も要らぬ。宮が乱れるからだ。前に、箔翔にも言うて聞かせたのだが、帝羽は優秀過ぎるのだ。あれは箔炎の気を受け継いだ龍。それなのに鷹の性質ではなく龍の性質で、謹厳で実直で、黙々と責務をこなす。力が強く、しかも控えめであろう。誰もが敬うような性質なのだ。本人がそのようなつもりはなくとも、皆あれを王のように敬う。そのように生まれ着いてしもうて、あれも気の毒な。」

維月もまあ、と口を押さえた。

「確かにそうでございまするわね。でも、蒼は元よりあのように武術はあまり。ですが軍神達は、よう仕えてくれておりまする。」

維心は、頷いた。

「確かにの。だが、それでは嘉韻もやりにくかろう。あれも大概王のような気質ではあるが、本当の王の血筋には勝てぬ。しかも帝羽はあのように出来た神なのだ。」と、ふっと息をついた。「まあ、蒼が王である限り、他の宮のように宮が乱れることは無かろうが、やりにくい事には変わりない。あれの希望であるから何も言わなんだが、やはりここで面倒を見るべきであったか。義心ならばあれと対等には気を持っておる。技術もまず、追い付けまい。我は元より、箔炎にも炎嘉にも負けた事はないからの。王座を脅かされる心配もない。」

維月は、維心を見上げた。

「維心様…。」

維心は、心配そうにする維月を見て、険しい顔を緩めた。

「おお、主はそのように案じる事はないのだ。我が良いように考える。子を健やかに産む事だけを考えておれば良いぞ。」

そうは言っても、月の宮のこととなると、維月も気になった。しかし、これ以上維心に言っても仕方がないのは分かっていたので、無理に微笑むと、頷いた。

「はい、維心様。」

そう言いながらも、子供を産んだら、一度月の宮へ戻って様子を見て来ようと、維月は思っていた。

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