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中編

 俺と衿菜はとりあえず当初の目的地である駅前近くの大きな自然公園へと来ていた。

 休日ということもあり、公園の中には俺たちのようなカップルの姿も見える。

「やっぱ人多いな」

「そうだね」

 こうして二人で歩くのは別に初めてじゃない。

 同じ学校に通っているので当然のように登校はいつも一緒だ。二人とも違う部活に入っているので流石に下校は違う。

 だからこうやって歩くのは別に恋人になったから特別にやるということではない。幼稚園の頃から一緒に行動することが当たり前で、むしろ一緒に行動しないほうが珍しいと友達に面白半分にからかわれる方が多いくらいだ。つまり何が言いたいのかというと、

「なーに、淳ちゃん?」

「…………」

 そんな屈託の無い笑顔を俺に向けるのはやめていただきたい。

 たかが一緒に歩くだけで俺はこうも緊張してしまうのだろうか。

 答えは小学一年生のはじめてのさんすうのもんだいくらい簡単だ。

 むぎゅ。

「ふぅお!?」

 衿菜は基本的に無邪気で無垢だ。だから気づいていないのかもしれない。幼なじみの北島衿菜は非常にプロポーションがよろしい。

 惚気のろけと受け取るか自慢と受け取るか、それは人に寄るだろうが、それは明確なる事実なので仕方ないのだ。モデル体型というよりはグラビアアイドル系の軽くムチっとしたとてもよろしいやつ。

 んで。

 結局お前は何が言いたいんだコラと思いの方もそろそろ出始める頃だろう。

 ……よし。

 まぁ……アレだ。もう我慢できないから言っちゃう。

 むぎゅむぎゅ。

「んなーーーっ!?」

「ん? どうかしたの?」

 流石に俺の悲鳴に気づいた衿菜がキョトンとした顔で俺の顔を覗く。

 俺は「なんでもない」とだけ答えて、再び姿勢を正す。

 言えない。とても言える訳が無い。


「腕を組みながら歩いてるから歩くたびに衿菜のおっぱいが俺の腕に当たって超気持ちいいとかとても口が裂けても言えないっ!?」


「へ?」

 そう言って動きが止まる二人。

 何事かと思って逡巡する。

 ――が、その必要も無かった。

「つ、つい」

 自分で言った言葉を忘れてしまうほど俺は頭は悪くないと思う。というか言ってしまったものは仕方ない。

 ってか、何でそんなこと口に出しちまったんだ俺!?

 後悔しても時既に遅し。

 衿菜は顔を真っ赤にして、俺から慌てて距離を置く。

 次に衿菜が言う台詞はきっとあの台詞に違いない。それは別に少女漫画好きという訳じゃない。それはきっと純粋な女の子なら言うだろうと男が妄想する台詞だ。

 このままではまた発作が起きる。

 そう考えた俺はとにかく衿菜の次の台詞だけは言わせまいと無理矢理展開を捻じ曲げることにした。

 普通なら俺がここで謝って、衿菜が「えっち!!」と叫ぶのがありきたりな展開だろう。

 ――そうならないためには……。

 親指を英語の小文字のbみたいに突き出して、あくまで真剣に。

「やわらかかった」

 そう言った。

 わなわなと震えると衿菜は真っ赤な顔を上げて、

「淳ちゃんのえっち!!」

 言うのと同時に。


「左溜め右パンチボタンーーーっ!!」


 俺の体は回転しながらどこかの格闘ゲームのボスキャラの技みたいに発作クラッシャーした。

 ベタを回避しようとしてベタに陥るとは、何たる不覚。

 というか結果変わってないじゃん。

 けど……気持ちよかった。うん。



 そして、昼食の時間。時間も時間なのでせっかくなので衿菜が作ってきたお弁当を食べようということになった。

 俺と衿菜は公園の芝生の上にレジャーシートを敷き、その上に二人で座る。

「はい、あーんして淳ちゃん。あーん」

 はい来た。

 絶対来ると思った王道(ベタ)の中の王道ベタシチュエーション。おくちあーん。

 俺は卵焼きを箸で摘みニコニコの笑顔を向けている衿菜から思い切り顔を背けた。

「じ、自分で食べられるけど?」

 一応言ってみた。

「せっかくだからやっぱりこういうことしてみたかったの。だから、はい。……あーん」

「いや……あの」

「恥ずかしがらないで。大丈夫。あーん」

「……ほら人いっぱいいるし」

「あーん」

 しかし衿菜は自分の考えを押し通そうと話をまったく聞いてくれない。

 俺がそもそも拒否しているのは別に恥ずかしいからという訳ではない。

 ――このシチュエーションがあまりにも王道(ベタ)過ぎるのが問題なのだ。

 だって、絶対発作起きるもん。命賭けてもいいね!

 ……実際命削られると思うけど。

 しかし、そんなこととは露知らず、衿菜は頑固としてこのシチュエーションを楽しもうとしている。


 とうとうしびれを切らした彼女がついに、ぼそりと言う。

「……あんなことしたのに」

 ぐさーーーっと俺の小さな良心の塊に思いっきり天然ナイフが突き刺さる。

 ここでそれを言うのは卑怯ですよ衿菜さん。

 それこそ少女漫画の主人公のようにうるうると瞳を濡らせる彼女を見て、誰がこの状況を回避出来るというのだろうか。

 少なくとも、――少なくとも俺は出来なかった。

 ええい、ままよ!

 覚悟を決めた俺は「あーん」と突き出されているお弁当のおかずに向けて口を開けて一口食べる。

「おいしい?」

 あぁ……きっとあの台詞を言わないといけないんだろうなぁ……。だって目がものすっごくキラキラしていらっしゃるもの。

 これは懺悔なのだと俺は目をキラキラさせている衿菜に、

「美味しいよ」

 と言った。

 正直味なんてよく分からなかった。

 それは発作に恐れて緊張していた訳ではないと思う。たかが美味しいと言っただけで驚くくらいはにかむ彼女の表情は……何というか、ものすごく破壊力があった。

 そして、


「うわらばっ!?」


 同様に発作の破壊力も半端じゃなかった。

「きゃーーーーっ!? 淳ちゃんが今度は舌って漢字みたいに頭が下になって地面を滑っていくーーーっ!?」

 今度の展開はあまりにも王道(ベタ)過ぎたのだろう。痛みが極限まで達し、俺はそこで意識が途絶えた。

 デートだというのに最後に聞いた衿菜の言葉は何ともしがたいほどのツッコミだった。

文才がなさ過ぎる……。

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