表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編

 初デート。

 高校生身分であれば男女関係無く憧れる青春の1ページ。きっとその甘酸っぱいアルバムは一生忘れることの無い大切な想い出。

 行く前もデート中も何もかもが想い出になるそんな大切な日。

 男として楽しみではないと言われれば答えはノーだ。


 俺こと――黒田淳司(くろだじゅんじ)は駅前のバスターミナル前の近くのベンチに座りながら空を見上げていた。

「おっせーなー……」

 時期的に春と夏の間のちょうど春服から夏服に衣替えし始めた頃、微妙な暑さに俺の額に軽く汗が滲む。

 もう一度俺はズボンのポケットに無造作に放り込んだスマホを取り出す。カバーも何もしていないスマホは真新しい傷だらけで、これが春の新作とは誰も思うまい。


『男の子ならぜーったい女の子よりも早く来てねっ』

(……いら)

 文章だけでここまで人をイラつかせるのは正直才能だと思う。

(何だ、この小さいつは。どうやって発音するんだ? 日常会話でぜってー使わないだろ)

 と、問題はそこではなく。このメールは間違いなく彼女からだし、どう考えても時間は合っているはずなのだが、未だ彼女は姿を見せない。


 待ち合わせ時刻は昼の一一時頃。

 現在の時刻は一一時二三分。

 明らかな遅刻だ。

 だが、おかしい。

 俺は嫌な予感がする。


 彼女――北島衿菜(きたじまえりな)は時間にルーズという訳でもなく、むしろその逆で小学校から高校まで一度も遅刻をしたことがないような優等生だ。あ、何故そんな小さな頃からの遅刻暦を知っているのかと聞かれれば、北島衿菜は彼女であり幼なじみでもあるので幼稚園の頃に穿いていたパンツの色まで知っている。

 幼なじみというよりはほとんど兄妹(きょうだい)みたいなもので他意はない。

 と。話を戻そう。


 遅刻をするような衿菜ではない。

 だったら危惧すべき問題は二つ。

 衿菜がここに来るまでになんらかの事故、事件に巻き込まれたこと。普通ならそう考えるよな。

 けど、まぁ……ありえないだろう。

 こんな陽気な日和。そんな事件や事故が起きるなどと考えるほうが不謹慎か。それにもう一つの可能性の方が確率が高いため、不謹慎な考えよりもそっちの方に頭が働く。


 例えば……そうだな。

 季節は春と夏の変わり目だが、どちらかというと春よりだし、春らしい黄色のワンピースに身を包んだ衿菜が「ごめ~ん、まった~」と頭のネジが緩みきった甘ったるい言葉と共に登場するというところか。

 と、俺は額を指で掻きながら考えていると、


「ごめ~ん、まった~」


 と、頭のネジが緩みきった甘ったるい言葉が聞こえてきた。

 言葉に俺は嫌な予感が的中し、観念するように頭を上げた。


 数メートル先に、――それはいた。


 春らしい黄色のワンピースに身を包み、大きく手を振りながらこちらへと走ってくる北島衿菜の姿が。

 俺は頭を抱えることさえ忘れて、彼女を待った。

 てててと走ってきた衿菜はようやく俺の前で止まる。

「ごめんね、淳ちゃん。遅くなっちゃった。あ、でもほら見て見て。今日公園に行くって話だったでしょ。だから……はいお弁当を作ってきたの。へへへ……きっと、おいしいよ」

 衿菜の手元にはバスケットが抱えられていて、ここから中を見ることは出来ないがどうやら自信作のお弁当が入っているらしい。


 ……まぁ、そう来るわな。お前なら。

 俺が危惧したもう一つの理由が見事に的中した。


 衿菜は生粋の少女漫画好きである。それも今現在連載されているような今風の少女漫画ではなく、衿菜の母親世代が呼んでいたような少し古い、言葉を言い換えると耽美な少女漫画が好きなのだ。

 恋に恋して、白馬の王子様なんかが平気で登場してしまいそうなアレだ。正直漫画好きの男子でさえちょっと抵抗してしまうようなヤツだ。

 衿菜はその少女漫画好きが講じて、漫画の中のデートなんかにものすごーく憧れている。今日の茶番(デート)の内容だって、ほとんど彼女一人で考えていて、俺はそれに口出ししないという制約付きでこうして今、彼女の目の前に立っている。

 デートに憧れる気持ちがあるのは流石の俺でも分かる。それが男子より女子の方が強いというのも流石に分かる。


 しかし。だがしかし!

 どうしても無視出来ない問題が俺にはある。

 衿菜は走ってきたため少し息が荒れていたのでそれを整えつつ、風で少し乱れた髪を指で梳く。

 俺はそんな彼女に心の中で祈っていた。


(……頼むから、頼むから絶対に――あの台詞だけは言うなよッ)


 ……ふぅ、と息を整えると衿菜はじっと俺のほうを見てきた。

「今日のデート、すっごっく楽しみだったよ。おかげで昨日はあんまり眠れなかった」

 はにかみながら言う彼女はすごく可愛らしい。

 そして、俺は――


「ひでぶっ!?」


 たまらず後ろに転げ回った。

「わーっ!! 淳ちゃんがなぜか私の言葉にボーリング玉みたいに転げ回ったー!?」

 バス停の棒に当たってようやく俺は回転していた体が止まる。

 あわわと慌てている衿菜を尻目に俺は思った。


(……やばい、今日は本当にヤバイ。出会って数分でこの始末)

 体がボロボロになりながらも俺は立ち上がる。衿菜が心配そうな顔で駆け寄ってくるが、俺はそんなことに気が付かず一人思う。

(俺……今日、死ぬんじゃないかな?)

 割と冗談抜きでそう思う。


 俺がどうしてそう思うのか、それを一応説明しておこう。

 俺は親や親友、そして彼女であり幼なじみである衿菜にさえ言っていない病気を患っている。所謂(いわゆる)不治の病というヤツだ。

 あらゆる病院を訪ね、名医と言われる医者にもたくさん会った。それでもどの名医も匙を投げ、首を横に振った。本当にそれは不治の病というべき病気。


 それは――


“自分の近くで普通の行動を取られると身体からだ中にとてつもない激痛が走る”という不治の病を患っている。


 正確には俺がそれを“普通の行動”だと思ってしまうと激痛が走る。

 普通といっても別に日常的にしなければいけない行動であれば別に痛みは走らない。例えば買い物をするときにお金を払うとか、挨拶をされたら挨拶をすると言ったようなそういうヤツは痛みが走ることはない。


 この場合の普通は、言い換えるならば王道と言うべきか。

 例えるならば先ほどの会話。衿菜は「ごめ~ん、まった~」と言って俺の元まで駆け寄ってきた。きっと衿菜は俺に「いや全然待ってないよ。今来たところ」とでも言って欲しかったのだろう。

 けれど、俺はその台詞を言わず黙ったまま衿菜をじっと待っていた。

 何故、俺は言わなかったのか。それは簡単だ。


 ――だって死んじゃうから!!


 もし、俺がそんな台詞を言ってしまったら最後俺はきっと激痛で死んでしまう。死因、王道台詞を囁いたためショック死とかになってしまう。

 そんな腹上死よりも恥ずかしい死因とか絶対に嫌だ。

 駆け寄ってきた衿菜は白いハンカチで俺の体に付いた砂埃を軽く払う。そこで俺はようやく衿菜が近くまで来ていたことに気が付いた。


「あ、あぁ……わ、悪い」

 そう言って俺は衿菜に礼を言う。

 今度は激痛は走らない。何かをされて礼を言うのはどうやら病気的にはセーフらしい。ならばどういった行動がアウトなのか。それは、――ズバリ、王道ベタだ。

 先ほどの続きだが、王道ベタとは恋愛におけるシチュエーション。例えば臭い台詞、甘酸っぱい会話。付き合い始めたカップルによくある体のどこかが触れ合ってしまいそうになって顔を赤らめるアレ!


 今日のデートで危険な行動になりうるのはここら辺だろう。

 この病気の唯一のいい所と言えば割と日常を過ごす上ではあまり痛みが走らないというところだが、どうあっても今日はかなりの危険日だ。

(……まさかこんな早く発作が起きるなんて、――甘く見ていたか)

 こんな訳の分からないことを発作と言うのは世の患者たちに失礼なのかもしれないが、俺にとってこれは発作以外の何者でもないし、割と死活問題なので仕方あるまい。

 衿菜とデートをすると分かったときから覚悟はしていたが、まさかこんなに早く発作が起きるなどとは思っていなかったのでかなり面を喰らっている。

 怖い顔(実際は痛みで顔が歪んでいるだけ)をしている俺を見て砂埃を払い終わった衿菜はおどおどと、

「やっぱり遅刻したの怒ってる? うぅ……ごめんね」

 そう言う。

 まるで餌をお預けにされた子犬のような瞳でそう言う衿菜を見て俺は正直心が揺らぐ。二〇分程度の遅刻で怒るほど俺は短気ではない。俺のためにお弁当を作っての遅刻だ。怒る理由がない。むしろ何故俺が怒っているのか衿菜は思ったのか分からないぐらいだった。


 怒っていないことを怒っていないと言うのは別に普通のことだよな……? 別に王道ベタじゃないよな。

(……だ、大丈夫だよな……、大丈夫だよね?)

 不安そうに俺は心の中で葛藤すると、不安を振り払うように泣く直前の子供みたいな顔をしている衿菜の頭に右手を置く。


「別に怒ってねーよ、だからそんな顔すんな」

 くしゃくしゃと頭を掻き撫でる。

 一瞬痛みに怯えたが、――痛みは来ない。


(っしゃーー!! セーフ! 今のセーフ!!)


 俺を心の中でガッツポーズをすると衿菜から右手を離す。

 今のはただの礼だからどうやら病気的にセーフらしい。よかったよかったと心の中でこれでもかってなぐらい安堵した。

 とにかく今日の目標はこの病気のことを衿菜に悟られることなく一日を終えること。


 これなら行けると俺は確信して、衿菜に向き合う。

 衿菜は俺が怒っていないことに安心して再びいつもの笑顔を俺に見せてきた。

「よかったー、淳ちゃん怖い顔してたから怒ってるのかと思ったよ」

「俺はそこまで心は狭くないっての、知らなかったのかー?」

「へへへ、そうだよねっ」

 嬉しそうにとことこと、俺の傍まで歩いてきた衿菜は俺の腕を取る。

「な、何してンすか?」

 ちょっとだけドキッとする。

 見慣れた顔のはずなのに何故か可愛く見える。

「今日は楽しい想い出にしようね」

 だけど、俺はそんなことを思いつつ心のどこかで警鐘が鳴るのを確かに聞いた。

 きゅっと俺の腕に抱きつくようにして衿菜は言う。

「二人だけの大切な想い出……いーっぱい作ろうね」


「あべしっ!?」


 俺の体は抱き付かれていた衿菜の腕を器用にするするとすり抜けながら宙を舞う。

「きゃーー!? 今度は淳ちゃんの体が出来の悪いペットボトルロケットみたいに吹き飛んだーーー!?」

「……し、しょぼくねーかーっ?」

 今日はとにかく大変な一日になりそうだ。

これは本来短編小説のはずでしたが微妙な長さになったため、連載小説にしました。

というか2年ぶりに小説なんてものを書いてしまいました。


感想・評価お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ