episode4・紅白戦(1)
新入生チームの先攻となった練習試合だが、1番バッターが未だに打席に来ないでいる。一年生のベンチ内では新入生たちがオーダーに関してもめていた。
先程の投球練習の影響もあってか、先発バッテリーは若菜と真弓で決まったが、未だに打順は決まっていない。
「僕が一番を打つ」
「いーや、俺だ!」
「俺は四番だ!」
「僕が四番を打つんだ!」
このままでは、ベンチの揉め事の収集がつきそうになかったが、一人の選手の発言から雰囲気が変わり始める。
「なぁ、これって俺たちのチームワークを試してるんじゃないのかな?」
ケンは自説を述べ始める。即席チームだからこそ、どれだけまとまることができるのかが焦点なのではないか、と。
「もうこの試合の意図に気がついた奴がいるのか……。赤石憲次だな、小柄だがキャプテンの資質はずば抜けてるな、今年はモニタリングのしがいがありそうだ」
柏木は防犯カメラ越しに学校のパソコンを借りてベンチをモニタリングをしており、パソコン越しに柏木はケンを評価する。
「何偉そうに言ってんだよ!」
「そんな統率力のある奴いるわけねーだろ!」
反論する部員たちが多い中、一人の選手が異を唱える。
「俺もそのチビの意見や考え方に賛同する。赤石とか言ったな、お前にリーダーを任せよう。俺は島岡雅人だ。よろしく」
島岡という選手がケンに同意してきた。若菜と真弓もケンの意見に同調し、徐々にチーム内でもまとまろうというムードになり始めていた。
「島岡は飲み込みが早そうだし、チームプレイもこなせそうだ。あの女の子2人組は、キャッチボールを見る限り、実力はありそうだ。特に氷室に関しては早瀬より速い」
柏木はモニター越しにノートへメモをつける。
ケンや島岡たちが中心になって最終的に組まれたオーダーはこうなった。
1青葉右
2葛城二
3赤石中
4島岡遊
5赤城三
6加持一
7上杉捕
8氷室投
9日向左
対する先輩チームのオーダーは
1藤森二
2伊吹遊
3矢部右
4今井三
5保田捕
6早瀬投
7奥居左
8浜田一
9新見中
となった。
一番打者の青葉が打席に入り、ようやく試合が始まる。
「プレイ!」
青葉が右打席に入ると審判役の部員が試合開始を宣告した。
早瀬がセットポジションに入り、右腕からボールを放つ。
ビュッ!…ドン!
早瀬の速球が決まり、ベンチ内もどよめいている。
「結構速いな!」
「130km/hは出てるぞ」
2球目も速球だったが青葉は見逃してツーナッシングと追い込まれる。
1番バッターは後続の打者のために球数を多く投げさせた方がいいとされている。その方が後続の打者が球筋を見極めやすくなるからだ。
3球目は真ん中よりの甘いコース。
ククッ!
「うっ!」
青葉はバットを振るが、ボールは外側に曲がっていった。スライダーで空振り三振となる。
続く葛城は左打席に入る。彼はこの球速になれていないのか、少し振り遅れ気味に、追い込まれる。葛城はバットを少し短く持ち、早瀬は3球目を投じた。タイミングは確かにあっていた。
シューン…パシ!
「落ちた!」
だが、そんな葛城のストレート狙いをあしらうかのように投じられたのはSFF、正式名称はスプリットフィンガードファストボール、フォークと速球の間をとった球種で、速球を狙っている打者へ非常に有効である。結局、葛城も三振でツーアウト。
続く打者は3番のケン、素振りの様子を見ていた保田は羽生に変化球のサインを送る。だが、早瀬はサインに首を振り、ストレートを初球として投じた。だか、ケンはここまではストレートが初球であったため、ストレートと読んでいたのだ。
カキィィン!
ケンの打球は三遊間を抜けるクリーンヒットで2アウトランナー1塁となる。
次の打者は4番の雨岡、早瀬が初球を投じた刹那、心地よい金属音が聞こえて、ボールはスタンドへと飛び込む。2ランホームランで2点を先取した。
続く赤城は三振となり攻撃は終わったが、2点の援護をもらって若菜はマウンドへとむかった。